シャドウイング
兵庫県豊岡市
谷口 裕
同時通訳者を養成するための訓練法としてのシャドウイングを今年度より私の授業の中で取り入れてみた。生徒たちは熱心に英語を聞き取り、それを口に出そうとする。
<シャドウイングとは>
元来、同時通訳者を養成するための訓練方法として用いられている指導法である。教師の発する英語、あるいはCDプレイヤー等の機器から発される英語を聞き取り、影を追うようにしてその英語を聞こえたまま口頭で発声するものである。英語を聞き取る力とそれを発声する力、つまりリスニング力とスピーキング力の両面を鍛えることができる。
<シャドウイングと私の関わり>
私自身、大学生の頃、短波ラジオを利用して海外からの英語放送を耳にしてリスニング力を高めることを心がけていた。当時の私は大した英語力もなく、ただ英語の音と判別できる程度であった。しかし、その英語のリズムが私にはとても心地よく感じられた。
そんな中で、アメリカ合衆国から放送されている"The Voice Of America"(VOA)を毎日BGMのように流していた。私はその放送内容を理解して聞くことはできなかったが、耳にしながら無意識にそのアナウンサーの口から発せられるリズミカルな英語を追って一人でその英語をつぶやいていたのであった。そのことがいつの間にか習慣化されていた。私はそれがシャドウイングという訓練法だとは全く知らなかったのであるが、今思えばそれは立派なシャドウイングである。
それまで私は、外国人英会話講師や周囲の友人などから「君の英語の話し方は硬い」、「単語の一つひとつは正確に発音されているけど、全体的にゴツゴツとしている」などと言われることがたびたびあった。確かに英文を発話したときにリズミカルでないことは自分でもよく分かっていた。
無意識にシャドウイングをはじめてどのくらい経っていたのか(たぶん1年半くらいだったと思う)よく覚えてないが、気がついてみるとある程度リズミカルに英語を発音することができるようになっていた。その当時、私はリズミカルな発音を身につけるための特別な訓練は何もしていなかったと思っていた。単に英語にふれる機会が増えたからそうなったのであろう、くらいにしか考えていなかった。が、今振り返ってみると、それはVOAを聴きながら無意識にしていたシャドウイングが大きく影響していたことであろう。
<授業の実際>
初めて行った時は、「これは同時通訳者養成の訓練方法です」ということを前置きしておいた。そして次のような流れで指導していった。
今日学習した本文をもう一度CDでかけます。
教科書の本文指導の一つとして行っている。ただし、単なる音読指導とは違い、聴きながら英文を発声するという高度な面もあるため、教科書本文を一通り学習し終えた一番最後の段階で行っている。(音読については「授業中の一斉音読指導」を参照されたい。)
教科書を閉じてください。CDから流れてくる英語をそのまま真似をしながら口に出して言ってください。CDの英語を追い越してはいけません。影を追うように英語を言ってください。
まず、私自身がモデルを示してシャドウイングがどういうものであるかを見せた。「影を追う」、つまりCDの英語よりいくぶん遅れているところを強調した。
本来、目からの文字情報は全くなく、音だけを頼りに行うのがこの指導のあり方であろう。しかし、生徒によっては文字情報も必要となることもある。そのため、必要に応じて教科書を開かせ、教科書をちらっと見ることを許している。しかし基本は何も見ないこととしている。
<シャドウイングをやってみて>
私は、今のところ教科書のCDを用いてシャドウイング行っている。教師、あるいはCDの後について一文ずつリピートする場合と比較して、生徒たちはCDから発せられる音により忠実に真似ようとしている面が観察される。(例えば、英文全体の強弱リズム、人称代名詞が目的格に来た場合の弱くて速い発音、文末のイントネーションなど。)
<留意点>
一斉に行うと周囲の生徒たちの英語が耳に入ってしまい、聞き取りに集中しにくい。調べてみると、語学学校などではヘッドフォンを用いて個人で行っているようである。また、それが本来のやり方であるようだ。こういった点で中学校の教室で行うには難しい面もあるが、やや大きめのボリュームでCDを再生するなどの工夫で多少は解消される。
私自身、まだ授業で実践し始めてあまり経ってない。この指導での効果を観察したり、指導のあり方に工夫をする必要がある。