おとむ日記・第2章

ノー・ドラマチックな、日々の生活ノート

12月12日(木)

「イー☆リャン」のソロコントライブを観に、よしもとrise-1シアターへ行った。

お昼過ぎに、「クロムモリブデン」の青木さんと梅田で落ち合う。
昨夜、キーボードの上に「緑の野菜」をこぼして、キーボードがイカれてしまったため、ヨドバシカメラに新しいキーボードを買いに行くのに、青木さんに付き合ってもらった。
青木さんが、「どうせコタツの上に置くんやろ。ゴハン食べる時にどけたりせなあかんねやから、小さいのにしといたら?」と、まるで僕のライフスタイルを観てきたようことを言う。
まったくその通りなのである。青木さんも、コタツの上にパソコンを置いてるそうで、僕と同じようなことをしているらしい。

キーボードを買ったあと、2人で泉の広場の喫茶店でお茶をする。
夕方になって、ヤマトヤさんが現れた。ヤマトヤさんは、お葬式帰りだ。可愛がってくれたおばさんが亡くなられたそうだ。

葬式帰りに、コントライブである。

人間というのは、えてして、そういう一日もあるものだ。
人生は泣き笑いである。泣いたり笑ったりして、いつかみんな死んで行く。
ならばたとえ葬式帰りであろうとも、ひとつでも多く笑った方がよかろう。

昨日、ヤマトヤさんと電話をしていた時、「おとむさんが死んだら、その事実を誰が私に教えてくれるの?」と聞かれた。
確かに、遠くに住む友人が、なにかでコロッと死んでしまった時、会社の人間や家族の人間にはすぐ伝わるだろうが、果たして友達関係の人にその情報が伝わるのは、いつになるのかと言うと、疑問である。
そもそも、「僕が死んだ」という情報は、どういう方法でみんなに伝達されるのだろう。

「風の便り」か。

それはなかなかに頼りない情報伝達ツールだ。
お通夜もお葬式も終わってから、なんとなく風の便りでおとむが死んだことを小耳にはさむか。
なんだか、ふわっとし過ぎだ。俺、死んでるのに。

あるいは、「口コミ」。

案外とそんなものなのかもしれない。
口コミで「おとむ死んだ」情報が広がる。口コミをバカにしてはいけない。風の便りなんかより、口コミの方が、よっぽどスピーディーかつ広域に情報が広がるだろう。
問題は正確性だ。人の口なんていい加減なもんだ。途中でいつのまにか、「おとむ、死亡」が、「坂本冬美、死亡」に情報内容が変わってしまう危険性がある。俺は死んでるし、坂本冬美は生きてるし。めちゃくちゃだ。さらにヤマトヤさんの元に伝わる頃には、「新井薫子は実は生きていた」といった、原型すら消えた、まったくどうでもいい噂話と化しているかもしれない。口コミはだめだ。

一番早い情報伝達ツールはインターネットだと思うが、僕が死んだ情報を誰がインターネット上で流してくれるのだろうか。
いやほんと、これは難しい問題だな。
友達、お葬式とかに間に合うのかな?

もし本当のお葬式に間に合わなかった時は、どうせなら、「ネット葬儀」をとりおこなって欲しい。
誰かがネット喪主になって「おとむお葬式のホームページ」とか、開設するのである。
「参列者香典BBS」とかも付けて。

「ご焼香、100人目のキリ番GETしまちた!」

いいじゃないか。力石徹の葬式みたいで。
全然違うか。

バイトの終わった「クロムモリブデン」の森下くんとと合流して、4人でrise-1シアターへ。
平日だしガラガラだろうという僕と森下くんの予測に反して、会場は満員でビックリする。4人一緒に座れる席はもうないので、僕と青木さん、森下くんとヤマトヤさんの二手に別れて座る。

「イー☆リャン」の2人とは、森下くんを介して知り合った。
「イー☆リャン」は、鬼重イーちゃんと、鬼重リャンちゃんから成るお笑いコンビ。ゴツゴツした野郎を想像させる名前だが、2人とも女の子である。

僕が知り合った頃は、まだ2人は芸人ではなかった。
「イー☆リャン」というコンビ名も決まってなくて、「漫才師になるねん」と言うイーちゃんの言葉も、てっきり冗談だと思っていたぐらいだ。
2人とも元々は役者なのだが、2人が他の女の子達数名でコントの舞台をやった時、会場にたまたまお笑い芸能プロダクションの関係者が観に来ていて、その事務所の人から、「本格的にお笑いをやらないか」とスカウトされ、お笑いコンビ「イー☆リャン」は誕生した。

僕は2人が初舞台だか、2回目の舞台だかの漫才を生で観ている。
よちよち歩きの「イー☆リャン」を知っているから、今回の吉本の劇場での単独ライブをすると知った時には、ほんとに驚いた。
正直、「大丈夫か?イー☆リャン?」と思った。

「よしもとrise-1シアター」というのは、元々は「梅田花月シアター」という寄席小屋で、去年、演劇中心の劇場として生まれ変わった。
芝居メインの劇場となった今でも、時々、桂三枝が創作落語の独演会をしたりしている。

そんな吉本興業直営の劇場で吉本以外の事務所の芸人が、単独でライブを行うなんて、前代未聞のことだ。
ますだおかだも、アメリカザリガニも、イー☆リャンの事務所の先輩である海原さおり・しおりだって成し得てない快挙である。

「イー☆リャンだらけの博覧会」と題されたそのライブは、その名の通り、約1時間45分の間、イー☆リャンの2人だけしか出て来ない。

なんとも不思議な空間であった。
「イー☆リャン」の頭脳担当であるイーちゃんと、「イー☆リャン」の演技派&愛嬌担当のリャンちゃん。
2人が面白いと思うこと、今やりたいことが、いっぱい詰まったライブだった。

イー☆リャンの長所は、声と演技力だ。
役者出身だけあって、声が後ろの席までよく通る。すごくセリフが聞き取りやすい。
それに演技力があるから、どんな設定のコントでも、安心して観ていられる。
「ハイジとクララ」のコントでは、ボケまくるクララ役のイーちゃんに対して、リャンちゃんが、突っ込むのでなく、ずっと「ハイジ」だったのには、感心した。
役割が「ボケとハイジ」のコントだ。このコントが一番面白かった。

イー☆リャンの短所は、笑いの突き詰めが甘いところだ。
これだけ笑いが多様化した今の時代では、昔なら3まで突き詰めれば笑いになったのが、だんだん5,6まで突き詰めなければ笑いに到達しなくなり、最近ではさらに8まで行くか、逆にマイナス4にするかといった、難しい選択に迫られる時代だ。ある意味、笑いが飽和状態の、お笑い芸人受難の時代なのである。

そんな時代に、イー☆リャンは、笑いの突き詰めが、3のままなのだ。
だから、そこそこ可笑しいんだけど、大きな笑いにまではつながらないことが多い。
声を出して笑う域までの、笑いの突き詰めがないからである。

コントの中に、「妊婦」のネタがあった。
妊婦同士が、口ではお互いを労り合う柔和な会話をしながらも、ことあるごとにお互いのお腹を、殴ったり、蹴ったりするというネタだ。
ネタの発想自体は、コント55号の時代からあるパターンのものだ。当時はその「3」の突き詰めで爆笑を取ることが出来たけど、21世紀の現在では、それだけじゃなかなか爆笑にまでは至らない。爆笑を取るには、そこになんらかのプラスαが必要となる。

でも、イー☆リャンの場合は、プラスαがなく、そのままそのコントは終わる。
観ていて、いい線まで行ってるのに、3のままで、もったいないなあと思ってしまう。

イー☆リャンの不思議なところは、だからと言って決して「寒い」わけでもないところだ。
ただイー☆リャンの2人が妊婦の格好をして、互いのお腹をボコボコ殴り合っているだけでも、お客としては、なんとなくニコニコと心地よくずっとその光景を観ていられるのである。

イー☆リャンというのは不思議なコンビで、「笑いの方程式」というのを、わりと無視してネタを作っているように思う。
さっきの妊婦のネタにしても、お互いのお腹を殴ったり、蹴ったりしている途中で、自らお腹から地面にダイビングしたりするネタが入る。
その時点で「自分のお腹の赤ちゃんは可愛いが、余所の夫婦の幸せはムカつく」という、妊婦同士の対立の構図は崩れ、「なんだかわからないが、お腹の赤ちゃんに乱暴な狂った妊婦2人」という、新たな構図が生まれるわけだが、従来の笑いの方程式で言うと、このネタは、ネタの後半に持ってくるのが普通だ。

「お互いのお腹をなで合う」「ふざけて軽くこついたりする」「そのうちバンバン叩く」「ついにはグーで殴る」「蹴飛ばす」「相手を放り投げる」「しまいには我を忘れて、自らのお腹をも乱暴に扱う」「最後にオチ」というのが、基本的な昔ながらの笑いの流れである。
ボケの強さを、弱いものから、だんだんと強くして行って、最後は畳みかけるようにボケをかます。
これが、笑いの方程式のひとつのセオリーだ。

ところが、彼女達は、強いボケを、ネタの後半の畳みかけの部分ではなく、ネタの前半に平気で持って来たりする。
突然、自ら地面にお腹からダイビングをしたあと、また、普通に相手のお腹をポカポカと殴り合ったりするのだ。

そういう笑いの方程式を無視したところが、イー☆リャンはぶっとんでいて、すごいなと思う。
「イー☆リャン」の頭脳、イーちゃんの考えるネタは、僕には到底発想できないものばかりだ。
「それをなぜ面白いと思うのかがわからない」「そんなことを面白いなと思ってよくやる勇気があったな」と心の中であきれつつも、イー☆リャンの2人がイキイキと舞台狭しと暴れ回って楽しそうにネタをしているのを観ると、「ああ、これでいいんだなあ」と、納得させられてしまう。
そして時おり、観客をも超越した、とんでもないことを2人は飄々としでかしたりする。

一事が万事、そんな感じだった。
1時間45分の間、爆笑することもそんなになかった代わりに、「つまらないな」と思うこともなかった。声に出して笑わずとも、脳がにやにやしてしまう感じだ。心地よい1時間45分だった。

イー☆リャンの2人は、たった2人だけで、超満員のお客を、イー☆リャンの世界で包んでいた。これは本当に、なかなか出来ることではない。
中田カウスが「漫才というのは、コンビ同士の仲の良さを見せるもの」と言っていたが、まさにイー☆リャンのライブはそれそのものだった。
まるで観客が、イー☆リャンの国に訪れたような、そんな感覚にさせられるライブだった。

出口のところで、観に来ていたおばあちゃんが、連れのおばあちゃんに、「あったかかったな」と言っていた。
それはたぶん、空調のことだけを指しているのではない気がする。

大きな劇場での単独ライブということで、2人にしかわからない大きなプレッシャーもきっとあっただろう。ネタの数も相当多かったから、ネタ作りも稽古も大変だったに違いない。が、そんな苦労は微塵も感じさせない、余裕すら感じさせる堂々とした舞台だった。

彼女達の笑いに対する姿勢は、とても真面目だ。
以前、「スクエア」の奈須さんの笑いに対するアドバイスを、「はい。はい」と、奈須さんの目をじっと見て直立不動で聞いているイー☆リャンの姿を目の当たりにしたことがある。
その真剣そのものの表情に、「芸人・イー☆リャン」の志を感じた。

でもって、舞台の上では、すごくふざけているのである。
奈須さんのアドバイスなんてどこ吹く風で、2人で好き勝手にやりたいことをして楽しんでいる。
痛快だ。バカだなあと思う。
青木さんの言葉を借りるなら、イー☆リャンは「なんとなく憎めない」空気を持っている。
これは芸人としては、かなりのプラスだと思う。

そんな真面目にふざけ続ける、憎めないイー☆リャンが、僕は好きなのである。




2002年12月10日(火)


女の子に、モテない。

これはもう、さっぱりである。
もはや社会問題だ。

おとむ社会で、大問題。

だって、女の子に面と向かって、「だから、おとむはモテへんねん」などと、ことあるごとに言われたりするのである。
もうそりゃね、右手上げりゃモテない、左足出せばモテない、口を開けばモテない、まばたきしてもモテない、何しても「モテない」と言われる。

失礼な話である。

この際だからここではっきりと言っておく。
それは僕が女の子にモテないのではない。

女の子が、僕に、モテられてないのだ。

まあこういうノイローゼみたいなことをすぐ書くから、女の子にさっぱりなのだろう。
「女の子が僕にモテられてない」とか言うやつ、モテるわけないもん。

モテる男と、モテない男は、持っている根本が違うのである。
先日、そのことを痛切に実感した。

僕を含めた男性2人と、女性4人の、合計6人で、食事に行ったのである。
食事の席で、僕の真ん前に座ったのが、宮浦くんという男の子だった。

宮浦くんというのは、なかた茜さんという僕の友人でもある女の子が作ったお芝居に出ていた男の子である。
その席には、茜さん本人もいて、茜さんつながりで、夕食を共にすることになったのだ。
宮浦くんと僕とは、まったくの初対面である。

この宮浦くんという男の子が、なんちゅうか、やることなすこと、かっこよいのだ。
宮浦くんと自分を比べてみて、自分のあまりのかっこ悪さぶりに、「ああ、そら俺、モテへんはずやわ」と納得したのである。

食事をするのに、十三から梅田に移動しようということになった。
ところが、みんなは電車で来たが、宮浦くんだけはひとり自転車で十三まで来ているという。
ありゃどうしよう困ったな、とおろえろする僕をよそに、宮浦くんは、こう言った。

「いいっすよ。俺、自転車で梅田まで行くっすよ」

出た。男前発言である。
「10分ぐらいです。そんなのすぐっすよ」なんて、こともなげに言い放って、かっちょいいのである。
そして彼は、12月の寒空の夜の街へ、颯爽と自転車に乗って消えていった。

一方僕は、女の子4人と、ぬくぬくと電車で移動である。
しかも、「おとむさん、席空いてるからどうぞ」なんて、女の子に席譲られたりしているのだ。

扱いが、おじいちゃんである。

これは、モテない。
女の子におじいちゃん扱いされててはだめだ。

食事の席では、僕の向かい側に、宮浦くんが座った。
ごはん食べたり、お茶を飲んだりしながら、みんなでおしゃべりである。

この時のメンバーが、僕と宮浦くんの他、なかた茜さん、アキラっち、はるかさん、ともゆさんという顔ぶれなのだが、実はその時初めて会った者同士というのが非常に多かった。

宮浦くんは、茜さんの知り合いだが、他の人とは全員初対面である。
ともゆさんは、アキラっちの友達で、他の人とはこれまた初対面である。
はるかさんは、僕とアキラっちのことは知っているけど、他の人とは初対面である。
茜さんは、僕とアキラっちと宮浦くんとは知り合いだが、はるかさんとともゆさんは初対面。
僕は、宮浦くんとともゆさんとは初対面。アキラっちは、宮浦くんと初対面。

なんだかやたら初対面同士が交錯している集まりだった。
中には、その人が一体何者なのかもわからずに一緒に食事をしている人もいただろう。
これが合コンとかなら、それ自体を目的として、みんながひとつの気持ちを共有できるのだろうが、ただ単に流れで一緒に食事をすることになっただけだ。

どうだ、この微妙な空気の集まりは。
誰が場を仕切る。誰が場をまわす。
この6人の中で、マスター・オブ・セレモニーは誰?

僕は、こういう時、はしっこの人がつまらなくしてないかなあとかが、すごく気になるのである。
こっちの人とこっちの人はお互い知り合い同士で、2人でわかる話をしているけど、2人のことを知らないこっちの人は楽しくないんじゃないのかなあとか。
6人で集まったのなら、できるだけ6人で一緒に会話したいというのが、僕の考え方だ。

なので僕は自然と、あっちこちに話をばらまく役となる。
宮浦くんがどういう人なのかを聞いたり、アキラっちとともゆさんの関係をたずねたり、はるかさんに話題を振ったり、茜さんと僕のエピソードをみんなに話したり。
それはもう必要以上におしゃべりである。
また僕も、初めての人に興味があるから、なんやかやと聞くのだな。子供みたいに。

たぶん、僕と初めて会った宮浦くんとともゆさんの2人は、僕のことを「よーしゃべる男やなあ」と思ったと思う。
僕もそう思う。

で、わかった。
しゃべる男は、みっともないわ。
モテへんわ。

宮浦くんは、あまりしゃべらないのである。
ずっとタバコを吸いながら、黙ってみんなの話を聞いている。
時おり、指にはさんだタバコの灰が、組んだ膝のあたりに落ちたのを、ちょっと眉間に皺を寄せて手で払ったりしている。

そのしぐさがまたかっこいい。
クッと眉と眉の間に皺を寄せ、不機嫌そうに膝の上に落ちた灰をパッパッと払ったかと思うと、また何事もなかったかのように、クールな顔に戻って黙ってタバコをふかしだすのである。

かっくいいー。
その男っぽい振る舞いに、キュンと来たし、ジュンと来た。
宮浦くんにホレたぜ乾杯。

その頃僕は、高速回転でおしゃべりに夢中である。
しゃべり過ぎで、口の形がもう、バカボンのほっぺたの模様みたいになっている。

タバコを吸わないので、タバコを吸って、膝の上にタバコの灰を落として、眉間に皺を寄せて手で払うなんてダンディな真似もできない。
ビスケットを食べていて、膝の上にボロボロとビスケットの食べカスを落として、女の子に眉間に皺を寄せられたことは幾度となくある。
それはダンディではなく、ただ単にダーティーなだけである。

宮浦くんはチャラ男ではなく、男っぽいところがかっこいいのだが、たまに笑うとこれがまた少年のような笑顔で、可愛いのだ。
少年のような笑顔。これもモテポイント高い。

普段はクールな男らしさの漂う男の顔。だけど、笑うと少年のような笑顔。そして恋人の前では少し甘えん坊とまた別の顔。さらにベッドの中ではセクシーな男の色気のある顔。で、最後は天使のような寝顔。

こんなんか。こんなんがええんか。
恋人の前では恋人の顔で、昼日中は外で働く男の顔で、真夜中は別の顔で、朝方はちょっぴり寝ぼけ顔。
こんなんがええかええかええのんか。

こんなこと書くとまた「まさにそれって、モテへん男が考えそうな発想」とか言われるのである。

うるさいわい。
俺なんか、24時間、ほげら顔だ。
それだけだ。
何の意外性もない。
しいて言うなら、真夜中は、意外とより一層、ほげら顔なことか。
ほげら顔ってなんだ。

宮浦くんの顎のあたりに生やした髭も、かっこよかった。
「かっこいい髭」である。竹之内豊とかが生やしてそうな、ワイルドな感じの。
ちなみに「かっこわるい髭」とは、大泉晃や田辺一角が生やしている髭を指す。
田辺一角て。誰も知らんがな。

僕が宮浦くんのような髭を生やしても、単なる無精髭として済まされるに違いない。
女の子に「朝、髭ぐらい剃ってきーや」と、うっとおしそうな顔で言われるのが落ちだろう。

しかし、人間、自己改革が必要である。
いつまでも、モテない男のレッテルを貼られたままではいけない。

そこで僕は決めた。
宮浦くんを見習って、僕も宮浦くんになる。

まずは、無口になる。
宮浦くん化は、そこからがスタートだ。

トークで場をまわすなんてことはもっての他だ。
もうしゃべらない。

そして宮浦くんを見習って、十三から梅田まで自転車で移動するふりをして、タバコの灰が膝に落ちたのを眉間に皺を寄せて手で振り払うふりをして、少年のような笑顔のふりをして、顎にかっこいい髭を生やしたふりをする。
名人もまずは模倣からだ。

宮浦くん化計画は、これでどうだろう。
もちろんその間、ずっとしゃべらないのである。
これで僕もモテ男の仲間入りだ!

そんなジェスチャーゲームみたいな男が、モテるかっ。




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