ざっ・・・
新しく出来た芦ノ湖湖畔に着いた。
夕暮れ時、空は朱に染まり、辺りには誰も見当たらない。
僕は砂浜に座り込んだ。
(考えてみれば第12使徒の頃からだよな、上手くいかなくなってきたのは・・・)
何をするでもなくぼーっと座りながら過去を振り返る。
(あの頃シンクロテストでカヲルを抜いてからカヲルとの関係は悪化、第12使徒戦では異次元に飛ばされ、第13使徒戦ではアスカの足を奪い、第14使徒戦では溶け、第15使徒戦ではカヲルが壊れ、第16使徒戦では綾波が死んで・・・僕の知らない、僕のことを知らない綾波になった・・・)
お得意の暗い自己否定的思考にどっぷりはまり込もうとしているとどこからか、ベートーベンの第九、四楽章のサビを奏でる鼻歌が聞こえてきた。
「歌はええのぉ。」
はっと声が聞こえた方を向く。
水面から半分ほど突き出たなにかの彫刻のようなものの上に腰掛けて夕日を眺めている少年がいる。
「歌は心を潤してくれる、リリンが生み出した文化の極みや。」
そう言うと彼は振り向いた。
「そう思わへんか?・・碇シンジ君。」
短い銀髪、血のように紅い瞳。そして・・・ジャージ?
「き、君はどうして・・・?」
問い掛けた僕に向かって彼は言い放つ。
「知らん奴はおらん・・・失礼やけど君はオノレの立場をもうちびっとは知った方がええと思うよ・・・」
「(いや、僕はどうして君がジャージを着ているのか聞いたんだけど・・・)そ、そう。えっと・・・」
「わいはトウジ、渚トウジ・・・君と同じ仕組まれたボウズ、フィフスチルドレンや。」
言いよどんだらいきなり自己紹介までされてしまった。しかもどうやら彼も同僚パイロットらしい。
・・・勘弁してよ。本当にチルドレンって変わり者ばっかり集めてるのか?
あの顔に合わない銀髪といいジャージといい、かなり友達になりたくないんだけど・・・
「あ・・・き、君もチルドレンなんだ、渚君。」
「トウジでええで・・センセ。」
ああ、しかもなんか勝手に話が進んで友達っぽい状況にはまり込んでる?!
でもやっぱりお約束をはずしちゃいけないよね・・・(涙)
「ぼ、僕もシンジで良いよ、トウジ君。」
僕は心の中でさめざめと泣きながらそう答えた。
「フフフ・・」
彼は妖しく笑いながらこっちを見ている。
はぅっ!ひょっとして彼は見た目が怪しいだけじゃなくてそーゆー趣味の人なの?!
思わず僕はお尻を押さえてしまった・・・
難波のフィフスチルドレン・渚トウジ
by Keis
ファーストチルドレン・綾波レイ。
過去の経歴は抹消済み。
蒼銀の短髪、異常に白い肌、血のように紅い瞳。
不思議・不気味・不死身の美少女。
セカンドチルドレン・惣流・カヲル・ラングレー。
14歳にして学士号を持つ。
赤毛の短髪、白い肌、青い瞳。
短気で異常にプライドの高いタカビー男。
サードチルドレン・碇シンジ。
親に捨てられ孤児同然。
黒い短髪、黒い瞳。
内気、内罰的、ってゆーか鬱病?
フォースチルドレン・鈴原アスカ。
弟の鈴原アスマの怪我にかこつけて強制徴兵。
黒い長髪、黒い瞳。
単純脳筋食欲馬鹿。ブラコン。
フィフスチルドレン・渚トウジ。
委員会が直接送り込んできたばりばり怪しいチルドレン。過去の経歴は抹消済み。
銀髪のスポーツ刈、異常に白い肌、血のように紅い瞳。
怪しいというより妖しい。ナルシスホモ?
ミサトはチルドレンの書類から顔を上げ、独房の中のリツコを見た。
「ねえ、マルドゥック機関って実質は碇司令達なのよねえ・・・?」
「・・・」
「なあんか選考基準間違ってるんじゃないの?」
「・・・否定はしないわ。」
「君がファーストチルドレンやな・・・綾波レイ。」
エスカレーターを降りたレイは自分に声をかけてきた少年を見る。
反射的に一歩下がって身構えた。
「あなた、誰?」
渚トウジは意味ありげに笑って答えた。
「君はわいと同じやの。」
「・・・(絶対にあなたと同じではないわ。というか、あなたの返事は私の質問の答えになってない。あなた、馬鹿?)」
レイは複雑な目をすると彼を無視して歩み去った。
「碇、フィフスチルドレンがレイと接触したらしい。
「・・・」
「・・・どうやら彼はフラれたらしい。」
「・・・ふっ、問題ない。」
「・・・碇、その机の下でガッツポーズしている右手はなんだ?」
やっとのことで試験が終わってちょっとシャワーをするまで一休み。
(やっぱりマヤさんじゃまだ手際が悪いんだよなあ・・・)
なんて考えながらぼーっとS−DATを聞いていたらエレベーターが到着。
微妙に嫌な予感がしたと思ったら、やっぱりそこにはトウジ君がいた。
「やぁ・・わいを待っててくれたんか?」
「別にそんなつもりじゃ・・・(そんなわけないじゃないか、僕だってまだ貞操を捨てるつもりはないんだ)」
それとなく断っているのに、彼はお構いなしに寄ってくる。
「今日は?」
「定時試験も終わったし、後はシャワー浴びて帰るだけ。でもあんまり帰りたくないんだ、最近。」
考えてみたらあの家も今やミサトさんのせいで魔窟と化してるんだよな・・・カヲルもいないし、帰る意味がないよ、あれじゃ。綾波の家にでも行こうかな?
なんて考えていたお陰でついついトウジ君に余計な事を言ってしまった。
「帰る家・・ホームがあるんやちう事実は幸せに繋がる、ええことや」
「・・・そうかな。(言ってる内容も妖しいんだけど言い方のせいで更に怪しくなってるよ)」
「わいはセンセともっともっともっともっともっともっともっともっともっと話がしたいわ・・・一緒に行ってええか?」
「・・・え?」
ちょっと待ってくれ!この話の方向性はやばいって!!
「シャワーや・・これからなんやろ?」
「・・・え?」
勘弁してくれえ(涙)それだけはい・や・だぁぁぁぁあ!!!!!
「駄目なんか?」
「いや、そういうわけじゃない・・・けど。」
僕は涙ながらに同意した。
だってトウジ君の後ろ、カメラの死角で「やおいファンをゲットするためにも絶対必要!ギャラについては再考も可!」って書いたカードをADさんが見せてるんだ(泣)
結局僕はトウジ君と風呂に入る羽目になった。
僕はシャワーだけのつもりだったんだけど、あれって一人一人の仕切りがあるんだけど、トウジ君が同じ仕切りに入ろうとするんだ(涙)
思わず逃げた先がお風呂だった。
今は二人で並んでお風呂に浸かっている。
僕はじりじりと彼から距離を取ろうとしているんだけど、彼もじりじりと距離を詰めてくる。
僕は彼を見ないようにNervマークや富士山の絵が自動で切り替わる壁画を一心に見つめて彼の顔を見ないようにしながら、必死の攻防を繰り広げていた。
「一次的接触を極端に避けるのお、センセは・・・
怖いんか?人と触れあうんが ・・
他人を知らなければ裏切られる事も、互いに傷つくこともない・・・
でも、寂しさを忘れることもないわ、 人間は寂しさを永久に無くすことはでけへん、人は一人やからね・・・
ただ忘れることができるから、人は生きていけるんや。」
ああ、またなんかわけわかんないこと言ってるよ、この人は。
ピクッ・・・
ああ、今度は手を重ねてきてるぅぅぅう!
カシャッ
しかもよりによってこんな時にこんな所で電気が消えるかぁああああ?
と、とにかくこの危機的状況から脱出しないと・・・
「もう時間だ。」
「もう、終わりなんか。」
なんでそんなに残念そうなんだよ、トウジ君(汗)
「もう寝なきゃ。」
もうこれくらい言えば諦めてくれるよね?お願い、諦めて頂戴(涙)
「・・・センセと?」
勘弁してくれええぇぇぇ・・・!!!
「え、ち、違うよ!トウジ君には部屋があるはず・・・」
必死になって防御線の再構築に努めていたら・・・
ザバッ
なんでそんなに躊躇いも無く立つんだよ、トウジ君。そんな粗末な物を偉そうに見せびらかさなくても・・・ふっ・・・勝った!
ミサトさんもリツコさんもマヤさんも綾波もアスカもマナもマユミもヒカリもカヲルもアスマ君もこれだけは誉めてくれたんだ。僕はここにいてもいいんだ!
「そう・・常に人間は心に痛みを感じとる・・・心が痛がりやから生きるのも辛いと感じる。」
「ガラスのように繊細やな・・・特にセンセの心は。」
「僕?」
「そや、好意に値するわ。」
「コウイ?」
ええっと、「コウイ」って言うと、皇位、高位、校医、桐壺の更衣、行為・・・行為?
ちょっと待ってよ、「行為に値する」ってつまり「ヤる」ってこと?いーやーだー!!
「好きってことや。」
・・・もう、死にたい・・・
結局僕はあのあとトウジ君の攻勢に力及ばず、彼の部屋に泊まる事になった。
「やっぱわいが下で寝るわ。」
ま、まさかそれは一緒にってことじゃないよね?
「い、いいよ、無理言って泊めて貰ってるんだ。」
なんか慌てるあまり変なことを言ったような・・・「無理言って泊めて貰ってる」? やばい、落ち着くんだ、シンジ。逃げちゃダメだ!今現実逃避したら・・・
「センセは何を話したいんや?」
「え?」
「わいに聞いて欲しいことがあるんやろ?」
僕を襲わないで下さい、以上。
ってわけにもいかないよね、なんか適当に誤魔化すか。
「色々あったんだ、ここに来てから。それまでは先生の所にいた。穏やかで何もない日々だった。でもそれでも良かったんだ。」
「人間が嫌いなんか?」
嫌いなのはナルシスホモだよ。
「どうでもよかったんだと思う。でも、父さんは嫌いだった!」
「わいはセンセに逢うために生まれてきたのかもしれへん。」
今までの会話でどこをどうやったらそうなるんだよ、トウジ君(涙)
それで翌日。
前夜の精神的疲労が極限まで達していた僕はトウジ君が出て行ったのにも気がつかなかった。
「さぁいくで、おいで、アダムの分身、ほんでリリンの下僕。」
いきなりこんな状況になっていたらしい。突然保安部員がやってきて攫われたと思ったら初号機に放り込まれた。
「嘘だ・・・嘘だ、嘘だ、嘘だ!トウジ君が使徒だったなんて、そんなの嘘だ!」
幾ら僕が節操無いって言っても使徒とヤる気はないぞ!!
・・・でも考えてみたら都合良いか、オフィシャルな口実付きでトウジ君を殲滅できるんだ。
「事実よ、受け止めなさい。出撃。」
らじゃ!ミサトさん。
「裏切ったな。トウジ君、父さんと同じで僕を裏切ったな、トウジ君!」
とりあえず非は彼にあると主張しながら僕は出撃した。
「とろいな・・センセ。」
「いた・・・トウジ君!」
「待っとったわ、センセ。」
ドグマに通じる通路をひたすら降り続けるとようやくトウジ君と弐号機に追いついた。
すかさずトウジ君を握りつぶそうとすると弐号機が邪魔をする。
「カヲル、ごめんよ。」
カヲルに一言侘びを入れると僕は弐号機と格闘を開始した。
それを見ながらトウジ君は悠長に何か呟いている。
「エヴァシリーズ・・・アダムより生まれし、人間にとって忌むべき存在 、それを利用してまで生き延びようとするリリン・・・わいには解りまへん。」
「トウジ君、止めてよ、どうしてだよ。」
君が訳判らないこと言ってると、もりもりやる気が失せるんだけど・・・
「エヴァはわいと同じ体でできとる、わいもアダムより生まれし者やから・・・ 魂さえなければ同化できるわい・・・この弐号機の魂は今自ら閉じこもっとるから。」
ナイフが逸れた・・・ような格好をしてトウジ君を突き刺そうとすると・・・
「ATフィールド?」
防がれた。・・・ちっ!
「そう、センセ達リリンはそう呼んどるの・・・何人にも犯されざる聖なる領域 、心の光、リリンも解っとるんやろう?ATフィールドはどなたはんもが持っとる心の壁だちうことを。」
「そんなの、わからないよ!」
ほんと、トウジ君が言ってることは理解できない。
「人の宿命か・・・人の希望は悲しみに綴られとるのに。」
鬱陶しい弐号機を相手に戦っているとトウジ君が何か呟いた気がする。
どおん・・・
鈍い音と共に結界が張られた。発令所との通信も出来ない。
・・・ちゃあんす!これってなにやってもばれないってことだよね?
底に落ちた。なんか酷い眺めの悪い場所だな、ここ。
「トウジ君、待って!」
逃げたら君を殺せないだろう?
父さんばりにニヤリ笑いを浮かべると弐号機に足をつかまれた。
いいかげんにしやがれ、このアカゲザル!
トウジ君の一睨みでヘブンズドアが開く。案外根性ないねえ、偉そうな名前の癖して。
トウジ君はとっとと中に入っちゃうけど僕は弐号機と格闘。
そこへ綾波が結界に侵入してきた。綾波っぽい感覚がするからすぐわかる。
その間にトウジ君は白い巨人の前へ。
「アダム・・わいらの母たる存在、アダムに生まれし者、アダムに還らなならへんのか 、人を滅ぼしてまでも。」
なんか一人で浸ってたトウジ君は急に取り乱した。
「ちゃう!これは・・・リリス!そうか、そういうことかいリリン。」
そのすきに僕はトウジ君の後ろに近寄り、彼を握り締める。
「おおきにセンセ・・弐号機はセンセに止めておいて貰いたかったんや・・・ そうせな彼女と生き続けたかもしれへんからの。」
「トウジ君、どうして?」
まあ、心優しい僕のことだから、言い残すことがあったら聞いてあげるよ。
「わいが生き続けることがわいの運命やからや、結果人が滅びてもな・・・ やけどこのまんま死ぬこともできる、生と死は等価値なんや、わいにとっては・・・ 自らの死、それが唯一の絶対的自由なんや。」
「何を、トウジ君、君が何を言っているのか判らないよ、トウジ君。」
全く彼の言うことが理解できない。彼はひょっとしてスワヒリ語でも話しているの?
「遺言や・・・さぁわいを消してくれ、そうせなセンセ等が消えることになる 、滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体は一つしか選ばれへんのや ・・・ほんでセンセは死すべき存在ではおまへん。」
トウジ君はここで綾波を見あげて、微笑んだ。
綾波の一見無表情に見える顔が実は嫌悪に歪んでいたことは僕だけが知っている。
「センセ達には未来が必要や・・・おおきに、センセに会えて嬉しかったわ・・・。」
お、遺言も終わったらしいね。さ、御待ちかねのクビチョンパの時間がやってまいりました!
って、綾波?何?
もうちょっと待て、第九が流れてるし、ここが山場だからもうちょっと溜めろ?
判ったよ、綾波、思わせぶりに長時間溜めるよ。
それにしても綾波、電波で会話するの止めない?なんかちりちりするんだけど・・・
ぷちっ・・・ひゅうううぅぅぅぅ.....ぽしゃん!
完
ども、Keisです。
私は以前シンジとレイの立場が入れ替わったような話を書いていたんですが、これはその時思いついたギャグです。
ファーストネームと顔・髪型が一致していると思ってください。それ以外パーツの色や台詞、性格など設定は苗字と一致している、と。
カヲルの台詞をトウジ風に非常にうさんくさい関西弁もどきにしてみるのが目的でした。
というかシンジが相当歪んでますが(笑)
それでは。