「唱這歌」 序章



 あの人はほんとうに不思議な男だった。沖田総司。私がこの世でこだわったただ一人の男だった。私はあの人を忘れないだろう。 (斎藤一)

 総司はすばらしい子だよ。あの剣を見ているとその可能性にびりびりとふるえがきたものだ。私の自慢の弟子だし、ほとんど血がつながっているような気がしていた。私にしばりつけたくなかったな。自由に生きてほしかったと思っている。私の誇りだったよ。 (近藤勇)

 もういつも、やいやい言わないと何もしないやつだったね。でも憎めないさ。明るくて元気で。総司がいるだけでその場がたいそうにぎやかになった。わしは総司に何かしてやりたいといつも思ってたな。そういう男だったね。 (井上源三郎)

 今だから言えるが私は彼に甘えていた部分があったと思う。彼はああ見えて、とても心が細やかな若者だから気づいていたかもしれないが。でも一方では彼にはハラハラさせられる時も多かったね。私は彼が大好きだったよ…。結局私の方が彼に心配をかけていたのかもしれないね。彼にすまないと思っている。 (山南敬助)

 わしは沖田総司を気に入っていたよ。沖田はわしを怖がらず、ずけずけものを言ったが、怒る気になれなかったな。隙を見せたわしの負け、そういうことだ。 (芹沢鴨)

 仲間にとっては頼もしい人だったな。人間的にも面白かったね。将棋もわりと強かった。まあ、私には負けるがね。そうそう、人をからかう悪い癖があったなあ。あれはやめてほしかった。剣ではときどき、この人どこまで強くなるんだと怖くなるときがあった。しかし沖田君がいると、ここもちょっとはいい所じゃないかと思えたね。 (永倉新八)

 すかしたいやな野郎さ。 (平間重助)

 私は沖田総司になりたかったのです。 (楠木小十郎)

 人を斬れば斬るほど浄化されていくような人間がもしいるとすれば、それは沖田だったかもしれん。俺がこういうことを言うと意外かね。 (平山五郎)

 沖田さんの冗談はきつかったなあ。そばにいると楽しかったし、いつまでもわいわいやっていたかったと思う。沖田さんのこと、ちょっと尊敬してたかもしれない。そしてちょっと嫉妬してた。これ真面目な話ですよ。沖田さんは笑うだろうけど。 (藤堂平助)

 沖田はいわば皆にとって大きな存在だったってことさ。例えばこの俺。よく沖田のことを思い出してる。沖田が笑うとさ、ほっとするんだよ。だけどさ、こいつと真剣でやりあったら命はねえなっていう、その点が怖いよな。仲間でよかったってさ、そう思えるやつだったね。沖田はけっこう寂しがり屋なとこがあったと思う。俺と同じでさ。 (原田佐之助)

 沖田君か、苦手だったねー。自分としてはもっとお近づきになりたい気はあったんだけどね。冗談なのか真面目なのか判断に苦しむようなとこもあったが、うーん、ときどき彼はまるで澄んだ水のようで、それが苦手の理由だったのかしらね。 (武田観柳斎)

 沖田君は悪ふざけが好きだった。俺も度々犠牲になったよ。そういう点ははた迷惑な性格だ。しかし人斬りに関しては恐ろしい男だったね。壬生寺で子供と遊んだり、鳥に餌をやったりしている同じ男とはとても思えなかったな。 (松原忠司)

 僕のあこがれでした。僕はいつも沖田先生を追っていました。沖田先生のためなら何だってやれたでしょう。だけど決して手の届かない人でした。 (谷周平)

 沖田のおかげで周平が私に反抗的だった。なぜあんなに沖田、沖田と言うのか私にはわからんね。ただ少々人より剣術ができるというだけの若造じゃないか。 (谷三十郎)

 沖田さんが、というより、沖田さんと話す土方先生がいつもとは別人のようなときがあって、びっくりしました。何というか子供っぽくなるというか。沖田さんはどんなときでも鮮やかな印象を残す立派な大幹部でした。 (島田魁)

 私は今でも信じていますよ。表面上はどうあれ、沖田君が心底では私に共鳴してくれていたのではないかとね。土方君のせいで自分を殺しているところがあったんじゃないですか。とても惜しいことだと思います。 (伊東甲子太郎)

 沖田を見てるといらいらした。才能の持ち腐れじゃないか。 (篠原泰之進)

 おかしな話なんですが、沖田さんの前に出ると蛇ににらまれた蛙みたいなそんな気分になりました。なんででしょうかね。ずいぶん気さくな方やったのに。あのお人の持つ特別な何かが私を硬直させてしまうんですよ。沖田さんはそれがわかっていて面白かったのか、よくわざと私に声をかけてこられました。迷惑?いや内心嬉しかったですけどね。 (山崎蒸)

沖田のおっちゃん、元気やろか。また遊んでくれはらへんかなあ。 (壬生村の子供)

 沖田先生にはたくさん教えていただきました。その剣、その生き方。死と向かい合わせなのにそうやって笑っていられるのはなぜなのか、その謎を解きたくてずっと見つめてきたのかもしれません。でも、とうとう最後まで謎のまま逝ってしまわれました。沖田先生と出会えたことは生涯の幸せだったと思っています。 (山野八十八)

 あいつはしょうがないやつだった。しかし、あいつがいなかったら俺はずいぶん寂しい人生を送ったことだったろう。あいつの笑顔の下に何が隠されていたのか、俺は知っている。同時に俺の仏頂面の下に何があったか、あいつは知っていた。俺たちはそういう間柄だった。あいつはずいぶん俺のために人を斬ったが、あいつになら俺は斬られてもいいと思っていた。あいつは変わらない。病でさえあいつを変えられなかったし、死によってさえあいつは俺の中で永遠なのだ。 (土方歳三)



「一.壬生浪士組
「千駄ヶ谷の家」