町長室つれづれ

1997/11  No.2

50年後へのメッセージ

久美浜町長 吉岡光義


 首長メッセージを依頼されて、ハタと困った。「五十年後の町民へのメッセージ」というテーマである。
 今年、地方自治法が施行されて五十年を迎える。自治小六法を開いてみると、昭和二十二年四月十七日施行と書いてある。何とこの日は、奇しくも私の生まれた日ではないか。新しい発見をした。
 それはともかく、その五十周年を記念して、五十年後の町民へのメッセージをタイムカプセルに入れて届けるという、京都府の事業が行われるのである。
 参道を歩いて、太刀宮へお参りしても、いいアイディアは浮かんでこない。足下に落ちているシイ拾いに、つい気がいってしまうからやむを得ないが…。
 先日、東京出張のおりに買ってきた一冊の本が目に止まった。グラフィック・レポート『日本人のふるさと』…高度成長以前の原風景…と銘打った写真集である。
 そこには、ちょうど私たちが子供のころの、あの懐かしい風景が載せられている。モンペ姿で、赤ん坊を背負いながら勉強する子供。豆腐売りの風景。何気ない農作業の姿。子供の遊ぶ街角の風景。
 昭和五十五年に、九十二歳で死んだ祖母の口癖が聞こえてくる。「こんなありがたい暮らしが、いつまでも続くとは思えない」と。
 当時の日常のごく普通の人たちの営みが、まるで宝物のように輝いて見える写真集である。これだ、これを五十年後の町民に送ろうと思った。 今、私たちが話し、食べ、見ている、ごく普通のふるさと。精一杯生きているそのままの姿を書いて、五十年後の町民へのメッセージとしよう。


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