司法書士倫理

第1章 綱  領

(使命の自覚)

1条 司法書士は、その使命が、国民の権利の擁護と公正な社会の実現にあることを自覚し、その達成に努める。

(信義誠実)
第2条 司法書士は、信義に基づき、公正かつ誠実に職務を行う。

(品位の保持)
第3条 司法書士は、常に人格の陶冶を図り、教養を高め品位の保持に努める。

(法令等の精通)
第4条 司法書士は、法令及び実務に精通する。

(自由独立)

5条 司法書士は、職務を行うにあたっては、職責を自覚し、自由かつ独立の立場を保持する。

(司法制度への寄与)
第6条 司法書士は、国民に信頼され、国民が利用しやすい司法制度の発展に寄与する。

(公益的活動)

7条 司法書士は、公益的な活動に努め、公共の利益の実現、社会秩序の維持及び法制度の改善に貢献する。

 


第2章 一般的な規律

(自己決定権の尊重)
第8条 司法書士は、依頼者の自己決定権を尊重し、その職務を行わなければならない。

(説明及び助言)

9条 司法書士は、依頼の趣旨を実現するために、的確な法律判断に基づき、説明及び助言をしなければならない。


(秘密保持の義務)

10条 司法書士は、正当な事由のある場合を除き、職務上知り得た秘密を保持しなければならない。司法書士でなくなった後も同様とする。

 

 司法書士は、その事務に従事する者に対し、その者が職務上知り得た秘密を保持させなければならない。

(目的外の権限行使)
第11条 司法書士は、職務上の権限を目的外に行使してはならない。

(品位を損なう事業への関与)

12条 司法書士は、品位又は職務の公正を損なうおそれのある事業を営み、若しくはこれに加わってはならない。

(不当誘致等)

13条 司法書士は、不当な方法によって事件の依頼を誘致し、又は事件を誘発してはならない。

(非司法書士との提携等)

14条 司法書士は、司法書士でない者から事件のあっせんを受けてはならない。

 

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司法書士は、第三者に自己の名で司法書士業務を行わせてはならない。

(違法行為の助長等)
第15条 司法書士は、違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。

(広告宣伝)

16条 司法書士は、不当な目的を意図し、又は品位を損なうおそれのある広告宣伝を行ってはならない。

(事務従事者に対する指導監督)

17条 司法書士は、常に、事務に従事する者の指導監督を行わなければならない。

 

 司法書士は、事務に従事する者をしてその職務を包括的に処理させてはならない。

(私的関係の利用)

18条 司法書士は、職務を行うにあたり、裁判官、検察官、書記官、登記官等との私的関係を利用して交渉してはならない。

 


 

第3章 依頼者との関係における規律

(受任の趣旨の明確化)

19条 司法書士は、依頼の趣旨に基づき、その内容及び範囲を明確にして事件を受任しなければならない。

(報酬の明示)

20条 司法書士は、事件の受任に際して、依頼者に対し、その報酬及び費用の金額又は算定方法を明示し、かつ、十分に説明しなければならない。

(事件の処理)

21条 司法書士は、事件を受任した場合には、速やかに着手し、遅滞なく処理しなければならない。

 

 司法書士は、依頼者に対し、事件の経過及び重要な事項を必要に応じて報告し、事件が終了したときは、その経過及び結果を遅滞なく報告しなければならない。

(公務等との関係)

22条 司法書士は、公務員又は法令により公務に従事する者として取り扱った事件について、職務を行ってはならない。

 (公正を保ち得ない事件)
第23条 司法書士は、職務の公正を保ち得ない事由のある事件については、職務を行ってはならない。

(公正を保ち得ないおそれ)

24条 司法書士は、職務の公正を保ち得ない事由の発生するおそれがある場合には、あらかじめ依頼者に対し、その事情を説明し、職務を行うことができないことについて、同意を得るように努めなければならない。

(不正の疑いがある事件)

25条 司法書士は、依頼の趣旨が、その目的又は手段若しくは方法において不正の疑いがある場合には、事件を受任してはならない。

(特別関係の告知)

26条 司法書士は、事件の受任に際して、依頼者の相手方と特別の関係があるために、依頼者との信頼関係に影響を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対しその事情を告げなければならない。

(受任後の処置)

27条 司法書士は、事件を受任した後に前4条に該当する事由があることを知ったときは、依頼者に対し速やかにその事情を告げ、事案に応じた適切な処置をとらなければならない。


 (利害の衝突)

28条 司法書士は、受任している事件につき依頼者が複数ある場合には、その相互間に利害の衝突が生じたときは、各依頼者に対して理由を説明し、事案に応じた適切な処置をとらなければならない。

(受任司法書士間の意見の不一致)

29条 司法書士は、同一の事件を受任している他の司法書士がある場合には、事件の処理についての意見の不一致により依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対しその事情を告げなければならない。

(依頼者との信頼関係の喪失)

30条 司法書士は、事件に関し、依頼者との信頼関係が失われ、かつ、その回復が困難な場合には、辞任する等適切な処置をとらなければならない。

(預り書類等の管理)

31条 司法書士は、事件に関する書類等を、善良な管理者の注意をもって管理しなければならない。

(預り金の管理等)

32条 司法書士は、依頼者から又は依頼者のために預り金を受領したときは、自己の金員と区別して管理しなければならない。

 

 司法書士は、依頼者のために金品を受領した場合には、速やかにその事実を依頼者に報告しなければならない。

(事件の中止)

33条 司法書士は、受任した事件の処理を継続することができなくなった場合には、依頼者が損害を被ることのないように、事案に応じた適切な処置をとらなければならない。


(事件の記録)

34条 司法書士は、受任した事件の概要及び金品の授受その他特に留意すべき事項について記録を作成し、保存しなければならない。

(係争目的物の譲受)
第35条 司法書士は、係争事件の目的物を譲り受けてはならない。

(依頼者との金銭貸借等)

36条 司法書士は、正当な事由なく、依頼者と金銭の貸借をし、又は保証等をさせ、あるいはこれをしてはならない。

(賠償保険)

37条 司法書士は、依頼者を保護するために、職務上の責任について業務賠償責任保険に加入するように努めなければならない。

(事件の終了)

38条 司法書士は、受任した事件が終了したときは、遅滞なく、金銭の精算、物品の引渡し及び預った書類等の返還をしなければならない。

 



 第4章 事件の相手方等との関係における規律

(相手方等からの利益授受)

39条 司法書士は、受任した事件に関し、相手方又は相手方代理人等から利益の供与若しくは供応を受け、又はこれを要求し、若しくはその約束をしてはならない。

 

 司法書士は、受任した事件に関し、相手方又は相手方代理人等に対し、利益の供与若しくは供応をし、又はその約束をしてはならない。

(相手方本人との直接交渉等)

40条 司法書士は、受任した事件に関し、相手方に代理人がないときは、その無知又は誤解に乗じて不当に不利益に陥れてはならない。

 

 司法書士は、受任した事件に関し、相手方に代理人があるときは、特別の事情がない限り、その代理人の了承を得ないで相手方本人と直接交渉してはならない。

 


 

第5章 他の司法書士との関係における規律

(誹謗中傷等の禁止)
第41条 司法書士は、他の司法書士を誹謗中傷する等、信義に反する行為をしてはならない。

(信頼関係の尊重)

42条 司法書士は、他の司法書士が受任している事件の処理に協力する場合には、その司法書士と依頼者との間の信頼関係を尊重しなければならない。

(他の司法書士の参加)

43条 司法書士は、受任した事件について、依頼者が他の司法書士の参加を希望する場合には、正当な理由なくこれを拒んではならない。

(他の事件への介入)
第44条 司法書士は、他の司法書士が受任している事件へ不当に介入しようとしてはならない。

(相互協力)

45条 司法書士は、他の司法書士と共同して職務を行う場合には、依頼の趣旨の実現に向け、相互に協力しなければならない。

 

 司法書士は、事件処理のために復代理人を選任する場合には、その代理権の範囲を明らかにし、復代理人と十分な意思疎通を図らなければならない。

 


第6章 司法書士会等との関係における規律

(規律の遵守)

46条 司法書士は、自治の精神に基づき、日本司法書士会連合会及び所属する司法書士会(以下、「司法書士会等」という。)が定める規律を遵守する。

(自治の確立)
第47条 司法書士は、常に自治の確立に努め、司法書士会等の組織運営に積極的に協力する。

(事業への参加)

48条 司法書士は、司法書士会等が行う事業に積極的に参加し、また、委嘱された事項を誠実に遂行する。

(資質の向上)

49条 司法書士は、自ら研鑚するとともに、司法書士会等が実施する研修に参加し、資質の向上に努めなければならない。

(紛議の処理) 

50条 司法書士は、業務に関して紛議が生じた場合には、自主的かつ円満な協議により解決するように努めなければならない。

 

 前項の協議が調わないときは、所属する司法書士会の調停により解決するように努めなければならない。

 


第7章 不動産登記手続に関する規律

(不動産登記制度への寄与)

51条 司法書士は、国民の権利を保護するため、真正な登記が速やかに実現するように努め、不動産登記制度の発展に寄与する。

(紛争の発生の防止)

52条 司法書士は、登記手続を受任した場合には、依頼者の意思を尊重し、権利の保護を図るとともに、紛争の発生の防止に努めなければならない。

(後見的な役割) 

53条 司法書士は、登記手続を受任し又は相談に応じる場合には、当事者間の公平を確保するように努めなければならない。

 

 司法書士は、前項の場合においては、必要な情報を開示し、助言する等、後見的な役割を果たすように努めなければならない。

(権利関係等の把握) 

54条 司法書士は、登記手続を受任した場合には、当事者及びその意思並びに目的物の確認等を通じて、実体的権利関係を的確に把握しなければならない。

 司法書士は、前項の確認を行った書面を作成しなければならない。


 

第8章 商業及び法人登記手続に関する規律

(商業法人登記制度への寄与)

55条 司法書士は、取引の安全と法人制度の信頼を維持するため、真正な登記の実現に努め、商業登記及び法人登記制度の発展に寄与する。


(法令遵守の助言)

56条 司法書士は、登記手続を受任し又は相談に応じる場合には、依頼者に対して、法人の社会的責任の重要性を説明し、法令を遵守するように助言しなければならない。

(実体関係の把握)

57条 司法書士は、登記手続を受任した場合には、議事録等の関係書類を確認する等して、実体関係を把握するように努めなければならない。

 

 司法書士は、議事録等の書類作成を受任した場合には、その事実及び経過等を確認して作成するように努めなければならない。

 


第9章 供託手続に関する規律

(供託手続)

58条 司法書士は、供託手続を受任し又は相談に応じる場合には、実体上の権利関係を的確に把握し、登記手続及び裁判手続その他関連する手続に配慮したうえで、依頼者の権利が速やかに実現されるように努めなければならない。

 


第10章 裁判手続等に関する規律

(裁判の公正と適正手続)
第59条 司法書士は、裁判の公正及び適正手続の実現に寄与する。

(紛争解決における役割)

60条 司法書士は、国民の身近な法律家として、国民の抱える紛争について、事案解明に協力する義務に基づき、常に正確な知識及び最善の方法をもって職務を遂行することにより、依頼者の正当な権利の保護及び実現に努めなければならない。

(業務を行い得ない事件)
 

61条 司法書士は、裁判書類作成関係業務及び簡裁訴訟代理関係業務に係る次の事件については、各業務を行ってはならない。ただし、第二号及び第三号の事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合にはこの限りでない。

 

相手方から協議を受けた事件で、相手方との間に信頼関係が形成されたと認められるもの

 

受任している事件の相手方からの依頼による他の事件

 

受任している事件の依頼者を相手方とする他の事件

 

その他受任している事件又は受任した事件の依頼者と利害相反する事件

(裁判書類作成関係業務)

62条 司法書士は、裁判書類作成関係業務を受任した場合には、依頼者との意思の疎通を十分に図り、事案の全容を把握するように努め、依頼者にその解決方法を説明する等しなければならない。

 (簡裁訴訟代理関係業務)

63条 司法書士は、簡裁訴訟代理関係業務を受任した場合には、代理人としての責務に基づき、事件の管理に十分な注意を払い、依頼者の自己決定権を尊重して業務を行わなければならない。

(受任の諾否の通知)

64条 司法書士は、簡裁訴訟代理関係業務の依頼に対し、その諾否を速やかに通知しなければならない。

(真実の発見)
第65条 司法書士は、勝敗にこだわって真実の発見をおろそかにしてはならない。

(法律扶助制度等の教示)

66条 司法書士は、事案に応じ、法律扶助及び訴訟救助制度を教示する等、依頼者の裁判を受ける権利が実現されるように努めなければならない。

(見込みがない事件の受任)

67条 司法書士は、依頼者の期待するような結果を得る見込みがないことが明らかであるのに、あたかもあるかのように装って事件を受任してはならない。

(有利な結果の請け合い等)
第68条 司法書士は、事件について、依頼者に有利な結果を請け合い、又は保証してはならない。

(偽証のそそのかし等)

69条 司法書士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽の証拠を提出し、若しくは提出させてはならない。

(裁判手続の遅延)

70条 司法書士は、職務上の怠慢により、又は不当な目的のために、裁判手続を遅延させてはならない。


 

第11章 成年後見に関する規律

(成年後見制度への寄与)

71条 司法書士は、国民に信頼され、国民が利用しやすい成年後見制度の発展に寄与する。

(関係機関等との連携)

72条 司法書士は、成年後見に関する業務を行うにあたっては、行政機関、福祉関係者等と協力し、連携を図るように努める。

(成年後見に関する相談)

73条 司法書士は、成年後見に関する相談に応じる場合には、本人及び関係者から、その意見、本人の心身の状態並びに生活及び財産の状況等を聴取したうえで、適切な助言をしなければならない。

(成年後見等の手続の選択)

74条 司法書士は、法定後見に関する申立て及び任意後見に関する手続等の受任に際しては、本人及び申立人の意思を確認し、本人の権利擁護と身上に配慮した手続の選択が行われるようにしなければならない。

(成年後見人等への就任)

75条 司法書士は、成年後見人等に就任した場合には、本人の意思を尊重し、その心身の状態並びに生活及び財産の状況に配慮して業務を行わなければならない。

 


第12章 その他の職務に関する規律

(検察庁へ提出する書類の作成)

76条 司法書士は、検察庁へ提出する書類の作成を受任した場合には、関係者の人権に配慮して、正義の実現に努めなければならない。

(審査請求手続)

77条 司法書士は、審査請求手続を受任した場合には、依頼者の権利が速やかに実現されるように努めなければならない。

(財産管理事務) 

78条 司法書士は、財産管理事務を行う場合には、自己又は自己の管理する他の財産と判然区別可能な方法で個別に保管する等、善良な管理者の注意をもって管理しなければならない。

 

 司法書士は、前項の事務執行中、本人の財産又は本人に対する第三者の権利を譲り受ける等、本人と利益相反する行為をしてはならない。

 

 司法書士は、第1項の管理に関する記録を備え置き、依頼者等へ報告しなければならない。

 

 司法書士は、財産管理事務を終了したときは、遅滞なく、金銭の清算、物品の引渡し及び預った書類等の返還をしなければならない。

(国籍に関する書類の作成)

79条 司法書士は、国籍に関する書類の作成を受任した場合には、依頼者の意思を尊重し、かつ、人権に配慮しなければならない。