それから一週間もたたない内に八・一八の政変といわれる事件が起こる。
薩摩藩と会津藩が同盟を結び、公武合体派の公卿とともに長州藩と過激派公卿を朝廷から追い落としたのである。長州藩の堺町御門警備の解任、過激派公卿の参内停止などが決定された。それを不服とする長州藩は堺町御門に押し寄せ、御門を固めている薩摩、会津兵たちとにらみあう形となった。壬生浪士組も隊士五十人ばかり出動させている。
結局戦闘は起こらなかったが、壬生浪士組はその功を認められ、恩賞とともに市中取締りの命と正式な隊名が下されるという沙汰があった。身分の保障という点でこれに勝るものはなく、前途は明るいと誰もがそう感じていた。
しかし、同時に近藤と土方は芹沢の粛清を密かに会津から要請されることになった。土方の狙い通りだと言える。
粛清とは言っても表立っての斬り合いは、できたばかりの隊のダメージになるばかりでなく、芹沢は剣の達人で、こちらの被害も大きくなるばかりだろうと近藤たちは判断した。土方は策をめぐらすことになる。
政変で出動してから幾日もたたないうちに、長州の大物桂小五郎がまだ京に潜伏しているとの報せが入った。場所は三条木屋町。急ぐ隊士のなかに山野八十八と楠木小十郎もいる。
あれ以来何かと楠木は山野に話しかけてくるようになっていた。楠木は派手な美貌の持ち主で、二人並ぶと目立つ。目立つことの嫌いな山野はそれも困った理由だったのだが、それよりも楠木から妙に圧迫感を覚えるのがいやだった。しかし、楠木はそんな山野の気持ちにも頓着せず、今日も出発前に山野に近寄って来た。
「山野さん、あれから平間先生たちには誘われないんですか?」
いやなことを聞くやつだと思いながら、
「いや」とそっけなく否定する。
「やっぱり平間先生たちも沖田先生にご遠慮されてるんでしょうね」
「沖田先生には関係ない」
「沖田先生は恐いですよね」とまるで人の話を聞かずに、楠木は続ける。
「剣を持つと鬼みたいだ」
楠木は例にもれず、沖田に稽古をつけられたらしい。楠木の若さとその華やいだ美貌に相手になった隊士が手加減してしまう場面を山野も時々見ることがある。しかし沖田はそうではなかったようだ。
「でもそこに惹かれるんです」
「え?」
楠木は微笑した。山野は気味悪さを感じたとき、唐突に楠木は話題を変えた。
「桂小五郎はどんな人だと思います?」
「どんなって、逃げ足の早い男だろ」
思わず言った山野の返事がかなり面白かったらしく、それからずっと楠木は笑い続けた。
山野の言葉通り、木屋町の目指す場所に桂小五郎はもういなかったのである。
ここのところ道場で平間の姿を見かけることはない。
平間はどちらかというと剣術を苦手としていたため、平隊士の見ている前での稽古は自尊心が傷つくのか、出てこなくなっていた。
そのかわり平山五郎はちょくちょく顔を見せている。片目だが、見えない方からの打ち込みに対しては執念があるように勝利していた。かなりの使い手である。
その平山と、山野は何度か立ち会う機会があったが、半数以上勝ちを取ることができた。山野にも理由はわからないが、沖田との稽古が身になってきたのかもしれない。
「お前は不思議な剣を使うな」
「不思議・・ですか」
「まだ人を殺ったことがないんだろう」
「はい」
「お前は人を斬ってもきっと変わらないやつだろう。たまにはいるんだ。そういうやつが。沖田もそうかもしれない」
「沖田先生も?」
山野にはよくわからないことだった。
平山がそれから山野に一目置くようになったため、平間も山野にからんでくるようなことはなくなっていた。芹沢一派の中にあっても、そこら当たりに微妙な力関係があるのだろう。
壬生浪士組への入隊志願者たちは日に日に増加している。山野が道場へ出る度に新しい顔が増えていった。
谷三十郎、昌武という兄弟が入隊してきたのもこの頃である。
三十郎は近藤・土方より年上だったのに対して、昌武は弱冠十六歳だった。昌武は三男にあたり、次男の万太郎は大坂に道場を開いているという。万太郎も後の池田屋斬り込みには参加することになる。
三十郎は隊内の情勢に目敏いタイプだったらしく、入隊してすぐ近藤に私淑している態度を見せていた。
谷家は禄を離れたとはいえ、備中松山藩板倉家家臣である。
元は武州多摩郡の農家の生まれである近藤にとっては、生まれついての武士階級に憧憬があった。感激家でもあるため、おだてにも乗りやすい。逆に、その喜怒哀楽の大きさに人々は我知らず近藤のペースに乗せられてしまうと言えなくもない。近藤の真意がどこにあるのかわからないが、谷三十郎を重く用いるつもりらしい。
土方歳三が道場に出ているとき、近藤勇と谷三十郎が顔を出した。
「総司はいないのか」
と近藤は沖田を探しているが、
「総司は見廻り中だよ」と土方が答えた。
「それは残念だな。谷君」
近藤は三十郎に向き直って言う。
「前にも言ったが、沖田の剣をみせたかったのだが」
「沖田君の剣はまた後の楽しみにさせてもらいましょう」
平隊士は年が上でも幹部を先生と呼ぶ。沖田を君付けで呼ぶということは、谷が幹部待遇であるということだった。
沖田の代わりに斎藤一が呼ばれた。あいかわらず表情を伺わせないポーカーフェイスである。
「総司と並んで隊中の双璧と呼ばれている斎藤君だ」と近藤は紹介する。
「それはそれは」
三十郎はにこやかに笑い、ご教授願いたいと言った。
三十郎は槍を使うというが、今日は木刀を握った。斎藤は冷静に対峙する。審判には永倉新八が立った。
斎藤の剣は沖田の鋭利な剣とは対照的に、最初に見切れそうな誘いを作るという余裕のある剣だった。三十郎もすぐ斎藤の腕を見抜いたらしく、一本斎藤に取られた時点で勝負を引いた。
しかし「今度は槍でもお手合わせしたいものですな」と言い足すことは忘れない。
近藤と三十郎がなごやかに雑談しながら道場を出てから、土方が斎藤を呼び寄せた。
「どうだ?」と短く聞く。
「なかなかの腕です」と斎藤も心得て答えた。
土方は何か考えている様子だったが、ご苦労と下がらせる。
永倉が寄ってきて、斎藤に
「あの谷さん、根に持つたちだと見たが。まあ斎藤君みたいな剣士が相手だと負けてもかっこがつくからいいか」
「さあてね。これが総司さんならもっと容赦なく勝っていただろうな」
「沖田君か。そうかもしれんな。」
沖田総司が率いる市中見廻りの巡察隊は壬生に戻る途中で小競り合いに遭遇した。政変の後、大物志士たちが一時京から姿を消したが、統率者を失った浪士たちが食い詰めて事件を起こすことが多かった。このとき、山野八十八も沖田の巡察隊に加わっていた。
町人たちが遠巻きに取り囲む小料理屋の店先で、一人の若侍が数人の浪士に囲まれている。
「あの若いお侍さん、無茶や」
「相手は四人やで」
「お役人を呼ぼか」
町人たちは無勢の若者を応援したくなるのか心配そうに見ている。
浪人の一人が斬りかかったところをかろうじて若者が鍔もとで受けたとき
「壬生狼や」「壬生の浪士組や」と大声が周囲から上がった。
浪人たちはぎょっとして散開する。
隊長の沖田が鋭く見回しながら、
「役儀によって改める。藩と姓名を名乗られよ」
と問いただしたが、もとより名乗る訳がない。
「まずい、逃げろ」と抜き身を下げたままで逃げようとする。
見物していた町人たちもわらわらと逃げまどう。血迷った浪人が一人、刀を掲げて巡察隊に突っ込んできた。
それを抜き打ちに斬り伏せたのは沖田だった。一分のためらいもない。鮮やかだった。
山野八十八は今では沖田には二つの顔があるように思っていた。普段の沖田と剣を持つ沖田と。無駄口が大好きだが、剣では無駄を嫌った。沖田はいつも最小のエネルギーで最大の効果をあげられるように計ったような剣さばきを見せる。
それをさっきの若侍が魅せられたように見つめていた。
逃げた三人を追うように他の者に指示し、沖田は山野に倒れている浪人を捕縛するよう命じた。致命傷は与えなかったのである。
若者は今気づいたように刀身を鞘に収めた。真剣での立ち会いが、初めてのような仕草である。山野も一度だけ見かけたことのある谷昌武だった。昌武は近藤局長付の小姓となっていた。
整った顔立ちだがどことなく思いつめたような目をした男だと山野は思った。
「たしか谷君でしたよね。どうしました?」沖田が聞く。
昌武はまだ放心状態で沖田を見つめていたが、はっとして、
「いや、不審な浪士を見かけて声をかけるといきなり・・」
「相手は四人か。単独行動をしているときは気をつけなければいけないな」
沖田の言葉に、昌武は目に見えて狼狽した。
「でも、職務熱心なのは感心ですよ」
沖田が笑って言うと、昌武の目が急に明るくなった。
山野は止血の方法も教えられていたので、浪人に簡単な処置をして、かけつけてきた所司代の役人に引き渡した。逃げた浪人たちは取り逃がしたらしい。他の隊士たちも戻ってきて、一行は壬生までの帰途についた。
昌武は非番であるらしかったが、隊列に加わった。しんがりを歩いている山野の隣になる。
沖田はときどき振り返って、隊士たちに冗談をとばしたりしている。昌武もこのときには笑顔を見せるようになっていた。
帰隊後、昌武が山野に話しかけてきた。同じくらいの年格好で親しみを覚えたらしい。出身地のことなど話してから
「山野さんは沖田先生に剣の稽古をつけてもらったことがあるんですか」
「ある。すごく厳しい人だよ。剣にかけては」
「僕も教えていただきたいな」
昌武の言葉に、真剣な響きがあった。
「もちろんその機会はいくらでもあるだろう」
それがどんなに厳しいか今言っても昌武は信じないだろう。沖田は普段どの幹部よりも気さくで明るいのだから。
「僕はどんなに厳しくても平気です。沖田先生の稽古を受けたい」
昌武は山野の心を読んだように言ったのだった。
九月に入り壬生浪士組隊士に法度が言い渡された。四カ条からなり、士道不覚悟は切腹という厳しいものであった。ここから鉄の規律で統制された軍事集団としての道を歩み始めたことになる。
土方の部屋の襖を「おじゃまします」と返事を待たずにカラリと開けた者がいる。もちろん副長室にこんなに無遠慮に入って来るのは沖田しかいない。
「みんなちょっと青い顔してましたよ」
「お前もか」
今日の土方は沖田の無駄口の相手になる気分らしい。
「私は士道不覚悟だらけですからね」
「お前がそんなことでは困るがな」
「そりゃ困るでしょう。土方さんの困る顔を見るのが楽しみだけど、そんなことのために切腹はいやですから、私に関してはご心配なく」
「誰が心配するか」
「それより、芹沢先生たち、よく許可しましたね」
「一目見て笑いやがったよ」
「笑ったんですか。なるほどね」
「俺達のやることをばかにしてやがるのさ」
土方は真顔になって、
「今は隊としての体裁を考えても人数が欲しい。中身は問うていない。いわば烏合の衆だ。それをまとめて変えていかなきゃならないんだよ。軍律だ。芹沢がいくら笑おうと法度は法度だ。一度公布してしまえばそれはそれで効力を持つ」
土方は「なあ、総司」と沖田に呼びかけるように
「俺はこの隊を強くしたいんだ。世間の連中にきっと認めさせてみせる。そのためにはどんなことでもやると心に決めたのさ。もう後戻りはできねえ」
これは土方歳三の本心だったろう。沖田にしゃべると見せかけて、実は自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。
「じゃあ、私も何かお手伝いができそうですね」
沖田は黙って土方が熱っぽくしゃべるのを聞いていたのだが、ふいに言葉を挟んだ。
あたりまえだろ、お前を頼りにしてるんだと言おうとして土方は口に出せなかった。言うと沖田のことだ。笑い出すかからかいの種にしてしまうだろう。あるいは重荷に理解してしまうかもしれなかった。それで一言、
「頼む」と言った。
沖田は一瞬何か言いたそうにしたが、
「了解」と一言そう答えた。
彼は土方の心の動きをすべて分かっているようだった。
秋も深まったある夜、山野八十八は屯所を出ようとしていた沖田と裏口ですれ違った。斎藤一もいっしょである。
「あ、沖田先生こんばんは。お出かけですか」
山野が律儀に挨拶をすると、沖田は悪いところを見つかった子供のような顔をして、
「うん、ちょっとね。野暮な用事でね」
「野暮な用事?」山野が心の中で首を傾げていると、斎藤が沖田に
「総司さん、行こう。けっこう時間がかかるぞ」
と促した。
「山野君。ここで私に会ったことは忘れるんだよ」
「え?」
沖田と斎藤が裏口から消えたとき、山野は思い出した。今日は二人が局長のお供をして二条城に行ったはずで、局長が戻らない以上、二人だけここにいるのはおかしいということを。山野は自分の知らないところで何かが起こっているような胸騒ぎがした。
新見錦が斬殺されたと屯所に通報があったのは翌日だった。
祇園での遊興の帰りだったという。馴染みに通った後で、お供も連れていなかったらしい。仮にも隊の大幹部であり、芹沢派の参謀格であったのだが、犯人捜しは遅々として進まなかった。
芹沢の怒りは凄まじかったが、その頃酒乱の気が高じており、気持ちの持続がむずかしくなっていたのだろう。ますます酒色に溺れるようになった。
隊の雰囲気は最悪である。
「新見先生の斬り口、ばっさりとこう鮮やかで、即死だったそうだ。長州っぽが犯人だろうと目星をつけているらしい」
松崎が山野に言った。隊内の噂ではそういうことになっているらしい。
「何にしろ、外出時は油断するなってことだ」
山野はあの日、沖田と斎藤が連れ立って屯所を出ていったのを知っている。でも山野にとっては沖田総司は大事な人間だった。彼が何をしようと山野にはそれには理由があったのだと信じられるのだった。山野の他にも気付いている者がいたかもしれなかったが誰一人疑惑を口に出す者はいなかった。
新見の喪中ではあるが、景気付けのためか隊士全員の大宴会が島原の角屋で催されると達示があった。角屋と聞いて山野はいやな気分になったが、毎日目まぐるしい日々を送っている浪士組隊士とってはもはや過去の出来事でしかない。
角屋の大広間を貸し切っての宴会は大騒ぎになった。無礼講となり、山野も愉快な気持ちで皆に溶け込んでいる。沖田の周りは特ににぎやかで、横にいる斎藤と共に平隊士たちに囲まれてしまった。
楠木小十郎が沖田の側に行って何か言っている。沖田は笑っている。
「山野さん」といつのまにか谷昌武が側に来ていた。
「どうぞ」とお銚子を傾けた。山野は盃を受ける。
「谷君、あれから沖田先生に稽古をつけてもらったのかい?」
「いえ、それがまだです。でも稽古は見せていただきました」
「すごかっただろ」
「ええ」
昌武は道場での沖田の厳しさに驚きもしたが、それゆえに余計に沖田に傾斜していった。若い昌武にはそれを言葉で言い表す術もないし、必要もなかったろう。
「あの楠木君が」と昌武は小十郎が沖田としゃべっている姿を見ながら
「道場に来た沖田先生に稽古をつけてもらっているのを見ました」
「そうなのか。君も行けばいいのに」
分け隔てをするような沖田ではない。
「僕は未熟ですから」と昌武は答える。
「未熟と思うなら尚更沖田先生に見てもらえばいいのに」
「無論これからそのつもりです」
山野は昌武から決意のようなものを感じた。
沖田は山野を道場で見つけると、かならず声をかけてくれる。沖田の稽古の後では身体はきついが、自分の欠点がよくわかり確実に上達しているという喜びがあった。昌武もその充実感を知るだろう。
山野は昌武がすっかり沖田に傾倒しているのが微笑ましく思えたのだった。
副長の土方は、日頃の疎遠をわびるつもりなのか、今日は珍しく付きっきりで芹沢の世話をやいているようだった。
やがて宴もお開きになり、芹沢一派が屯所に戻って飲み直すと言い出すと、土方もそれに付き添って帰っていった。山野も仲間といっしょに屯所に戻ることにした。
出る時、ちらっと沖田を見たが、彼は斎藤達とにぎやかにやっている。今日はいい会合だったなと山野は思うのだった。しかし、彼はこの時点で何もわかってはいなかった。
その深夜、厠に起きた山野は他の隊士を起こさないようにそっと廊下に出た。そのとき、誰かがこちらにやってくるのがわかった。長身の男。
ろうそく一本の暗がりの中で確かにそれは沖田だった。大刀を持っている。
立ちすくむ山野に、
「山野君」と沖田が小声で呼びかけて来た。かすかに笑っているような気配だ。
「君とはよくぶつかってしまいますね」
山野は何と答えていいかわからなかった。相手は沖田だというのになぜか得体のしれない怖さが広がる。
「早く寝てしまいなさい」
沖田はそう言って闇の中に溶けていった。しばらく山野はその場を動けなかった。
翌朝、まだ隊士たちが昨夜の酒が抜けきらないでいる時、晴天の霹靂のような報がもたらされた。深夜、屯所に賊が入り泥酔していた芹沢と平山、同禽していた女が斬られたという。平間の姿も見えない。隊士たちの驚きは大変なものだった。長州の斬り込みという噂もあり、緊張が走った。門番を立てたり、幕府の関係部署に伝令を走らせたりする動きが慌ただしい。
隊の幹部たちは後始末や葬儀の準備などにかかっていた。いつもの巡察も中止になる。
山野たちは沖田の指示で祭壇の準備などをし始めた。山野の実家がお寺であることを知った何人かは、これはどこに置くのか、どうするのかと尋ねにくる者もいる。
「山野君、助かりますね、君がいて」
と言う沖田の顔にかすかな切り傷があるのに山野は気付いた。昨夜のことはどちらも口には出さなかった。
土方たち近藤派の幹部が、芹沢一派を粛清した事実が公表されることは決してない。例えそれが公然の秘密となっても、公式には記されないことであった。
土方が指図している沖田を呼びに来た。土方もやや疲れた顔をしている。
「ゆうべは少し飲み過ぎましたね」
と沖田は土方を見て笑った。
沖田らしくない少し翳りのある笑顔だった。沖田は芹沢を悼んでいるのだろう。
芹沢はめったに態度に表すことはなかったが、彼なりに沖田を気に入っていたのではないかと土方は思っていた。
「総てはこれからだ。ここから始まる」
土方は芹沢を葬った時点で、もはや自分に安穏な道は許されていないことを覚悟していた。反目していたとはいえ仲間の血を流したからには自分の血であがなう他はない。
沖田はしばらく黙っていたが
「私も行きます」
と、土方を見た。
どこへとは土方は聞かない。
ここに名実共に近藤勇に率いられる浪士組が誕生する。
文久三年、九月十八日のことであった。