愛しさ −美華−



美華(みけ)の姿を見つけたのは、ある神社でだった。
沖田総司は天気の良さに惹かれて一人で参拝に行ったのだった。いつもは遊びにくる美華が今日は訪ねてこなかったせいもある。

参拝客でにぎわう中に美華を見つけたとき、総司はその偶然に喜んだが、途中で足が止まった。
美華の横に見知らぬ男が立っていたからだった。
自分と同年輩の若い男だった。
二人は笑顔で、お互いの距離などないように楽しげに話している。
彼女の笑顔が向けられるのは自分だけではなかったのかと総司は思った。
そういう思いをちらっとでも抱いてしまった総司は、そのときもう美華に声をかけるきっかけをなくしていた。
遠目にも美華は熱心に何かを祈るように長い間お参りをしていた。
隣の男はそんな美華を微笑みながら見ているようだった。
彼女が何かにつまづいて転びそうになったとき、それを支えたのもその男だった。
親しげなその様子を見て、総司はそのまま踵を返した。


ひっそりとした神社の大きな古木にもたれて総司は美華を待っていた。
美華と会うのは久しぶりだった。
どこか以前の美華とは違うと彼は思った。
張りつめた空気が二人の間を包んでいた。

あの男は美華の幼なじみだと言う。
医師になるため長崎に修行に行き、今は一時的に帰郷しているのだと。
美華は言葉少なにそう答えた。
総司は美華が何かを自分に隠していることに気づいていた。

美華は総司の病のことをしきりに気にしている。
空気のいい所で療養してくれと言う。
総司にとっては到底無理なことだった。
美華は薬のことを言う。
よく効くいい薬。
その幼なじみが知っているという薬。
それを飲んで欲しいと言う。

美華は総司の元を去っていくつもりだった。
総司は美華の言葉の端々から、彼女がその幼なじみとの結婚を承諾するつもりであることを知った。
それで美華が幸せになるのなら自分は身を引いただろう。
けれど、あまりに哀しげな美華を総司は手放すことができなかった。

私はあなたを幸せにできないかもしれない。
あなたは私と共に歩む不幸を選んでくれるのだろうか。

「あなたを誰にも渡さない」

そう美華に告げたとき、彼女の目から涙が溢れた。
総司は美華に唇を寄せながら、私はこの人と離れることはできないだろうと今更のように覚ったのだった。

****************

総司さん ごめんなさい。

 まさかあの人に会っているところをみられていたなんて、思いもしませんでした。
縁談のもちあがっているあの人と会ったのは、ただただ総司さんの身体が心配だったからなのです。
幼なじみの兄のような、いえ兄としか思えないあの人は医学を学んでいて、あなたのことを相談できる唯一のひとでした。
あなたはいつだって私には心配させてくださらない。でも、その分私の不安は募っていくのです。

「空気のよいところで療養してください。私がそばでお世話します。」
決して言うまいと思っていたわがままでした。そんなことのできるあなたでないことは、よくわかっていたのです。
そして、あなたが望まないことは私の望みでもないのです。
せめてよく効く薬があるのならそれにすがりたい。私があなたのためにできることはそれしかない。そう思いこんでいました。

あなたにとって必要なものがあるのなら、そしてそれを与えてくれる人がいるのなら、私はその人を裏切ることはできない・・・。
すべてはあなたのため、そう信じていました。あなたを失うことがこわかったから、あなたを置いて去ろうとしていました。心だけあなたに預けて・・・。
できもしないことを、しなければならないと思いつめていた・・・そんな私の心をあなたはすべて見通していらっしゃったのですね。

あなたの口づけは私の頑な心を解きほぐすおまじない。あのときあふれた涙は、どんなに押し殺そうとしても抑えきれない私の心。離れることなどできはしない。
私はもうどこへも行きません、たとえあなたが去れとおっしゃっても・・・。


(完)



作・みけ(美華)&磯宮(総司)





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