カレンの心
シェーマ星系ザ・ブーム星で、
紅影様にお仕えするくノ一軍団の一人です。
幼い頃より、くノ一として皇帝のお力になれるように、
いろんな武術・策略を叩き込まれました。
もちろん、人を殺(あや)める暗殺術も…。
この訓練所にいるのは現在二十数名。
私たちは全員みなし子で親はいません。
ですから逆らうことは許されず、厳しい訓練にも耐えなくてはなりませんでした。
そんなある日、私は思いきって教官に尋ねました。
私の父・母はどんな人だったのかを…。
何度もお願いした結果、しぶしぶ教えてくれました。
私の父・母は他の星の人間で、父は軍部の工作員、母は父の幼なじみだったそうです。
父は敵地で捕まり処刑され、母も同罪で殺された、と聞かされました…。
残った幼い私は孤児として引き取られ、ザ・ブーム星に売られてきた、ということです。
あと、カリンという双子の妹がいるらしいけど別の星に売られたため、
現在は消息不明だ、ということも…。
この夜、私は自分のベッドの中で決心しました。
くノ一の任務には諜報活動もあるため、いろんな情報を知ることが出来る。
父のこと、母のこと、カリンの行方など…。
司令官クラスの直属の部下ともなれば他の星に潜入することもあるはず。
ならば、なんとしても部下の一員と認められる能力を一日も早く身につけなければ…。
翌日から私は必死に訓練を重ね、身体能力は確実に上昇していきました。
そして、十六歳になった春、全員集められて能力テストが行われました。
くノ一として優秀な能力を会得することが出来た者を選び出すためです。
今回の試験において特に優秀だった者は、紅影様の側近として働く、ということも聞かされました。
皇帝のおそばにおられる紅影様の側近…!
このチャンスを逃してはいけない…!
そう思い、必死に試験をクリアしていきました。
全員の試験が終わり、結果が発表されました。
以前から飛び抜けて優れていたコチョウ・オロチの二人は予想通り合格。
他には私を含めて二人、計五人が紅影様の側近に選ばれました。
ほっとしたのもつかの間、最低基準に満たなかった少女が数名、呼び出されました。
彼女たちは壇上に並ばされ、いきなり有無を言わせず後ろから斬り捨てられ、
処刑されてしまいました…!
あまりの出来事に驚いていると、試験官よりこう告げられました。
「我がザ・ブームの戦士に無能な者はいらん!
役に立たない者、逆らった者は容赦なく処刑される。
自分の命が惜しくば、そのことを皆、肝に銘じておくように!」
と…。
敵ではなく、味方に殺されるなんて…。
私はこの時、震えが止まりませんでした。
数日後、合格した五人が集められ、
身体能力をさらに高めるためにアンドロイド手術を受けました。
紅影様の手足としてより完璧に任務を遂行することが出来るようになるために…。
私たちのひたいに付いている紅色の模様がアンドロイド手術を受けたことの証…。
手術後の訓練を経て、私たちは正式に紅影様の部下・くノ一軍団として配属されました。
…しかし、くノ一軍団としての任務は厳しいものでした…。
潜入捜査や偽装工作、諜報活動などは問題なくこなせていたのですが、
破壊工作、暗殺任務の際、罪もない人を殺(あや)めることへの罪悪感に加え、
あの試験の日に殺された少女達のことがどうしても頭をよぎってしまうのです。
(できることなら、何の罪もない人々を傷つけたくない…)
訓練とは違う悲惨な現実を何度も垣間見るたびに、心が締め付けられる思いでした。
それによる戸惑いのせいで幾度となくミスを犯し、紅影様からお叱りを受けてしまいました。
そのためいつしか重要任務からは外されることが多くなり、
くの一軍団のお荷物状態になってしまっていたのです…。
そんなある日、六万光年離れた太陽系の「地球」という星へ行く、という通達を受けました。
エルシャンクを追っていた追撃隊長のグラサン司令官が亡くなり、
皇帝みずからが出陣することになったためです。
…そんな遠い辺境の惑星には行きたくない…。
でも、任務ですから仕方ありません。
私は準備を整え、エクセレントに乗り込みました。
長いワームホールをくぐり抜け、太陽系に到着。
……また、命を懸けた戦いが始まるのね……。
しばらくは様子見のため待機しているよう命令されました。
私は窓から外を眺めていました。
地球……とても綺麗な惑星…。
ここもまた、戦場になってしまうのね…。
と、ふと衛星が1つあるのに気づきました。
確か…月、といったわね…。
美しく輝く地球のそばで、けして目立つことなく、それでいて離れることなく、
静かにたたずんでいるちょっと地味な小さな星…。
「…なんか、今のあたしみたい…。」
しばらくの間、窓際に腰を下ろし、私はその月を静かに眺めていました…。
そんな中、エルシャンクの司令官だったイルボラ=サロが
新しい追撃隊の司令官に就任し、
テラヘルツの司令官になったと聞きました。
なぜそういう事になったのかは分かりません。
…でも、敵の司令官だった人を司令官にして大丈夫なのかしら…?
なにか別の目的がありそうだけど…。
そうこうしているうち、紅影様からお呼びがかかりました。
「カレン、お前に任務を与えよう」
いよいよ任務開始のようです。
「はっ!」とひざまづくと、紅影様から一本のテープを手渡されました。
「これは…?」
「これをエルシャンクにいるジョウ=マヤに手渡すのだ。
この中にはジョウの親友であるローニンという男からの伝言テープとして、偽の情報を入れてある。
地球の日本という国にある富士山のふもとにエルシャンクをおびきよせるのだ。
そこで待ちかまえ、プラズマを浴びせて操作不能にさせ、墜落させて終わり、という筋書きだ。
お前は地球連邦政府の情報局に所属するローニンの部下になりすまし、
ジョウにテープを渡して信用させ、エルシャンクの連中を連れてくるだけでいい。
…お前もくの一軍団の一員、これくらいは造作もなかろう?」
「はっ!お任せ下さい。」
「今回は重要な任務だ。失敗は許されん。
もし今回も失敗すれば、くの一軍団から外す。
…これがどういうことか分かるな?」
びくっ、と体が硬直しました。
能力テストの時に処刑された少女たちのことが頭をよぎる。
今回失敗すれば、今度は自分の番…!
「これが最後のチャンスだ。
お前はミスが多すぎる。
この任務すら全うできないようであれば命はないと思え!よいな!」
「はっ!必ずや!」
これは、最後通告…失敗すると処刑される…!
こんな所で死ぬわけにはいかない…。
なんとしても、今回の任務だけはきちんと成功させなければ…!
そして数日後、任務遂行の時が来ました。
外を歩いているジョウにシャーマンを仕掛け、
助けようとして戦闘機で戦い、撃墜される。
そしてエルシャンク内でジョウにテープを渡して説得、
エルシャンク共々おびき寄せる…という算段です。
…墜落の衝撃で壊れないよう、テープは胸の中に入れておいた方がいいわね…。
しばらくして、準備させておいたシャーマンが戦いだしました。出撃です!
戦闘機を駆り、攻撃をかわしつつシャーマンを数機撃墜。
そして旋回し、死なないように気をつけながらわざとやられる…!
【ガシィィンッ!!】
「つっ!!」
カマ攻撃を受け、機体が激しくゆれる。
切り裂かれ、墜落していく機体。思ったより損傷が激しく、コントロールできない。
「脱出…ここっ!」
レバーを素早く引き、地上付近で脱出装置を作動させる。
「これで、あとは…きゃぁぁっ!!」
シャーマンの攻撃で脱出装置の噴射装置が片方損傷し、機能してないっ!?
安定を失ったままもう片方の噴射装置のみで飛ばされた挙げ句バランスを失って投げ出され、
そのまま地面に打ち付けられて気絶してしまいました…。
……。
……。
……う……ん……。
「気がついたかい?」
目を開けると目の前に男の顔…ジョウ!?
思わず反射的に飛び起きる。
「ここは…!?」
「ちょっと、脳しんとうを起こしただけだって。心配ないそうだ。
…さ、もう少し横になってた方がいい。」
と、優しく私を寝かせてくれました。
ひょっとして、私のことをつきっきりで看病してくれていたの?
…でも、今回の任務は私の命がかかってる。
うまく手はず通りに話を進めなければ。
幸い、私がアンドロイドだということは気づかれていないみたいだし…。
「君のおかげで命拾いしたよ。ありがとう。」
「よかった…。」
「君は?」
「あたしは、地球連邦軍情報局の、カレンです。」
「カレンか。…いい名前だ。」
ちょっと照れてしまいましたが、気を取られてはいけない。任務が先。
何かを思いだしたように私はベッドから起きあがる。
「あ、そうそう、あなたに渡すものがあります。」
「えっ、俺に?」
と、胸の中に入れておいたテープに手を伸ばす。
彼はバツが悪そうにちょっと顔を背(そむ)けたみたいだけど。
「これ。ローニン少佐からの伝言です。」
と、テープを取りだして彼の目の前に差し出す。受け取る彼。
よかった…予定通りジョウにテープを渡すことができたわ。…と思っていた矢先。
「ローニンから?やっと連絡が取れたか!ジョウが喜ぶぞ!」
!?ジョウが…喜ぶ…!?
「えっ?…じゃ、あなたはジョウじゃないの?」
「ああ。俺はダミアンって言うんだ。ジョウに知らせてくる!」
ダミアン…そう名乗った彼は、駆け足で部屋から出て行ってしまいました。
……また……、取り返しのつかないミスを犯してしまいました……。
不安にかられ、意気消沈してしまう私…。
でも、今はいい結果を信じて待つしかない…。
私はベッドの中でしばらく休むことにしました。
しばらくして、戻ってきたのはダミアン一人だけでした。
「えっ?あなたが一人で!?」
「ああ。ジョウの奴、君のことが信用できないそうだ。だから、俺が行く!」
ダミアンが一人だけで向かうというのです。やっぱり、怪しまれてしまったのね…。
でも、なんとかしないと!
「だめよそんなの!」
「…どうして?」
「…ローニン少佐から、必ず、エルシャンクの全員を案内してくるようにと命令されているんです。
そうでないとあたし…」
思わずうつむいてしまう私…。
そう、私の任務がまた失敗に終わってしまう…。
そうなったら、私は……
「大丈夫。俺がローニンによく説明してやるよ。」
「…でも…」
「心配するな。君の責任じゃないさ。俺は、君を信じてるよ。
だから、俺を案内してくれ。ローニンの所へ!」
「………………。」
ここまで言われては断れませんでした。
それに、これ以上断るとダミアンにまで疑われてしまう…。
私のことを、こんなに信じてくれている…。
仕方なく、ダミアンの戦闘機で予定していたポイントに二人で向かいました。
日本エリアに到達した時には時差もあり、外はすっかり夜になっていました。
私はポイントの少し手前で降りることにしました。
一旦紅影様に報告する必要があったからです。
手頃な場所を見つけ、着陸します。
「カレン、ローニンはこんな所に軟禁されているのか?」
「ええ。ここからちょっと行ったところに。ですから、あたしたちとの連絡は監視の目を盗んで…」
「ということは…、すぐには会えないわけか。」
「ここで待機しているよう命令されています。
二・三時間以内には、連絡が入ることになっていますから。」
話術は私の得意とするところ。嘘をつくことなど造作もありません。
…信じてくれている人を騙すのはちょっと気が引けるけど…。
私たちは外で火をたき、コーヒーを入れて会話することにしました。
ばれないようにダミアンのコーヒーの中にそっと睡眠薬を少しだけ入れました。
紅影様と連絡を取る間、しばらく眠っていてもらうためです。
焚き火を囲み、コーヒーを飲むダミアンと私。
なんか…ちょっと幸せ。
こんな状態なのに、なぜかしら…?
「しかし変な感じだなぁ。」
ふと、ダミアンが話しかけてきました。
「何がですか?」
「日本エリアの富士のすそ野で、しかも、こんな時間に君と二人っきりでコーヒー飲んでるなんて。」
フフッ、それもそうね。私もこんなの初めて。
「でも良かった。あなたに信用されて。もし誰にも信用されなかったら、あたしの任務は…」
「命の恩人だもの。信じなかったら罰が当たるさ。それにしても、君たちの任務、厳しそうだね。」
「ええ。でも、あなたたちに比べたら、あたしたちの仕事なんて…」
…と、急に後ろの茂みがガサガサ揺れだした!?
「きゃぁぁっ!」
思わずダミアンの懐に飛び込んで茂みを凝視していました。
私を抱え込みながら、ナイフを構えて集中するダミアン。
ガサガサ、ガサガサガサ……。
しばらくの沈黙の後、茂みから顔を覗かせたのは…
「タヌキ…!?」
思わず声を上げていました。
「タヌキ?」
ダミアンがいぶかしげな表情をすると、タヌキはどこかへ逃げていってしまいました。
「はぁびっくりした…」
ほっと胸をなで下ろす私。
と、ダミアンに抱きついていたことに気づき、
「あっ、ごめんなさい!」と反射的に飛び退いていました。
「あ…あ、いや、別に…」
コーヒーを飲んで場を紛らわせるダミアン。
(私ってどうしてこうドジなんだろう…)
自分が少し情けなくなってしまいました。
ふと、夜空を見上げると、満月が輝いていました。
「…月がきれい…。」
思わず声に出してつぶやきました。
「ほんとだ。でも妙な気分だよ。ついこの間まであそこにいたんだもんなぁ、俺。」
ダミアンも感慨深そうにしています。
「行ってみたいなぁ…。あたし、地球からまだ出たことないの。」
地球から出たことがない、というのは嘘だけど…。
でも、本当に月に行ってみたい…。
「そう。…じゃ、今度俺が月を案内するよ!」
思わぬダミアンの言葉に嬉しくなってしまいました。
「本当!?」
「ああ。約束するよ。」
「あはっ、嬉しい♪」
「ははっ。」
「ふふっ…。」
二人で笑顔を交わしていました。
なんか、こう、心の中が満たされるような温かいものを感じました。
なんだろう、この気持ち…。
ひょっとして私、ダミアンのことを好きになってきているの…?
できることなら、このままずっとこうしていたい…。
でも、あなたと私は敵同士…。
今の約束も、叶わぬ夢なのよね…。
私が戦闘機の方へ戻って片づけをしている間に、
薬が効いてきたらしくダミアンは眠っていました。
そのままにしておくのはちょっと気の毒で気がひけましたが、
ダミアンが私に気づかないのを確認しつつ、そのまま森の中へ入っていきました。
(…ここまで来ればいいかしら…)
しばらく歩いてダミアンが完全に見えなくなったのを確認し、
身をかがめつつ反動をつけ、私は素早く木に飛び移りました。
道のない森の中を早く進むには、木の枝を伝って進んだ方が早いからです。
私は身を翻し、体術を駆使して紅影様の戦闘機へ向かいました。
厳しい表情のまま紅影様のおられる部屋に向かう私。
くの一軍団の四人も既に紅影様の前に待機していました。
失敗の内容は既に連絡してあります。
私は紅影様の前に顔を伏せて跪(ひざまづ)きました。
「申し訳ありません…」
「ローニンの伝言テープをお前がちゃんとジョウに渡していれば、
事は計画通りに進んでいたはず。それを…!」
シャルム様のきついお言葉が胸に突き刺さります。
「ジョウとダミアンを間違えるとはな。」
「奴に疑うだけの時間を与えてしまったんだよ。」
「言い訳の出来ないミスを犯してしまったな。」
「残念だよカレン。」
コチョウ達にも指摘されます。でも、事実なのでどうしようもありません。
けど、このままではくノ一軍団から外される…。そうなると、待っているのは死…!
私は紅影様に懇願しました。
「お願いです紅影様、もう一度チャンスを!必ず奴らをここへおびきだします!」
「往生際が悪いぞカレン!お前にはミスが多すぎる!
最後のチャンスとしてこの任務を与えたはず!
やはりお前にはくノ一軍団の任務は向かないようだ。連れて行け!」
「お願いです紅影様、もう一度チャンスを!紅影様!お願いです!」
そんな私をコチョウ達が取り囲む。悲痛な思いで必死にお願いする私…。
私は…私の命は…もう…ここで終わりなの…?こんな辺境の地で……!
「…待て。」
…え…?
全員の動きが止まり、紅影様の方を向く。
紅影様は目を閉じて何かを考えておられるようでしたが、
すっ…と目を開き、横目で私を見ながら話しだしました。
「ダミアンはお前を信じているようだな…。」
「えっ…?」
なぜ、ダミアンのことが?紅影様、何を…?
「奴を利用しない手はない。もう一度だけチャンスを与えよう。
奴をここへ連れて来い!エルシャンクをおびき出すエサにはなる。
お前が助かる最後のチャンスだ。賭けてみるがいい。フフフフフフ…。」
「!………………。」
私は森の中を気落ちしながら歩いていました。
私のことをあんなに信じてくれている人をまた裏切るの…?
本当にこれでいいの…?
心が痛みました。あんなに優しい、いい人なのに…。
ダミアンの元へ戻る足が重く感じられました。
と、茂みに差し掛かった瞬間、眠っていた鳥がいきなり飛びだしてきました。
「はっ!?」
と驚いたのも束の間、エルシャンク対策の罠として設置してあるプラズマビームに撃たれ、
あっという間に消滅してしまいました。
「…………。」
この任務を全うしないと次にこうなるのは自分…。
私は紅影様に仕(つか)えるくノ一軍団の一員。
紅影様の言いつけ通り任務をこなし、早くザ・ブーム星に帰らなければ…。
それがくノ一として今まで生きてきた私の運命(さだめ)。
そして父・母のことを調べ、行方不明になっているカリンを一刻も早く探さないと…。
私のこの命が尽きてしまう前に……!
いつしか私の顔はくノ一の顔に戻っていました。
ダミアンの元へ戻ると、軽く肩を揺さぶってダミアンを起こしました。
気持ちよく眠っているようだから起こすのはちょっと気が咎(とが)められるんだけど。
「……ん……」
「少佐と連絡がつきました。すぐ来てほしいそうです。」
「そうか。どこだ?」
「この先、五kmの地点です。」
「よし、すぐ行こう!」
ダミアンの嬉しそうな顔を見ると、ズキン!……と心が痛みました。
(ダミアン、ごめんなさい…)
私は心の中でそうつぶやいていました。
目的地へ向かうため、今度は私が操縦することに。
紅影様の元へ向かいます。
「あっ…!」
突然声を上げるダミアン。
「……あれが、富士山かぁ。…暗くてよく見えないが、きっと綺麗だろうなぁ。」
ダミアンは外の景色を見ているようです。
でも、私の今の心はそれどころじゃない…。
「…どうした、元気がないじゃないか。」
私は自分の心の中を読まれたようで一瞬ドキッとしました。
なんとか心を落ち着かせながら言葉を返す。
「いえ、なんでもないわ。富士山見るの初めて?」
「もちろんさ。ジョウなんか、あいつを見るために地球に来たようなもんさ。」
「……。」
返す言葉が出ませんでした…。
レーダーを見つめつつ操縦する私。
もうすぐ紅影様の元に着く…。
そうしたら、私の正体を知られ、ダミアンともお別れ…。
おそらく、もう二度と会うことはできない…。
「なあカレン。」
「あ、はいっ!」
とっさに話しかけられ、驚いて慌てて返事をする私。
「朝になったら、二人で富士山を見よう。」
「えっ!?」
「きっと、素晴らしい思い出になるよ。」
「!!………………」
私は目頭が熱くなりました。
今にも涙がこぼれ落ちそうです。
あなたを騙してばかりで、今も紅影様にあなたを差し出そうとしているこの私を
心から信じ、こんなに温かい言葉をかけてくれる…!
ああ……ダミアン……ダミアン……!!
私の心の中があふれそうなほど熱いものでいっぱいになりました。
これが……恋……!!
しかし、感傷に浸っている余裕はありませんでした。
紅影様の戦闘機がもう目の前に迫っていたのです。
(この人を…ダミアンを殺させるわけにはいかない!)
そう確信した私は紅影様の命令に背き、
操縦桿を引いて急旋回し、逃げ出しました!
びっくりしたダミアンが思わず身を乗り出します。
「カレン、どうしたんだ!?」
「これは罠よ!逃げて!」
「なにっ!?」
「きゃぁぁっ!」
目の前にはもう、シャーマンが迫っていました。
必死に操縦桿を握り、操縦する私。
「降下しろ!」
ダミアンの指示に従い、森の上ギリギリの低空飛行に入る。
…と、いきなり激しい衝撃で戦闘機が揺れる!
「きゃぁぁっ!!」
とっさにレーダーを見る。
しまった!ここはあのビームの射程エリア…!
翼を壊され、墜落する戦闘機。
私とダミアンは戦闘機から脱出し、走って逃げ出しました。
「早く、こっちだ!」
ダミアンに手を引かれながら走る私。
ダミアンの手…すごく頼もしくて力強い……。
「しまった!」
「きゃぁっ!」
目の前にシャーマンが!
気がつくとシャーマンに囲まれていました。
「ダミアン…!」
「奴らが攻撃する瞬間に、藪の中に逃げ込むんだ!」
私は黙って頷き、神経を尖らせます。
すると、シャーマンが一斉に腕を振りかざしました!
「今だっ!!」
同時に草むらに飛び込みました。
爆風を受けないように身を縮めてやり過ごす。
「ダミアン、ごめんなさい…!」
私は泣き出しそうでした。
「しーっ」
こんな時でも、私のことをかばってくれるダミアン…。
けど、ふと上を見ると、シャーマンが…!見つかった!
口が開き、ニードルミサイルが私たちを狙う…逃げられない!!
「これまでかっ!!」
ダミアンが私を守ろうと上にかぶさる!
とっさに目をつぶる私。
同時にランチャー音と共に爆発が起こる。
……まだ……生きて…る?
目を開けると、黒獅子に乗ったジョウがガトリングランチャーでシャーマンを撃退していました。
「ジョウ!」
叫ぶダミアン。
「ダミアン!逃げろ!」
「分かった!」
私とダミアンはその場をジョウに任せ、駆け出しました。
…しかし、そう簡単に逃がしてもらえるわけがありません。
オロチたちくの一軍団のメンバーが襲ってきました。
コチョウの姿が見えないとはいえ、二対三…あきらかに不利です。
枝から枝を飛び移り、激しい戦いを繰り広げる。
「うわあああーっ!!」
二人がかりの攻撃に足を滑らせ、落下するダミアン!
「ダミアン!」
思わず叫びましたが、私も気を取られている暇はありません。
オロチの一閃を間一髪ジャンプでかわし、
後頭部に足刀を叩き込み、落下させる!
「ダミアン!」
そのまま私も落下・着地し、素早くダミアンの後ろへ!
背中を合わせることにより、死角をなくすためです。
じりじりと間合いを詰めてくる三人…。
額に汗がにじみ、小太刀を持つ手に力が入る。
次の攻撃に備え、神経を集中させる…。
と、突然空が輝く。
あれは…!
「あっ!エルシャンクが!!」
ダミアンが叫ぶ。
あのプラズマの射程内に来てしまったの…!?
続けざまにプラズマの餌食になる黒獅子。
「ジョウ!」
ダミアンの悲痛な叫び…。
オロチ達は素早く撤退する。
しまった…揺動作戦だったのね…!
このままでは、エルシャンクも黒獅子も…。
そうなってしまったら、ダミアンもただでは済まない…!
私は意を決し、全力で走りだしていました…。
ここは紅影様の戦闘機の中。
見つからないよう、細心の注意を払いながら、
決死の覚悟で格納庫の中の戦闘機に飛び移り、乗り込む。
迷うことなく起動。バイザーを閉じ、動きだす機体…。
出口に現れたくの一軍団の三人を蹴散らし、上空高く飛び上がる。
今エルシャンクを襲っている、プラズマを停止させるために…。
プラズマの操作装置は紅影様の戦闘機のコクピット部分。
直接乗り込んでも紅影様やコチョウには太刀打ちできるはずがない。
搭載してある戦闘機も火力のあるものは私がエルシャンクに潜入するときに乗った一機だけ。
残っているものは緊急脱出用のみで、たいした火力は持ってない…。
となると、残るは身を挺(てい)して戦闘機ごと突撃し、
紅影様の戦闘機のコクピット部分を破壊するしか方法はないのです。
…でも、それは即(すなわ)ち私の死を意味する…。
今までのいろんな思いが頭の中を駆けめぐる…。
上空を旋回し、窓からこちらを見ているダミアンを見つめる…。
(ダミアン、ごめんなさい…)
私は心の中で、そうつぶやきました。
今までずっと騙し続けていたこと。
ダミアンの信じる心を裏切ってしまったこと。
そのせいで危険な目に遭わせてしまったこと。
私の命をもって罪を償うことしかできないこと。
そして、あの約束が果たせないことを……。
ダミアンの姿が見えなくなると、紅影様の戦闘機に照準を合わせました。
このまま突撃すれば…!私は降下を始めました。
しかし、黙ってぶつからせてくれるはずがありません。
戦闘機の砲身が光ったと思った瞬間、私の機体にプラズマが直撃……!
同時に機体が大きく揺れ、体中に激痛が走る!
「はぁぁぁ……くっ!!」
ここまできて犬死にするわけにはいかない…!
気を集中させ、激痛に耐えながら、しっかりと狙いを定める…!
くノ一として積んだ厳しい訓練が、こんな形で役に立つなんて…。
紅影様の戦闘機が目前に迫る。
この位置ならもう、外すことはない…。
私の体も機体ももう限界…。
私は涙が溢れてきました。
もう、思い残すことは何もない。
ただ一つの心残り。それは……!
「ダミアン…、あなたと月に行ってみたかった……。さようならぁーーーーっ!!」
私は必死に叫んでいました。
ダミアンに聞こえるわけがないと知っていながら…。
そしてそのまま激突し、私は最期の時を迎えました……。
ダミアン、ごめんなさい。あなたを裏切ってしまって…。
でも、束の間の出会いだったけど、私のことを信じてくれて本当に嬉しかった。
明日の朝、富士山を一緒に見る約束を果たせなくてごめんなさい…。
あなたと月に行って、普通の女の子として、一緒に暮らしたかった…。
私の父、母、妹のカリンのことも、結局分からずじまい…。
何もかも叶わぬ夢でしたが、あなたに出会えて、本当に幸せでした。
さようなら、最愛の人。
そして、温もりをありがとう。
もし、今度生まれ変わり、出会った時には、あなたと一緒になりたい…。
最期に、ひとこと言わせて下さい。
本当にありがとう。
…そして、愛しています。いつまでも……。
Fin