但馬方言が行く!

−但馬方言がもたらした物語(?)−


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物語 1 物語 2 物語 3 物語 4 物語 5 物語 6 物語 7 物語 8
物語 9 物語10 物語11 物語12 物語13 物語14 物語15 物語16
物語17 物語18

物語 1 「なんか」のアクセント違いで

中学校の教室において

 「長谷川君なんかきらいや」というタイトルの物語(実話)を道徳の時間に指導した。3回に分けて指導したのであるが、その3回目に生徒たちから「何か変だと思っとった。」という納得の声があがった。
 実は、豊岡市出身である私は東京式アクセントであるため、「なんか」のところを「んか」と発音していた。ところが当時私が勤務していた中学校の生徒たちは京阪式アクセントで話すため、「なか」と発音しないと、正しく意味を解釈してくれないのであった。
 「先生の発音だと、長谷川君はなんとなくきらいや、という意味になるで。」と言われた。生徒たちによると、物語の内容と私の発音による意味がどことなく一致しないと思っていたらしい。最後にわかってくれてありがたかった。
*ただし、「なか」と発音すると、但馬地区においては「なんとなく」という意味になる。まったく反対である。

物語 2 「〜だらー」は但馬?静岡?

大学の講義室において

 私が大学生の頃のことである。ある日、大学の講義室で、友人と会話をしていた。その会話の中で、何かのひょうしに私の口から「〜だらー」という但馬方言の語尾が飛び出した。それを耳にした、すぐそばにいた学生が、「ねぇ、君、さっき『だらー』って言ったよね。君、静岡の出身?僕、静岡なんだけど…。」と言ってきた。
 「〜だらー」と言う語尾は、但馬方言を含む山陰地方の方言だけではなく、愛知県東部の三河地方から静岡にかけての地域でも使われるのである。声をかけてきた学生は、何となく変な表情をしていたが、それはおそらく、私のことばの全体が静岡のものとはまったく異なっていたのにもかかわらず、語尾に自分たちの使うものと同じ「〜だらー」を使っていたからであろう。

物語 3 「腹が大きい」は「妊娠している」だけ?

ゼミの宴会の場において

 大学生の頃、ゼミの仲間たちと宴会をしていた場の出来事である。普段、インスタント食品や缶詰ばかりを主食(?)にしていた私は、ただひたすらに食べまくっていた。そんな中で仲間の一人が、「おい、もっと唐揚げほしくないかい?」と私に誘いをかけてきた。私は満腹であったので、とっさに「腹が大きいわ。」と答えた。相手は私を不思議そうな眼差しで見つめながら、「妊娠している?」と言ってきた。(私は男性なので妊娠するわけがない!)
 「腹が大きい」には「妊娠している」の意味があるが、但馬地方(広く近畿)では「満腹である」の意味でも使われる。

物語 4 「ええかげん」は「ちゃらんぽらん」だけ?

大学の教室において

 ある、冷房のよくきいた大学の教室でのことである。青森県出身の友人が私に、「ちょっと寒くない?」と言ってきた。私自身、ちょうど適度であると感じていたので、「ええかげんだけど。」とこたえた。その友人は不思議そうな顔をして、「『ちゃらんぽらん』っていうこと?」と言ってきた。すると、そのそばに座っていた奈良県出身の友人が、私に代わって彼に通訳をしてくれた。「『ええかげん』には二つの意味があるんや。一つは『ちゃらんぽらん』、もう一つは『ちょうどよい程度』と言う意味なんや。」と。
 そう言われて、「ええかげん」には「ちゃらんぽらん」「ちょうどよい程度」の二つの意味があることを、初めて意識したのであった。

物語 5 「『きっちし』?それはどこの言葉や?」

英国人助教授の研究室において

 日本滞在経験が長く、日本語が流ちょうな英国人助教授の研究室でのことである。その先生の著書を買うために、鳥取市出身の友人といっしょに彼の研究室を訪れた。前もって、できるだけ釣り銭のいらないように、と言われていたが、私はそれができなかったので、「お金がきっちしないんですけど。」と言った。すると、「『きっちし』?それはどこの言葉や?」と関西弁で返された。私はそれが共通語であると思っていたので、しばらく呆然としていた。すると友人が「『きっちし』とは『きっちり』のことです。」と日本語で通訳してくれた。
 但馬方言では、「きっち」、「ぴっち」、「はっき」などの」が「」に変わる傾向がある。

物語 6 「なんだいや」は「車が何台や」?

大阪府出身者が但馬出身者とビジネスの電話で

 私の知人から聞かされた話である。彼は大阪府の出身である。彼が仕事で但馬出身者と電話で話をしたときのことである。話の内容がどうだったのかは詳しく聞いてないが、自動車に関することを話していたとのことであった。何かのひょうしに相手が「なんだいや」と言ってきたそうである。私の知人は「手配できる車の数を数えなければならない」と一瞬考えたとのことであった。
 「なんだいや」とは「何ということだ」、「何だ、そんなことか」という意味で但馬では頻繁に使われる言葉である。そう言われてみると、「車が何台や」と勘違いされる可能性もないではない。

物語 7 「行かー」は「行かない」?

地下鉄の駅へ入るところで

 大学に入学して間もない頃のことである。大学の授業が終わり、新しくできた名古屋市出身の友人と、どこかへ行こうという話が成立した直後のことである。
 彼と地下鉄の駅に向かった。地下鉄の駅へ入るところで、うきうきとしていた私は、「行かー」と彼に言った。彼は、どうしたことだ、というような顔をして、「『行かないでおこう』っていうこと?」と私にたずねた。そこで私は彼が「行かー」の意味を解してないことに気づき、「『行かー』とは『行こう』の意味なんだ。」と説明した。私はついでに、「『行こう』っていうのはこの辺ではなんていうの?」とたずねた。すると、「『行こまい』って言うんだ」と答えてくれた。
 「行かー」というのは、但馬では「行こう」という意味である。名古屋弁では「行こまい」がその意味であるが、当時の私にとっては、その名古屋弁こそ「行かないでおこう」という意味ではないか、と驚いたのであった。

物語 8 「れーコー」はださい?

名古屋の喫茶店で

 大学生の頃、私は大学近辺の喫茶店に入り、よく「れーコー」と注文していた。美人のウェートレスたちも、いつもにこりと笑顔をかわしながら私の注文を受け取ってくれていた。
 ある日、友人といっしょに喫茶店に入ったときのことである。私はいつものように「れーコー」と注文した。その直後、友人から「おまえ、『れーコー』なんて言うのださいぞ。やめろ。」と言われた。そういえば、大学の友人たちは「れーコー」とは言わず、「アイス」と言っているのがほとんどだった。
 今ではこの辺りではあまり聞かれなくなった言葉だが、私が中学生や高校生だった頃、「アイスコーヒー」のことを「れーコー」と言うことがよくあった。喫茶店などでも「れーコー」と注文する人が多くいた。私の母親もインスタントコーヒーを水差しに入れて冷蔵庫で冷やし、「れーコーつくっといたから飲んで」と言っていたものであった。
 「れーコー」という言葉自体は、大阪をはじめとする、京阪神から入ってきた言葉だと聞いていた。私にとって大阪や京都、神戸といえば文化の中心的なイメージがあったため、何のためらいもなくこの言葉を使っていたのであった。この言葉が「ださい」かどうかは、人によって違うであろうと思う。私にとっては、今でもかっこいい!というイメージがある。

物語 9 "a-ha"(ロックグループ名)と「あはー」(ばか)

友人たちとの会話(大学と地元)

 私が大学生であった1985年頃のことである。ノルウェー出身のロックグループ"a-ha"が"Take On Me"という曲で、世界の各地で人気を博した。当時、洋楽大好き人間であった私は、このグループ名である"a-ha"という響きをDJから聞かされるたびに一人で喜んでいたのであった。
 「最近なぁ、"a-ha"(あはー)っていうグループの曲が流行っているだろう。「あはー」っていうのはなぁ、僕の地元では「ばか」という意味なんだ。」私は誇らしげに、大学で友人たちに話していた。それも、得意になって何人もに。(いつも相手はしらけていた。)
 冬休みで実家の豊岡市に帰った。地元の友人たちに「最近、"a-ha"(あはー)っていうグループがいるだろう。」と言ってみた。すると「そう、そう!!『あはー』だって!」といって、笑って盛り上がった。(ちなみに、英語の達人「小林克也氏」が担当していたテレビ番組「ベストヒットUSA」で"a-ha"の曲が英語で紹介されたとき、それを耳にした私の両親も笑って喜んでいたことをおぼえている。)
 "a-ha"というグループの発音は/アハー/というよりも、どちらかというと/アハ/に近かった。しかし、DJの発音によっては、但馬方言の「ばか」を意味する/アハー/に近くなることもあった。
 グループ名"a-ha"は英語の"aha"(「いいよ」、「OKだよ」)から名づけられたそうだ。但馬方言とはまったく関係ない。(当たり前のことだけど。)

物語10 接続詞「たしけー」(だから)がニックネームに

友人のニックネーム

 私と同じ高校に通っていた友人が、私といっしょに同じ大学に入学した。彼の名前は「ナオキ」という。
 入学当初、彼は大学で新しく知り合った友人たちと会話をするとき、但馬方言がなかなか離れなかったようであった。話をすると、やたらと「だしけー」(だから)という但馬方言が出ていたとのことであった。
 「おい、谷口、僕のニックネームが『ダシケー・ナオキ』になってしまった。なんかプロレスラーみたいだ。」と私にうれしそうに(?)言っていたことが思い出される。

物語11 アニメのヒロインが但馬方言を(?)

神戸在住但馬人からのメールより

 昨日、豊岡市出身で神戸在住の方から興味深いメールをいただいた。その方の体験を紹介する。
 何かの機会で相手の意見に反対する場面があり、その時「それは違うっちゃ。」と言われたそうだ。すると相手は、「なんだそれ?ラムちゃんか?」と言われたとのことである。
 「ラムちゃん」とは、漫画家、高橋留美子氏作「うる星やつら」に登場する、あの可愛らしいヒロインのことである。ラムちゃんは語尾に「っちゃ」を付ける。但馬方言でも語尾に「っちゃ」をつける場面がある。(「助詞」>「助詞の語法(文法)」>「i.強い自己主張を表す終助詞『〜っちゃ』参照。)
 ラムちゃんは「うち、ダーリンのことが大好きだっちゃ。」などという言葉づかいをしていたように思う。(あんな可愛い女の子に私もそう言われてみたい!)
 「うち」も「だっちゃ」も立派な但馬方言である。ただし、ラムちゃんの発話する「うち」は「う」が高く「ち」が低い。但馬ではその反対である。
 また、「うる星やつら」に登場していた、雷ぼうやといった感じの「テンちゃん」は関西弁であった。考えてみると、おもしろい言葉の混じったアニメである。

物語12 魚の鰈(カレイ)?カレーライス?

学生食堂において

 ふるさとの兵庫県豊岡市を離れ、大学生活を送り始めた頃のことである。
 昼食時、私はセルフサービスの学生食堂で、食券を持って行儀よく列に並んでいた。あと2、3人で自分が昼食にありつける番に来たときである。
 ある学生が食堂で働いている女性に食券を渡した。するとその女性は食券を見て、「れー」と言った。私の頭の中には、焼いた魚の干しガレイが浮かんだ。「おっ!学生食堂にカレイの焼いたのがあるのか!」と思いながら、出されるものを見ようとしていた。しばらくしてある学生が受け取ったものは、魚の「カレイ」ではなく、「カレーライス」であった。
 私のふるさとである兵庫県豊岡市では魚の「カレイ」を「れー」と「か」を高いピッチで発音し、カレーライスの「カレー」は「かれーと「れー」を高いピッチで発音する。このことについては、共通語と同じである。しかし、名古屋市においては、カレーライスを「れー」というアクセントで発音するのである

物語13 但馬方言は関西弁?

オーストラリアの国際都市、シドニーにて

 先日、オーストラリアへ旅行に出かけた。そのときのことである。
 シドニー市内のバスの中で、私は一緒に旅行をしていた知人と会話をしていた。二人とも但馬で生まれ育った純粋な但馬人である。話す言葉は当然但馬方言である。
 そんなバスの中に、あるひとりの日本人女性が乗り込んできた。彼女は私たちの会話を耳にし、にこにことしながら、「あら、懐かしい。関西弁!」と口にした。私自身、関西弁を話しているつもりはなかった。但馬方言とそのなまりで話していたのだ。知人の言葉も関西弁ではなく、私と同様の言葉であった。
 バスに乗り込んできた女性は、愛媛県出身で現在は沖縄県に在住とのことであった。沖縄に住んで20数年になるといっていた。おそらく彼女は、学生生活か何かで、関西弁と何らかの関わりのある生活をしたことがあったのであろう。
 それにしても、私自身但馬方言は関西弁とは全く異なった方言として捉えているのだが、関西圏以外の人たちが耳にすると、関西弁っぽく聞こえるようだ。「方言と私」を参考に。
 参考までに、そのときの会話を再現してみる。赤色が私、黄緑色が知人。アクセントとイントネーションを表現できないのが残念。

 「オーストラリアには、日本の車がごっついよーけ走っとりますねー。あっ!あそこに走っとる車、僕の小学生の頃よう走っとった。ほんま懐かしいわ。」
 「今となっては日本では見れへんようなんが走っとるなー。日本の車は日本での値段の2倍くらいするって聞いたけど、あの車なんぼくらいするんだろうなあ。」
 「ほんでも、200万円くらいはするんでしょうねー。」
 「それと、車のスピードがごっついなあ。こんなスピード出しとったら、危なーてしゃーないで。こわいわ。」

物語14 「ジョン・レノン」は「カメムシ」?

休憩時間の教室で

 これは但馬内の私が勤務している中学校の教室でのことである。
 昨年は秋から冬にかけて、中学校の校舎内に非常に多くのカメムシが発生した。カメムシは悪臭を放つため、生徒たちにとって大嫌いなものの一つである。カメムシが1匹でもあらわれると、教室中が騒ぎとなる。「わぁー!先生、
じょんがおる。何とかしてーな。」などと言われることが一日に何度もある。
 ところで「じょん」というのは兵庫県城崎郡竹野町の方言で「カメムシ」を意味する。「じょん」のいわれが何であるか定かではないが、この地の周辺で「おひめさん」、「おとめ」などと言われることから推察すると、おそらく「お嬢さん」、「じょんさん」などから来ているのではないかと思う。
 ある日、いつものように教室の中にカメムシが発生した。ある生徒は次のように叫んでいた。「わぁー!ジョン・レノンだ!」と。
 ジョン・レノンとは、言うまでもなくご存じ"The Beatles"のメンバーの一人である。カメムシを意味する方言の「じょん」を「ジョン・レノン」とユーモアを込めて言っていたのである。
 言葉は生き物である。常に変化し、成長(?)し続けるものである。その一例を目の当たりにしたように感じた。(ただし、カメムシのことをジョン・レノンと言っているのはその時以外耳にしたことは一度もないが…。)

物語15 「ちーびっと」と "A little bit(ア・リトル・ビット)"

英語の授業で

 次にあげるものは、中学校一年生対象の英語の教科書から抜粋したものである。ここをアメリカ人女性ALT(外国人指導助手)と私がティーム・ティーチングで授業をしていた時のことである。兵庫県北部城崎郡竹野町の中学校でのことである。
Ken : Ms. Green, do you speak Japanese? (グリーン先生、先生は日本語を話しますか。)
Ms. Green : 
Sukoshi.(少し。)

                                  New Horizon English Course 1 P30 (東京書籍)
 教科書のこの部分の内容を確認している時、ALTは生徒たちに、"How do you say 'Sukoshi ' in English?"(「英語で『少し』はどう言うのでしょうか。」)と質問をした。生徒の一人が、"A little."と正解を答えた。そこで私はALTに向かって次のように付け加えをした。
"Around here we say 'Chiito'."(「このあたりでは『ちーと』と言います。」
 すると彼女は正確な但馬アクセントで「ちーと」と声に出して言った。とても心地よい響きであった!生徒たちは笑いながら「先生、竹野弁教えたらあかん。」とにこやかに言っていた。私はさらに付け加えた。
 "We also say 'Chiibitto' around here."(「このあたりでは、『ちーびっと』とも言います。」)"Sounds like 'A little bit'."(「『ア・リトル・ビット』と響きが似てますね。」)
 ALTが正確な但馬アクセントで「ちーと」と言ったことはとても興味深いことである。また、"A little bit(ア・リトル・ビット)"と「ちーびっと」の発音が似通っているのが、偶然の一致とはいえ、とても興味深いことである。
 私は外国人指導助手によく但馬方言を紹介する。何人ものALTたちに、いろいろな但馬方言を使った表現を紹介してきた。ひょっとすると、但馬方言が海外でも使われる日も近いかも知れない(?)。

物語16 但馬方言が登録商標に(?)

南関東のとある大学キャンパスで

 但馬出身、南関東在住の女子大学生からの報告である。
 彼女は大学の友人に、共通語の「だから」にあたる但馬方言の「だしけー」を紹介した。「"DAKARA"は"DASIKE-"。」と。現代の日本人ならだれでも知っているであろう、からだ(KARADA)に大変よく、また口あたりのよい清涼飲料に"DAKARA"というものがある。彼女の友人は彼女に次のようなたのみごとをした。
 「おーい。"DASIKE-"買ってきて〜。」
 登録商標に但馬方言が使われたということは聞いたことがない。しかし、この例のように「だしけー」という言葉は心地よい響きを持っている(?)。登録商標になっても決しておかしくない(!?)。他にも登録商標としてピッタリの言葉がたくさんあることであろう(?)。

物語17 「歌」と「板」の関係(?)

スキー教室で

 雪国但馬が誇る代表的なスキー場、「アップ神鍋スキー場」での出来事である。
 私は勤務している中学校のスキー教室実施のため、生徒たちを神鍋山に引率した。生徒たちは身支度をととのえ、ロッジのから外へ出ようとしていた。まもなく開校式が始まる。開校式の場所が変更になったため、私は生徒たちに場所の誘導をしていた。そのときである。同じく引率に来ていた職員が少し離れたところから次のように言ってきた。太字は高いピッチであることを示す。
 「谷口さん、歌(う持たせた?」
 私は不思議で仕方なかった。スキー教室と歌にどんな関係があるのか、と。そして私は答えた。
 「歌(うですか?」
 すると。
 「違う、板(い!スキーの板(い持たせた?」
 そういえば、生徒たちにスキーの「板」(た)を持たすことを忘れていた。生徒たちは冷たい目で、「先生〜、「歌」(う)って何?しっかりして〜な!!」とブーイング。
 私に声をかけてくれた職員は三重県出身のため、普段から京阪式アクセントで話している。それに対して私は、但馬で生まれ育ったため東京式アクセントで話している。「板」のアクセントは、京阪式では(い)、東京式では(た)である。「歌」のアクセントは、京阪式では(た)、東京式では(う)である。それぞれ、正反対のアクセントとなる。屋外で声が聞こえにくいということも手伝って、彼の「板」(い)の高いピッチの拍である()のみがはっきりと聞き取れたため、私は「歌」(う)と勘違をいしていたのであった。普段あまり意識して生活してないが、アクセントも言葉の弁別条件の一つであることがしっかりと実感された。

物語18 私の言葉は純粋な但馬方言(?)

友人や生徒たちと接して

 最近、年をとった(?)ためか、なぜか昔の楽しかった想い出が頭をよぎることがよくある。ディスコで遊んだこと、酔っ払って一晩中街を歩きまわったこと、酔っ払って友人「とんでもない物!」を頭にかぶって人通りのある道を歩いたこと、・・・。思わず笑みがこぼれる。あ〜、もう一度あの頃にもどりたい。
 大学生の頃、よく友人の下宿に泊まったり、友人が私の下宿に泊まったりしたものだった。今から20年あまり前のことである。
 ある日、石川県羽咋市出身の友人が私の下宿(愛知県)に泊まりに来た。ちょうど彼のいるとき、私の実家(兵庫県豊岡市)の母から電話がかかってきた。そのとき母とどんな話をしたのか覚えてないが、いつもの調子で「豊岡市生抜きの母」と会話をしていた。もちろん、但馬方言での会話である。電話がすむと友人は、「関西弁っぽい!」と言ったのであった。方言学的に考えれば、彼の故郷の言葉のほうが関西弁に近いはずなのに。
 先日、高等学校教諭をしている大学時代の友人と久しぶりに会い、楽しく会話をする機会があった。彼は鳥取市出身で、現在も鳥取市に住んでいる。彼は私に次のように言った。「豊岡の言葉は関西弁がかっとるなあ。」鳥取市は方言区画でいうと、但馬と同じ中国方言(その中の東山陰方言)である。理論上では、彼と大差がないはずであるが。
 私が現在勤務している中学校へ赴任して以来、生徒たちからよく指摘されることがある。「先生は関西弁っぽい。」、「先生は関西弁になることがある。」などである。私は「共通語、もしくは但馬方言」で話しているつもりである。
 私は仕事で4年余り「関西弁の地域」で過ごしたことがある。自分では関西弁に影響されてないつもりなのだが、影響されているのであろうか。それとも、私の生まれ育った地域(豊岡市旧市街地)の言葉が関西弁に近づいているのであろうか。

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