酒呑童子と大俣だいこ 43岡田上

 

むかし丹波の大江山おにども おおく こもりいて

都にでては人を食い金や宝をぬすみいく ・・・と子供の頃歌った 記憶きおくがある。

あれは、おにでなく、体の大きい 茶髪ちゃぱつの、シベリアから流れついた人間やったそうだ。

むかし丹波の大江山に 酒呑童子しゅてんどうじという、おそろしい鬼おにが住んでいました。酒呑童子は、生まれるとき、お母さんのお腹の中に十六ヶ月もいたそうで、生まれながらにして大きかったのです。小さいときは暴れん坊で、よく人をいじめたのです。

それでこの子を心配してお母さんは童子を、お寺にあずけたのです。寺で 修業しゅぎょうするうち、童子は、美しい、りぱな男に 成長せいちょうしました。そうなると村の むすめたちがさわぎだしてな、「あの人と夫婦になりたい」と毎日のように娘たちがくるので、童子はとうとう寺を追いだされてしまいました。

ところが、村一番美しい娘が、童子に恋こがれ、むりやりに仲をさかれた悲しさに、とうとう池に身をなげ死んでしまいました。それからというもの、童子は、ほうばうの山をあるいて修業をしました。 高野山こうやさん比叡山ひえいざんにもいったがだめで、とうとう大江山にやってきて、どうくつに住むようになったのです。

いくら修業をつんでも、身なげして死んだ娘のことがわすれられませんでした。そんなある日、山をおりた童子は、あの死んだ娘とそっくりの村の女に出会ました。童子は、その女をさらって山へ逃げかえったのです。長いあいだの山くらしで、まっ黒、 ひげは、ぼうぼうとはえ童子を見ておどろいた女は、やさしくする童子の心がわからず、逃げまどううちに、あやまって谷におちて死んでしまったのです。

それからの童子は、夜な夜な京の都へあらわれ、町のむすめ、 公家くげのむすめをさらって、毎夜酒びたしになったのです。このことは都じゅうにひろまってしまいました。

「酒呑童子いうて、大江山にすむ、二本の つのの生えた、こわい鬼やそうな」

「さらわれたむすめは、生血をのまれるそうやで」と夜になると戸をかたくしめたのです。

そこでこのうわさを聞いた 朝廷ちょうていでは、「酒呑童子をこのままにしておくわけにいかぬ。」一条天皇はじめ役人と相談の上、 才智さいちにたけた 源頼光みなもとらいこうに大江山の鬼退じを命じたのです。

頼光は 四天王してんのうといわれる、 渡辺綱わたなべのつな坂田金時さかたのきんとき碓井貞光うすいさだみつト部季武うらべすえたけ平井保昌ひらいやすまさを加え、全部で六人 山伏やまぶしの姿で京をたち大江山へと急ぎました。
由良川を下り地頭で舟をおり、 大俣おおまたのすぎ山にさしかかりました。一行が山のふもとを過ぎようとしたとき、岩かげから、みすぼらしい白衣の三人の老人がやってきて、頼光の前にはだかり、大きな土器をさし出し、「この中には鬼力を弱くする毒が酒に入つている、これを鬼たちに飲ませなさい。」というが早いか三人はすーと姿が消えてしまったのです。

頼光一行は、これこそ神のご 加護かごであると 勇気ゆうき百倍、老杉の茂る山を登りだしました。
鬼の住む山だけあって、昼まだうすぐらく、小川には大岩が立ち並んでいた。川のよどむ所に娘が一人血のついた衣類を洗っていた。
頼光は娘に たずねた、「鬼の岩屋はいずこか」 娘はあやしみつつ指さした。細い道があり、一行は娘の案内で大きな岩のあるところに来た。娘はさよならといって坂を下っていきました。

岩かげから前方を見ると、どうくつがみえ、真赤な体をしたごつい頭の毛ぼうぼうの鬼が立つている頼光一行はさも困ったような、つかれた足を引きずってどうくつの所に行った。大手を開いた鬼は、「何しにきたのか」と割れんばかりの声でたずねたのです。
「私たちは道にまよってここまで来ました。京へ行きたいのですが、一夜の宿をお願いしたい。」
鬼のうしろには、沢山の鬼がいる。けものの毛皮を腰にまいている。しばらくすると、頭らしい鬼がやってきて、「一夜ならとめよう」といいました。
鬼にかこまれて どうくつに入って、しばらく行くと、あかるく広い部屋にやって来たのです。中では沢山の鬼がごちそうを食べています。さかずきについだ赤い酒らしきものを飲んでいる鬼。正面には、とてつもない大きな鬼の 大将たいしょうがいて、赤い舌をペラペラ出しながら、娘たちに しゃくさせていました。

頼光の一行は頭をさげお礼をいいました。二百キロはあるだろう、頼光は持参した珍酒をさしだし、大将から順々についだ。鬼たちはおいしい酒だと次々に盃をかさねました。
一行は京おどり、山武士おどりを 被露ひろうした。鬼たちはやんやと拍手をしたのです。
しばらくすると横になり、すやすやとねむりはじめました。大将のイビキは大きく部屋中ひびきわたっています。
頼光たちは背負ってきた箱より、よろいかぶとを出して着こみ、 つえをぬいた。それには刀が隠してあったのです。

頼光は大将の顔をつついた。それと共に鬼は大きな目をあけ、口をひらいた。大きな二本のきば、真赤な口、火がふき出したようだ。頼光はひるまず刀を胸ぐらにさした。ドウーと血がふき出してのです。
鬼は立ちあがると大手を開いて頼光をつかもうとした。頼光は小刀で鬼ののどぶえをさしました。

一行はにげまどう鬼どもを次から次にやっつけました。最後に大将の首を切りとった。白衣につつんだが一人で持つ事ができぬほど重い。次の洞くつから、とらえられていた娘を助けだしました。

頼光はじめ五人のさむらいは、意気ようようと、娘たちをともなって、山をおりました。大俣にたどりついた一行は、大俣の人達に出迎えられて、村の人達は感謝をこめてもてなし、村里の平和を祈ってお祭りし、村の代表によるドンドコドンドコと大ダイコを鳴らし喜んだのです。その太鼓の音は大江山中鳴りひびきました。

頼光はじめ五人のさむらいは、太鼓の音を後にして都に向かったのです。
都ではほんとうに酒呑童子は二本の角のあるこわい顔だとおどろきました。