こんなに眠れない夜を過ごしたことはなかった。
そっと縁へ出て夜空を眺める。
星は相変わらず怖いほどに美しく瞬いている。
あれは夢ではないわよね?
降ってきそうな星空。
二人きりの刻。
つながれた手と手。
家へと辿る道が、このままずっと続けばいいのにと思った。
そして、
思いもかけなかった言葉。
一瞬の抱擁・・・
あなたを初めて知ったのは春もまだ浅い頃だったかしら。
最初は見ているだけで満足だった。
やがて、ほんの少しの言葉のやり取りが私の楽しみになっていったわ。
初めて訪れた気持ち。
いつしか、これが恋なのかもしれないと思うようになったの。
私は怖かった。
あなたに恋をして変わっていく自分も。
この想いを知られてしまうことも。
そして、あなたの心を知ってしまうことも。
やっぱりあなたは怖がりなんですねと、笑われるかしら。
あなたはご存知ないのでしょうね。
私にとって一番怖いのは、沖田さん、あなたなんです。
怖くなるほどに、何よりも私を魅了する人。
もっともっとあなたと話したい。
あなたのことをもっと知りたい。
どんなものが好き?
嫌いなことはなに?
どんな夢を持っているの?
・・・ふと、可笑しくなってしまう。
わずかな言葉のやり取りで有頂天になっていた私はいったいどこへいったのかしら。
ようやく互いの想いを告げあったばかりではなかった?
なにを急ぐことがあるの?
少しずつ知っていけばいいこと。
私達は、今夜、始まったばかりなのだもの。
そっと両腕で自分の身体を抱きしめてみる。
つないだ手の温もりも抱きしめられた感覚も、
今も確かに残っている。
あなたは今夜のことを忘れないとおっしゃった。
私も忘れない、今夜のこと、この星空も。
星々を見上げてふと願う。
来年も、その先も、あなたの隣でこの星空を眺めるのが私でありますように・・・
一瞬、星々の輝きが増したような気がした。
まるで、願いを聞き届けたとでもいうように。
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翌日、いつものように壬生寺に行くと、沖田は果南の年の離れた弟、和吉をみつけた。
手招きして呼んでみる。
飴屋について回って迷子になってしまった和吉は、昨夜沖田によって家に連れて帰ったもらったのだ。照れくさそうにやって来る。
「大丈夫か」
笑顔で沖田は和吉に尋ねる。
和吉はうんとうなづいた。
「姉さんは」と沖田は言いかけて、言葉に詰まった。
「その、姉さんはどうしてる?」
和吉は不思議そうな顔で沖田を見る。
「姉ちゃん?」
「いや、いい。何でもない」
和吉を送って行って、弟を捜しに出た果南がまだ家に戻らないことを知った。
沖田は今度は果南を捜しに出たのだ。
七夕の夜だった。
果南を見つけた沖田は、彼女が無事だったので安堵した。
彼女・・果南は沖田が大切に思っている人だった。
弟を迎えに来る果南をいつからそう思うようになったのか。
一目見たときからかも知れないし、自分でも気づかないうちに、徐々に心に降り積もった想いだったのかもしれない。
夜道、果南を送って二人きりで歩く道。満天の星が煌めくように光を放っている。
沖田はわざと果南を怖がらせる話をした。
そうでないと、自分が何を言いだしてしまうかわからなかったから。
果南は恐がりでその場にしゃがみこんでしまった。
可憐だった。
この人は私の気持ちに気づいてくれることがあるのだろうか。
ふるえる果南の手を取りながら、沖田はそう思った。
冗談めいたやりとりの中に、想いが見え隠れしていた。
言うつもりのなかった言葉。しかし言わずにいられなかった言葉。
「ずっと好きでした」
彼女も同じ気持ちだと知ったとき、沖田は思わず自分の腕に抱きしめていた。
彼と彼女は自分の星を手に入れたのだった。
二人の道はどこへ続いて行くのだろう。
それは織姫と彦星のような悲しみを伴うものなのか。
あるいは星たちの祝福を一身に受けるような輝かしいものなのか。
やがて壬生寺に果南が現れた。
彼女が微笑む。
沖田は「やあ」とまぶしそうに笑った。