ある時、 和尚おしょうさんが、 小坊主こぼうずを集めて「 近頃ちかごろ全国各地ぜんこくかくちくさがおこり、 沢山たくさんの人が死に、家をやかれて まっている人が多いとか。いつの日かこの辺りも、 あぶなくなくなるかもしれないそうじゃ。そこでお前たちに たのみがあるのじゃ」

和尚さんの座っている横に、重たそうにみえる古ぼけた つぼがある。
「実はな、この壷はこの寺、そして村の宝であるのじゃ。人にとられんように、人のみられんところにかくしてほしいのじゃ」「わしがかくしたのでは、 ぞくとらわれて、 められれば、 かくした所を言ってしまうかもしれないからのぅ」

和尚さまに言いつけられた、小坊主は、壷を「よっこらしょ」と二人で持つが、重たくて、重たくて十メートルも歩けば手がしびれて、なかなか先には進めません。そこで二人の小坊主は 相談そうだんをして「遠くへいくのもめんどくさいから、この近くにかくそう」と、話がましまりました。

大きな木のねもとに穴をほってかくそうと、木の下をほったのです。
木が大きいため、根っこも大きく ほりにくかったが、ようやくのこと、壷をうずめるだけの穴が掘れました。小坊主はやっとの事で壷を うめることができたのです。

その 様子ようすを、ずっとむこうの草むらで、一人の男がみていたのです。
「なにを かくしているのだろう」
二人の小坊主はその男には気が付かず、壷をうずめてしまうと二人とも元気よく、くわをかついで寺の方へ帰ってしまった。様子をうかがっていた男は、辺りが 薄暗うすぐらくなったので一度ほってみようと、木の棒でほったのです。うめたとこなので土はやらかく、あとは手で れたのですった。なるほど古ぼけた壷がでてきたのです。男は壷の口のひもをほどき布をよけました。

「あっ」と、おもわず声を出しあわてて、手で口を押さえてのです。壷の中は光り輝かがく、黄金色こがねいろのものが一杯つまっていたのです。「こりゃ、すごい」男は壷をよっこらしょと両手でかかえ、一目散に町へ帰っていった。

日がたち、世の中はようやく平和になった。和尚はもうそろそろ壷を持ってきてもいいだろうと、小坊主をよんで、「お前たちにかくしてもらった壷をとりにいきたい。それで、かくした所に 案内あんないしてほしい」小ぼうず二人は、和尚さんをかくした所に案内した。さっそくくわで掘ったが壷はなく、小石がごろごろでてきた。小ばうずは真っさおになった。

和尚は、「ないのか。ほんとうか。たしかにここにうめておいたのだな」「はい」「どこかちがうところにうめて、お前たち自分のものにしようとするのだ」和尚のいかりにもえる顔は、こぞうをふるえあがらした。いくらあやまっても、和尚はききいれない。

その後、土蔵に二人の小ぼうずはとじこめられ、食物ももらえず、告白をせまる棒たたきに、小ぼうずはたえきれず死んでしまった。

一方壷をぬすんだ男は、その金を 元手もとでに田辺で店を出していたのです。 一生懸命いっしょうけんめい働いたので、店は大変 繁盛はんじょうしていました。エゲでのことは 一切いっさい口に出さず、忘れていたのです。

しかし、ある日のこと、旅のうすよごれた坊さんが店におとずれ、主人に会いたいといった。主人がでてくると坊さんは「この店には、二人の小ぼうずの れいがとりついているようだ」「え」主人の顔は 一瞬いっしゅん真っさおになった。坊さんは手をあわせ、静かに店を出ていってしまった。主人はその場にうずくまり、坊さんに声をかけようと思うが声がでなかった。

その夜から不明の高い熱が出、まぶたの上には、うらめしそうな二人の小ぼうずの姿が浮かんできた。医者にみてもらってもこの熱はさがらず、あくる日からは、あれほど客が店にあふれていたのに、とんと人もこずあの店は何か気持が悪いと口々にいいだした。日がたつにつれ、主人もだんだん体が弱り、店はたたまなければならなかった。主人がこの家にいなくなったのは誰もしらず、家にはいる人もなかったという。



工ゲの宝と壷屋小橋47

三浜峠をこえて、坂道を下る。眼下に若狭湾が一望、遠くに冠島。美しい海だ。

昔のエゲという所にお寺がありました。
戦国時代せんごくじだいで世の中がみだれていした。エゲにも物騒ぶっそうな話が伝わってきた。