i'm looking forward to joining you, finally

 

 

 

i've done all i can do

could i please come with you?

sweet sweet smell of sunshine

i remember sometimes

 

(from“i'm looking forward to joining you, finally”

song by:nine inch nails)

 

 

 

 サードインパクト、それは僕が起こし、僕が終結させた。
 上層部ではただ一人還ってきた青葉さんの指揮により、
 いち早く情報戦を制したネルフの加護の元で、僕とアスカは暮らしていた。
「気持ち悪い」
 アスカがそう口にしてから三ヶ月、僕等は一言も口をきいていない。
 ネルフ支給の宿舎、同じ部屋で暮らしているにも関わらず。

 朝、僕の方が早く起き、お風呂を沸かして、朝食を作り始める。
 暫くしてアスカは起きてきて、何も言わずにお風呂に入る。
 アスカがあがった頃に朝食が出来あがり、同じテーブルで互いに一言も喋らずに食事を摂る。
 それからアスカは部屋に閉じこもる。
 僕は掃除や洗濯をしてから、同じように部屋に入ってぼうっとしてる。
 昼食も同じ。
 僕が作り終えた頃にアスカは部屋から出てきて、無言のまま一緒に食べる。
 夕食も同じ。
 僕が作り終えた頃にアスカは部屋から出てきて、やっぱり無言のまま一緒に食べる。
 で、夕食の片づけをした後に沸かしたお風呂にアスカは入って、そのまま寝る。
 毎日、同じ一日の繰り返し。
 電話に出るのも僕だけ。
 買い物に行くのも僕だけ。
 アスカが出掛けるのはネルフに呼び出された時だけ。
 それも滅多に無い。
 それが三ヶ月。
 会話が一切無いままでも生活が成り立っているのは、
 互いの生活パターンを熟知しているからなのだろうか。
 それとも感情が通じ合っているからなのだろうか。
 結局の所は判らずじまいだ。

 明日から第参新東京市でも学校が再開されるらしい。
 一週間前、還(帰)ってきたケンスケに再会した。
「どうして還ってきたかって?
 綺麗な被写体どころかカメラさえ無い所に、俺が居るとでも思うか?」
 とケンスケ。
 そこら辺は
「音楽どころかギターさえ無い所に居ても、面白く無いだろ?」
 と言った青葉さんにそっくりだった。
 ちょっと、羨ましかった。

 トウジや洞木さんは、帰ってきていない。
 いや、もしかすると還ってきてさえいないのかもしれない。
 どちらにしても、僕がどうこう出来る事じゃなかった。


 そう言えばケンスケも言ってた。
「シンジ、お前は何で還ってきたんだ?」
 なんて言ったらいいのか、本当に迷った。
「……、彼処で、綾波に会ったんだ。
 色んな話をした。
 現実の事、夢の事、エヴァの事、みんなの事……。
 それで、何となく思ったんだ。
 彼処は、何か違うって。
 僕が望んでいたモノとは違うって。
 だから僕は帰ってくる事を望んだんだ。
 ヒトはまた互いに傷付け合う、それでもいいのかって、綾波は言ったよ。
 僕は、それでも構わないって言った。
 だから、僕は還ってきたんだ」
「そうか……。
 惣流も、還ってきてるのか?」
「うん……。
 でも、アスカは望んでいなかったかもしれない。
 僕が、無理矢理連れ戻したようなものだから……」
「……そうか。
 もうすぐ学校始まるよな」
 話題を無理矢理変えたように思えた。
「……うん」
「ちゃんと来いよ。トウジは何やってるか解らないけど、また楽しくやっていこうぜ。前みたいにさ。
 惣流にも言っておいてくれよ、また写真撮らせてくれって。
 今度はモデル代払うからってな」
「うん……」


 それで、明日から学校が始まるわけだ。
 夕食の片づけも終わって、これからお風呂を沸かそうかなと思っていると、
 アスカが珍しく、というか初めてだと思う、リビングに居た。
 いつもなら部屋に閉じこもっているのに、どうしたんだろう?
 テレビを見ているわけでもない。本や新聞を読んでいるわけでもない。
 ただ、そこに座っていた。
 バスタブを洗って栓をして、お湯を入れ始めて戻ってきても、アスカはまだリビングに居た。
 どうしてそうしようと思ったんだろう、僕は自然とアスカの隣に座った。
 アスカは僕を避けるわけでもなく、ただじっと座っていた。


「明日から、学校だよね……」

 無言。

「僕は、一応行こうと思ってるんだけど……」

 無言。

「ケンスケは還ってきたよ。トウジや委員長はどうなのか解らないけど……」

 無言。


「アスカは……、行く?」




 ……無言。






「ねぇ、アスカ……。
 僕に出来る事は、もう何も残ってないんだ。
 それでも僕は、アスカの側に居ても良いの?」



 無言。



「……、ハハッ、ダメだよね、ダメに決まってるよね。
 あれだけ傷付けて、裏切って、無理矢理こっちに連れ戻して、
 挙げ句の果てに首を絞めたりしたのに、居ていい訳が無いよね。
 ……近い内に、ここを出るよ……。
 その方が、アスカにとっては好都合だろうから……」



 ほんの少し、注意して見なきゃ解らない位少しだけ、アスカの肩が動いた。
 だけど目は、虚ろに前を見据えたまま動かない。



「アスカ……。
 ねぇ、何とか言ってよ……」



 無言。



 無言。




 無言。



 耐えられなくなってきた。
 この完全無欠の静寂にも、そして自分の口から出る嘘にも。

 だから、本音を吐きだした。


「イヤなんだよ、独りで居るのは!
 もう父さんも母さんもミサトさんも、綾波もカヲル君も居ないんだ!!
 僕はずっと、ずっと独りぼっちで……。
 アスカの側に居たいんだ、でもアスカは何処にいるの?
 ねぇ、アスカは何処に居るんだよ!?
 僕に出来る事はもう総てやったんだ!
 お願いだから僕も一緒に連れてってよ!!
 頼むから……、お願いだから……」


 無言。


 無言。



 首を絞めて、頬を撫でられた後と同じ様に、自分がすすり泣く声だけが、
 大して広くもないリビングに響く。




「……好きにすれば」

 僕は顔を上げた。

 アスカはまだ、目を合わせようとはしてくれない。

 でもその瞳は、さっきよりも少しだけ、光が宿っている様に見えた。


「……うん……」


 やっとの事で、笑顔でそう答える事が出来た。

 還ってきてから、笑えたのはこれが初めてだった。




「明日は……、早起きしてね」


 ……無言のままアスカは立ち上がる。






 お風呂に行く途中で、アスカは言った。






「……弁当、忘れずに作りなさいよ」