但馬方言辞典 や行〜ん

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但馬方言 共 通 語 用   例 解   説
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〜や 〜だ。(断定の助動詞) 今日はえー天気なー。 朝来市・豊岡市出石町・養父市養父地区などでの使用を確認。ただし、実際には但馬地方全体でかなり広く用いられている。伝統的に「じゃ」の地域では「や」に変わってきている。また、豊岡市など全国共通語と同形の「だ」の地域でも、中年層以下で「や」が用いられることが増えてきている。仕事や婚姻などで、京阪神やその周辺地域との交流が盛んになってきていることがその要因の一つかと思われる。また、但馬地方は近畿地方であるため、その中心地である京阪神へのあこがれも人々の心の中にあるかと思う。
用例は朝来市和田山町の方の発話によるもの。
「〜じゃ」、「〜や」を参照されたい。
や’ やー。(掛け声)  体操の隊形に、開け。−−−やー
もとの隊形に、戻れ。−−−やー。 
但馬地方北部での使用を確認。
この掛け声は、兵庫県内の学校で広く用いられている。私自身、兵庫県内の中学校に5校勤務してきたが、そのうちの4校において体育の授業、体育祭等で用いられている。
私が子どもだった頃も、体育の授業でこの掛け声を用いた指導がされていた。但馬地方をはじめとする兵庫県内のものとは思わずに育ってきた。 
〜やー 〜様(よう)。 やりやーがねー。(やりようがない。)
知ったなこと言うな。
但馬地方北部各地での使用を確認。
/yau/が/ya:/と母音が融合したもの。つまり、/au/連母音の融合形である。
2番目の用例のように、「や」長母音化しない場合もある。
やいと お灸。 わりーことばっかりやっとったら、やいとせーるぞ。 「やーと」となることもある。「焼処(やきどころ)」から。
近畿地方を中心に「やいと」があり、その周辺に全国共通語形である「きゅう」がある。「やいと」が新しい語形であることがわかる。周圏分布である。
やおつり’ 引っ越し。 今日田中さんはやおつりしとんなるわ(引っ越しをされているよ)。 豊岡市での使用を確認。
「家移り」から来ていると思われる。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、大阪府泉北郡となっている。「やうつり」では、全国多くの地点があげられている。
や’ーに 〜ように。 物事はえーやーに(よいように)受け取ろう。 「〜やな」の備考欄を参照されたい。。
しゃ’まご 玄孫(やしゃご)。ひ孫の子。 田中さんとこのおおばーさん、やしゃまごの顔を見なったんだって。めでたいわ。長生きしなるなあ。 実際には「やしゃまご」を見ることは少ないため、この語を知らない人が多いと思われる。
す’ (試験問題が)易しい。 英語のテストはやすかった。平均点が76点もあった。 豊岡市での使用を確認。
『鳥取県のことば』(平山輝男・室山敏昭、明治書院、平成10年)の「V 方言基礎語彙」(調査地点:鳥取市)に掲載されている。
やっこらせ’ やっとのこと。 この頃運動不足なもんで、50メートルを全力で走るのがやっこらせですわ。 「よっこらせ」の名詞。
やっちゃる やってあげる。 あんたは今日いそがしげだで(いそがしそうだから)、その仕事やっちゃるわ。  「てあ」が「ちゃ」と転訛した語形。 
やつがしら’ 刺虫(いらむし)。イラガの幼虫。(昆虫) 柿の木からやつがしらが落ちてきて刺された。 鳥類の「やつがしら」ではない。
幼い頃、柿の木の下で遊んでいてよく刺された。
やっとこせ やっと。 この難しい編みもんが(編み物が)やっとこせできたわ。 『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、与謝郡野田川町を使用地点とする文献による出典が明記されている。
やっぱ’ やっぱり。 今日飲みいかー(行こう)思っとったけど、明日の朝はえー(早い)で、やっぱしやめとくわ。 「り」が「し」に転訛した語形。
や’ 〜ような。 そんなやな(そのような)気がした。 但馬地方北部各地での使用を確認。
旧仮名遣いでは「やうな」となる。よって/au/連母音の融合形である。/yauna/→/ya:na/→/yana/
やまが’れー ヒレグロ。(魚類) 晩ご飯にやまがれーを炊いて食べた。 但馬地方・京都府丹後地方・鳥取県など、山陰地方での呼び名。
用例で「炊いて」とあるが、豊岡市では「炊く」と「煮る」のどちらを使用するかが曖昧になるりうる。
やまど 山仕事。 やまどで怪我ーした。 かつて、ナタなどでよく怪我をしたとのこと。
やまま’ 野生の蚕。または蚕を産む蛾で野生のもの。 やままいがうめえこと卵を産んだわ。 養父市八鹿町での使用を確認。
かつて「やまま’い」を捕まえて養殖していた所もあり、結構良い値段で取引されていたとのこと。但しこれは年1回きり。
用例は養父市八鹿町在住のO氏に作成していただいた。
め’ 叫ぶ。大声をあげる。 谷口さんげの玄関先で、何べん呼んでも返事をしなれへんだったしけー、やめーたら二階から裕さんが降りてきなった。 豊岡市での使用を確認。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、「わめく。叫ぶ。」の定義で福井県遠敷郡・丹後となっている。「叱る」の定義で富山県入善地方・石川県羽咋郡・京都府与謝郡となっている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)では、「叫ぶ。大声をあげる。」の定義で八頭郡・西伯郡となっている。
〜やら’ 〜やろう。 インターネットやらーや(やろうよ)。−−−うん、やらーやらー 「やらう」の/au/連母音融合形。順行同化である。但馬北部での音韻現象である。但馬南部と豊岡市但東町は相互同化の/o:/となり、「やろー」の語形が用いられる。
やらか’ 柔らかい。 この肉、やらかーて(やわらかくて)美味しいなあ。 「やろこい」の同意語。
〜やり’もって 〜やりながら。 こら、宿題やりもってテレビを見るな。 「(〜し)もって」を参照されたい。
やろこ’ 柔らかい。 このお餅、やろこいなあ。焼いたら美味しいで。 「やらかい」の同意語。
やわ あばら骨。肋骨。  やわがいてー(痛い)。  豊岡市での使用を確認。
『丹後・東海地方の言葉と文化 第2集』(京丹後市教育委員会、2018年)に「網野方言語形」として掲載されている。
私の母によると、あばら骨の下方をさすと言う。
〜やん 〜ではないか。 きのう、その話をしたやん。忘れたんか。
今日の部活はきのうの練習メニューといっしょでえーやん
新方言である。
「〜やんか」の「か」が脱落した語形。
用例を伝統的な方言で表現すると、「きのう、その話をしただねー。忘れたんか。」「今日の部活はきのうの練習メニューといっしょでえーだねー」などとなる。
「〜やんか」を参照されたい。
〜やんか 〜ではないか。〜ではないの。 私、10年前の夏、あんたと一緒に花火を見に行ったやんか。おぼえとんなるか。
明日、仕事でここに来るやんか。だしけーその書類はここに置いとったらえーやんか
新方言である。
用例を伝統的な方言で表現すると、「私、10年前の夏、あんたと一緒に花火を見に行っただねーか。おぼえとんなるか。」「明日、仕事でここに来るだねーか。だしけーその書類はここに置いとったらえーだねーか。」などとなる。
「〜やんか」はもともと上方語であり、但馬地方では用いられなかった。私が小中学生であった昭和40年代から50年代にかけては、この表現を耳にすると違和感が感じられた。実際、京阪神方面からユーターンされてきた方々やその地方出身の方々によって用いられる物言いであった。しかし、現在では中年層と若年層で,、男女関係なくこの物言いすることが多く、耳にしても抵抗なくなった。私の観察によると、中学生たちとその母親たちは、ごく自然にこの物言いが身についている。(中年層の中には、この物言いをしない人も数多く見られる。また、家庭では伝統方言、友人との、あるいは仕事がらみの会話でこの物言いをするという人もいるであろう。)
上方において、「〜やんか」はもともと「〜やないか」であった。大阪で明治末から大正、昭和初期にかけて若い女性たちが「〜やんか」使い始めたとのこと。それが少しずつ西日本に広まり、但馬地方にも広まりつつある。豊岡市竹野町・港地区など、日本海岸沿いにまで達している。上方方言が但馬地方に影響を及ぼしている典型的な例であろう。
これに対して、同じ意味を表す表現の「〜じゃんか」、「〜じゃん」が東日本に広がっている。テレビなどマスメディアを通して頻繁に全国の誰もが耳にする表現である。しかし、但馬地方でこの表現を用いる人は稀である。
但馬北部は断定の助動詞に「だ」を用いる。そのため「〜やんか」、「〜やん」は起こりにくい現象であるように考えられる。しかし現実はそうではない。おそらく、但馬地方は近年京阪神との結びつきが強くなり、そこの人々との交流が盛んになったこと、近畿地方の中心地域が京阪神であること、また、京阪神が但馬地方に住む人々にとって憧れの地域であるという心理がはたらいている、というようなことが理由としてあげられるであろう。観点が少し違うが、伝統的な表現とくらべ、発話のエネルギーを要しないということ、つまり言葉の合理化ということも影響しているのかも知れない。
『大阪ことば事典』(牧村史陽編、昭和59年、講談社)によると、「婦人語」となっている。
『日本語ウォッチング』(井上史雄著、岩波書店、平成10年)、『日本語は年速一キロで動く』(井上史雄、講談社、平成15年)、『日本の方言地図 ことばの旅』(真田真治、講談社、平成14年)を参考にさせていただいた。
〜やんな 〜よね。 先生、あした部活ないやんな。−−−うん。水曜日だであれへんで。 新方言である。
中年層・若年層で用いられているのをよく耳にする。中年層では男性より女性に使用者が多い。用例は、中学生と私が会話をしている例。
「〜だんな」、「〜やんか」を参照されたい。
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ゆ’あげ 湯上がりタオル。 風呂に入るときはゆあげを忘れたらあかんで。 豊岡市での使用を確認。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、使用地域は京都市・福知山市・綾部市・船井郡京丹波町・相楽郡南山城村となっている。
ゆーた 言った。 そーゆーたやろ(そう言っただろう)。 朝来市・養父市南部(養父地区・大屋町)・豊岡市但東町での使用を確認。
西日本的な音韻現象である。上記以外の地域である美方郡・豊岡市(但東町を除く)・養父市(八鹿町・関宮地区)では山陰地方の多くの地域,で見られる「いった」という促音形が用いられる。この現象は、西は島根県出雲地方から鳥取県を通り、東は京都府京丹後市久美浜町まで帯状に伸びている。
用例の言い方は美方郡・豊岡市(但東町を除く)・養父市(八鹿町・関宮地区)では「そーいっただらー。」となる。山陰的である。
ゆーて 手拭。 風呂に行ってくるで、ゆーてとってくれ。 豊岡市での使用を確認。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に掲載されている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、「手拭。浴用手拭。」の定義で、福井・三重県志摩郡・香川県三豊郡・広島となっている。
ー’れん 幽霊。 ゆーれんが出さーげな家ですわ。 鳥取・大阪でも用いられる。
「ゆーれい」の「い」が撥音化された語形。「葬礼(そーれい)」を「そーれん」と言うのと同じ。
ゆきあけ’ 雪掻き。 今日は雪がよー降るなー。明日の朝ははよー起きて、ゆきあけせんならんなー(雪掻きをしないといけないなあ)。 雪が多く降り積もっていることが予想される朝は、早めに起床して、玄関前、車庫前などの「ゆきあけ」をする。さらに、職場に着いてからもする。但馬地方は雪国である。
ゆきお’こし 雪が降る直前に発生する雷。 ゆきおこしがなっとるしけー、明日は雪になるぞ。 方言といえるほどのものではないが、雪の多い但馬らしい語彙である。この項目を書いている今、「ゆきおこし」が激しくなっている。「雨は夜更け過ぎに、雪へと変わるだろう…。("Christmas Eve"の歌詞より。)
ゆきやけ’ しもやけ。 ゆきやけで足がぽんぽんに腫れとるわ。 豊岡市での使用を確認。
北海道・東北・北陸・山陰・滋賀県・岐阜県西部・長野県北東部など、積雪の多い地方でこの種の語(「いきやけ」、「ゆぎやげ」などを含む)が用いられている。『日本言語地図 第3集』(国立国語研究所)によると、その他愛媛県に17地点、大分県に1地点見られる。それらの地域と積雪との関係があるのかどうかは何とも言えない。
現在では但馬地方でも「ゆきやけ」と言うと、全国共通語の「雪による日焼け」をさす場合が多い。中年層・若年層ではこの意味しか知らないという傾向がある。
ゆっく’ ゆっくり。 温泉でも行って、ゆっくらしてきねー。 豊岡市での使用を確認。
「り」が「ら」に転訛した語形。
「ゆっく’らする」の形でよく用いられる。
ゆはい 位牌。 このゆはいは古いで。 「い」が「ゆ」に転訛した語形。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)、『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)八頭郡・西伯郡、『大阪ことば事典』(牧村史陽編、講談社、昭和54年)に掲載されている。また、『丹波通辞』(著者不明、江戸時代後期?)にも掲載されている。
ゆみあけ’ 忌明け。忌明け法事。 うちげのおじーさんのゆみあけのとき、遠いーとっから(遠いところから)よーけ親戚が来てくんなった。 但馬地方で広く使用されている。「い」が「ゆ」に転訛した語形。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、使用地点は米子市・岩美郡・東伯郡となっている。『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、与謝郡野田川町字山田と天田郡・何鹿郡・加佐郡の文献を出典とする使用が示されている。
『丹波通辞』(著者不明、江戸時代後期?)によると、「忌」の方言形として「ゆみ」とされている。
ゆるく’ ゆるい。適度なきつさがない。 この服の第一ボタンの穴、ゆるくい 豊岡市での使用を確認。
「ゆるい」より、若干強いニュアンスがある。
ゆるご 屑米。 ゆるご餅作るで、ゆるごがほしいんだわ。 豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、竹野郡網野町・与謝郡野田川町・天田郡夜久野町を使用地点とする文献による出典が明記されている。『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)を参照すると、京丹後市久美浜町・京丹後市峰山町・与謝郡伊根町・与謝郡与謝野町が加わる。
「いりご」、「いろご」とも言う。
る’っとしな’ 安心しない。 雨が降っとるさきゃー、車を運転するのはゆるっとせんわ。 豊岡市但東町資母地区での使用を確認。
「落ち着かない」という、ニュアンスのある表現。用例は西日本の否定形である「〜せん」の形。
ゆ’んべ 昨晩。 ゆんべは山まい(野生の蚕になる蛾)が電気に飛び込んできてうるさかったわ。 養父市・豊岡市での使用を確認。
よ’んべ」とも言う。「よ’んべ 1」を参照されたい。
用例は養父市八鹿町在住のO氏に作成していただいた。
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よいたんぼ 酔っ払い。 うちげのおじーさんは、酒よーけ飲んでよいたんぼになっとんなる。顔が真っ赤っかだわ。
一番よいたんぼ(こいつが一番の酔っ払いだ)。
豊岡市旧市街地での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一 編、富士書店、平成11年)にも掲載されている。
「酔った坊」からきているのであろう。
よ’ー 1 よく 豊岡に、よー来なった。 西日本に見られる「よく」のウ音便である。 
よー 2 (強意を表す。後ろに否定語が来る。) そんな上手に絵をよーかかん(上手に絵をかけない)。 用例では、「かかん」の中の否定語「ん」と呼応している。 
ー’ 魚。 例文不可
豊岡市竹野町在住の方、用例を作成してください。
豊岡市竹野町でかつて使われていた語彙。
古語の「いお」から来ていると考えられる。
豊岡市竹野町在住Hさんの情報によると、竹野浜近くにある「じゃじゃ山」に昭和20年代まで「よーみだい」というものがあったとのこと。漁をする前、魚の状況を見るための台である。以下はHさんの言葉である。
「魚の動きをみはらし台から手旗で船と網の引き手に知らせたものです。オーイオーイの声は人を集める合図も有ったそうです。」
昔の漁のようすが浮かんでくる。
『標準語引き 日本方言辞典』(小学館、監修佐藤亮一、平成16年)によると、「魚」の方言形として「よー」が国内21地点あげられている。その中に「兵庫県豊岡市」が含まれている。同書が発行された当時、竹野町は豊岡市ではなかったことを考えると、かつては旧豊岡市でも使われていた語彙のようである。
よーいわん’ あきれたことだ。 お母ちゃん、遊びに行ってくるわ。−−−よーいわんわ。ちったー勉強しねーな(少しは勉強しなさいよ)。 豊岡市での使用を確認。
よ’ーきな’った よく来られた。 はるばる東京からよーきなった。まーあがっておくれえ(靴を脱いで入ってください)。 人を迎えるときの言葉。丁寧語「〜なる」を用いたもの。「ようきんさった」の同意語。
よ’ーきんさ’った よく来られた。 雪のよう降る中、よーきんさった。熱いお茶でも出すわ。 人を迎えるときの言葉。丁寧語「〜んさる」を用いたもの。「ようきなった」の同意語。
よ’ーけ たくさん。 遠慮せんと、よーけご飯食べておくれ。  近畿地方を中心によく用いられている語彙。
よ’ーけこと たくさん。 よーけこと柿がとれたわ。でも、食べ切れれへんなー。近所に配らーや。 豊岡市での使用を確認。
よ’ーけ」と同じだが、「有り余る」というニュアンスがある。
「がっせ’ーこと」の同意語。
よ()さり’ 夜。 よーさりになったら咳が出る。 豊岡市での使用を確認。
『校補但馬考』(櫻井勉著、大正11年)、『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)、『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
『上方語源辞典』(前田勇編、東京堂出版、昭和40年)に、[語源]として次の記述がある。「『さり』は、古語『さる』(ラ四)の連用名詞で、…になる、…が来るの意。春サラば・夕サレばなど。」
用例は、今は亡き明治19年生まれの我が祖母がよく口にしていた言葉であるとのこと。
よ’ーす よろしいです。結構です。 あんまりご馳走がねーけど、こーこ添えて(たくあんを添えて)お茶漬けでも食べておくれんされへんかー。−−−よーすよーす。ご飯よんでくんなっておおきに、あんたー。 但馬地方北部各地での使用を確認。
相手の言ったことに対して、応じる場合にも断る場合にも用いられる。
よ’ーすか(ー) よろしいですか。結構ですか。 今日ははよー帰らしてもらってもよーすかー。−−−よーすで。いつなっと(いつでも)帰っておくれー。いっつもご苦労さんだなー。 但馬地方北部各地での使用を確認。
「か(ー)」は疑問助詞。
よーせん できない。 僕はスキーをよーせん  「よー 2」を参照されたい。
よ’ーた 酔った。 酒飲みすぎてよーた 「よった」がう音便になった語形。
ーだち1 夕立 よーだちが来そうな空もようだー。  但馬地方全体に広く見られる。
近畿・中国・四国などに多く見られる語形。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)、『居組の方言』(平成14年)に掲載されている。 
よーだち 2 雷。 よーだちが落ちる。 但馬地方全体に広く見られる。
『校補但馬考』(櫻井勉著、大正11年)、『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
豊岡市但東町では、京都府丹後地方へと続く語形である「はたがめ」、「はたがみ」が用いられる。「はたがめ」を参照されたい。
よーだれ 涎(よだれ)。 よーだれ拭いちゃれーや(涎を拭いてやれよ)。 京都府丹後地方・鳥取県・岡山県・広島県・香川県などに分布している。
奈良時代の「よだり」に由来する。
よ’’ー よくない。 隣からいっつもえーもんもらってばっかりで、お返しせーへんのはよーねーなー。 「よー」は「よく」のウ音便、「ねー」は「ない」の/ai/連母音融合形。
よーのこ 鯉の子ども。(魚類) 今日釣った魚、フナかと思っとったけど、よー見たらよーのこだった。 豊岡市・養父市での使用を確認。
かつて、子どもたちが「よーのこ」を釣って喜んでいたものであった。
よーやらん できない 来年のことだけど、区長してーな。−−−悪ーけど、仕事がいそがしーでよーやらんわ。こらえて。  「よー 2」を参照されたい。 
よーよー ようやく。 よーよーテレビの修理がすんだと思ったら、今度はビデオが故障した。 「長い時間かかったがやっとのことで」というニュアンスがある。
よーよと やっと(のことで)。 電車とバスを乗り継いで、よーよと目的地に着いた。 「よーよー」よりも若干強意がある。
よき 斧。 よきで木を割る。 豊岡市での使用を確認。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)、『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、仙台(浜萩)・福島・茨城・栃木県足利郡・群馬県邑楽郡・千葉県山武郡・佐渡・富山・中部・三重・奈良・和歌山・大阪府泉北郡・京都・兵庫・広島・高知・九州となっている。
よぐし 魚を干すために用いる串。 鰈をよぐしに刺しといて。 豊岡市での使用を確認。
「よ」は「魚」を意味する「よー」のことであろう。「よー」を参照されたい。
よけーと 余計に。 そねーよーけ説明されたら、よけーとわかれへんわ。 豊岡市での使用を確認。
よこっちょ 横。横道。 話がよこっちょにそれた。ごめんよ。 用例のように、「話が横道にそれる」場合に用いられることがある。
よさげ’ 良さそうな。 よさげなのを選んで持って帰って。 豊岡市での使用を確認。
「よげ’な」と「よさそ’ーな」の混交形であろう。
比較的若い年代層で用いられる。
よして 仲間に入れて。 サークルに僕もよしてーな。 親しい人に用いられることが多い。
よだき’ 気が悪い。 子どもがまとわりついてきてよだきー 美方郡新温泉町浜坂地区・温泉地区での使用を確認。
『諸寄弁(もれえそべん)控帳』(藤田 誠・編、昭和56年)に「うるさい。」の定義で掲載されている。
但馬地方北西部の鳥取県に近い地域の高年層が用いる。鳥取県へと続く語彙。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)では、「よだきい」の見出しで「大儀な。いやな。」という定義があり、兵庫県美方郡・大分・宮崎・鹿児島となっている。『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)では「うるさい。わずらわしい。あくどい。汚い。」という定義があり、鳥取市・倉吉市・岩美郡・八頭郡・気高郡・東伯郡となっている。
『都道府県別 全国方言辞典』(佐藤亮一編、三省堂、平成21年)によると、大分県の「よだきー」に「億劫だ。」という定義があり、「古語『よだけし』の転」と記述されている。
よ’っこらせ よっこいしょ (座っていた状態から腰を上げながら)よっこらせ  用例のような状況で、年配の方が用いられることが多い。また、共同作業をするときの掛け声にも用いられる。この場合、「せ」が強調され強く発話される。 
(〜し)よった 1 (〜した)ものだ。 子どものじぶん、近所のつれといっしょによー虫とりに行きよった 過去の習慣を表す。低く発話される。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、綾部市を使用地点とする文献による出典が明記されている。
(〜し)よった 2 (もう少しで〜する)ところだった。 酔っ払って階段から落ちよった 同じ「〜しよった」でも、上方方言では「〜してしまった」という意味になるが、但馬地方や中国地方など西日本の多くの地域では、実際には起こらなかった動作を表す。低く発話される。
よった’ 四人。 あの家はよったり家族だ。 豊岡市での使用を確認。
『諸寄弁(もれえそべん)控帳』(藤田 誠・編、昭和56年)に掲載されている。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、与謝郡野田川町字山田・舞鶴市を使用地点とする文献による出典が明記されている。
(〜し)よって (〜し)始めていて。 ご飯お父さんと一緒に食べよって。今、すぐにに行くしけー。
後から追いかけて行くで、先に行よって
但馬地方各地での使用を確認。
低く発話される。
「(〜し)よる」を参照されたい。
の’ エノキ。(植物) タマムシはよのきの葉っぱを食べる。 豊岡市日高町での使用を確認。
豊岡市日高町栃本あたりに「よのき坂」というのがあり、そこにはエノキの木が多いとのこと。
よばれだち ご馳走になってすぐに席をたつこと。 悪りーけど、用事があるしけーよばれだちするわ。 但馬地方各地での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、京都府下の多くの地域を使用地点とする文献による出典が明記されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、使用地点は鳥取市・倉吉市・岩美郡・八頭郡・東伯郡となっている。
よばれる 食事に招かれる。ごちそうをいただく。 今夜は山田さんの家でよばれるんだわ。
美味しそうなごちそうですね。よばれますわ。どうもおおきに。
但馬地方各地での使用を確認。
食事に関して用いられる。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、京都府下の多くの地域を使用地点とする文献による出典が明記されている。
よめこ カメムシ。(昆虫) がっしゃーよーけ(とてもたくさん)よめこがおるわ。 豊岡市但東町での使用を確認。
当地には、同類の語彙に「よめさん’むし」もある。
よめさん’むし カメムシ。(昆虫) 蔵を片付けたらよめさんむしがいっぱいおってかなんだ。 豊岡市但東町での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、「ヨメサン」の見出しで、「くさぎかめむし」と定義され、与謝郡野田川町字山田・福知山市を使用地点とする文献による出典が明記されている。
用例は但東町在住のKさんに作成していただいた。
(〜し)よる (〜し)始めている。(〜し)つつある。 雨が降りよる(降り始めている) 動作の継続を表すアスペクト表現。「(〜し)とる」との違いに注意。
低く発話される。
よろこび 出産。 きんのー、隣の家がよろこびだった。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、使用地点は近畿(日葡辞書)・土佐(幡多方言)となっている。
よんで’(ーな) (たばこ、食べ物などをその場で少しだけ)分け与えてください。 たばこ一服よんでーな。−−−はい、どうぞ。
水一杯よんでーな。−−−一杯いわんと二杯でも三杯でも飲んどくれー。
気さくな言い方。やや丁寧に表現する場合は「よんでくんねーな」、「よんでくんなれへんかー」、「よんでおくれんせーな」となる。
よ’んべ 1 昨晩。 よんべは寒ーて寝れなんだ(寒くて寝られなかった)。 豊岡市・養父市での使用を確認。
「ゆうべ」の音韻変化。「ゆ’んべ」とも言う。また、「きんのうのばん(げ)」と表現することもある。「ん」は室町時代の名残り。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)、『居組の方言』(平成14年)に掲載されている。
用例中の「寝れ」はら抜き言葉。ら抜き言葉は頻繁に見られる。
よ’んべ 2 夜。 きゃあな仕事はよんべ仕事んだ(こんな仕事は夜の仕事だ)。 養父市・豊岡市での使用を確認。
用例のように、次に名詞を接続すると◎●●というアクセントになる。
用例は養父市八鹿町在住のO氏に作成していただいた。
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〜らへん 〜あたり。〜の方。 野球の試合見に行ったけど、最初らへんは見てへん。
気比らへんは、この頃熊が出るらしいで。
豊岡市港地区での使用を確認。
「さいごらへん」は、私が幼い頃、豊岡市旧市街地でも用いられていたが、港地区ではいろいいろな名詞や地名に接続して用いられ、現在、若年層によってよく用いられる。
「さいごらへん」を参照されたい。
ら’れへん  〜できない。  今日はあつーて寝られへん
あの人がそんなこと言うなんて、考えられへんわ。
豊岡市での使用を確認。
どちらかと言えば新方言であろう。と言っても、私の幼かった昭和40年代でも抵抗なく耳にしていた。
この語形はもともと上方方言から来たものと考えられる。これにあたる但馬方言は「〜れ’れへん」である。平成23年現在でも、こちらの方が優勢であり、私自身内省してみると、身内や親しい仲間内では「〜れ’れへん」を用い、「〜’れへん」はどちらかと言えばよそ行き言葉である。
「〜れ’れへん」を参照されたい。 
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りこもん 利口な人。 一人で留守番しとったんか。弘子ちゃんはなんちゅうりこもんもでー。 豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、宮津市・竹野郡弥栄町・竹野郡網野町・与謝郡伊根町・与謝郡野田川町を使用地点とする文献による出典が明記されている。
用例のようなに、大人が子どもほめる時によく用いられる。
全国共通語の「利口」という言葉は使用頻度が低く、普通は「賢い」が使われる。「りこもん」は例外的な語彙といえる。
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れーこー アイスコーヒー。 れーこーとホット、どっちもあるけどどっちがえー。−−−ごっつい氷のよーけ入ったれーこーがえーわ。どうもおおきに。 豊岡市・養父市での使用を確認。
昭和50年代、喫茶店で「れーこー」と注文する人も多かったが、最近ではあまり聞かない。しかしつい先日、(平成21年3月)久しぶりにこの語を養父市内の喫茶店で客が店主に注文するのを耳にした。
なお、この語は京阪神から伝わったものであろう。
れ’ーめん 冷やし中華。 暑いしけー、昼はれーめんにしょーかえ。 豊岡市での使用を確認。
「冷麺」とは、本来朝鮮料理である別物。だが、こちらでは「冷やし中華」のことを指す場合が多い。
れ’らへん 〜できない。 テストで100点なんてとれらへんわ。 豊岡市港地区での使用を確認。
但馬地方の他の多くの地域では「〜れ’れへん」だが、豊岡市港地区では「〜れ’らへん」という語形もあり、併用される。用法は「〜れ’れへん」と同じである。
「〜れ’れへん」を参照されたい。
れ’れへん 〜できない。 息子はまんだ背が低いしけー、よーけ人がおって花火がよう見れれへんだったかも知れんなー。
わしの部屋は冷房があれへんしけー、今夜はあつーて寝れれへんちゃうか。
明日は用事があるしけー、ここに来れれへんわ。
棚の上に置いてある箱がほしかったもんで手で取らーと思ったら、高すぎて取れれへんだった。
上下一段活用動詞、カ行変格活用動詞(「来る」のみ)、ラ行五段活用動詞において、「〜れる」(上下一段活用動詞とカ行変格活用動詞については、いわゆる「ら抜き言葉」)という可能形に「れへん」を付けて不可能形にしたものと考えられる。
上一段活用動詞「見る」:「見れる+れへん」=「見れれへん」
下一段活用動詞「寝る」:「寝れる+れへん」=「寝れれへん」
カ行変格活用動詞「来る」:「来れる+れへん」=「来れれへん」
ラ行変格活用動詞「取る」:「取れる+れへん」=「取れれへん」
「〜れれへん」で不可能を表す語法は、但馬地方の他に淡路地方、和歌山県の一部にもあるらしい。
また、但馬地方でも鳥取県と接する美方郡新温泉町では、「〜れれへん」の語法はなく、「見れん」、「寝れん」、「来れん」、「取れん」という形で不可能を表す。この語法は豊岡市あたりでも用いられ、「〜れれへん」と併用する。
『複数の日本語』(工藤真由美・八亀裕美、講談社、平成20年)の「全部食べれれんかった」に愛媛県宇和島方言の「〜れれん」の詳細な記述がある。この表現も同類ではあるが、但馬方言では否定語として「ん」を用いた形はなく、「へん」のみである。また、用法もよく似ていて共通点も多いが、微妙に但馬方言の「〜れれへん」と異なる。詳細はその書籍を読んでいただきたい。
〜れん 〜てはいけない。 今日はお客さんが来なるで、応接間に入られんで(応接間に入ってはいけないよ)。
そんな人の傷つくことは言われん
人の手紙は勝手に見られん
この部屋は冷房があれへんで、寝られんで。
明日は忙しいしけー、ここに来られん
人が嫌がることはしられん
豊岡市での使用を確認。
動詞に接続し、動作の禁止を表わす。
五段活用動詞、ナ行変格活用動詞は未然形に接続する。上下一段活用動詞は語幹に「ら」を付けて接続する。カ行変格活用動詞は未然形に「ら」を付けて接続する。サ行変格活用動詞は未然形「し」に「ら」を付けて接続する。
現在の豊岡市では、「〜たらあかん」という言い方の方が一般的である。
れ’んげ 擂り粉木。 れんげで胡麻をする。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
近畿を中心に広く西日本に分布している。「連木(れんぎ)」から来ている。
『物類称呼』(越谷吾山、1775年)の「擂粉木」に次の記述がある。「江戸にて すりこぎ 五畿内及西國中國四国にて れんぎと云 出雲にて めぐり 越後にて めぐり又まはしぎとも云 出羽にて めぐりこぎ 津輕にて ますぎと云」
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ー’ 庭。 夕方になったしけー、ろーじに出て涼んでこ(涼んでこよう)。 豊岡市生え抜きである、大正生まれの伯母からこの語を確認。
『日本言語地図』第4集(国立国語研究所)によると、石川県・富山県・宮城県などに「ろじ」、「ろーじ」の語形が濃厚に分布している。
この語は、もともと覆いのない土地である「露地」を表していた。後に狭い通路を表す「路地」の意味となった。室町時代には、庭内の「茶室への通路」を指すようになった。それが転じて「茶庭」をも表すようになり、更に「庭」を表す語となった。
『校補但馬考』(櫻井勉著、大正11年)に「庭」の方言として掲載されている。その他、『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)、『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に「庭園」という定義がある。
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ー’っとろっしゃ おや、びっくりした。 今朝、1メートル半ほどある蛇が庭におったんで。−−−わーっとろっしゃ 「おーっとろっしゃ」の同意語。
わい 私。 わいにまかしとけー(任せておいて)。 男性語。最近は使われる頻度が低くなりつつある。
わ’いや
〜わいや
〜んだよ。〜よ。 新しいパソコン買ったわいや
それはほんまだわいや(それは本当なんだよ)
豊岡市での使用を確認。
主として男性語で、同年か年下に使う。
強い口調で発話すれば喧嘩っぽくなるが、やわらかい口調で発話すればそうならない。特に2番目の用例ではそれが顕著である。
わえ わえも今日のテスト全然わかれへんなんだ。  豊岡市、旧城崎郡で用いられる。子ども(男の子)が使う傾向にある。しかし近年では、「おれ」に変わろうとしている。
わ’がえ(ー) わが家。 なんだーかんだー言っても、わがえがいちばんえーわ。 「え(ー)」は「いえ」の転訛であろう。
わ’がめ 自分。 それ、わがめのパソコンけー(パソコンかい)。ごっついえーのだなー。 今となっては高年層しか用いる人はいない。
け’ 食べ残し。 わけーするなよ。 豊岡市での使用を確認。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、使用地点は山梨・三重・富山県礪波地方・石川県河北郡・京都府竹野郡・但馬・石見・淡路島・徳島県美馬郡となっている。
『岩波古語辞典補訂版』(岩波書店、平成2年)の「わけ【分け・別け】」に「食べ分けたもの。食べ残し。」という定義がある。
豊岡市旧市街地では「ねこわけ’」と併用する。
用例は豊岡市在住のM氏に作成していただいた。
「ねこわけ’」を参照されたい。
け’ーしゅう 若い衆 あんたもえーわけーしゅうになんなったなー(なられたねー)。  用例の他、姑が自分の息子夫婦などに用いることがよくある。 
’ーもん。 若者。 今のわけーもんの考えとることはわからんわ。 「わかい」の/ai/連母音融合形。年輩層の中には「わけゃー」も見られる。
ざ’ わざわざ。 仕事の帰りに豆腐をかーてくる言っとったら忘れるで(買ってくると言っていたら忘れるから)、今わざに買いに行ってくるわ。 「今すぐ気持ちをそちらへ向けて〜する」というニュアンスがある。
わし 私。 それはわしの考えだ。 どちらかというと男性語だが、高年層では女性でも用いる人もいる。
しゃ’ 私は。 あいつのいうこときーとったら(聞いていたら)、わしゃー腹が立った。 「わたしは」が音韻変化した語形。
わたぶく’ 綿ぼこり。 ちったー自分の部屋ー掃除せーや。わたぶくだらけだぞ。 豊岡市での使用を確認。
わちがり 耕地周辺の草刈。 わちがりせんな、草だらけだがな。 豊岡市での使用を確認。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に掲載されている。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、竹野郡網野町・中丹各地を使用地点とする文献による出典が明記されている。
わった’ おおっ。 わったいなんだあこりゃ。
わったい何を急に言い出すんだいや。
養父市・豊岡市での使用を確認。
驚きをあらわす。
養父市八鹿町在住のO氏から詳しく情報をいただいた。用例もO氏に作成していただいた。
や’ 台無し。無茶苦茶。 ノートの上にコーヒーこぼしてわやしたわ。 西日本の幅広い地域で用いられている。
上方など京阪式アクセントでは、「わ’や」と一拍目が高、二拍目が低であるが、但馬地方など東京式アクセントの地域では尾高型で二拍目が高となる。
『大阪ことば事典』(牧村史陽、講談社、昭和59年)によると、「わ(お)うわく[枉惑]の約訛という(ワウワク→ワワク→ワヤ?)」となっている。 
わやくた’ 台無し。無茶苦茶。 久しぶりに自分で煮物をしたら、鍋を焦げつかせてわやくたになった。 「わや’」の強意形。
わらける 笑える。 あんたの着とんなる服、似合えへんわ(似合わないわ)。見とったらわらけるわ。 「わらわかす」の自動詞。
他人の行いや言動を馬鹿にするようなニュアンスがある。
わらわかす 笑わせる。 あの子のひょうきんな行動は、ほんまにわらわかすなー。 「わらける」の他動詞。
必ずしも「わらける」のように、他人のことを馬鹿にするとは限らない。
わりかし わりと。 今日はわりかし涼しいなー。 「わりかた」の同意語。
わりかた わりと。 わしの息子もわりかたえーわけえしゅう(若い衆)になったで。 「わりかし」の同意語。
わるき 割木。 わるきでふろー沸かす(風呂を沸かす)。 豊岡市での使用を確認。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に掲載されている。
「ばいた」の類義語。
わ’ お前。 おー、われ、こっち来て座れーや。 「おめー」を強調した形。
養父市八鹿町(旧養父郡八鹿町)在住Oさんから教えていただいた。
わ’ら’ お前たち。 われらー、ここで何しょーるんだえ(ここで何をしようとしているんだ)。 「われ」の複数形。「おめーらー」を強調した形。
養父市八鹿町(旧養父郡八鹿町)在住Oさんから教えていただいた。
ん’わらわん’わらふる ぼたん雪が絶え間なく降り注ぐ様子。 今朝から雪がわんわらわんわらふるなーあ。 雪国ならではの味わいのある表現である。大きなぼたん雪が次から次へふわふわと降り注ぐようすが「わんわら」という音で表現されている。小学校4年生のめぐみさんからメールをいただいて気づいた素敵な言葉。
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〜ん 1 〜ない。 この写真の人、知っとる。−−−知ら 西日本で広く使われている否定語。
「ぬ」から変化したもの。
(〜する)ん 2 (〜する)の。 勉強しとる(しているの)。
何見とる(何をみているの)。
どこ行く(どこへ行くの)。
但馬地方各地での使用を確認。
疑問を表す助詞。
親しい間で用いられる。
ん 3 (意味なし。) 田中さんの娘さんは、がっせーべっぴんさんだらーか。−−−そーだらーで(そうだろうよ)。
何時に行かしてもらったらいーですか。−−−何時でも来てくんねー(来てください)。
助動詞、助詞の「だ」、「で」の前に付く「ん」で、室町時代の鼻母音の名残である。
『但馬ことば』(岡田荘之輔著、兵庫県立但馬文教府、昭和52年)によると、使用地域として「豊岡市の周辺部や、日高町・八鹿町・関宮町などで、但馬の中央部を、東から西に帯状に、広く行なわれているのである。」とある。私の観察でも、確かに豊岡市の旧市街地から少し離れた五荘地区や新田地区などの人たちの話し言葉によくあらわれる。
(〜し)んかっ’ (〜し)なかった。 行かんかった
知らんかった
んかった
新しい方言形である。
西日本で否定を表す助動詞「ん」に、全国共通語の「(〜し)なかった」の「かった」が結合して出来上がった語形。動詞の未然形に接続する。
以前は「(〜し)なんだ」を用いていたが、現在の若年層や中年層は「(〜し)んかった」を用いる傾向が強い。「(〜し)なんだ」を参照されたい。
(〜し)んさ’ (〜さ)れる。(丁寧語) ほんま豊岡にようきんさっ(よく来られました)。 豊岡市・養父市・美方郡東部での使用を確認。
「ナサル系」の丁寧語。「〜(し)な’る」(丁寧語)と同じ。豊岡市などでは両方とも頻繁に用いられるが、但馬地方全体では「〜(し)’る」の方が優勢かと思われる。しかし、地域差や個人差がある。また、どちらかというと、女性の使用者が男性より多い。
美方郡香美町香住区西部から新温泉町、朝来市では使用されない。また、京都府丹後地方でも使用されない。しかし、鳥取県因幡地方では使用される。
〜んな’ 〜なければならない。 今日はあの子の誕生日だしけー、いわっちゃらんなん(祝ってやらなければならない)。
テストがちけーで、勉強せんなん
但馬地方各地での使用を確認。
「〜んならん」、「〜んなあかん」、「〜んないけん」ともなる。
〜んねー 〜じゃない。 えー服着とるんねー 豊岡市での使用を確認。
「〜んねーか」の「か」が脱落した語形。
現在、豊岡市あたりでは「〜やん」に替わりつつある。
「〜んねーか」を参照されたい。
〜んねーか 〜じゃないか。 テレビばっかり見とらんと、ちったー勉強しねー。−−−テレビ見ながら勉強しとるんねーか 豊岡市での使用を確認。
現在、豊岡市あたりでは「〜やんか」に替わりつつある。
動詞・助動詞の終止形に接続し、直前の拍に核がある。つまり、「勉強しとる’んねーか」というアクセントになる。
(〜し)んは’ (〜さ)れる。(丁寧語) 今何しとんはる。−−−晩ご飯作りよりとこですわ。
きんのう、花火見に行きんはった。−−−息子と行きましたで。
豊岡市での使用を確認。
女性語である。また、2番目の用例のように、過去時制で用いられることが多い。
「(〜し)んさる」と上方方言の「(〜し)はる」の混交形ではなかろうか。


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