フェリーの中は、平日のせいもあって、ガラガラだった。商店街は、水曜が定休日。週
に一度の貴重な休みを利用して、俊則と道男の二人は、T県行きのフェリーに乗ってい
た。
「しゃないなぁ。付き合ったるわ。」
 俊則の部屋で、地図を差し出された道男は、しばらく、ためらっていたが、いきさつを
俊則から聞いて、同行する事を承知した。
「しかし、許婚とはな・・・。」
 道男は、屋外に設置されたイスに座っていたが、手すりにもたれて、ずっと遠くを見て
いる俊則の横に行くとそう言った。
「すまんのう。付合わせて。」
 俊則は、普段より弱々しい口調で言う。道男は、そんな俊則を見てニヤリと笑って、
「えらい弱気やな。おまえらしないやんけ。」
 冷やかしの様に言う。やかましぃ。いつもの俊則なら、そう答えるだろう。道男もそんな
返しを期待していたのだが、苦笑が返ってきただけだった。
 N港を午前7時35分に出発したフェリーは、午後12時を少し過ぎたところで、T県の港
に着いた。
「さてと、ほんじゃぁ、気合を入れて探しますか。」
 二人は、日帰りで帰るつもりでいた。ここからO町までは、40分くらいだ。まずは、バス
でT市に向かう。そして、そこから電車に乗ってO町の駅まで行く。
 ここまでは、実に順調な旅だった。天気は快晴。調子を狂わせているのは、俊則だけ
である。
 とりあえず、父親の日記に載っていた住所に居るはずの、畑という人を訪ねてみる。そ
れから、どうするかを考える。俊則は、そう思っていた。あれから、じっくりと父親の日記
を読み直してみたが、許婚に関係していると思われる記述がしてあるのは、畑という人の
事以外になかった。許婚の鍵は、ここに、あるはずなのだ。
 俊則は、何がここまで自分を駆り立てるのか、分からなかった。好奇心?違う。そんな、
単純に一言では説明の出来ない、何かが、俊則をここまで行動させているのだ。
「案外、赤い糸かもしらんぞ。」
 道男が、真剣とも冗談とも取れる調子で、そう言った。赤い糸か。おもろいやんけ。俊則
は、今、俺は運命の赤い糸をたぐっているのだ。そう自分に納得させる事で、ここまで自分
を行動させる、モヤモヤとした感じを説明付けようと思った。                  11

 T市からO町へ向かう電車の中は、空いていた。殆ど誰も乗ってないと言った方がいいの
かもしれない。車両は1つ。のどかな道行きである。俊則達の座っているところと反対の席
には、眩しい午後の日差しが当たっていた。
 ふと、俊則の肩に重たい感触があった。見ると、道男だった。軽い寝息が聞こえる。俊則
は、苦笑いをしただけで、そのままにしておいた。そして、数分後、俊則も寝息を立てていた。
 O駅に降り立った二人は、息が荒かった。危うく乗り過ごすところだったのだ。慌てて降り
た俊則達を変な目で運転手は見ていたが、定時に出発して行った。
「ほんま、頼むで。」
「俺か?」
 しばらく、言い合いが続く。喧嘩するほど、仲が良いという。彼らにその言葉は適合するの
だろうか。
 俊則は、無人の改札を抜けると、駅に設置してある長椅子に座ると、地図を広げた。T市
の中心部は、わりと細かく載っているが、O町の辺りは道が1本通っているのが載っている
だけだった。
「えらい詳しい地図やな。」
 地図を覗き込んだ道男は言った。
「目と耳と口と足があったら、何処でも行ける。何とかなるやろ。」
 俊則は、そう言って地図を畳むと、カバンに入れた。そして、駅から出た。10歩くらい歩い
て・・・。
「タクシーで、行こか?」
「タクシー呼んで、メチャメチャ近かったら嫌やろ。」
「せやな。しかし、道を聞こうにも全然、人が歩いてへんで。」
 辺りを見回すと、文房具と駄菓子を売っている小さな店を見つけた。俊則は助かったとば
かりに、店の中に入ってガムを1つ購入すると道を聞いた。
「あぁ、そこやったら。」
 店番をしていた50歳くらいのおばさんが、やや不審な目をしながら教えてくれた。駅から
近いようなので、歩いて行く事にした。
「いよいよやな。」
 ひきつった様な笑いを浮かべて、道男は言った。俊則は、そんな道男の顔を見て、同じく
ひきつった顔で笑った。                                        12

 道は、殆ど1本だった。そして真っ直ぐ続く。10分くらい行ったところで、目的の[畑]とい
う家に着いた・・・ハズだった。
「あらへん。て?」
「おう。」
 [畑]という家は、どこにもなかった。念の為、2、3度、辺りを回って、道行く数少ない通行
人にも聞いてみたが、そんな家はないという事だった。
「引っ越したんかな。」
 日記には、番地が書いてなかった。だから、正確な場所は分からないので[畑]という家が
存在していたのかどうかも分からなかった。
 俊則は、しばらく考えていたが、元来た道を歩き始めた。
「オイ、どうすんねん?」
 道男が、そう言って後からついて来る。
「帰えんねん。」
「マジかいや。」
「もう、ええねん。」
「もう、ええって、おまえ・・・。」
 道男はそれ以上、何も言わず、黙りこくった。また、俊則も家に帰るまで、終始無言だった。
俊則は、自分のふざけたような探索旅行へ付合ってくれただけではなく、自分勝手な旅の終
了宣言にも、得に訳も聞かずにいてくれた道男の友情に感謝した。後に、感謝した事を後悔
するとは知らずに・・・。

 数日が経った。俊則の頭の中から、許婚という言葉は、無くなっていた。父親の日記も、O
町から帰ってすぐに、元の父の机の引き出しへと戻してからは、1度も触っていない。
 お見合いパーティーをする以前の生活に、完全に戻っていた。
「ちょっと、本屋へ行ってくるわ。」
 俊則は、母親に店番をまかせると、本屋へと向った。天気は快晴。あくびをしながら、伸び
をする。そして足を止めた。更に建物の蔭に入る。何から身を隠したかというと、里中美智子
からである。正確には、美智子と一緒にいる男から・・・道男なのである。
「あいつ、いつの間に。」
 何とも複雑な気分だった。美智子の事は、ずっと気になっていたのだ。本屋に向かうのも、
別に欲しい本がある訳でもなく、ひょっとしたら美智子に会えるかもしれないという期待を持っ
ていたからなのである。                                        13

 許婚の事は、いともアッサリと忘れていた俊則だが、お見合いパーティーで出会った美智
子の事は、何とも忘れられないでいたのだ。
「マジかい・・・。」
 俊則は、にわかに信じられない光景を目で追った。道男と美智子の二人は、黙って並んで
歩いている。ついて行こうとも思ったが、何とも惨めなのでやめた。そして、二人が歩いてい
た方向とは逆方向へ足をむけて歩きだした。
 CD屋の前を通り過ぎようとした時、自動ドアが開いた。俊則は、吸い込まれるように店内
に入った。そして、しばらくCDを物色した。いや、物色している動作だけをしていた。頭の中
は、先程みた光景の事でいっぱいである。
 何て事だ。俊則は自分が動揺している事に気が付いた。普段立つ事のない演歌歌手のコ
ーナーでCDを手に取っていたからだ。CDのタイトルは[人情の花道]と書かれている。俊則
は、大きなため息をつくと、CDを元の場所に置いて店を出た。
「本は買わんかったんか?」
 俊則が手ぶらで帰ってきたのを見て、母親が声をかけたが、俊則は生返事を返して自分
の部屋に入った。もう、女なんか好きにならへん。その時、俊則はそう思ったという。
 次の日、商店街は休みだった。昼過ぎに、道男が遊びに来た。
「なんや、寝不足か?」
 道男は、俊則の部屋へ入るなり言った。
「まぁ・・・な。」
「何や。夜中に何か、いかがわしい事でもしとったんちゃうんか。」
「・・・・・・。」
「まぁ、ええわ。天気もええし、どっか行けへんか?」
「今日はやめとくわ。」
「何で?」
「何でも。」
 どちらかと言うと、道男はアッサリとしている方なのだが、今日は違った。
「ええやん。なんも用事はないんやろ?」
 妙にしつこく誘う。俊則としては、昨日の事があるから、道男とはしばらく一緒に居たくな
かったので、なんだかんだと理由をつけて断ろうとするのだが、
「ほら、行くど。」
 道男は、中々、引き下がらない。しまいには、俊則の手まで引っ張って誘うので、しぶし
ぶ、俊則は道男と出かける事にした。                                14

 外に出たのはいいが、道男は、特に何処へ行くのかを決めていた訳ではないらしく、ウ
ロウロと歩くばかりだった。
「なぁ、何処、行くねん?」
「ん?まぁ、ええやんけ。」
「えぇ事あるかい。せっかくの休みなんやぞ。意味なく歩くなんてもったいないやんけ。」
 どうせ部屋にいても、無駄に時間を過ごすであろう事を俊則は分かっているのだが、つ
い、そんな言い方をしてしまう。
「そう、怒んなや。茶ぁでもしばかへんか。」
「いらん。」
「ほな、ドライブや。」
「けっ。」
 俊則は、乗り気ではないのだが、何故か強引に道男が誘うのである。仕方がないので、
道男の車に乗る事にした。
 しかし、あれだけ強引に誘っておきながら、何故か道男は、一言もしゃべらなかった。ど
うなんとるんや?そんな疑問を抱きながら、俊則も黙って車に揺られる。
 だが、そんな沈黙も長く続く訳もなく、10分くらい経ってから、堪らず俊則が口を開いた。
「何処、行くねん?」
「・・・・・・。」
「おい。」
 よく、関西弁での会話は、喧嘩をしているように聞こえると言われる。ちょっとしたイントネ
ーションの違いなので、確かに誤解を招きやすい言葉である。それを活字にすると、もっと
誤解を招きやすい。しかし、この場合は間違いなく喧嘩腰である。
「そうやな。海でも行こか。」
「海?マジで?野郎二人だけでか?カンベンしてくれや。」
「まぁ、そう言うなや。」
「だいたい何やねん。おまえ、今日オカシイぞ。どないしてん?」
「・・・・・・。」
 俊則は、理由を聞いても、何も答えない道男の事がイラついてきた。
「俺だって、えぇ女と二人で海に行きたいわ。」
 道男が、ボソリと言った。なにぃぃぃ。おまえには里中美智子がおるやろ。俊則は、危うく
怒鳴りそうになったが、流石に我慢した。しかし、
「もう、ええわ。ここで降ろせ。」
 このまま、車に乗っているのには、我慢が出来なかった。道男の制止も聞かずに俊則は、
車から降りると、最寄りの駅まで歩いた。道男とは、二度と会わん。そんな事を思いながら。15

「何や。身体の調子でも悪いんか?」
 夕飯を食べる俊則の動きが、緩慢なのを見て母親が言った。
「何ともあらへん。」
 無愛想に俊則は答える。何でもない事はない。道男の事で、頭にきて食欲がないのだ。
「ごっつぉさん。」
 夕飯を大半、残して、俊則は自分の部屋へと向かう。俊則の背中に向って、何やら母親
が言ったが無視した。
 俊則は、部屋に入ったものの、何もする気が起こらない。タバコを咥えるとベットに寝転ん
だ。考えてみれば、そんなに怒る事ではなかったのかもしれない。道男が、俊則の知らない
女と付合っていたのであれば、笑って聞き流していたであろう。それに、道男と里中美智子
が、付合っているかとうかという事は、確かめていないので、ハッキリと分かっていないのだ。
 ひょっとしたら、俺の勘違いかもしらん。そんな事を思いながら、箱に1本だけ残っていたタ
バコを抜き取った。いやいや、俺は何を調子のええ事を考えとんのや。と思い直してグシャリ
と空箱を握りつぶした。
 タバコを2箱程、空にして、最後の1本を吸い終えた時に時計を見ると、午後10時だった。
「けっ。こんな調子やったら、寝られへんやないか。」
 そう言って、しばらく天井を見ていたが、すぐに寝息をたて始めた。駅まで歩いたりした疲れ
が出たようである。

 そんな、こんなで、3日が経った。俊則は、どうにか怒りも静まり、平常通りの生活に戻った
のだが、道男とは1度も会っていなかった。何となく気まずい感じが残っているのだ。道男の
方からも、会いに来なかったし、何の連絡もなかった。あいつ、怒っとるんかな?俊則は、そ
う思ったりするのだが、どうすることも出来なかった。
「トシっ。トシっ。」
 配達から帰ってきた俊則に、母親が駆け寄って来た。
「お客さんやで。」
「誰?」
「お、お、女の人や。」
「女って誰や?」
「え〜っと、誰やゆうたかいな。まぁ、そんなんは会ったら分かるがな。はよぉ来いぃな。」
 呑気な応対をする息子をじれったく思ったのか、母親は俊則の手を引っ張って、店の奥へ
と連れて行った。                                              16

 店と家を兼ねているため、店の奥は居間になっている。
「どうも、お待たせしました。」
 母親は、居間の戸を開くなり言った。俊則が、居間の中を覗いて見ると、そこには里中美
智子が座っていた。
「さ、里中・・・。」
「こんにちわ。」
 美智子は俊則と目が合うと、座ったままで、軽くお辞儀をした。
「なんで、ここにおんの?」
「・・・ちょっと、話したい事があって・・・。」
「そんな所で立っとらんと、中入ってゆっくり話したらええやろ。ほら。」
 母親はそう言うと、俊則の背中をたたいた。押されて中に入った感じになった俊則が、母
親の方を振り返って見ると、顔がやや赤い。アカン。興奮しとる。俊則はそう判断すると、
「分かった。そしたら、外で話そう。」
 そう言うと、美智子の横へ来て、手を引っ張った。
「え?」
 美智子は、戸惑いながらも立ち上がって、俊則に従い、居間から出る。
「ちょ、ちょっと、何やの。何処行くんなん?トシっ、中で話したらええやんか。オカァチャン
は、出とるさかい。」
「いや、ちょっと、出て来るわ。」
「なんでやの?」
「おじゃましました。」
「え、あぁ、お構いも出来ませんで。また来てなぁ。」
「はい。」
 危なかった。あの調子では、寿司まで頼みかねない。店から出た俊則は、母親の興奮振
りを思って苦笑した。
「ちょっと、待ってよ。」
 後ろから美智子の声がする。振り向くと、美智子は俊則から大分、離れた後ろを歩いて
いる。
 俊則は、慌てて立ち止まる。どうやら、俊則も興奮しているようだ。美智子が、小走りで追
いついて来た。                                               17

 何となく、近所の喫茶店に入る気がしなかったので、隣りの駅まで来ていた。俊則は、道
男の事を気にしたのかもしれない。
 そして、二人は、喫茶ゴマタレブーの中へ入った。以前、お見合いパーティーがあった時、
道男と待ち合わせていた所だ。窓際の席に腰掛けた。
「レモンティー。」
「俺は、トマトジュース。」
 それぞれ、飲み物を注文すると、気まずい沈黙となった。俊則は、ソワソワと窓の外とテ
ーブルの上を交互に見ている。美智子は、下をじっと見つめている。
 こんな光景、どっかで見たな。俊則は、ふと思った。そして、すぐに思い出した。本屋で美
智子と出会った後に行った喫茶店でも、こんな感じだった。
 何の用や?その一言が、何故か言えない。そのうちに、飲み物がやってきた。トマトジュ
ースで、喉を湿らせると、
「で?」
 俊則は、短い言葉ではあるが、やっとの事で、美智子に問いかけた。
「えっ?」
「だから。」
「うん・・・。」
 美智子は、下を向きながら、言い難そうにしている。
「道男と一緒におるとこ、見たで。」
「え?でもね、あれは違うの。」
「へっ?」
 中々、会話が噛み合わない。違うも何も・・・何が違う?俊則には訳が分からない。
「吉川君、許婚がいるんですってね。」
「な、何で?」
「許婚に会うために、四国まで行ったんでしょ。」
「あ、道男やな。おまえに言うたん。」
 道男の奴。人の事、勝手にベラベラしゃべりやがって。俊則は、怒りがこみ上げてきた。
「そう。道男君から聞いたの。でもね、道男君の事は怒らないでね。わたしが、しつこく聞き
出したんだから。」
 道男君。道男君。美智子が、道男の下の名前を口にする度に、俊則の怒りが増幅してい
った。荒々しくタバコを咥えると、ライターで火をつける。
「何で、そんな事、聞くねん?」
「だって。」
「あん?」
「だって・・・。」
「だって、何や?」                                             18

「だって、わたしが、その許婚だから。」
 タバコの灰が、俊則の指の間からポトリと落ちた。しかし、気づかぬ様子で、
「へっ?マジで?ウソやろ?」
「ホントよ。」
「だって、おまえの苗字、里中やろ?俺の・・は、畑ちゅうて。」
「里中畑雄。わたしのお父さんの名前よ。」
「え〜、下の名前ってか?ホンマかいや〜。」
「畑さんって、近所では呼ばれてたから、吉川君のお父さん、勘違いしたんじゃない。」
「ったく、クソおやじ。よう調べもせんと・・・飲み屋で、適当に約束しよったな・・・。」
 美智子は、冷めたレモンティーを口に含んだ。俊則は、固まったまま動かない。
「それでね・・・突然なんだけど・・・。」
「・・・・・・。」
「私達・・・結婚しない?」
「・・・・・・。」
「もちろん、すぐっていう事じゃないのよ。結婚を前提に付合ってみない?って事なの。」
「・・・・・・。」
「許婚だからって、こんな事を言ってるんじゃないの。でもね・・・。」
「・・・・・・あちっ、あちっ、あちちちち。」
 俊則の指に挟んでいたタバコの火は、フィルターちかくまで灰にして、指に接触したのだっ
た。

 それから3ヶ月して、俊則と美智子は、めでたく結婚した。二人が言うには、決して許婚だ
ったから結婚したのではないという。しかし、許婚だったという事で、お互いに普通の出会い
よりも、結婚を意識したのは事実であろう。
 結婚してから分かったのだが、美智子は俊則と知り合う前から、許婚という話しを親から
聞かされていていたらしいのだ。しかし、気にも留めていなかった。そして、偶然にも俊則の
友人の道男と付合って別れた。
 お見合いパーティーで、二人が出会ったのも偶然だったらしい。俊則と美智子は、結ばれ
るように運命づけられていたと言っていいのかもしれない。
 さて、ここで道男の事も書いておこう。俊則とは、すぐに仲直りをして、今でも悪友として仲
良く付合っている。しかし、一時は俊則と絶交とまでいきかけたのは、どうしてか。すべては、
美智子の元彼であった事が原因らしい。
 美智子の依頼で、俊則への恋の橋渡しをするハメになっていたのだ。許婚の件は、お見
合いパーティーで美智子に偶然、出会った日に聞かされていて、四国に俊則と捜索の旅を
した時は、知らないフリをして付合っていた。何とも、いい奴である。
 しかし、どうも頼りない。美智子の代わりに、許婚の件の真実を話そうと強引に俊則を外
へ連れ出したのだが、何も話せずに、俊則と喧嘩別れ。そこで、直接、美智子が出てきて
告白という事になったとのこと・・・。
 そんな道男も、1ヶ月後に、めでたく結婚する事になっている。相手は、お見合いパーティ
ーで道男に手を振っていた女性である。美智子の友人だったらしく、名前をみよちゃんとい
う。俊則が許婚の事で騒ぐ頃から付合っていたらしのだが、気を遣って黙っていたのだ。
 俊則と美智子との仲が、うまくいったという事で、今では事あるごとに、みよちゃん。みよ
ちゃん。と、アツアツ振りを披露している。
「考えてみると、あのお見合いパーティーは、俺と道男にとったら正解やった訳か。」
 俊則は、3軒離れた魚屋から届いた、結婚式の招待状を見ながら言った。
「そうね。わたしも王子様を見つける事が出来たし。」
 俊則の傍らで一緒に招待状を見ていた美智子が言う。
「あの時には、確か、ここにはおらん言うとったぞ。」
 俊則の顔は、照れて赤くなっている。
「よく憶えてるわね。」
「あんな変な事、言われたら、嫌でも憶えるって。それに、俺は執念深いところがあるから。」
「そう。あの時は、素直じゃなかったのよ。でもね、わたしも執念深いところがあるのよ。」
「ほんまか?そりゃぁ、せいぜい気ぃつけんとな。」
「そうよ。普段はそんな素振りは見せないけど。でもね・・・・・・。」




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