キツネの伝承

キツネは妖怪の獣であるが、他方、三つの得を持っており、色が中間色であることと、体の全部が小さく後部が大きいこと、
死ぬときは住んでいた丘に首を向けることだという。
妖怪としてのキツネは、人間に化けて人をたぶらかしたり、火を発したりとされ<(西陽雑俎)巻十五などに記>、とくに魏・晋以降多くの伝説を生み、それが日本にも広がった。
(鳥獣戯画)には、変化したキツネのさまざまな姿が見られる。色が黄色で、それが土の色であることからキツネは殻神と結び付けられたようで、日本ではキツネが稲荷神の使いとなったのもそれに由来するのであろう。
ただし、この場合キツネは白狐である。
白狐は黒狐および九尾狐とともに瑞祥(ずいしょう)とされるが、黒狐や九尾狐の出現を凶兆することもある。
(説文)のいう、全小後大の形がなぜたたえられたのかは明瞭でしかないが、狐という漢字は鼻がとがり尻尾が太いその体型が爪に似ているところからきたもので爪の形を貢んだのであろう。
死んでいた丘に首を向けて死ぬのは、故郷を思う心を表すものとして中国では古来たたえられた。
西方では古くギリシアの(イソップ物語)に狐が多数登場するが、とくに目立つ性格付けはされていない。
しかし、中性の<動物寓意譚(ベスティアリ)>では、狐は狡猾(こうかつ)な知者として説明されている。
たとえば、空腹のとき、赤土の上に転がり血に塗れて死んだふりをし、鳥たちがよってきたとき、急に起き上がってつかまえて食べるといった類である。
死に真似をした狐を棒にぶら下げて葬式行列をする場面は、キリスト教教会堂の床のモザイクや、壁の浮彫などにその例は少なくないが、狐の狡知を表した別の図像に、聖職者の服装をしたキツネがニワトリ達に説教している場面がありこれは無知な人々を籠絡するペテン師を意味する。
キツネは12世紀から14世紀にかけて流行したキツネを主人公とする動物話(狐物語)によって、とくに一般大衆になじみの深いものとなり、それが(イソップ物語)などとともに、教会堂浮彫や写本画において図像化された。