助動詞の語法(文法)

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a.断定の助動詞「だ」
 北但馬(北但)では、断定の助動詞として「だ」が優勢である。これは共通語と同様なのであるが、西日本方言全体としてみれば、「じゃ」、「や」が優勢であることから、方言として特徴的であるといえるであろう。この断定の助動詞「だ」は、島根県東部から鳥取県、兵庫県北但馬地方、京都府丹後地方へと広がっている。
 ただし、但馬でも南部へ行くほど「や」が優勢となる。北部の豊岡市周辺においても、近年「や」を使う人口が増えつつある。その傾向は男性より女性の方にやや多いように思われる。また、南但馬(南但)の年輩層の中には「じゃ」も見られる。
 詳しくは、「但馬方言概説」の「断定の助動詞」を参照していただきたい。
<例1>断定の助動詞「だ」の用例
このあたりに植えてあるコスモスはとてもきれい
なんかんといっても、但馬はええとこ。(いいところだ)
きのうは風邪をひいて大変ったそうね。−−−そうなん
どれが君の絵なの。−−−これで。(これだよ)

b.推量の助動詞「だらー」
 共通語で「〜だろう」と推量の意味を表す助動詞は、北但馬(北但)では「だらー」となる。
 室町時代には、「だらー」と「だろー」の中間的な発音であったそうだが、それが他の多くの地域では「だろー(だろう)」となったが、北但馬をはじめ山陰地方では「だらー」と変化したとのこと。旧かなづかいでは「だらう」となるが、それが昔の標準的な日本語の発音を表しているものと思われる。詳しくは、「但馬方言概説」の「音声の特徴」を参照していただきたい。
<例2>推量の助動詞「だらー」の用例
夕焼けがきれいだで、明日は晴れるだらー。(晴れるだろう)
一生懸命に勉強したけど、今度のテストは80点以上とれるだらーか。(とれるだろうか)
田中君は上手にスキーをすることができるだらな。(できるだろうな)−−−そうだらーで。(そうだろうね)
君もいっしょに今度の旅行に行くんだら。(行くのだろ)−−−うん、行くで。 *このように長音化しない場合もある。

c.継続(開始)の助動詞「〜(し)よる」
 共通語で「〜しつつある」、「〜し始めている」、「〜しかけている」にあたる表現は、「〜(し)よる」という助動詞を用いる。
<例3>継続(開始)の助動詞「〜(し)よる」の用例
雨が降りよるしけー(雨が降り始めているから)、洗濯物を中に入れるの手伝ってくれるかなぁ。
夜が明けよるわ。(夜が明けつつあるわ)
 過去を表現する場合、「〜(し)よった」となる。
<例4>過去「〜(し)よった」の用例
私が家を出るとき、雨が降りよった。(雨が降り始めていた)
外がくらーなりよったで(暗くなりつつあったから)、街灯をつけた。

d.継続(進行)の助動詞「〜(し)とる」
 共通語で「〜している」、「〜しているところ」にあたる表現は、「〜(し)とる」という助動詞を用いる。
<例5>継続(進行)に助動詞「〜(し)とる」の用例
雨が降っとるしけー(雨が降っているから)、外に出るのはやめよう。
何しとるん。(何をしているの。)−−−捜し物をしとるんだわ。
 過去を表現する場合、「〜(し)とった」となる。
<例6>過去「〜(し)とった」の用例
昼ご飯を食べとったとき、雨がよう降っとった。(昼ご飯を食べていたとき、雨がよく降っていた)
きのう電話かけたとき、何しとった。(何をしてた)−−−テレビを見とった。(テレビを見ていた)

e.自発的行動の意思を表す助動詞「〜(し)ちゃる」
 相手に対して自発的に行動する意思を表す助動詞に、「〜(し)ちゃる」がある。共通語では「〜(し)てやる」にあたるものであり、「てや」が音韻変化して、「ちゃ」となったものと思われる。
 親しい間柄の会話で用いられる表現である。
<例7>自発行動の意思を表す助動詞「〜(し)ちゃる」の用例
その荷物重たかったら、僕が持っちゃるで。(持ってやる)
今日はごっついいそがしげだで、あんたの仕事手伝っちゃるわ。(手伝ってやる)
 過去を表現する場合、「〜(し)ちゃった」となる。
<例8>過去「〜(し)ちゃった」の用例
京子さんいそがしげにしとんなったで、僕が代わりに郵便物を持って行っちゃった。(持って行ってやった)
太田君は鶏肉をよう食べれへんで、僕が食べちゃった。(食べてやった)

f.使役助動詞の連用形「〜し」、「〜さし」
 使役助動詞の「〜せる」、「〜させる」の連用形が、それぞれ「〜し」、「〜さし」となる。共通語では「〜せ」、「〜させ」である。
<例9>使役助動詞の連用形「〜し」、「〜さし」の用例
喜ばせる 母の日のプレゼントで、お母さんを喜ばした。(喜ばせた)
読ませる 先生、上手に読むしけー、僕に教科書の30ページを読ましてください。(読ませてください)
開けさせる 浩志君は力があるしけー、彼にこのビンの蓋を開けさした。(開けさせた)
させる 木村さんがおらんと宴会が盛りあがらんしけー、彼に来さしてほしわ。(来させて)
させる ちょっと、静かにしてーな。疲れとるしけー、静かに寝さして。(寝させて)
させる ええテレビの番組だったで、子どもらーにも見さした。(見させた)

g.過去の反復・習慣を表す助動詞「〜(し)よった」
 過去の反復・習慣「〜(し)ていた」という意味を表す助動詞に、「〜(し)よった」がある。基本的に「習慣」を表すのであるが、「反復」のニュアンスが強いように思う。
 昔を懐かしむ話をする時によく使われる。
<例10>過去の反復・習慣を表す助動詞「〜(し)よった」の用例
昔ぃ、銀行の前にあったラーメン屋によう食べに行きよったなぁあ。(行っていた)
子どもの頃、夕方になったらいっつもテレビのマンガを見よった。(見ていた)
昔は電機製品が壊れたら、自分で直しよった。(直していた)
小学校時分、学校から戻って来たら、いっつも○○ちゃんが「いっしょに遊ばー。」って誘いに来よったなあ。(来ていた)
うちげのおじいさんは、毎日一生懸命に働きよんなった。(働いておられた)−−−丁寧語の「なる」が付いた場合
私が商売しよった頃は、毎週神戸まで仕入れに行きよりましたんですで。(していた、行っていました)−−−丁寧な表現
学生の頃、休みがもっとようけあったらええなあ、って思いよった。(思っていた)

h.ぎりぎりのところで実現しなかった過去を表す助動詞「〜(し)よった」
 「もう少しで〜するところだった」と、ぎりぎりのところで実現しなかった過去を表すとき、助動詞「〜(し)よった」が用いられる。意味を明確にするため、この助動詞に接続する動詞の直前に、「もうちょっとで」などの意味を表す副詞を伴うこともある。
<例11>ぎりぎりのところで実現しなかった過去を表す助動詞「〜(し)よった」の用例
もうちょっとで怪我ぁしよった。(するところだった)
この前の試合、もうちょっとで勝ちよったのに。(勝つところだった)
裕君、もう数学の宿題したん。−−−忘れよったぁ。声かけてくんなっておおきに。(忘れるところだった)
家庭訪問で○○さんの家に行くとき、間違えて隣の家に入りよった。(入るところだった)