総司はお雪からの手紙をさっきから、何度も読み返していた。
「総司さま、一時の逢瀬を終えてもうどれくらいの時間が過ぎたのでしょう。
そういえば総司さま、近頃お顔の色が優れないように思います。 では総司さま、これで失礼いたします。 雪 」
忙しい隊務の合間を縫って私との時間を作って下さったのに、私ったら・・・。
あんまり子供の私を見て、きっと総司さまはあきれてしまわれたにちがいございません。
でも、ちょっと恥ずかしそうに歌って下さったこと忘れません。
来年の祇園祭に連れていって下さるお約束、忘れないで下さいませ。
このようなご時世ですから、来年の今頃どうなっているのか誰にもわかりませんが、私は変わらずに待っております。
それとも、もう少し大人になっていた方がよろしいでしょうか?
鬼が笑うと言って、ご自分が笑っていた総司さま。
あなた様が笑いかけて下さるなんてびっくりいたしました。
時々町で見かける、あなた様の厳しいお顔とは全く違っていました。
少しは楽しんでいただけたのでしょうか?
お仕事お忙しいのでしょうか?
私などには、新選組がどのようなお仕事をなさっているかわかりません。
危ないことも多いのでございましょう。
どうか気をつけて下さいませ。
京の夏は暑うございます。お体にはお気をつけ下さい。
またいつか、ご一緒にどこかに連れていっていただける日が来るでしょうか?
その日が一日も早く来ることを毎日祈っております。
私の心が殺伐としているとき、何度あの人の明るさに救われただろう。
手作りのお弁当(ばあやから教わったらしい)をわざわざ作って来てくれた。
きっと、馴れないことばかりだったろうに。
あの人は胃薬も飲めといたずらっぽく笑っていたが。
来年の祇園祭りにいっしょに行く約束を何度もさせられた。
あの人は何を感じ取っているのだろうか。
私の健康をいつも気遣っている。
私は約束した。
何度だってするだろう。
あの人の無邪気な笑顔のためなら。
私が人前で歌ったのは後にも先にもあのときだけだ。
〜京の京の大仏さんは……〜
「おい、総司、何をにやついてる」
土方歳三が入って来た。
「私、にやついてましたか」
「鏡を見ろ」
「土方さん、私が歌を歌うこと知ってますか」
「歌ぁ?お前のことだ。粋な小唄なんぞと違って、どうせ童歌だろう」
言い当てられて、総司は憮然としたが、土方はかまわず、
「どれ、俺に歌ってみろ」
「いやですよ。私が歌うのはある人のためだけです」
「誰だ。その手紙の主か」
察しのいい土方はそう言う。
「ええ、私の大切な人なんです」
総司はそう答えて、微笑んだ。