背徳の瞳 −Eyes of Venus−
解体寸前の廃屋の様なマンション
コンクリート剥き出しの狭い部屋
足跡で汚れた床に散らばる二着の学生服
苦しげに軋むのシングルベッドの上
物言わぬまま抱き合う二人を知覚していたのは
ビーカーの中の水と
蒼く染まる満月だけだった
ぼくに出来たのは結局の所
髪を撫で
舌を絡ませ
肌を重ねる
それくらいの事だけだった
きみの紅い瞳を見詰めている事しか
他に出来た事は何も無くて
「好き」とか
「愛してる」とか
「離れたくない」とか
「側に居て欲しい」とか
そんな言葉は二人に必要無かったと言えば嘘になるだろう
むしろ二人には何よりも必要だった
だが少女は伝える術を知らず
そして少年は剰りにも臆病だった
二人が刹那的な快楽に走った事を
一体誰が責められると云うのだろう
寂しさと孤独に凍える極北の地で抱き合う二人を
一体誰が非難出来ると云うのだろう
きみがきみで無くなってしまった事
一瞬にして理解した事実
きみが創られた存在である事
受け止めるしかなかった事実
何時かの秘め事の匂いが微かに漂う部屋の中
何時かの宝物を握り絞め蹲り哭くきみを
背中から抱き締めた事
ぼくらが手に入れたたった一つの真実
蜃気楼の様に 剰りにも儚くて
今にも音も無く 砕け散ってしまいそうで
それでもぼくは 何も言う事が出来なかった
きみの紅い瞳を見詰めている事しか 出来なかった
涙に濡れたきみの瞳を見詰めている事しか 出来なかった