ここに掲載したものは、平成6年3月16日、当時私が勤務していた加古川市立中部中学校の学年集会で、生徒向けに話をしたものを学級通信にまとめたものです。よって内容は中学生向きです。

本物のおしゃれ

 今回は「おしゃれ」ということについて、僕の考えを述べてみたいと思います。
 一ヶ月くらい前、ある雑誌の特集として「おしゃれ」について書かれている記事を読みました。僕自身、特に「おしゃれ」というものにはあまりこだわらないのですが、いろいろな考え方を知ることが好きなので、暇なときにはあらゆるジャンルの雑誌に目を通すことにしています。
 そのコーナーには、いろいろな仕事をしている人たちへのおしゃれに関するインタビューや服の着こなしなど、またプロのファッションコーディネーターの考えなどが書かれていました。その中で、特に印象深かったことについて述べてみたいと思います。
 そのコーナーをさりげなく見ていると、僕好みのきれいな若い女の人の写真が載っていました。僕はさっそく、彼女へのインタビュー記事を読んでみました。彼女は在日6年目の中国人女性で、現在貿易会社に勤務しているかたわら、大学院で勉強している、ということでした。仕事がら、彼女はいろいろな人たちと接することが多く、服装にものすごく気を配っているそうです。雑誌の中の写真では、赤のジャケットに黒のブラウス、黒のスカートという、やや派手な服装でした。しかしそのインタビューがあった日は、午後からプライベートな約束があるということで、普段仕事をするときは黒を基調とした、地味な服装だそうです。その方が仕事に没頭できるということです。また、中国では「赤」という色は「めでたい色」と考えられており、お嫁さんの衣装も「赤」だそうです。そういうところから、彼女自身「赤」の服を着ることはその場の「主役」というように考え、多くの人たちで仕事をしている職場、あるいはたくさんの人たちが集まるパーティーなどの場では、赤い服装を意識的にさけるそうです。しかし彼女の写真を見る限り、彼女はものすごくおしゃれな、キャリアウーマンという感じです。雑誌記者の彼女に対する「おしゃれの決め手は何ですか?」という問いに対して、彼女はこう書いていました。「姿勢です」と。彼女にいわせれば、おしゃれの決め手は服でも装飾品でもなく、「姿勢」だというのです。いくらきれいな服や宝石で飾り付けたとしても姿勢がなってないと、全くおしゃれではないというのです。それを読んで僕は考えてみました。街を歩いていたり、電車に乗っていたりして、「あの人おしゃれだなあ」と思える人は、そんなに目立った服装をしているわけではありません。でも、そういう人はほとんど例外なく、いきいきとしたところがからだ全体からにじみあふれています。また、そういう人は立っているときも、座っているときも、歩いているときも、姿勢がきちんとしています。今のみんなの姿勢はどうでしょうか?
 この雑誌の記事では、「おしゃれ」ということに焦点が当ててあったのですが、「姿勢」というものはそれ以上にいろいろなことを表していると思います。なにかに熱中している人は、それなりにはつらつとしたものをその人の姿勢から感じとれます。なにかに思い悩んで寂しい思いをしている人は、そういう気持ちが姿勢を通して表れています。心の中に迷いのある人は、やはり姿勢が乱れがちになっています。
 みんなの年代というのは最近、保健体育や学活などで学習してきているように、思春期ということもあって、「心」が非常に不安定な時期です。それと同時に、「おしゃれ」にも関心が強くなってくる年代でもあります。今、僕が述べたことからもわかると思いますが、本当のおしゃれというものはきれいに着飾った服装でも、装飾品でも、髪型でもありません。その人の「気持ちの持ち方」そのものが、おしゃれとして自然とその人からにじみ出るものなのです。また、そういうものが「人間の魅力」というものだと思います。今、謙虚になって「自分の気持ち」というものを考えてみてください。そして、魅力でいっぱいの輝いた人間になってください。そういう人のまわりには、自然とたくさんの人間が集まってきます。

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