但馬方言辞典
ーアクセント表記解説ー
但馬方言辞典は、見出しにアクセントを表記している。その表記法と実際のアクセントの関係を以下に解説する。
<見出しのアクセント表記の例>
太字と"’"、●は次にアクセントの下がり目がある拍(アクセントの核)を表す。
アクセントの種類 拍の種類 見出し語のアクセント表記 認められるアクセント 平板式 1拍語 は(葉) ○−▲
●−▲2拍語 みず(水) ○●−▲
●●−▲3拍語 さくら(桜) ○●●−▲
●●●−▲4拍語 とーだい(灯台) ○●●●−▲
●●●●−▲5拍語 あるこーる(アルコール) ○●●●●−▲
●●●●●−▲起伏式 尾高型 2拍語 やま’(山) ○●−△
●●−△(少)3拍語 やすみ’(休み) ○○●−△
○●●−△
●●●−△(やや少)4拍語 いもーと’(妹) ○○○●−△
○●●●−△
●●●●−△5拍語 もものはな’(桃の花) ○○○○●−△
○●●●●−△
●●●●●−△中高型 3拍語 おか’し(お菓子) ○●○−△
●●○−△(少)4拍語 みずう’み(湖) ○○●○−△
○●●○−△
●●●○−△5拍語 ちょこれ’ーと(チョコレート) ○○●○○−△
○●●○○−△
●●●○○−△頭高型 1拍語 き’(木) ●−△ 2拍語 は’る(春) ●○−△ 3拍語 の’はら(野原) ●○○−△ 4拍語 だ’いじん(大臣) ●○○○−△ 5拍語 あ’くせんと(アクセント) ●○○○○−△
"●"、"●"は高く発音する拍
"○"は低く発音する拍
"▲"は助詞を表し、高く発音する
"△"は助詞を表し、低く発音する
発音の解説
1 平板式のアクセント・・・核のない語
発音は次の2つのパターンが認められる。どちらのパターンも普通の会話の中に見られる。
(1) 1拍目を○で発音し、2拍目から最終拍までを●(1拍語は助詞▲)で発音する。
/○−▲//○●−▲/、/○●●−▲/
比較的拍数の少ない語(1拍語から3拍語あたり)に多く見られる。
(2) 1拍目から最終拍まですべて●で発音する。
/●●●●−▲/、/●●●●●−▲/、/●●●●●●−▲/
比較的拍数の多い語(4拍語以上)に多く見られる。
<平板式のアクセント>
平板式(1拍語) は(葉) ○−▲(多い) ●−▲ 平板式(5拍語) あるこーる(アルコール) ○●●●●−▲(やや少ない) ●●●●●−▲(多い)
ただし、拍数が少ない語であっても、2拍目が「ー」、「っ」などの場合、すべて●があらわれる場合が多い。
平板式(3拍語−2拍目が「−」) こーり(氷) ●●●−▲ 平板式(3拍語−2拍目が「っ」) らっきょ(ラッキョ) ●●●−▲
2 起伏式(尾高型、中高型)の発音
次の3つのパターンが認められる。
(1) 核のある拍のみ●、それ以外は○で発音する。
/○●−△/、/○○●−△/、/○●○−△/、/○○●○−△/、/○○●○○−△/
発話のスピードがゆっくりの時にあらわれやすい。
方言色の濃いアクセントと言える。しかし、アクセントの変遷から考えると、他のアクセントより新しいものかもしれない。
尾高型 あさやけ’(朝焼け) ○○○●−△ 中高型 としこしそ’ば(年越しそば) ○○○○●○−△
(2) 1拍目を○、2拍目から核のある拍までを●、その後最終拍までを○(2拍語は助詞△)で発音する。
/○●−△/、/○●●−△/、/○●○/、/○●●○/、/○●●○○/
尾高型の場合
比較的拍数の少ない語(2拍語から3拍語)に多く見られる。
尾高型(2拍語) はな’(花) ○●−△ 尾高型(3拍語) はなし’(話し) ○●●−△
中高型の場合
1拍目から核のある拍までが、2拍以内の場合に多く見られる。
中高型(核のある拍まで1拍の語) とよ’おか(豊岡) ○●○○−△ 中高型(核のある拍まで2拍の語) ふくぶ’くろ(福袋) ○●●○○−△
(3) 1拍目から核のある拍までを●、その後最終拍までを○(尾高型は次の助詞を△)で発音する。
/●●●●−△/、/●●●●●−△/、/●●●●○−△/、/●●●●○○−△/
尾高型の場合
比較的拍数の多い語(4拍語以上)に多く見られる。
尾高型(4拍語) ふろしき’(風呂敷) ●●●●−△ 尾高型(5拍語) さかなつり’(魚釣り) ●●●●●−△
中高型の場合
1拍目から核のある拍までが3拍以上の語に多く見られる。
中高型(核のある拍までが3拍の語) みしんあ’ぶら(ミシン油) ●●●●○○−△ 中高型(核のある拍までが4拍の語) みたらしだ’んご(みたらし団子) ●●●●●○○−△
☆起伏式の(2)から(3)以外の傾向☆
起伏式の尾高型、中高型の語で2拍目が「ー」、「っ」などの場合、拍数に関係なく1拍目から核のある拍まで●となることが多い。
尾高型(3拍語−2拍目が「ー」) とーり’(通り) ●●●−△ 尾高型(3拍語−2拍目が「っ」) きって’(切手) ●●●−△ 中高型(核のある拍までが2拍で2拍目が「っ」の語で) きっさ’てん(喫茶店) ●●●○○−△ 中高型(核のある拍までが2拍で2拍目が「ー」の語で) のーは’んき(農繁期) ●●●○○−△
旧アクセント表記と新アクセント表記について
本辞典における旧アクセント表記は、高く発音する部分を太字で表すものとしていた。しかし、その表記法には2点問題があったため、今回新アクセント表記でそれぞれの問題を解消した。
1 平板式と起伏式尾高型の区別を明確化
「鼻」は旧アクセント表記では「はな」となり、「花」も同様に「はな」となる。よって両者の区別ができない。
「鼻」に助詞「が」が付くと「はなが」となり、「花」に助詞「が」が付くと「はなが」となる。前者が平板式であり、後者が起伏式の尾高型である。
その曖昧さを解消するために、次の表記にあらためた。
アクセントの型 語彙 旧アクセント表記 新アクセント表記 平板式 鼻 はな はな 尾高型 花 はな はな’
2 アクセントの下がり目のある拍のみを提示
但馬方言のアクセントにおいて重要なのは、アクセントの下がり目のある拍がどこにあるか、である。
尾高型アクセントである「あたま」の場合、アクセントの下がり目のある拍は「ま」である。(助詞の「が」を付けるとこのことが明らかになる。)
中高型アクセントである「きつねうどん」の場合、アクセントの下がり目のある拍は「う」である。
尾高型と中高型のアクセントは上昇拍が一通りではなく複数存在する。旧アクセント表記では、代表的なものを一つだけ扱った。
拍の上昇点については前述の規則がある。新アクセント表記ではアクセントの下がり目のある拍(アクセントの核)のみを太字と"’"の記号で示すことにした。
アクセントの型 語彙 旧アクセント表記 新アクセント表記 尾高型 頭 あたま
または
あたまあたま’ 中高型 きつねうどん きつねうどん
または
きつねうどん
または
きつねうどんきつねう’どん
アクセントに関する詳細は「但馬のアクセント」を参照されたい。