正月ロックへの道
クリスマスの日にミヤちゃんの十字架のペンダントが壊れてしまった
これは単なる偶然ではなかった。
12月24日
ラーメン屋を辞め、給料は全て修理代にまわす。
長くいたバックパッカーズ「ラプチャーズホステル」のレセプションの姉さんたちに花をプレゼントして、いざ出陣!とかっこよく出発したが、すぐDRのサイドスタンドが荷物の重さで、曲がり自力で立てなくなった。
同じくミヤちゃんのGT550のバッフルが外れて、ケアンズのバイク屋でいきなり修理。
2時間ほどロスしてしまう。直してもらったはずのサイドスタンドは、溶接がいい加減で、そのうちとれてしまった。
ジョーと走っていたとき、5日間もかかって進んだ道をわずか半日で通ってしまった。信じられない。今のスピードがではなく、前は何で5日もかかったのだろうと
タウンズビルを過ぎ、チャーターズタワーという意外に大きな町に着いた。
CAは一杯で泊まれない。本当かなあ?クリスマスイブだから働きたくないんじゃないの?と思う。
そっかー今日はイブか、俺ら4人も汚い野郎ばかりだけど、今日ぐらいはモーテルに泊まってもいーか?全員一致で決定。
4人で60ドル。「ウワーテレビがある!」「ベッドもふかふか!」大騒ぎ、枕投げが始まる、テレビではクリスマスの特番が流れ、外は暑いが、気分だけメリークリスマス。
僕ら、西にあるテンジュク目指す西遊記のようだ、ヒロヒトが、サンゾーホウシ、仁王ちゃんが頭に筋を入れているので、悟空か、そしたら八戒は誰だ?俺じゃないぞ、とミヤちゃんと沙悟浄の取り合いになる。
12/25クリスマス
少しずつ内陸には行っていく事になる、東海岸から、西に向かう道。周りの景色は、木の高さが少しずつ低くなっているようだ。それに暑い。
町の間隔も、50キロ〜100キロと大きくなってきている。
失敗した。
今日はクリスマスホリデーで、ペトロステーションも店も全て休んでいる。
知らなかった。不安が少しずつ大きくなっている。
どの村も店はしまっている。いくつか村を通りすぎ、DRもGTも昼過ぎには予備タンクになって走っていた。
ある集落で、バイクを止めてごそごそやっていたら、ミヤちゃんが「あーっ!!」と声をあげた。首から下げていた十字架のペンダントの鎖が切れてしまった。
エー!こんなクリスマスの日に、不吉で気味悪い事が起こった。
そして、もう最後の望みの集落が閉まっている。
とうとうGTがほとんどのペトロを使い切っていた。
どうしよう?おれら3台のバイクのペトロ全部足して、やっと1台が今日出発したチャーターズタワーまで行けるかなというぐらい。
往復200キロだれかが、そこまで戻り、ペトロ買ってくるか?
この集落で今日は終わり、明日開くのを待つか?
それとも、無理矢理進み次の村に期待するか?
まだ昼なのにこんな所で、一泊はどうしても避けたかった。
反対側から車が来たので、ミヤちゃんが停めて、向こうの状況を聞く。
「どうやら開いているらしい」
今は、それを信じるしかない、いつ止まるかもわからない僕のDRとGT550そしてXJ750は再び進む。
GT550が最初にきた。最後の一滴まで使うので走りながらタンクをシェイクして走る。
GTがとうとう、止まってしまったが、集落まであと3キロの地点まで進むことが出来た。
僕か先に進んで集落の偵察に行く。やっぱりペトロスタンドは閉まっている。
ダメだと思ったが、先の小さなホテルにも給油機があったので、そこに入りお願いして、売ってもらう。
空のタンクに、冷たいペトロが入っていく。まるで自分が水を飲んでいるようないい気持ちになった。
予備のジェリカンにも入れてもらい、ミヤちゃんの所に入れに行く。
GTにも冷たいペトロを入れ、全員が満タン。なんとかなった。
今から思えば、僕のアクシデントの元は、この時にあった。
このホテルの子供が給油機から入れてくれていたのでけど、僕のジェリ缶は、10リットルのキャパなのに、11近く入れてくれて、蓋を閉めればほとんど満杯状態、になってしまっていた。
おまけにいつもは振り分けバッグにジェリ缶を空で運んでいたので、パッキングについてはあまり気にしてなかったが、今回はジェリ缶を振り分けの、マフラー側に納めるしか場所が空いていなかった。
まっ今日だけはいいか、明日からちゃんとパッキングしなおそうと考えた。
この暑い中、今から荷物の積み替えなんてだるくてやってられないと思った。
そしてペトロ積んで発進、今日は特に暑く感じる日だった。
もう熱風で、頭がボーとしてしまう。
昼間は休みたかったが、今日は時間のロスがあったので、少しペースを上げる。
景色はもう木は無くなり、マッドマックスの映画に出てきたような、草原になる。
その中で暑さに耐えながら、進む。
後ろでなんか仁王ちゃんが、呼んでいるみたいだった。
XJが後ろから追いつき、ホーンを鳴らして、「ウーさん!止まって!!止まって!!」
と慌てた声で叫ぶ。
なんだ?と思い後ろを振り向くと、僕の振り分けのジェリ缶から「ボワボワ」と火が噴いてている。
すぐバイクを止めて、スタンドが壊れているのでDRを横に倒した。
もうどんどん炎は大きくなっている、もうバイクはダメだと思う、近寄れない。
仁王ちゃんが必死で、炎を消そうとしている。
せめて荷物だけでもと、取り外そうとするが、どんどん炎は大きくなりる。
腰に付けているナイフを出し、パッキングのロープを切るのだが、焦ってなにからしていいのか分からない。
フロントフェンダーに付けていたテントとカメラ、パスポートの入ったバッグは切り離せたが、そこから小さな爆発が始まり、炎が完全にDRを覆ってしまった。
ミヤちゃんとヒロヒトが黒い煙に心配して引き返してきた。
とりあえず僕に怪我がないので安心した。
缶スプレーものやなんかがボンボンと破裂する。
ケアンズで買った、40ドルもしたビートルズの楽譜が燃えながらぱらぱらと風がページをめくっていく。
シドニーでもらったギターが目の前でメラメラ燃えていく。
この中に僕の荷物と一緒に、ミヤちゃんのメインにしている大きな荷物も一緒に運んでいたことに気がつく。
ああーっ!どうしよう!しかし当のミヤちゃんは、
「いや大した物は入ってないですから、気にせんといてください。全然だいじょーぶですよ本当!」
なんて事すらすら言ってくれる。
たぶんだいじな写真なんかも入っていただろうに。
彼は男だ。男の中の男。ありがとう!そしてスマン。
俺のバイク旅はこんなにも突然終わってしまうのかい?
こんなことってあるのか?
わからない。
こうなれば全て物があとくされ無いように、全部が完全に燃え尽きて無くなって欲しかった。
炎はバイクを包んだだけではなく、やがて乾燥したブッシュに広がり、風でどんどん広がっていく、消そうと努力するが、ダメ。いつの間にか置いていた僕のヘルメットやグローブも炎の中に入って燃えている。
1時間ほどしても消える気配はない。これはやばいことになるかもしれない。
とりあえずジュライクリークという村まで15キロというとこまで来ていたので、
そこまで行って様子を見ることにする。
まだ興奮していて、一気にコーラをがぶ飲みするが、飲んだ気がしない。
夕方また、様子を見に現場まで行くが、ものすごく長くブッシュが灰になっていて、どこにバイクがあるのか分からなくなっている。
なおもブッシュは燃えている。
その中にDRは無惨な姿になっていた。バイクにも申し訳ない。
こんな所でこんなかたちで、終わってしまい本当ごめん。
灰になっていた中から、使えそうな工具だけ集める。
まだ熱く触れなかった。
今日からテントではなく、CAのオンサイトバンというエアコン付のキャンピングカーで泊まる。
その方が4人で割ると安いのだ。
その夜、ブッシュの火が夜にこっちの村側に来て、村全部焼けたらどうしようと
本気で心配した。
目をつぶると、炎がでてきて眠れない。
今回こういう事になったのは、運命だったと自分なりに思う理由が実はあり、
今まで誰にも言ったことなかったけど、その事をここにいる仲間3人に初めて告白した。
次の日、僕はもうここから、長距離バスで帰るつもりだった。
バイク、そして荷物が燃えてしまった以上、もうなにもする事はなくなった。
もうオーストラリアも終わりだ。
金も足もない。
でもここにいる3人が絶対ダメだという。
絶対、正月にエアーズロックまでは行かないとダメだという。
ヒロヒトが、ホントはエアーズロックまで、バスで行くつもりでチケットを購入していて、それがまだ使えたので、「私がバスで行きます。それでいいです」
と翌朝、長距離バスに乗った。
今度は僕がミヤちゃんの後ろになった。
バイクのケツで景色が流れるだけ、退屈。
熱風が顔に当たり、鼻の穴が乾燥して、痛い。ここまで熱くなると逆に、半袖半ズボンの方が暑くて、着ていられない。
仁王ちゃんは払い下げのコートを着ている。
まだその方がいい。
僕は、息を吸うと鼻が痛くなり、血が少し出たので、バンダナに水を浸し、それを口元に巻いた。
27日
Mt・isaに着いた。ここは、集落ではなく、タウンかな?鉱山の町だ。
ここら辺でゴトちゃんは、火傷したのだ。
そして、タニアで一緒だった北ちゃんも、ここら辺でエンジンが焼け付いたそうだし、
そしてぼくのDRも炎上、僕らにとってここは鬼門なのか?
わざと途中から水を飲まず、ビールのために我慢する。
一日の走行が終わっての、最初の1本のビールは言葉にならんほどうまい!
今日もエアコン付のオンサイトバンを見つけて、そこ泊まり。
次の日5時起床、太陽がでる6時前には出発。
暑くなる前に、出来るだけ距離をかせいでおきたい。
ただ草と、背の低いが生えているだけの、荒涼とした景色。
クイーンズランド洲からノーザンテリトリーにはいる。
途中の分かれ道で、スイサンがメッセージを書いておくと言っていた。
標識の裏側に、ダーウインで財布を盗まれたと、そして先にロックへ行くとある。
650キロ走って、町の時計を見ると、まだ昼過ぎだ。時差で、1時間半、特をした?!
テナントクリークのCAはプールがあり。そこに住んでるチビ助と、鬼ごっこをする。
しかしチビ助のおとーさんも参加してきて、おとーさんの鬼は怖くて、僕ら真剣に逃げた。
12/28
今度はシュチュワートハイウエイ、オーストラリアの真ん中を北から南まで、縦断している道。そこを南下する。
テナントクリークから、アリススプリングという町までは何もない。
こんな所にもアボリジニは住んでいて、それか追いやられたのか?アボリジニのボロボロトラックはよく見かける。
途中仁王ちゃんが、飲み水を買う。
ここらへんでは、コーラより水の方が高い。
余った水を、バイクで走りながら、かけてくれる。
瞬間だけどすごく涼しい。
そうやって退屈な道を暑さでボーとなると、互いに水をかけ合って、リフレッシュして進む。
アリススプリング到着。
荒涼とした景色に突然普通の町が現れる。
よくもこんな所にこんな町を作ったもんだと感心する。
人々は普通の生活をして暮らしている。
ここまでくればエアーズロックまでは、あと400キロ。1日弱で行ける。
この町で先発のヒロヒトに出会った。
なんでも、丘の上に登っていて、俺らバイクが来るのを、見ていたらしい。
さすがさんぞーほーし、全てお見通しって訳か。
僕のメモ帳に、ひとみちゃんのスケジュールが書いてあり、それによると、この町に、今いるはずなのだが。
少し余裕が出来たので、1日休憩。
ひとみちゃんの姿は見えないし、あとタニアで約束した連中も、全く出会っていない。
エアーズロックへの道は、ストックルートを使わない限り、だいたいがアリス経由のはず。
いったい元旦誰が来るのだろう。
12/30
スチュワーとハイウエイを200キロ走りエアーズロックへの道に入る。
僕の頭の中は、いつロックが地平線から見えるんだろうか?そればっかり考え、
目はブッシュの先ばかりにいっていた。
ロックはなかなか現れず、話に聞いていたMtコナーという偽物ロックを通り過ぎた。
しばらくしてまた青黒い固まりが見えた。「あれか?!」
仁王ちゃんが走りながら、地図とコンパスで確認する。
間違いないあれだ!「イヤッホーィ!!」仁王ちゃんと手をばしばしたたき合った。
それから30−40分ほどで、ユララというエアーズロックのナショナルパークの施設に着いた。
このあたりはアボリジニの居住区で勝手なところではキャンプできない。
「オーオーッきたぁーっ」
キャラバンパークには人がたくさんいて、声がした。
スイサンだ!「着いたぞー!」ウオーッと互いに声をあげ喜びを表した。
ほかにもタニアの懐かしい顔ぶれがいる。
やったぜ!
つづく
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