庄兵衛屋敷   41上漆原かみうるしばら


丹後半島へと山が連なる上漆原かみうるしばら、ここに一人の 足軽あしがるが住んでいました。名を 庄兵衛しょうべえと言います。

庄兵衛しょうべえは「 当藩一番とうはんいちばん」と言われる 鉄砲撃てっぽう うちです。 猟場りょうばはうっそうとした森ばかりです。昼でも森の中に入ればうす暗く、 木漏こもれ日があるぐらいです。庄兵衛は夕方遅く猟場にでかけました。大きな木下で、 獲物えものをまちました。すると庄兵衛の前に一匹のネズミがやってきました。そこへネコがやってきてネズミを「パックリ」と食べてしまいました。そのネコはキツネに食べられ、キツネはオオカミに、オオカミはクマに食べられてしまいました。

息をころしてこれを見ていた庄兵衛は、思わず鉄砲をつかみました。熊は庄兵衛がいるのに気が付いているのかわからないが、「ノソリノソリ」とやってきました。
「熊より強いのは、やっはり俺さまだろう、一発鉄砲で ちとるか」と、思いましたが、足軽でも 利口りこうな庄兵衛「まてまて今夜は 不思議ふしぎなことがおこる、もし熊を殺せばさらに強い敵があらわれて自分をおそってくるかもしれない。」
腕がうずくが、ねらいをはずして 一目散いちもくさんに山をかけおりた。一町もいかない内、裏から不気味な老婆の声がした。
「や−い庄兵衛よ、よいしーあーん(思案)や」と、
当藩随一とうはんずいいちの鉄砲うちだけに、相手になろうとした 魔物もまのが声をかけたのです。
弱肉強食じゃくにくきょうしょくをあきらめた庄兵衛はめでたく村に帰ることができました。
庄兵衛は年老いて狩人をやめ、鉄砲を売って田を買って百姓になりました。上漆原には今でも,鉄砲田"という名前が残っています。
この話は上漆原には語りつがれている。


「技術にあるものは、自分の 限界げんかいを知っているものだ」地区の人たちは、この庄兵衛の心を、 子孫しそんに話し伝えるだろう。