「ローラより愛を込めて」
                                                  l
 夕食の時間は、午後9時を回ってからだった。シーフード味のキャトフード。味は悪
くない。むしろ好きな方である。
 しかし、5日も続くとどうかと思う。僕に食事を与えてくれる秋子さんは、夕食の手を
止めて壁を見つめている。かれこれ、6分くらい経っているだろうか・・・。そろそろ、
覚ましてあげよう。
「ニャー。」
 秋子さんは、我にかえると箸を動かしだした。
 困ったもんである。最近の秋子さんは、僕がついてないと食事もろくに食べれない
のである。
 原因は分かっている。秋子さんは、恋をしているのだ。相手は、妻子持ちの男。人
間界でいう不倫というやつである。
 もっとも、まだ身体の関係はないので、不倫とまでは言えないのかもしれないが、
見る人がみれば、立派な不倫なのだろう。
 そんな訳で、秋子さんは食事も喉に、いや、手につかないありさまなのである。
「ニャー。」
 再び、壁を見つめていた秋子さんに、少し強い調子で呼びかけてみた。秋子さんは、
僕の方に目をやると、
「ローラ、美味しい?」
 呑気な事を言う。ローラとは、僕の名前である。人間界では、メスの名前らしいのだ
が、誰かさんの小説のように名前のないネコよりは、名前があるだけ、良しとしている。
僕に、この名前をつけたのは、秋子さんのお母さんで、名前の由来は秋子さんのお母さ
んが、歌手の西城某という男の・・・。
「ニャー。」
 秋子さんは、再び動き出した。参るなぁ、こんな調子では。会社ではちゃんと昼ご飯は
食べてるのだろうか。心配である。
 だいたい、あの男が悪いのである。あの男というのは、
「喜一郎さん」
 秋子さんが壁に向かって、つぶやいた。そう、その喜一郎である。喜一郎という男は、
秋子さんの勤めている会社の上司で、年齢は秋子さんより12歳ほど年上。と言う事は
34歳か。結婚してから7年目で、子供は・・・。
「ニャー。」                                                1

 秋子さん、頼むよぉ。
 え〜と、子供は5歳の男の子が一人。奥さんは6歳年下。見かけは円満な家庭なのら
しいのだが、喜一郎が言うには冷めた家庭だという。
 秋子さんと仲良くなったのは、仕事で、あるイベントを喜一郎と一緒に担当した時から
らしい。喜一郎の方から、猛烈なフェロモンを、いや、モーションをかけてきたようである。
 おかげで、恋愛には免疫がない秋子さんは・・・。
「ニャーオ。」
 もぉ〜。秋子さ〜ん。
 結局、秋子さんが食事を終えたのは、僕が23回鳴いた後だった。どうしたもんだろう。
秋子さんには、しっかりしてもらわないと困るのだ。僕の死活問題なのだ。
 人間と共存するようになってから、僕達ネコは、エサを取る事をしなくなった。そうなる
と、エサをくれる人間が元気でいてくれないと、大変な事になるんだなぁ。
 もともと、秋子さんは不倫を否定していたんだ。まったく興味がなかったと言っていい。
それをどう口説いたか、喜一郎の奴め。
 多分、不倫は今回が、初めてじゃないに決まっている。そんなニオイが、プンプンと僕
には匂うのだ。
 別に僕は、不倫には反対ではない。むしろ奨励したいくらいだ。だって、僕らが子孫を
残すには、未婚か既婚かなんて選んでられないからだ。もっとも、ネコには結婚はないけ
どね。
 なのに、僕が喜一郎を悪く言うのには、2つの訳があるんだ。
 その1、不倫は良いと言ったが、それは平和的展望が抱けるケースで、秋子さんの場
合は、とてもそんな展望は望めそうにないもんなぁ。まぁ、平和的展望の抱ける不倫なん
てあるもんか。って、人間には怒られるかもだけど。
 その2、これが割合として、大きく占めるんだけど、喜一郎はネコが嫌いなのだ。これは
僕にとっては、重要な事ですよ。喜一郎が、頻繁に、ここを訪れるようになると、僕はここ
を出ていかなきゃならなくなるもんね。
 もっとも、ここを追い出されても、ゴミをあされば何とか食っていけるかもしれないけど、
縄張りをめぐる他のネコとの兼ね合いなんてのもあるから、今さらそんな面倒な事は御免
なのである。
 午前0時、秋子さんはベットに入った。入ったと言っても、寝るわけではない。寝れない
のだ。秋子さんは、しばらく天井を見ていたが、スタンドのライトをつけて本を広げた。    2

 本を広げたのはいいけど、多分、活字を目で追うだけなんだろうなぁ。だって、いつまで
たってもページをめくらないんだもん。
 そして、午前3時。秋子さんは、まだ眠れない様子。早く寝ないかな。夜行性の僕も、秋
子さんが眠れるように、暴れずにいるんだからさぁ。
 人間と僕達ネコは、主従関係では決してない。少なくとも、僕らはそう思ってない。友人
関係という表現が、ピッタリくるかな。いや、それより、ちょこっとクールにした感じの方が
正確かもしれない。
 しかし、僕と秋子さんは、とてもフレンドリーな関係だと思う。いや、僕的には、家族のよ
うにも感じている。なんせ僕は、変わりネコなもんで。
 そんな訳で、秋子さんの不幸は身内の不幸。なんとかしなくては。
 結局、秋子さんが、眠ったのは午前4時を回ってからだった。開いた本は、1ページもめ
くらないままで。
 そして、午前7時、目覚し時計が鳴った。秋子さんは、ゆっくりと起き上がる。ねぇ、秋子
さん。今日は、休もうよ。
「ニャーオン。」
「おはよ〜う。ローラ。」
 朝の挨拶じゃないのにぃ。
 僕の朝食は、当然シーフード味のキャットフード。いいんだよ、秋子さん。全然、気にして
ないからね。でも。
「ニャー。」
 午前8時、秋子さんは出勤していった。心なしか、頼りない足取り。う〜ん。僕もついて行
きたいと思うのだが、何分、僕は座敷ネコなもんで・・・ゴメン。秋子さん。
 でも、どうしょう。こんな生活をしてたら、本当に秋子さんがダメになってしまう。う〜ん。う
〜ん。浮かばないぞぉ。う〜ん・・・。
 知らない間に眠っていたようだ。でも、少しだけひらめいた。恋を忘れさせるには、別の恋
をさせる事だ。そんな事を秋子さんが観てたテレビドラマで、言っていたのを思い出した。
 よし、秋子さんには、喜一郎から離れる為に、別の男に恋してもらう。うん。我ながらいい
考えに思えてきた。
 さて、それではどうやって、他の男に恋してもらうかだが。う〜ん。う〜ん。今度こそ本当に
浮かばないぞぉ・・・。                                          3

「ただいまぁ。」
 秋子さんの声で眼が覚めた。どうやら、また眠ってしまっていたようである。午後6時。お、
今日は早いぞ。
 僕は飛び起きると、秋子さんの出迎えに玄関まで走った。おかえり〜。
「ニャ〜オ。」
「おじゃまします。」
 む、男の声。喜一郎?やっぱりそうだ。写真通りの顔だなぁ。どちらかと言うと写真の方が
良い男だな。
「う、ネコ。」
 露骨に嫌がってくれてありがとう。僕も嫌いだよ。
「ちらかってますけど、どうぞ上がって下さい。」
 秋子さん、どうして喜一郎なんか連れてきたの?
「ニャー。」
「大したものは作れませんけど、座って待ってて下さいね。」
「ニャー。」
「気を使わなくていいよ。君が作るのなら、何だって食べるよ。」
「ニャー。」
「またぁ、そんなこと言ってぇ。」
「ニャー。」
「本当だよ。」
 オイオイ、無視ですか。僕は、まったく相手にされてない様だ。しかし危ないなぁ、喜一郎と
二人きりだなんて。男と女が、一つ屋根の下・・・。う〜、これは、危ないですよぉ。
「う〜ん、良いニオイがしてきた。」
 だんだんと、喜一郎の顔がいやらしく変わってきたぞ。まずい。僕が、秋子さんを守らねば。
「そうですかぁ。」
 秋子さん、もうちょっと、警戒心っていうのを持ってもいいんじゃない。
「ここって、ホント広いよなぁ。一人で暮らしてるんだろ?」
 とことん、僕の存在を無視してくれるねぇ、喜一郎君。
「えぇ、でも正確には一人と一匹かな。ねぇ、ローラ。」
「ニャ〜オ。」
 喜一郎は、僕の顔を見ると顔を歪ませた。そして3秒後、スリッパが、僕めがけて飛んでき
た。
「ごめんよ。ちょっと足がすべったみたいだ。許してくれよ、ロ・オ・ラ。」              4

 さてもさても、露骨に嫌がらせをしてくれるねぇ。キ・イ・チ・ロ・ウ。
「本当に、ごめんなさい。こんなのしか出来なくって。」
 秋子さんは、皿を2つ、テーブルの上に置いた。皿にはスパゲティーがのっている。
「いやぁ、僕こそ悪かったね。突然、お邪魔して。」
「そんなぁ。」
「ニャー。」
「あら、ローラ、ごめんね。ローラもご飯よね。」
 午後6時30分。久し振りに普通の時刻に夕食だ。
「へぇ、キャットフードにシーフード味なんてあるのかぁ。俺は、キャットフードって、みんなシー
フード味かと思ってたよ。」
 喜一郎は、キャットフードの缶を手に取って、しげしげと見ている。フン。無知な奴だ。それ
になんて顔だろう。缶を見ている喜一郎の顔は、ほんとマヌケ面をしている。こんな奴をどう
して秋子さんは、好きなんだろう。
「あら、そうなのよ。最近のキャットフードって、いろんな味のがあるの。」
 最近、僕は、いろんな味には、ご無沙汰だけどね。秋子さんは、キャットフードの缶を開け
て、僕の食事用の器に中身を移した。
「特にローラは、シーフード味のキャットフードが好きなの。ねぇ。」
 ま、まぁ、ね。
「篠田君は、こんな広い所で一人で住んでて、淋しいと思った事はないかい。俺だったら、淋
しいけど。」
 喜一郎は、秋子さんがテーブルにつくなり、そう言った。言ってなかったけど、篠田というの
は、秋子さんの苗字なのです。
 それにしても、喜一郎の奴、さっきから、広い、広いって、しつこいなぁ。いいじゃないか。大
きい事は良い事だぁ〜♪って言うだろ。
「う〜ん、そうねぇ。確かに淋しい時もあるけど。」
「たまには、こんな団らんもいいだろ。」
「そうね。」
「じゃぁ、たまに遊びに来てもいいかな?」
 いやらしい。いやらしい。まったく、いやらしい。それが言いたくて、さっきから、広い、広い
って言ってたんだな。                                           5

 秋子さんが、もとい、秋子さんと僕が暮らしてるこの家は、確かに広い。平屋だけど、ちゃ
んとした一軒屋なのだ。
「いいですよ。でも、叔母さん夫婦が帰ってくるまでね。」
「叔母さん夫婦?」
 元々この家は、秋子さんの叔母さん夫婦の家らしいのだけど、叔母さん夫婦が海外赴任
で家を出ているので、その間、秋子さんが暮らすという事になっているようだ。
「ふ〜ん。で、その叔母さん夫婦は、いつ頃、帰ってくるんだい?」
 喜一郎は、頬杖をつきながら、フォークにパスタを巻きつけている。なんとも行儀の悪い奴
だ。
「それが、分からないの。」
 でも、当分は帰って来ないそうなのである。でも、秋子さん、そんな事を喜一郎に言っちゃ
ダメだよ。だって、
「とうぶんは・・・。」
 あ〜、ダメダメ。
「ニャー。」
「糖分は、疲れをとるんですよねぇ。食後にケーキでも食べます?」
「ニャァ〜?」
 午後7時ちょっと過ぎ。気苦労の多い夕食は終わった。が、依然として、秋子さんの危険な
夜は続くのである。先程までは、スパゲティーの皿がのっていたテーブルの上には、ショート
ケーキとコーヒーがのっている。デザートタイムなのだ。
「しかし、叔母さんの家だったら、気を使うだろ?」
 喜一郎は、ケーキの上にのってるイチゴを食べながら言った。オイオイ、喜一郎くん。また、
その話題かい?会話が乏しいねぇ。
「そうでもないわよ。」
 秋子さんは、イチゴを残して、着実にケーキを切り崩していく。
「でも、自分の好きな物をあまり置けないだろ?だから、こんなに小奇麗なのかい?」
「ううん。わたしって、あまり物を置かない人なんですよ。」
 おかげで、快適に走り回らせて戴いてます。しかし、喜一郎の奴、やたらと家の話題をひっ
ぱるなぁ。これは、何かありますよ。きっと。
「そっか。それにしても、このケーキおいしいね。どこで買ったんだい。」
 あれ、露骨なくらい話題を変えたぞ。何故だろう??                       6

 午後9時。喜一郎は帰って行った。秋子さんは無事で何事も起こらなかった。いや〜、秋子
さん、よかったねぇ。僕は、秋子さんの足に身体をこすりつけながら秋子さんの無事をよろこ
んだ。
 午後11時。今までの疲れが出たのか、秋子さんは、死んだように眠りについた。明日は、
日曜日。ゆっくり眠るといいよ。
 さて、それでは僕は、昨日まで遠慮してた分、暴れるとしますか・・・。と思ったけど、僕も疲
れたので、寝る事にした・・・。

「ピンポーン」
 午前9時。呼鈴の音で目が覚めた。
「はぁ〜い。」
 秋子さんも目覚めたようだ。
「すみません。」
 男の声だ。声の質からみると、若いぞ。秋子さんは、チェーンロックをかけると、ドアを少し
だけ開けた。予想通り、若い男が立っていた。
「あの〜、うちのネコが、こちらの庭に入ったっきり出てこないんですよ。もし、よかったら、庭
に入って捕まえてもいいでしょうか?」
 ネコ?僕は、聞き耳をピンと立てた。僕は座敷ネコとはいえ、縄張り意識を一応もっている。
庭というのは、立派に僕の縄張り内である。それなりの警戒と警告の行動をとらないといけな
い。
「ちょっと待って下さい。今、見てきますね。」
 秋子さんと僕は、庭に急行した。そして僕達は、2畳そこそこの庭に、ちょこんと座っている
真っ白な毛をしたメスネコを確認した。
「まぁ、可愛い。」
 秋子さんの第一声に、僕は賛成した。まったくもって、か、可愛い。運命の出会いだ。僕は、
動物的な感覚でそう感じた。
「ニャーオン。」
 僕が挨拶すると、
「ニャオン。」
 と彼女は答えた。好印象のようだ。良い感じ。
 秋子さんは庭に出ると、彼女を抱きかかえた。彼女は、飼いネコらしい大人しさで、何も抵
抗をしない。秋子さんは、そのまま飼い主のいる玄関に向かった。                7

「大人しいネコさんですね。」
「あ、どうもすみませんでした。」
 男は、彼女を秋子さんから受け取った。
「普段は、大人しいんですけど、車のクラクションに驚いたみたいで。」
 彼女、名前はなんて言うんだろう。
「最近、こちらに越してきたもんだから、慣れてないのもあるかもしれないんですがね。」
「そうなんですか。」
「ご迷惑をおかけました。」
 男が、行ってしまう。どうしよう。彼女の名前はなんて言うんだ。?
「ニャ〜。」
「いえいえ、いいんですよ。」
「それじゃ、失礼します。」
「ニャ〜。」
 あ、あの、名前は〜??男は去って行った。真っ白な毛並みの彼女をつれて・・・。
「ローラ、あのネコちゃん可愛かったわね。」
 まったくである。また、会えないかなぁ。ちょっとした失恋を引きずりながら、僕はお気に入
りのカメのクッションの上に丸まった。
「ニャ〜〜ォ。」
 ため息も出ようもんである。
「あら、ローラ。お腹が減ったの?」
 もう1度、ため息が出たのは言うまでもない。
「ピンポーン。」
 午前10時33分。呼鈴が鳴った。日曜の午前だというのに、来客が多いもんだ。ま、昨夜
は、秋子さんもよく寝れたみたいなので、今日のところは安心して僕は眠ろう。白毛の彼女
の夢でも見ながら。
「こんにちわ〜。」
 ん?ん?ん?あの声は?僕は耳をピンと立てた。
「お昼を秋子さんと食べようとおもってぇ〜。」
 やれやれ、間違いない。まよだ。起き上がって確認する必要もない。だって、どうせ、
「きゃ〜、ロ〜ラ〜。」
 あと2秒ほどで、僕は、まよに抱きかかえられて、振り回される事になるのだ。         8

「ニャー。」
 冷たい感触が、身体に走った。まよが親指にはめている指輪のせいだ。やや幅広な為か
僕の体毛を通して金属の冷たさが伝わってくる。どうして親指に指輪を?そんな事を考えて
ると、身体が中に浮いた。厳密には、持ち上げられたのだ。
「ロ〜ラ〜♪ロ〜ラ〜♪」
 そして、まよは歌に合わせて、僕を振り回し始めた。あのね、まよちゃん。地球は回ってる
んだから、何もわざわざ回してくれなくてもいいんだけどね。
「まよちゃん、お昼って何を食べるの?」
「あ、それはですねぇ。」
 まよは、来る途中で買ったらしい食材の入ったビニール袋の方へ向かう。その際、僕は、
まよのメリーゴーランドから開放された。やれやれ、しばらく遊園地には行かなくてもいい。
「今日は、スパゲティーを作ろうと思ってぇ。」
 秋子さんの顔が、少し強ばった。因果は巡るもんだ。
「どうかしたんですか?」
「ん、ううん。何でもない。」
 少し僕の顔がニャーけたのは、失礼、ちょっと回され過ぎたようだ・・・にやけたのは言うま
でもない。
 午後12時10分。昼食である。テーブルの上には、スパゲティー。僕の皿には・・・もう書か
ない。
「いっただっきま〜す。」
 元気な声を出して、まよは食べ始めた。
 中西まよ。年齢は20歳。秋子さんの会社の後輩である。秋子さんとは、両極端な性格な
のだが、何故か気が合うらしく一緒に買い物をしたり、食事をしたり、こうやって秋子さんの
家へ遊びに来たりするのだ。
 僕も嫌いじゃない。ただ、苦手なのだ。どうもあの愛情表現には参ってしまう。どう対応し
たらいいのか戸惑ってしまうから。
 午後12時53分。食後のティータイムに入った。先程まで置かれていたスパゲティーの皿
は、レモンティーのカップに変わっていた。湯気と共にレモンの香りが漂う。僕は、柑橘系の
匂いは苦手なのだけど、紅茶の香りで薄まるから何とか我慢できる。
 他愛のない話しが始まった。今なら寝れそうである。でも、今まで、まよが来て普通に寝れ
た経験がないから多分・・・。                                        9

「ところで秋子さんは、三宅さんと、付き合ってるんですか?」
 突然、まよが言った言葉に、ピクっと、僕の耳は反応する。やはり、寝れそうにない。三宅
というのは、言いたくなかったけど、喜一郎の苗字である。
 しばらく、部屋の中は静まり返った。
「どうして?」
 やや動揺した感じの声で、秋子さんは言う。
「みんな、口にはしてませんが、そう思ってるみたいです。」
「ホントに?」
「えぇ。」
「ホントに?」
「えぇ。ホントにホントです。」
 あぁ、秋子さんは、ホントにホント、動揺してしまっているようだ。無理もない。今まで、誰に
も知られていない、ロマンティックな、それでいて危険な秘めたる恋をしているつもりでいたの
だから・・・。
「付き合ってるんですか?」
 まよは、更に問い掛ける。
「ううん。付き合ってなんかいないわよ。」
 弱々しく、秋子さんは答える。白状するのも時間の問題である。
「あぁ、付き合ってるんですねぇ。」
「うん・・・。あ、でも、そんな、ただ、一緒に食事をしたりするだけだから。」
「私は、三宅さんとは反対です。」
「まよちゃん・・・。」
 いいぞ、まよちゃん。一見、幼く見えるまよだが、何かと経験は豊富で、不倫なども2回程
経験しているという。それだけに、まよの発言には説得力がある。
「わたしの経験から言って、三宅さんはダメです。秋子さんは、ただ、遊ばれるだけで終わる
と思います。」
 いいぞ、いいぞ。もっと言ってくれ。拍手したい気分だが、生憎、肉球がじゃまして音は鳴ら
せそうにないからやめておく。
「それでも、不倫がしたいのであれば、わたしが別に、いい不倫相手を紹介します。」
 ニャン?オイオイ。それは、冗談だろ??
「冗談です。」
「ニャ〜。」                                                  10





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