但馬方言辞典 ま行

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太字と""はアクセントの下がり目がある拍(アクセントの核)をあらわす。
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但馬方言 共 通 語 用   例 解   説
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まー もう。 外もくらーなったし、まー帰らーか(帰ろうか)。 「まう」の/au/連母音の順行同化であろう。
なお、「もう」について『広辞苑 第四版』(岩波書店)に次の記述がある。「歴史的仮名遣をマウとする説がある」 
まーえ’ー 1 もういらない。 腹がいっぱいだで(お腹がいっぱいだから)、おかわりはまーえーわ。 「えー」は「必要ない」という意味。
まーえ’ー 2 もうよい。 まー風呂に入ってもえーだらーか。(よいだろうか)。−−−まーえーで。まー沸いとるで(もう沸いてるよ)。 「えー」は「よい」という意味。
まーじき もうすぐ。 まんださみーけど(寒いけど)、まーじき春になるで、ぬくーなるわ(暖かくなるわ)。  「じき」は「すぐ」という意味。 
まーちー’ もうちょっと。 まーちいと待っておくれー(待っておくれ)。 「ちー’と」、「ちーっと」を参照されたい。
まーま’ もうすぐ。 まーまたしたら、お父さんが会社から帰ってきなるわ。 「もうすぐだから、気楽に」というニュアンスがある。
「さーで」の同意語。ただし、用例中の「まーまたしたら」は「さーで」だけでよい。
ま’や’ おやおや。 うちげの畑でよーけきゅうーりがとれたしけー、これ食べておくれー。−−−まーやー。こんなよーけもらってえーんかえ。おおきに。 驚きを表す。
「まーらー」の同意語。
ま’ら’ おやおや。 弁当持ってくるのん忘れとったー。−−−まーらー。うちのん分けたげるわ。 驚きを表す。
「まーやー」の同意語。
ま’ 蚕の繭(まゆ)。 今年もまいを作らんならん。
ぼちぼちまいを出荷せんならん。
早からまいが巻きだした。
養父市八鹿町での使用を確認。
「ゆ」が「い」に転訛した語形といえるが、正確には「ゆ」と「い」の中間の音。「まい’こ」とも言う。
養父市八鹿町は養蚕が盛んであった。蚕を飼育して温度調節さえうまくいけば、年に3度繭がとれるとのこと。野生のものは年に1度だけ。
用例は養父市八鹿町在住のO氏に作成していただいた。
ま’いが 蚕をの卵を産む蛾。 今日まいがが桑の葉っぱに卵産みよったあぞ。
まいがが卵産みよるのをはじめて見たわ。
養父市八鹿町での使用を確認。
用例は養父市八鹿町在住のO氏に作成していただいた。
い’ 眉毛。 この頃まいげを細ーしとんなる人が多いけど、あんまりかっこえー思えへんけどなー。 「眉毛」を表す言葉は「まよ」、「まゆ」、「まい」の順に変化し、その後「け」の付いた「まゆげ」と「まいげ」ができたようである。「まいげ」が一番新しく、ここ但馬地方をはじめ、京都を中心とした近畿地方などで広く用いられている。
『物類称呼』(越谷吾山、1775年)の「眉」に次の記述がある。「關西にて まゆげといふ 東國にて まみあいといふ」
い’ 蚕の繭(まゆ)。 まいこが葉っぱをよう食くっとるわ。
まいこが出来た。
養父市八鹿町での使用を確認。
「さん」付けし「まいこさん」となることもある。「ま’い」とも言う。「ま’い」を参照されたい。
用例は養父市八鹿町在住のO氏に作成していただいた。
まいまい’こんこん 1 忙しくてあたふたとした状態。 今朝からやることがよーけあって、まいまいこんこんしとるんだわ。 豊岡市旧市街地での使用を確認。
状態をよく表している語である。
まいまい’こんこん 2 ミズスマシ。(昆虫) もー春だなあ。まいまいこんこんが泳いどるわ。 豊岡市旧市街地での使用を確認。
水中を旋回して泳ぐことから。かつて豊岡市で使われていた語彙。
まくれる 転がる。 山からまくれ落ちた。
土手かまくれ落ちた。
豊岡市での使用を確認。
『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)に掲載されている。1番目の用例は同書に掲載されているもの。『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に、「傾斜地から転落する。」の定義で掲載されている。2番目の用例のように「まくれ落ちる」と言うことがよくある。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、「倒れる。転がり落ちる。」と定義されていて、京都府下各地を使用地点とする文献による出典が明記されている。また、「京では使わず、京を中心に周圏分布的か。」と記述されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、「転ぶ。転倒する。」と定義され、使用地点は米子市・境港市・倉吉市・気高郡・西伯郡・日野郡となっている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、「ころがる。転がり落ちる。」と定義され、使用地点は秋田・山形・福島県伊達郡・新潟・長野県下伊那郡・三重・奈良・和歌山県日高郡・香川・京都府与謝郡・兵庫・鳥取県米子・島根・広島となっている。
まける 安くする。 このパソコン、もっと安ーならんけー。もっとまけてーな。  主に商店で用いる語。「べんきょーする」と併用する。
『上方ことば語源辞典』(堀井令以知編、東京堂出版、平成11年)の「マケタリーナ」に、[語源]として次の記述がある。「マケルは値引きするの意味。自分の頼みを第三者の依頼のようにいう上方独特の表現。」この用法でいくと、但馬方言では「まけちゃれ’ーや」となる。この場合、自分には用いず、第三者に対してになる。しかし、「まけちゃって’ーな」とも言い、この場合は上方と同じ発想である。
まぜかす かき混ぜる。 この味噌汁みずくさいで(塩味が足らないよ)。−−−底に味噌が沈んどるしけー、ようまぜかして食べて。 「話をまぜかすな。」というように、比喩的に用いられることもたびたびある。
またぐら’ 股。 猫をまたぐらに抱く。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
『大阪ことば事典』(牧村史陽編、講談社、昭和59年)では「内股。」という定義がされていている。
またげ’ またぐ。 みぞこをまたげる(溝をまたぐ)。 豊岡市での使用を確認。
まだらっきゃ’ーとく 混ぜかしておく。 これまだらっきゃーといて。 豊岡市港地区での使用を確認。
用例は料理をするときに食材を混ぜかすときのもの。
つ’ぐさ スギナ。(植物) まつぐさががっしゃーよーけ生えとる(非常にたくさん生えている)。 豊岡市但東町での使用を確認。
『日本言語地図』第5集(国立国語研究所)を見ると、「まつ(ば)ぐさ」の語形は、但馬地方では豊岡市但東町に2地点、美方郡香美町香住区に1地点、朝来市に1地点見られる。また、京都府丹後地方・丹波地方(兵庫県と京都府)・播磨地方西部にも見られる。その他、高知県や九州地方南部にも濃厚に分布している。
まっさ’ 全く使用していない。新品。 このまっさらのボール、空気が抜けとるわ。 但馬地方各地での使用を確認。
「さら」(新品)の強調語。
「さら’っぴん」とも言う。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、与謝郡野田川町・京都市・京田辺市を使用地点とする文献による出典が明記されている。
ま’っと もっと。 おかーちゃん、まっとこずかいおくれ。  「まうと」が促音便化した語であろう。 
ま’っとく 待っておく。 ここでまっとくでな。   「とく」は/eo/が/o/となった語形。
まつな スギナ。(植物) 空き地にまつなが生えて生えてこまっとるんだわ。
まつなはどねえしたら退治出来るんだいや。
養父市八鹿町での使用を確認。
『日本言語地図 第5集』を見ると、但馬地方に幅広く分布しているのがわかる。京都府丹後地方・丹波地方にも分布している。その他、徳島県に濃厚に分布し、高知県北部・宮崎県・九州地方北西部にも分布している。
養父市八鹿町在住のO氏によると、用例のように「まつな」の駆除は大変であるとのこと。用例はO氏に作成していただいた。
まつばが’ (比較的大きめの)オスのズワイガニ。(節足動物) 今年はまつばがにがよーけとれたわ。 山陰沖でとれたものをさす。メスは「せこ(がに)」、「こがに」、「こっぺ(がに)」と言う。
脱皮したばかりのもので、甲羅が柔らかく、肉があまり詰まってないものは「みずが’に」といって区別する。
近い種類の蟹に「べにが’に(ベニズワイガニ)」というものがある。
まつぶた 餅を並べるための木製の容器。 もちしいするしけー(餅を作るから)、まつぶた出してこいや。 但馬地方各地での使用を確認。
できあがった餅を一つ一つこの容器に並べる。
但馬地方の東隣、京都府丹後地方には「まつぶたずし」という寿司がある。まつぶたの中にちらし寿司(ばら’ずし)を入れ、へらで四角に切って食べるという。
先日(平成22年12月)、ホームセンターで「お餅コンテナー」と表示されて売られているのを見た。プラスチック製であった。
つ’べた 餅を並べるための木製の容器。 ちゃーんとまつべたに並べて冷やしとくんだがな。
おこわもまつべたにかき餅みてえにまとめて並べといたら、焼いたらうめえんだで。
養父市八鹿町小佐地区での使用を確認。
O氏の証言によると「まつぶた」と併用であるとのこと。用例は養父市八鹿町在住のO氏に作成していただいた。
まつべる 片づける。 出したもんはもとの所にまつべとけ(片づけておけ)。 豊岡市での使用を確認。
「なつべる」の同意語。
『諸寄弁(もれえそべん)控帳』(藤田 誠・編、昭和56年)に「集める。」の定義で掲載されている。
室町時代末期の「まつむ(ひとところに集めそろえる)」が口語化し、「まつめる」となり、それが音韻変化を起こして「まつべる」となった。
まっぺん もう一度。 今日見た映画、ごっつい感動したわ。まっぺん見たいわ。 「まう」が促音便化した語形であろう。
ど’ 弁償する。 傷めたらまどっくれ。
大事なもんだで、めいだらまどわんなんで(壊したら弁償しなければならないよ)。
豊岡市での使用を確認。
『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)に掲載されている。1番目の用例は同書に掲載されているもの。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に奥丹後・京都市などを使用地点とする文献による出展が明記されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、「まどー」の語形で、使用地点は鳥取市・境港市・倉吉市・岩美郡・八頭郡・気高郡・東伯郡・西伯郡・日野郡となっている。
『上方ことば語源辞典』(堀井令以知編、東京堂出版、平成11年)の[語源]に次の記述がある。「全く返すの意味から。「迷う」からとする説と、「円う」からとの説もある。『東海道中膝栗毛』八編に「もとのとほりにまどうてかへしゃ」とあり、『俚言集覧』にも「まどふ惑を訓り、又俗に賠償をまどうといふ、賠還也」とある。」
ひ’ 眉毛。 隣の娘さんはまひげがきれー。 先週、神戸市内の散髪屋でこの語を耳にした。帰宅して、さっそく『日本言語地図』第3集(国立国語研究所)でその分布を調べてみた。中国地方から播磨、そして神戸市(摂津地域)にかけて、また淡路島・四国の一部・和歌山県北部から奈良県南部・三重県南部に濃厚であることが判明した。注意深く見てみると、但馬内にも(美方郡か養父市)一地点分布しているのを見つけた。
私の伯母の証言によると、今から数十年前、豊岡市内の銀行で勤務していた頃、但馬出身の同僚でこの語形を用いていた人が数人いたとのことである。
但馬地方では「まいげ」のほうが優勢である。
まぶる (粉などを)一面にまんべんなくつける。まんべんなく混ぜ合わせる。 できたおはぎにきな粉をまぶっておくれ。
サービス品は定価にまぶってあるんとちゃうか。
但馬地方各地での使用を確認。
1番目の用例のように、料理の場面でよく用いられる。また、比喩的な用法として、2番目の用例のようにも用いられる。
まぼそ’ 眩しい。 西日が差してまぼそい 全国共通語の「まぶしい」の方が優勢ではあるが、高年層の中にはこの語形が見られる。
近畿中央部に分布する「まぶい」、中国地方などに分布する「まばいい」、古語の「まばゆし」などと同系の語と考えられるのでは。
『物類称呼』(越谷吾山、1775年)に次の記述がある。「羞明(まばゆし)といふ事を 中國にて まぼそしと云 江戸にて まぼしいと云」
ままたえる あわてる。狼狽する。 大きな地震がきてままたえる 豊岡市での使用を確認。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、使用地点は鳥取となっている。
まむね’ 美味しくない。 このおかずまむねーなあ。 豊岡市での使用を確認。
う’まねー」、「う’まむねー」の同意語。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に掲載されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)に、「まむない」の語形で、岩美郡・西伯郡・日野郡、「まむにゃ」の語形で境港市・西伯郡・日野郡となっている。
「うまくない」から来ているのであろう。
まめかち’ 豆の脱穀。 まめかちしてくる。 豊岡市での使用を確認。
大豆・小豆・その他鞘に入っている豆に対して行われる。
まめ’じら ナメクジ。(ナメクジ科の陸生巻貝) まめくじらに塩をかけたら、溶けちゃったで。 豊岡市での使用を確認。
近畿地方では、但馬地方・京都府丹後地方・大阪府南部・奈良県で「なめく’じら」とともに用いられる。
「なめくじり」(北陸地方・東北地方)、「なめくじら」、「まめくじら」の順に変化したと考えることができる。「舐め鯨」の連想で「豆鯨」ができあがったかも知れない。
この語形の使用がなかなか確認できなかったが、本日、豊岡市森津在住のM氏から使用の事実を確認。彼の曾祖父母(19世紀後半生まれ)がそう呼ばれていたとのこと。
用例もM氏に作成していただいた。
「なめく’じら」を参照されたい。
や’ 牛舎。 あの家は大きなまやを持っとんなる。 豊岡市での使用を確認。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に掲載されている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、「牛馬小屋。」の定義で、使用地点は伊豆八丈島・鳥取・岡山・島根県安濃郡・長崎県東彼杵郡となっている。
まらう (物などを)もらう。 先生からえー本(よい本を)まらっ 「も」が「ま」に転訛した語形。
但馬地方と隣接する鳥取県岩美郡でも用いられる。
ま’るーなる 屈む。 地震がいったら、机の下でまるーなるんだで。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
る’っこ 木製の小型舟。 まるっこは漕ぐのが難しいぞ。最初はぐるぐるまわって前に進めへん。 豊岡市竹野町(旧城崎郡竹野町)で用いられる語彙。
名前のごとく、円み帯びた形をしている舟。櫓を使って漕ぐ。
まるぬかし (人が)そっくり。生き写し。 あの子はお父さんにまるぬかしだわ。
まあ、とーから顔見なんだら、お父さんまるぬかしになっとるんねーけーな。よー肥えてふっくらして。
豊岡市での使用を確認。
人の容姿や性格がそっくりであることを強調して言うときに用いる。
「ぬかす」は「言う」の品のない言い方であり、その名詞の「ぬかし」であろう。しかし、用例のように、親しみ、愛情を込めて言うときにこの語が用いられている場合が多い。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、竹野郡網野町・竹野郡弥栄町を使用地点とする文献による出典が明記されている。
’むし ダンゴムシ。(節足動物) この植木鉢の下に、よーけまるむしがおる(いる)。 豊岡市旧市街地での使用を確認。
触ると丸くなるからこの呼び名がついたのであろう。多くの地域で自然発生している語形であると思う。
まん 運。 今日バスに乗ったら、まんよー(運良く)席が一つだけ空いとった。
あんたは、何時もまんがええ。
但馬地方各地での使用を確認。
『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)に掲載されている。2番目に用例は同書に掲載されているもの。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、平成26年)によると、「運。めぐりあわせ。」の定義で新潟県中蒲原郡・和歌山・大阪・京都・中国・高知・大分・佐賀・長崎県千々石・南喜界島となっている。
但馬地方では「まんよー(運良く)」、「まんがえー(運がよい)」などの形で頻繁に用いられる。
「間」から来ている。
まんぐる’さん まわりじゅうぜんぷ。 まんぐるさん雲があって。 豊岡市日高町奈佐路での使用を確認。
用例は、年金友の会で高い山に連れて行ってもらった状況で発話されたもの。豊岡市奈佐地区在住の方に教えていただいた。
「まんぐ’るり」を参照されたい。
まんぐ’るり 周囲すべて。 うちの家はまんぐるり草が生えとりますだ−で。 豊岡市での使用を確認。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、使用地域は京丹後市久美浜町・京丹後市網野町・京丹後市峰山町・与謝郡伊根町・与謝郡与謝野町・宮津市・宮津市栗田地区・福知山市・綾部市・船井郡京丹波町となっている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、使用地点は米子市・倉吉市・岩美郡・八頭郡・東伯郡となっている。
ま’んだ  まだ。  もう風呂沸いたかなあ。−−−まんだだで(まだだよ)。  「ん」は室町時代の名残であろう。  
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み’ー 1 箕(み)。 みーで大豆とゴミを分けた。 穀物をあおってゴミを取り除いたり、それらを運んだりするもの。竹、藤などを編んで作る。
但馬方言では、一拍語を長音化することは朝来市生野町を除いてまれな現象である。例外的な語と言えるであろう。
み’ー 2 ちりとり。 にわのごみ掃くしけー、ほーきとみーとってくれー。 豊岡市での使用を確認。
かつて、箕がちりとりのかわりとして使われていたとのこと。また、形状が似ていることから、「ちりとり」のことを「み’ー」と言われたのであろう。現在では「ちりとり」を「み’ー」と言われることはほとんどない。
みがいる 筋肉痛になる。 きのう一日中スキーしとったもんで、今日は足にみがいっとる 豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、与謝郡野田川町字山田・京都市を使用地点とする文献による出典が明記されている。『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、使用地域は京都市・京丹後市久美浜町・福知山市・京丹波町・南山城村となっている。
漢字表記すると「身が入る」である。
みずが’ (脱皮して間もない)オスのズワイガニ。 つうは松葉蟹よりみずがにのほうが好きなんだで。 脱皮して間もなくは、殻が薄くてやわらかい。また、殻のわりに肉が少ないため水分が多い。
みずくさ’ 塩味がうすい。 このみそ汁、ちょっとみずくさいで。 但馬地方各地での使用を確認。
対義語は「からい」。
「みずくさい」は近畿地方を中心に分布している。その東と西に「あまい」が広く分布している。「うすい」が近畿とその周辺、東海・関東に分布している。周圏分布である。「あまい」が一番古く、次に「うすい」、そして「みずくさい」が一番新しい語形であると言える。
みずや 食器棚。 使ってーへんてしょーはみずやになつべてーて
(使ってない手塩皿は食器棚に片付けておいて)。 
豊岡市での使用を確認。
関西を中心とした西日本で頻繁に用いられていた語彙であろう。
かつて、明治、大正、昭和一桁生まれの方々が日常的に使っていた語彙であるが、現在では耳にすることが少なくなった。
せ’ 家の一番表に近い部屋。 このタンスみせに持って行こーな。 特に、昔ながらの「田の字型」づくりの家で言う。
みせや’っこ 見せ合い。 写生会で描いた風景画をみせやっこしようや。−−−よし、やろう。 「やっこ」は「競い合う」の意味。
みぞこ (用水路などの)溝。 みぞこに洗剤が流れとったで。 但馬地方で広く使用されている。
小さい溝のことを指し、大きい溝は単に「みぞ」と言う傾向がある。
『丹波通辞』(著者不明、江戸時代後期?)の「一餘り字付字」中に、「溝」の方言形として「みぞこ」があげられている。
みそたれ 霙(みぞれ)。 四月だっちゅうのにみそたれが降った。テニスコートにおったら、ごっつい寒かったっちゃ(すごく寒かったよ)。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると大阪府三島郡・京都府与謝郡・兵庫県多紀郡・鳥取となっている。
みたなーり’ 見たなり。見たそのまま。 恭子さんはみたなーりのえー人ですで(いい人ですよ)。  長音化することにより、意味を強調するはたらきがある。 
み’ちゃー みたい。 あはーみちゃーなこと言うだーねー(馬鹿みたいなこというではない)。
このカクテルジュースみちゃーだわ。
豊岡市での使用を確認。
み’てみ 見てごらん。 あの子の顔みてみ。えー顔しとるわ。 「み」で終えると、「みろ」、「みれ」にくらべ柔らかく、やさしさしい語感がある。
み’とく 見ておく。 トイレに行ってくるで、わたしの鞄みといて。 「とく」は/eo/が/o/となった語形。
み’とる 見ている 何をみとるん。−−−ほら、よーけ魚が泳いどるで。  東日本の「いる」に対して「とる」は西日本的である。 
な’んだ 見なかった。 今日は佐藤さんをみなんだなー。  主として中年層以下で、「みんかった」という表現がこれにとって替わろうとしている。「〜なんだ」、「〜んかった」を参照されたい。 
ら’ 見よう。 おもしろいげなテレビがあるしけー、いっしょにみらーや。 豊岡市での使用を確認。
「見る」の意志形。
上一段活用動詞が五段活用動詞に変わろうとしている。正確には、但馬地方北部においては四段活用動詞に。
み’くろ アリジゴク。(昆虫) 軒下にみみくろがおった。 豊岡市但東町資母地区での使用を確認。「めめくろ」と発音された方もいた。
その東側の峠を越えた、京都府丹後地方の与謝郡与謝野町与謝地区で「べべ’くろ」という語形を確認した。
豊岡市五荘地区では「もも’んじゃ」。
みみぞ 針の糸を通す穴。 このミシンのみみぞに糸通してーな。 豊岡市で生まれ育った母が使用している語彙。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、竹野郡網野町を使用地点とする文献による出典が明記されている。
『鳥取の方言をたずねて』(森下喜一著、白帝社、1999年)には鳥取県内の語形として、この他に「みみそ」、「みみど」、「めめそ」、「はりのみみあな」、「はりのみみそ」があげられている。
みんちか’ メンチカツ。 これは肉の汁がよーけ入ったみんちかつだ。 豊岡市での使用を確認。
私のこどもの頃は、「みんちか’つ」だったのに、今は「めんちか’つ」になりつつある。全国共通語の影響か。
みんなずれ’ みんな。 今日はみんなずれーで出かけとって、家に残っとるのは私だけですわ。 豊岡市での使用を確認。
「ずれー」は「連れ」であろう。
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むかぜ’ ムカデ。(節足動物) あっ、大きなむかぜだ。お湯持ってきて。 「で」が「ぜ」と転訛した語形。
むかぜを退治するには熱湯がよい。
むくる 1 むく。 僕にみかんの皮をむくってーな。いそがしーて手が離せれへんしけー。 豊岡市での使用を確認。
「皮」のついている物をむく場合に用いられる。
「むく」の誤用か。
むくる 2 めくる。剥がす。 壁紙をむくる
トタン板をむくる
豊岡市での使用を確認。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、使用地域は京丹後市久美浜町・京丹後市峰山町となっている。
むくろ 
モグラ。(哺乳類) うちの畑は、むくろが多いて困るわ。 但馬地方で広く用いられている。
現在の若年層はこの語を知らず、全国共通語の「もぐら」を用いる。
地域によっては、「むくろ’もち」、「もぐらも’ち」、「ひ’みず」とも言う。
むくろ’もち モグラ。(哺乳類) こねえだから畑でむくろもちが走りまわっとって、困もまっとるんだわ。
むくろもちはどねいしたら止まるんだいや。
養父市八鹿町での使用を確認。
『日本言語地図』第5集(国立国語研究所)を見ると、但馬地方は「むくろもち」と「むくろ」の地域であることがわかる。「むくろもち」の「もち」が脱落した語形が「むくろ」ではなかろうか。この解釈でいくと、「むくろもち」が「むくろ」より古い語形ということになる。
『物類称呼』(越谷吾山、1775年)の「うぐろもち」に次の記述がある。「京にて うぐろもち、東武にて むぐらもち、西國にて もぐら、中國にて むぐろもち、四國にて をごらもち、遠江にて いぐらもち、大和及伊賀にて をごろもち、越後にて 土龍(どりう)といふ」
また、『丹波通辞』(著者不明、江戸時代後期?)の「わづかかな一字ちかひにて拙く聞ゆ」の「土龍(うぐろもち)」の方言形として「むくろもち」と記されている。
用例は養父市八鹿町在住のO氏に作成していただいた。
むけーじゅー’ 向かい側の村。 むけーじゅーに大きな熊が出たんだってや。きーつけや(気をつけなさいよ)。 豊岡市での使用を確認。
人によっては/ai/連母音融合なしの「むかいじゅー’」を用いる。
「道、田んぼ、畑などを隔てた向かい側にある村」という意味。
用例中の「きーつけや」は上方では/●●●●●/と平板に発話されるが、豊岡市では/◎●●○●/となる。
むこーべら’ 向こう側。 むこーべらに大きな会館が建った。 豊岡市での使用を確認。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、使用地域は京丹後市久美浜町・京丹後市網野町・京丹後市峰山町となっている。
むしずがはし’ 嫌な感じがする。不快感がある。 見ただけでむしずがはしるわ。
虫がたかとって、むしずがはしっ
豊岡市での使用を確認。
『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)に掲載されている。1番目の用例は同書に掲載されているもの。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、与謝郡伊根町・与謝郡野田川町字山田を使用地点とする文献による出典が明記されている。
『大坂ことば事典』(牧村史陽編、講談社、昭和59年)によると、「いとわしいさまにいう。」と定義され、続いて「虫唾(また、虫酸)とは、胃の中から口へ出てくる酸っぱい唾のこと。」と説明されている。
むなおち 鳩尾(みずおち)。 むなおちがいてー(痛い)。 豊岡市での使用を確認。
『日本言語地図』第3集(国立国語研究所)によると、美方郡香美町香住区・養父市に分布している。その他、京都府京丹後市久美浜町・淡路島東部に分布している。また福井県若狭地方・滋賀県に濃厚な分布があり、あとは西日本各地に点在している。「むなうち」の語形で豊岡市但東町・養父市・美方郡に分布している。
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めーだ (陶器などを)割った。 皿を落としてめーだ  「めぐ」の過去形。 
(〜し)め’ (〜し)ないでおこう。(〜し)ないであろう。 雨が降るしけー、遠くへは行かめー(行かないでおこう)。
鈴木さんならそんな失敗はしめー
主語が一人称なら、「意志」の意味に、二人称、三人称なら「推量」の意味になる。年輩層の中には「めゃー」も見られる。
’がかた’
め’がかて’
夜遅くなっても眠くならない。 なんちゅうめがかてーんだえ。もう夜中の2時だぞ。はよ寝れーや。 子どもが夜更かしをしている時、両親がこの言葉を用いて注意をする。
か’ちん ビー玉。 めかちんであそばーや(遊ぼうよ)。  私の幼い頃、豊岡市旧市街地で用いていた語彙。「ちこにこちん」とも言う。 
か’ど 1 見覚え。 わたしゃめかどが悪ーて、あの人のことがはっきりと思い出せん。
めかどが悪うて、顔が思い出せん。(視力も記憶力も衰えて顔を忘れた。)
めかどが悪うて、どなたでしたか。(私は見覚える力が弱くて、思い出せませんが、あなたはどなたでしたか。)
豊岡市での使用を確認。
「覚えていてもはっきりと思い出せない」というニュアンスの語。
『但馬ことば』(岡田荘之輔著、兵庫県立但馬文教府、昭和52年)によると、香住町一日市・竹野町・豊岡市・関宮町・大屋町・朝来町・生野町となっている。2番目の用例は香住町一日市、3番目の用例は但東町坂野・高竜寺。なお、3番目の用例は、同書に「近い用法」となっている。
か’ど 2 視力。  めかどが悪うなって、わかれしまへんがな。(視力減退で判別できませんよ。)  豊岡市旧市街地での使用を確認。
『但馬ことば』(岡田荘之輔著、兵庫県立但馬文教府、昭和52年)によると、城崎町飯谷・二見・出石町・但東町となっている。用例は城崎町飯谷・二見。
めぐ (陶器、ガラスなどを)割る。(物を)壊す。 この箱の中には皿が入っとるで、めがんよーに気ーつけて(気をつけて)運んで。
子どもがアンパンマンの面を踏んでめいまった(壊してしまった)。元気で歩きまわるしけー、しかたがねー。
豊岡市旧市街地における、私の生活経験上、物を「壊す」の意味でも用いられるが、陶器やガラスなど割れやすいものに用いられることが多いように思われる。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、「破壊する。こわす。」の定義で福井県遠敷郡・大阪府泉北郡・京都府与謝郡・兵庫・中国・四国となっている。
めげる (陶器、ガラスなどなどが)割れる。(物が)壊れる。 箱に入れといた(入れておいた)皿が、運ぶ途中にめげた。  「めぐ」の自動詞。「めぐ」を参照されたい。 
め’ぱち まばたき。 寝不足で、めぱちしたら目が痛いわ。  豊岡市旧市街地での使用を確認。
「目をぱちぱちさせる」からきているのであろう。 
め’ 麦粒腫(ものもらい)。 めぼが出たで、目医者に行ってくるわ。  兵庫県・京都府・滋賀県などに分布している。
中国地方に広く「ほいと」、「めぼいと」が分布しているが、「めぼいと」の後半部分の「いと」が脱落して出来上がった語形ではなかろうか。「ほいと」とは「陪堂(ほいとう)」のことで、「乞食」を意味する。 
め’ 米。 めめ取ってきてくれ。 豊岡市での使用を確認。
小児語である。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、「米。」の定義で竹野郡網野町・与謝郡野田川町を使用地点とする文献による出典が明記されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)にも掲載されている。
私自身、幼い頃の記憶として薄っすらと脳裏に残っている。
め’くそ (量が)ほんの少し。 ご飯のおかわりある。−−−めめくそあるけど。 「ちょびっと」の同意語。
めめちゃ’んご
め’ちゃん
メダカ。(魚類) おかーちゃん、川からよーけめめちゃん捕ってきた。 豊岡市五荘地区で、かつて使われていた語彙。
江戸時代、京都で使われていた「めめざこ」の音韻変化と考えられるのでは。
めやね’ 目やに。 目のふちにめやねがついとるぞ。顔洗ってこいや。 「に」が「ね」に転訛した語形。
め’をさまか’ 目を覚ます。 明日は早めにめをさまかしといて(目を覚ましておいて)。 「かす」を付けることにより、意味が強調される。
めんだーげ’ 世間体が悪い。 そんなめんだーげな格好するな。 豊岡市港地区・旧市街地での使用を確認。
『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)に掲載されている。用例は、同書に掲載されているもの。
「面倒(めんだう)」の/au/連母音順行同化形「めんだー」から派生した意味を持つ語であろう。
豊岡市気比の住民によると、「恥ずかしい。」というニュアンスがあるとのこと。古語「めんだう」は、「見苦しいこと。」という意味である。そのこと考えると、豊岡市気比では、古語のニュアンスを忠実に残しているといえる。貴重な語である。
めんだ’ーな 面倒な。難しい。 そねーめんだーなこと言うないや(言わないでくれよ)。 美方郡香美町香住区・豊岡市での使用を確認。
「面倒(めんだう)」の/au/連母音順行同化形の形容詞形。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、「めんだな」の語形で鳥取県の広い地域でも用いられている。逆に、豊岡市でも/au/連母音が/o:/と相互同化する但東町では用いられない。
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もーずき’ おしめ。おむつ。 もーずきをかえる。 豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、竹野郡網野町・竹野郡島津・天田郡・何鹿郡・加佐郡を使用地点とする文献による出典が明記されている。
「もんずき」とも言う。「もんずき」を参照されたい。
も’ーする 四つんばいになって尻を突き出す。 お尻を拭くしけーもーせーや(四つんばいになってお尻を出しなさいよ)。 用例のように、親が自分の子どもの尻を拭くときなどによく用いられる表現。「もー」は牛の鳴き声をもとにした擬音語であろう。よって、牛の格好をすることと考えられる。
大阪などでも用いられる。
もーたー’ーる 駐車場。パーキング。 近所に月極のもーたーぷーるがある。 豊岡市での使用を確認。
もともと大阪方言である。豊岡市内に3カ所確認している。
ー’ 子守。 1時間ほど出てくるしけー、うちげの子ーもーりしてくんねーな(うちの子を子守してくださいね)。 「こ」が脱落したのか、後に「こ」が付いたのかはわからない。
もぐらも’ モグラ。(哺乳類) もぐらもちがよーけ芋食っちまって、わやくそだ(めちゃくちゃだ)。 豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、丹後半島・福知山市・亀岡市・園部町・京都市などを使用地点とする文献による出典が明記されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、使用地点は鳥取市となっている。
但馬地方では、「むくろ」、「むくろ’もち」、「ひ’みず」なども用いられる。
京阪式アクセント(口丹波地方)では、低起式の○○●○○である。
け’ 苔。 石に付いとるもけ、取ってくれ。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)、また『鳥取県方言辞典』(森下喜一 編、富士書店、平成11年)にも掲載されている。
もちし’ 餅作り。 まーまたもちしーせんならんなー(もうすぐ餅作りをしなけらばならないね)。 但馬地方では、「まる餅」を作る。東日本の「かく餅」と対立している。
もちね 餅米。 あんたんとこー(あなたの家)もちね作っとんなるか。−−−ほんのちょびっと(ほんの少し)。 「粳米」を意味する「ただごめ」、「ただまい」と区別するために用いられる。
『日本方言辞典』(小学館、平成16年)によると、京都府竹野郡・兵庫県養父郡・但馬となっている。
「餅稲(もちいね)」のことであり、本来「餅米の稲」を指すのでは、と考える人も見られる。
もちばな’ クロモジ。(植物) もちばなぎの枝を折ったらごっついえーにおいがする。 正月、その枝に餅を巻き付け、神棚に供える。
もっけ’ 奇妙な。 あかが(赤ん坊が)もっけな顔しとる。うんちゃんしとるんちゃうか(大便しているのじゃないかな)。 豊岡市での使用を確認。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、「意外な。思いがけない。」と定義され、使用地点は米子市・境港市・日野郡となっている。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、「ムッケナ」の見出しで「奇妙な。何ともいえない変な。」と定義され、使用地域は福知山市・綾部市となっている。
「もっけ」を漢字表記すると「勿怪」。
も’っさり 垢抜けしない。野暮ったい。 そんなもっさりしたジャンパー着て街に出たら笑われるで。−−−これがわしのトレードマークだがな。 豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、奥丹後・中丹・口丹波・山城など京都府下の広い地域を使用地点とする文献による出典が明記されている。
『上方ことば語源辞典』(堀井令以知編、東京堂出版、平成11年)に[語源]として次の記述がある。「モッサイ・モッチャリともいう。モサリの促音化で、ボサリからか。ぼんやりしたさまをいう擬態語。江戸時代の寛政ごろから使われ始めた。」
もったな’ 勿体ない。  残したらもったない。  豊岡市城崎町湯島・城崎町来日での使用を確認。
用例は中学生が作成したもの。
もって’ ハリガネムシ。(線形虫綱) カマキリの腹ー割ってみー(腹を割いてみろ)、もってが出てくるしけー。−−−わー、ほんまだ。くれー(黒い)虫が出てきたわ。 「もとゆい」>「もっとい」>「もって」と音韻変化したものと考えられる。「もっとい1」、「もっとい2」を参照されたい。
以下は、用例を作成していただいた、豊岡市竹野町須谷(旧城崎郡竹野町須谷)出身のO氏による。
「長い紐のような虫をいくらきつく結んでも、しばらくするとくねくねと身をよじらせてほどいてしまうのです。2カ所、3カ所結んでも見事にほどいてしまうのです。そんなことでよく遊びました。大きい子から『モッテ』の存在を教えてもらったことを鮮明に覚えています。」
(〜し)もって (〜し)ながら。 お菓子食いもって歩いたらあかんで。 接続助詞。二つの動作が同時進行している時に用いる。
約1000年程前の継続を表す古語である「もて」からきている。
もっとい’ 1 元結い。 もっといで結んどくわな(髪を束ねておくね)。 現代の日常生活では日本髪を結うこともないため、めったに使われない語彙。
もっとい’ 2 ハリガネムシ。(線形虫綱) おがみ虫からもっといが出てきた。 「おがみ虫」とは「カマキリ」のこと。カマキリに寄生しているハリガネムシが「元結い」に似ていることから。
の’ できもの 足にものができて、いてーわ(痛いわ)。  鳥取県でも用いられている。 
ものごい’ (味付けが)油濃い。くどい。濃すぎる。 この豚汁、ものごいー
あの人の話はものごいーてなあ、解りにくいんだわ。
豊岡市・養父市・朝来市・美方郡での使用を確認。
共通語になおしにくいニュアンスを持つ語である。油濃く、醤油辛く、他のだしの材料など煮詰めすぎた味のことであり、食べた後、口の中に油が残る感じがあること。灰汁がある、と言われた方もいた。
2番目の用例は、養父市八鹿町在住のO氏に作成していただいた。このような使われ方もある。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)には、「脂気に富んでいること。」と定義されている。
ものごっつ’ ものすごく。 ものごっつい大きなスイギュウ(ノコギリクワガタ)捕った。 豊岡市旧市街地での使用を確認。
「ごっつい」の強調形。
ものすげ’ ものすごく。 あのベンチに座っとる女の子、ものすげーかわいーなー。そー思えへんか。 「ものすごい」の/oi/が融合し、/e:/となった語形。
ももける (衣類などに)毛玉がつく。 この服気に入っとるのに、ももけとるわ。 「もも」は毛羽だつさまの擬態語にもとづく。『上方ことば語源辞典』(堀井令以知編、東京堂出版、平成11年)参考。
また、『地方別方言語源辞典(真田真治・友定賢治編、東京堂出版、平成19年』によると、「ももける」[京都・大阪・鳥取]の語源の説明の中に、次の記述がある。「『ぼぼける』の転訛である。『ぼぼ』とは毛羽立っている様子を言う擬態語で、近世初期から使われ始めている。
も’もた 太股。 みがいって(筋肉痛で)ももたが痛い。 「顎」を「あごた」という地域があるが、その「た」と同じではないか。
も’んじゃ アリジゴク。(昆虫) あっ、ももんじゃの穴がある。 豊岡市五荘地区での使用を確認。
豊岡市但東町資母地区では「みみ’くろ」。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、使用地点は鳥取市・倉吉市・岩美郡・八頭郡・東伯郡となっている。
も’んじょ アリジゴク。(昆虫) ももんじょがおる。 豊岡市での使用を確認。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に掲載されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、「ももんじょー」の語形で使用地点は鳥取市・気高郡(『鳥取ことば』からの引用)となっている。
もらいずて 贈り物をもらってお返しをしないこと。 もらいずてはあかんで。ちゃんとお返しをせんな。 豊岡市での使用を確認。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、使用地域は京都市・福知山市・綾部市・船井郡京丹波町となっている。
もんず’ おしめ。おむつ。 川でもんづき洗ってくる。 豊岡市での使用を確認。
「襁褓(むつき)」から来ている。「もーずき」とも言う。乳幼児に対しては「もんもん」と言う。
もんば ホンダワラ。(褐藻類) もんばが浜によーけあるしけー、拾ってきれーにしょーや。 豊岡市竹野町竹野地区・港地区での使用を確認。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、使用地点は米子市・東伯郡・西伯郡となっている。また、同書には次の記述がある。「新年の飾り物や食用・肥料にする。」
豊岡市の日本海岸沿いでは、肥料として使われることはあるが、食用にはされない。食用にできるホンダワラは「じんば」と言って区別される。
「じんば」を参照されたい。
ん’ 祝祭日や行事などが行われる特別な日。 今日はもんびだで、物が高けー(物の値段が高い)。 豊岡市旧市街地での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、宮津市・与謝郡野田川町字山田・上方を使用地点とする文献による出典が明記されている。
漢字表記すると「物日」もしくは「紋日」。
もんも’ おしめ。おむつ。 もんもん換えようや。 豊岡市での使用を確認。
乳幼児に対して使う語彙。
「もんず’き」を参照されたい。
もんやこ (衣類、物などを)いっしょに使うこと。 このジャンパー、兄ちゃんともんやこで着とるんだわ。 「もやい」の転訛と思われる。


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