●女将のエッセイ/四万十川
四万十に光の粒をまきながら川面をなでる風の手のひら
この歌は第一歌集『サラダ記念日』以降後、六年の間に作られたものたちである。大人の恋を背伸びしながら、時に卑屈になりながら体験していた頃の作品だ。鋭い感性が評判になって久しいが、ぞのみずみずしい時代の歌群の一部である。
「四万十に光の粒をまきながら」という四万十川の、その清流の美しさ、清らかさ、神秘的な自然への敬意などが感動とともに伝わってくる。心地よい適度な風は川面をなでるように吹いてくる。そして川面は射してくる光に照らされて手のひらのような波を作っているのだ。ただ光が射しているのを「光の粒をまきながら」としているのもいいし、この歌で秀逸しているのはやはり「川面をなでる風の手のひら」である。そよ風が上手く詠われている。濃淡の光の様子を風の手のひらと言うのが効いている。
他に川をテーマにした歌で
やわらかな秋の陽ざしに奏でられ川は流れてゆくオルゴール
母と娘のあやとり続くを見ておりぬ〈川〉から〈川〉へめぐるやさしさ
などがある。前者では川はオルゴールのように優しく包まれるもの、静かに安らげるものとして歌っている。後者の川は、母から娘へ繋がるものを川の流れの一連の中においている。源流から下流まで、川は連綿と続く歴史と小さな我らの人生と広い世界を内包しているのである。