助詞の語法(文法)
a.理由を表す接続助詞「〜しけー」
「〜から」と理由を表す接続助詞として、「〜しけー」が多用される。但馬の中でも地域によって、また年齢層によって、「〜しけゃー」、「〜さけー」、「〜さけゃー」となることもある。上方方言の「〜さかい」に相当する。
<例1>理由を表す接続助詞「〜しけー」の用例
腹が減るしけー、よーけご飯を食べて行け。(お腹が減るから) 今日は雨だしけー、運動会は中止になった。(雨だから) 人がよーけ見とんなるしけー、カラオケ歌うの恥ずかしいわ。(人がたくさん見ておられるから) 外は晴れて気持ちがええしけー、いっしょに散歩に出ようか。(気持ちがいいから)
また、文頭で「だしけー」(だから)の形で使われることもある。
<例2>「だしけー」(だから)の用例
今日はお客さんが来なる。だしけー部屋を片付けようや。 テストの時に困るだら。だしけーな、毎日少しずつ単語を書く練習するんだで。(だからな)
b.理由を表す接続助詞「〜で」
「〜から」と理由を表す接続助詞として、「〜しけー」の他に「〜で」も多用される。
<例3>理由を表す接続助詞「〜で」の用例
きのうは雨がよー降ったで、円山川の水がごっつい増えとるわ。(雨がよく降ったから) 今回は一生懸命勉強したで、テストの点が25点も上がった。(一生懸命勉強したから)
また、文頭で「だで」(だから)の形で使われることもある。
<例4>「だで」(だから)の用例
することがあるしけー、ちょっと遅れて行くわ。だで先に食事をしといて。 きのうは一日中海で泳いだんだわ。だで今日は体がごっついだるい。
c.疑問を表す終助詞「〜けぇ」
「〜か」と共通語で疑問を表す終助詞に、但馬では広く「〜けぇ」が用いられる。「け」がやや長音化された音である。しかし、共通語の「〜か」よりもやわらかい語感がある。どの年齢層でも結構頻繁に使われる。
<例5>疑問を表す終助詞「〜けぇ」の用例
きのうわざわざ神戸に行ったんけぇ。(神戸に行ったのか)−−−行ったぁで。 宝くじで10万円当たったーで。−−−ほんまけぇな。(本当か) 君は谷口さんを知っとるんけぇ。(知っているの)−−−うん、よう知っとるで。 買う物はこれでええんけぇなぁ。(これでいいのかなぁ)−−−それでええで。
d.疑問を表す終助詞「〜ん」
「〜の」と共通語で軽く疑問を表すための終助詞として、「〜ん」が広く用いられる。発話するときは上げ調子で行う。
上にあげたc.「〜けぇ」の直前に用いられ、「〜んけぇ」の形になることも多い。(c.疑問を表す終助詞「けぇ」参照。)
<例6>疑問を表す終助詞「〜ん」の用例
買い物にはいつ行くん。(いつ行くの)−−−昼過ぎに行こう。 先生、このプリントはここに名前を書くん。(書くの)−−−うん、そこに書いてくれるかな。
また、過去の疑問でも用いられ、「〜したん」ともなる。
<例7>疑問を表す終助詞「〜ん」−過去を表す用例
先週大阪に行ったん。(行ったの)−−−ううん、行けへんなんだ。(行かなかった) 自分の持ち物には全部名前を書いたん。(書いたの)−−−はい、書きました。
e.疑問を表す終助詞「〜でぇ」
「なに」、「いつ」、「どこ」、「なんで」などの疑問詞で始まる疑問文の文末に、疑問を表す終助詞「ん」に接続する終助詞「〜でぇ」がある。この場合、終助詞「ん」で終わっても意味は成立するが、「〜でぇ」を付けることによって、相手にほんのわずかではあるが敬意を表し、やわらかい語感となる。
<例8>疑問を表す終助詞「〜でぇ」
何を見とるんでぇ。(見ているの) いつ仕事から帰ってきたんでぇ。(帰ってきたの) どこに行っとったんでぇ。(行ってたの) なんで今日はこんなはよう家を出るんでぇ。(家を出るの)
f.二つの動作の同時進行を表す接続助詞「〜(し)もって」
二つの動作の同時進行を表す場合、共通語では「〜(し)ながら」に相当する語として、接続助詞「〜(し)もって」が用いられる。
<例9>二つの動作の同時進行を表す接続助詞「〜(し)もって」の用例
歩きもってお菓子を食べたらあかんぞ。(歩きながら) 生徒たちの帰るのを見もって車に乗っとった。(見ながら) ラジオを聞きもって洗濯した。(聞きながら) 今日の帰りは里恵ちゃんと話しもって帰った。(話しながら)
g.強調を表す終助詞「〜がぁ」
「〜じゃないか」、「〜じゃないの」と強調の意味を加えるはたらきのある終助詞に、「〜がぁ」がよく用いられる。その状況にもよるが、「強調」とはいうものの、語感としては比較的やわらかい。動詞、助動詞、形容詞、形容動詞の終止形に接続する。
<例10>強調を表す終助詞「〜がぁ」の用例
明日は日曜日だしけー、ゆっくり休んだらええがぁ。(休んだらいいじゃないか) あんたの家もものすごい大きいがぁ。(大きいじゃないの) この部屋も静かだがぁ。(静かじゃないか) 私らが学校を出るとき、雨が降りよったがぁ。(降り始めていたじゃないの)
h.念を押したり、軽い感動を表す間投助詞「〜なぁあ」
文節の切れ目や文末に置き、相手に念を押したり、軽い感動を表す間投助詞に、「〜なぁあ」が頻繁に用いられる。上げ調子で発話する。
私個人として、この語をかなり頻繁に用いるため、私の話し方の特徴でもあると周囲からよく言われる。
<例11>念を押したり、軽い感動を表す間投助詞「〜なぁあ」の用例
ここに咲いとるコスモス、ごっついきれいだなぁあ。(きれいだね) ほんでなぁあ、今度の日曜日になぁあ、大阪の友だちの家に行こうと思っとるんだわ。(それでね)(日曜日にね) 先生、理科のテスト100点だったで。−−−そうか、よかったなぁあ。(よかったね) ここの砂浜、わりと広いなあ。−−−そうだなぁあ。(そうだね)
i.強い自己主張を表す終助詞「〜っちゃ」
強い自己主張を表す語に、終助詞「〜っちゃ」が用いられる。共通語では「〜ってば」などに相当する。
ニュアンスとしては、強く自己主張し、相手を非難するような面がある。自分が相手から信用されてない場面などでよく用いられる。
<例12>強い自己主張を表す終助詞「〜っちゃ」の用例
もっと勉強せんと、高校に受かれへんぞ。−−−ちゃんと勉強しとるっちゃ。(勉強してるってば) あんたの部屋、もっときれいにせんとあかんで。−−−きれいだっちゃ。(きれいだってば) 今度泊まる民宿の部屋広いかなあ。−−−広いっちゃ。(ひろいってば) 肉ばっかり食べとったらからだに悪いぞ。もっと野菜を食べっちゃ。(食べなさいってば) あれが上田君の家かなあ。−−−絶対そうだっちゃ。(そうだってば)
j.自己主張を表す終助詞「〜がな」
「〜っちゃ」ほど強くはないが、相手をやや非難するニュアンスを含む表現に、終助詞「〜がな」が用いられる。上方方言で使用されるものとほぼ同じと考えてよいと思う。
<例13>自己主張を表す終助詞「〜がな」の用例
僕のメガネどこに置いたかなあ。−−−目の前にあるがな。(目の前にあるじゃないか) テレビゲームばっかりしとらんと、宿題もしねーよ。−−−するがな。(するよ) こんな時間までテレビ見とって、ええんか。−−−まあ、ええがな。(まあ、いいじゃないか) 静かにしとらんと、お客さんの迷惑になるで。−−−静かにしとるがな。(静かにしてるじゃないか)
断定の助動詞「だ」に接続し、「〜だがな」の形でよく用いられる。これは但馬の代表的な表現であると思う。
<例14>「〜だがな」の用例
あんたんとこの子どもさん、大きいなんなったなあ。−−−そうだがな。(そうなんですよ) なんで今度の金曜日に休みをもらうんでぇ。−−−友だちの結婚式に出るんだがな。(結婚式に出るんだよ) きのう8時間も勉強したって。ほんまかぁ。−−−ほんまだがな。信じてーな。(本当だよ) 先生、今からテストするの。−−−うそ、うそ。冗談だがな。テストはせーへんけど、みんながんばれよ。(冗談だよ)
k.相手に言い聞かせながら強調するはたらきのある終助詞「〜で」
相手に自分の言いたいことを言い聞かせながら強調する場合、終助詞「〜で」が用いられる。共通語では「〜よ」にあたる語である。
<例15>相手に言い聞かせながら強調するはたらきのある終助詞「〜で」の用例
もう今日の仕事は終わりだしけー、今やっとることがすんだら帰ってええで。(帰ってもいいよ) 君からもらったおみやげの饅頭、家に帰ってから家族で一緒に食べるで。(食べるよ) もう時間になったで、そろそろ行くで。(行くよ) 先生、A組全員集まったで。(集まったよ)
断定の助動詞「だ」とともに用いられ、「〜だで」の形で用いられることも多い。また場合によって、「〜だぁで」と「だ」がやや長母音化される場合もある。
<例16>「〜だ(ぁ)で」の用例
わたし、今度の中間テストで英語90点も取ったんで。ほんまだ(ぁ)で。(本当だよ) ここに置いてあるきれいな花、君が家から持ってきたの。−−−うん、そうだで。(そうだよ) 今日は風邪ひいてえらげだしけー、家に帰ったらすぐに寝るんだで。(すぐに寝るんだよ) 明日から旅行だけど、準備は大丈夫か。−−−大丈夫だで。(大丈夫だよ) 喜代ちゃん、祥子ちゃんから電話だ(ぁ)で。(電話だよ)
l.場所を表す格助詞「〜から」
場所を表す格助詞として「〜から」が用いられる。共通語では「〜で」にあたる語である。
現在この用法が比較的多く使用されている地域は、私が確認したところでは、但馬北西部の美方郡浜坂町、温泉町、城崎郡香住町である。豊岡市などでも使用されるが、使われ方がかなり限定されているように思う。鳥取県の因幡へと続く山陰東部の用法である。
<例17>「〜から」の用例
家から宿題をやって来た。(家で) 香住町以西のみ 遠足で山から弁当を食べた。(山で) 香住町以西のみ 家からご飯食べた。(家で) 豊岡市でも使用 川から魚を釣ってきた。(川で) 豊岡市でも使用
上記用例の1行目と3行目はともに「家から」となっている。1行目の用例は豊岡市では使われないが、3行目の用例は豊岡市でも使われる。
但馬の中でも、この用法を使用しない地域に育った人々にとっては、共通語の起点を表す格助詞「〜から」との混同による間違った語法であると捉える傾向がある。実際はそうではなく、古くからその地域に根付いた方言としての助詞の用法の一つである。
平安時代に成立したと考えられている「落窪物語」に次の記述がある。
徒から(徒歩で)罷りて、言ひ慰め侍らむ
ここに出ている「から」の用法は、「動作の手段・方法」である。この用法から変化したものではないかと考えられる。
m.理由を表す接続助詞「〜けー」
「〜から」と理由を表す接続助詞として、「〜けー」がある。使われる地域は、美方郡(浜坂町、温泉町)である。鳥取県へとつながる用法である。但馬地方の他の地域では「〜しけー」、「〜さけー」などとなる。「a.理由を表す接続助詞『〜しけー』」を参照していただきたい。
<例18>「〜けー」の用例
友だちと一緒に鳥取に行くけー、明日は留守番をたのむわ。 その本持っとるけー、貸してあげる。 風邪ひいてえらいけー、今日は学校休みます。
n.条件を表す接続助詞「〜(し)しゃーしゃ」
実現する可能性が高いことがらを述べる場合、その条件節に接続助詞「〜(し)しゃーしゃ」を使う。共通語では「〜(し)さえすれば」に相当する表現である。動詞の連用形に接続する。
<例19>「〜(し)しゃーしゃ」の用例
毎日こつこつ一生懸命に働きしゃーしゃ、ちょっとずつでも貯金ができる。 この地図にかいてあるとおりに行きしゃーしゃ、目的地に行けるで。 お父さんやお母さんの言いなることを聞きしゃーしゃ、間違いないわ。 給食で出されたもんを食べしゃーしゃ、栄養のバランスがとれる。
o.疑問を表す終助詞「〜だか」
「〜のか」、「〜か」と疑問を表す終助詞に「〜だか」がある。使用される地域は、城崎郡(香住町)、美方郡(浜坂町、温泉町)である。鳥取県へとつながる用法である。
<例20>「〜だか」の用例
貸してほしいと言っとった本持ってきたけど、この本でええだか。 勉強が終わったら、海に泳ぎに行ってもええだか。 香住にかにの美味しい民宿がよーけあるけど、食べに行ったことあるだか。 きのうの夕方、きれいな虹が出とったけど、見ただか。
p.親愛の意味を含めた自己主張を表す終助詞「〜うぇーな」
相手に親愛を表しながら自己主張をする場合、終助詞「〜うぇーな」が用いられる。共通語では「〜よ」が近いものであるが、話者と聞き手との間に、さらに親近感を感じさせる大変柔らかい響きと語感がある。男女ともごく自然に用いられるが、どちらかというと女性的なやさしさが感じられる。親しい間柄で用いられる。類義表現としての「〜わいや」を参照のこと。
<例21>「〜うぇーな」の用例1
一生懸命に料理を作ったけど、お客さん気に入りんさっただろうか。−−−大丈夫だうぇーな。気にしんさるな。 今日、出石に行って、美味しいそばを食べてきたうぇーな。−−−そりゃよかったなあ。こんど一緒に行かー。 上手な絵だねーけぇ。だれがかきなった絵。−−−うちげの娘ですうぇーな。 大根の炊き具合はこんなもんだらーか。ちょっとかたいかなあ。−−−こんなもんだうぇーな。
ただし、すねたような場面で用いられる場合もある。
<例22>「〜うぇーな」の用例2
うちの言っとること、全然わかってくんなれへん。もう、ええうぇーな。−−−ごめん、ごめん。もういっぺん話しておくれぇ。 学校でちゃんと先生の話聞いとるんけえ。−−−聞いとるうぇーな。
q.勧誘を表す終助詞「〜や」1
親しい間柄で、相手に何らかの行動を勧誘する場合、終助詞「〜や」が用いられる。共通語の「〜よ」にあたる。ただし、あまり親しくない場合に使用すると、相手に失礼となる。動詞の命令形に接続する。
<例23>「〜や」1の用例
この日本酒美味しいぞ。まあ、一杯飲めや。(飲めよ) おもしれーテレビやっとるぞ。こっちに来いや。(来いよ) 日が暮れたぞ。もう、家に帰れや。(帰れよ) 家で勉強ばっかりしとらんと、たまには友だちの家に遊びに行けーや。(行けよ)
r.勧誘を表す終助詞「〜や」2
親しい間柄で、相手に自分とともに同じ行動を勧誘する場合、終助詞「〜や」が用いられる。共通語の「〜よ」にあたる。ただし、あまり親しくない場合に使用すると、相手に失礼となる。動詞の意志形に接続する。
<例24>「〜や」2の用例
今度オーストラリアに行くんだけど、一緒に行かーや。(行こうよ) このCDええ曲が多いなあ。もう一回聴かーや。(聴こうよ) 今度の連休豊岡に帰るんだけど、そのとき会わーや。(会おうよ) 今日、歌番組があるぞ。家族そろって見らーや。(見ようよ)
s.疑問・反語を表す終助詞「〜かいや」
大きく二通りの使用が考えられる。どちらの用法も、どちらかというと男性語である。また、親しい間柄や目下に対して用いられる。用言の終止形に接続する。
1 相手が述べたことに対して、何らかの疑いの念を持ち、反語的に返す場合。
イントネーションによっては、相手に対してかなり強く非難する感じとなる。ただし、親しい間柄の場合は、必ずしもそうとはかぎらず、親愛を込めた相づちになる場合もある。
2 相手に語りかけ、念を押したり、同意を得ようとする場合。
自分の行動や言動などに自信が持てない場合によく用いられる。
<例25>「〜かいや」の用例
1の例 お父ちゃん、数学のテストで100点とったで。−−−ほんまかいや。(本当か。嘘だろう。/本当か。驚いたな。) 1の例 駅まで走って行って、7時の電車に乗るわ。−−−間に合うんかいや。(間に合うのか。間に合わないと思うぞ。/間に合うのか。) 2の例 鈴木さんの結婚式、この服でええかいや。(この服でいいかな)−−−それでええと思うで。 2の例 僕の考え、間違っとるかいや。(間違っているのかな)−−−そんなことないで。間違ってへん。正しいしけー、自信持ちねー。
t.親愛の意味を含めた自己主張を表す終助詞「〜わいや」
相手に親愛を表しながら自己主張をする場合、終助詞「〜わいや」が用いられる。共通語では「〜よ」が近いものであるが、話者と聞き手との間に、より親近感を感じさせる面がある。ただし、男性的な語感があり、ややぶっきらぼうに感じられることもある。どちらかというと男性語である。類義表現としての「〜うぇーな」を参照のこと。
<例26>「〜わいや」の用例1
今朝、太田さんに失礼なこと言ったけど、気ぃ悪うしとんなれへんかなあ。−−−しとんなれへんわいや。 新年会でめでたい話を聞いてきたわいや。−−−どんな話でぇ。教えてーな。 今度の日曜日、大阪に遊びに行くわいや。一緒に行かーや。−−−うん、おおきに。行かー、行かー。 ガソリンが少なーなったけど、家までもつだらーか。−−−大丈夫だわいや。ランプがついても50q以上走るで。
ただし、すねたような場面や相手に攻撃的な場面(タイトルとは矛盾するようではあるが…)で用いられる場合もある。
<例27>「〜わいや」の用例2
宿題毎日やっとるんかえ。−−−やっとるわいや。ほっといて。 この英字新聞、難しいけど読めるか。−−−あはーにせんといて。読めるわいや。
u.強い自己主張を表す終助詞「〜わえ」
相手に対して攻撃的に自己主張する場合、終助詞「〜わえ」が用いられる。子どもが親に対して反発する場面、人と人との口げんかの場面、子どもがすねた場面でよく用いられる。男性語である。
<例28>「〜わえ」の用例
テレビばっかり見とって、全然勉強せーへんなあ。−−−ちゃんと夜中にやっとるわえ。 学校で先生に迷惑ばっかりかけとるんと違うんかえ。−−−かけてーへんわえ。ええ子にしとるわえ。 下宿の部屋、きれいにしとるか。−−−いっつもきれいだわえ。 人の話をきちんと聞けえ。−−−聞いとるわえ。 おめーのためにメモ書いて置いてーたぞ。読んだんか。−−−読んだわえ。 ここにあったお菓子知らんかぁ。食べたんか。−−−そんなもん知らんわえ。
v.念を押したり、納得させようとする気持を表す間投助詞「〜な(あ)」
「h.『〜なぁあ』」の類義語である。互いに入れ替えが可能な語である。「〜なぁあ」と比べると、感情の度合いが多少小さいが、感動のニュアンスも若干含まれる語である。共通語の「〜ね」、「〜ねえ」に相当する。
<例29>「〜な(あ)」の用例
ほんでなあ、今度いつ逢うことができる。(それでねえ)−−−次の日曜日あいとるけど。 この自動車ごっついかっこええなあ。(かっこいいねえ)−−−ほんまだなあ。(本当だねえ) 実はなあ、今度の土曜日になあ、海水浴に行くんだけどいっしょに行けへんかあ。(実はねえ、…土曜日にねえ)−−−誘ってくれておおきに。連れにして。 この饅頭なあ、きのう湯村で買ーて来たんだけどなあ、食べてくんなれへんかあ。(この饅頭ねえ、…買ってきたんだけどねえ)−−−気ぃつかってくんなっておおきに。よばれるわ。
但馬地方では、老若男女「〜なぁあ」、「〜なあ」、「〜な」を文節の切れ目に置いて会話をする。このことが、言葉に温かみと柔らかさを与えている。
w.勧誘を表す終助詞「〜いな」
親愛を込めながら、しかも控えめに勧誘する意志を表すはたらきのある終助詞に「〜いな」がある。動詞の意志形に接続する。
<例30>「〜いな」の用例
一緒にお祭りに行かーいな。(行こうよ)−−−うん、行かーで。 日が暮れたしけー、まー帰らーいな。(もう帰ろうよ)−−−帰らー、帰らー。 みんなで歌を歌わーいな。(歌おうよ)−−−よし、何歌わー。(何を歌おう) 食事の準備ができたしけー、食べましょーいな。(食べましょうよ)−−−よんでくんなるのか、おおきに。(食べさせいただけるの、ありがとう。)
x.相手に言い聞かせたり、言い切りを強めたりする終助詞「〜じょ」
親しい間柄で、相手に自分の言いたいことを言い聞かせたり、言い切りを強めたりする働きのある終助詞に「〜じょ」がある。共通語の「〜ぞ」にあたる。養父郡大屋町で盛んな文末助詞であるが、その東に隣接する養父郡養父町でも耳にすることができる。
<例31>「〜じょ」の用例
あーあ、知らんじょ。先生にしかられるど。−−−なんでえや。黙っとったらわかれへんがな。 ちゃーうじょ。ちゃんとせえや。−−−あっ、ごめんごめん。 田中さん、ワードの使い方知っとられますか。−−−わからんじょお。鈴木さんの方がよう知っとんちゃあうか。
また、「〜じょ」に関する次の唄があり、多くの人々に知られているとのこと。(ユーモアとしてこの唄を受けとってほしいものである。)
大屋のじょじょ、言わめいじょ。また言ったじょ。また言ったじょ、あっ悲しいじょ。
例文等については、養父町在住の小学校教諭栂井氏に作成していただいた。また、「但馬方言概説」の「方言としての位置づけ」>「6地形と方言の関係」を参照されたい。