但馬方言辞典 た行

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太字と""はアクセントの下がり目がある拍(アクセントの核)をあらわす。
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但馬方言 共 通 語 用   例 解   説
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〜だ 〜だ。(断定の助動詞) 今日はえー天気 使用地域は島根県出雲地方から鳥取県伯耆地方・因幡地方、そして兵庫県但馬地方北部・京都府丹後地方北部へと広がる。
全国共通語と同形であるが、西日本で断定の助動詞として「だ」が用いられていることは、方言として大きな意味をもつ。西日本では「じゃ」、「や」が一般的である。
近年、但馬地方において、「だ」の地域に「や」が入り込んできている。そのことについては、『方言ところどころ』(坂口保編、のじぎく文庫、昭和38年)、『但馬ことば』(岡田荘之輔著、兵庫県立但馬文教府、昭和52年)、『兵庫県方言文法の研究』(鎌田良二著、桜楓社、昭和54年)、いずれも岡田荘之輔氏の研究、もしくはそれにもとづいたもの、で詳しく述べられている。
『岡山弁あれこれ』(虫明吉治郎、研文館吉田書店、昭和53年)に大変興味深い記述がある。昭和49年、著者が但馬地方の八鹿町(現・養父市八鹿町)を調査されてのことである。「ニテアルからデアルに移る過程において、理論上、音便のンデアルという語形があったはずである。もし、そうであるなら、どこかに方言として、ンダが存在しているかも知れない、という期待があった。 犬ニテアル→犬ンデアル→犬ンデァ→犬ンダ 音便のンは中央では早く滅びただろうが、どこかに方言として残っているのではないだろうかという淡い期待があった。この期待は八鹿町で当たった。八鹿町あたりでは、例えば、『身体』はカラダであるが、『宝だ・犬だ』などは、タカランダ・イヌンダである。八鹿の断定の助動詞は『だ』であって、ジャは使わない。しかも、ダの前にンがつく。断定の助動詞以外のダの前には、ンはつかない。やはり、歴史的に、ンダの時代があったに違いない。その証拠が八鹿のンダだと確信した。」
「但馬方言概説」の「断定の助動詞」を参照されたい。また、「〜じゃ」、「〜や」も参照されたい。
たーけ’ 高い。 あのたーけー所に置いてあるフライパン取ってーな(取ってよ)。 「たー」が特徴。「けー」は/ai/連母音の融合形。
たーた’ 靴下。足袋。 さむーなったで(寒くなったから)、たーたーはかーで(履こうね)。 豊岡市での使用を確認。
幼児語。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、京都旧市内を使用地点とする文献による出典が明記されている。また、「タータ」の語形も府下広域での使用が明記されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)では、「たーた」の見出しで、鳥取市・八頭郡・東伯郡となっている。
だーだーぼり 激しく(水などが)漏れるようす。 瓦にひびが入っとるしけー(ひびが入っているから)、大雨が降ったらだーだーぼりになるで。 豊岡市での使用を確認。
「ぼる2」参照。
「ざんざかぼり」とも言う。
〜だ(ー)ね’ 〜ではない。 おい、人の悪口を言うだーねー 豊岡市での使用を確認。
人を叱責する時などによく使われる。
「ねー」は/ai/連母音の融合形。
だ’(ー)ねー 〜じゃない。 大人になったら困るしけー、しっかり勉強せって言っとるだーねー 豊岡市での使用を確認。
「〜だ’(ー)ねーか」の「か」が脱落した語形。
「ではない」からきているのでは。
現在、豊岡市あたりでは「〜やん」に替わりつつある。上方方言の影響であると考えられる。
「〜だ’(ー)ねーか」を参照されたい。
だ’(ー)ねーか 〜じゃないか。 さっきから食べてばっかりだーねーか。ちったー動きねー(少しは動きなさい)。 豊岡市での使用を確認。
「ではないか」からきているのでは。
現在、豊岡市あたりでは「〜やんか」に替わりつつある。上方方言の影響であると考えられる。
「〜やんか」を参照されたい。
だーま’っとる 黙っている。 だーまっとらんと、何か言えーや(何か言えよ)。  「黙っとる」の強調形。
い’ 筋肉痛や、突き指をした後のだる痛い様子。 今日は運動会で綱引きしたで、腕がだいーわ。 豊岡市奈佐地区での使用を確認。
神奈川県在住Kさんの情報提供による。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一 編、富士書店、平成11年)にも掲載されている。そこでは「だるい」、「疲れた」という定義となっている。
「だりー」の同意語。
たえぎ’ だるい。 陽気のせいかたえぎー  鳥取県でも使われている。
た’ 屋根裏部屋。 たかから大工道具持って降りてこいや。 但馬地方各地での使用を確認。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に「三階の物置き。」、『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に「三階。」とそれぞれ定義され、掲載されている。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、「梁上を利用した物置二階。」と定義され、奥丹後地方・中丹地方を使用地点とする文献による出典が明記されている。
『全国方言辞典』によると、「物置用の二階。」と定義され、但馬(俚言増補)・新潟県西頸城郡・長野県北安曇郡・丹後・但馬となっている。
かつて、屋根裏部屋は物置として使われていたとのこと。
〜だか 〜のか。(疑問を表す。) たのまれていた本持ってきたけど、これでえーだか(これでいいのか)。 美方郡香美町香住区(旧城崎郡香住町)・新温泉町(旧浜坂町・旧温泉町)での使用を確認。
鳥取県へと続く用法。疑問を表す終助詞。
’が
〜だが
〜だよ。 それほんまだが
今日は一日中テレビ見とるんだが
但馬地方北部各地での使用を確認。
が’ 脱臼する。 右手がたがっ 豊岡市旧市街地・養父市八鹿町小佐地区・大屋町西谷地区での使用を確認。
養父市の使用状況については、養父市在住のS氏にお願いして調べていただいた。養父市西部にあたる大屋町西谷地区では、現在でもよく使用されているとのこと。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、鳥取市・米子市・倉吉市・八頭郡・西伯郡・日野郡となっている。但馬地方から鳥取県へと続いている語彙のようである。
たかたか’ゆび 中指。 わしのたかたかゆびにゃー、大きなペンだこができとるだーで。 豊岡市での使用を確認。
『日本言語地図 第3集』(国立国語研究所)を見ると、但馬地方にはその他、「なかゆび」、「なかいび」、「なかゆべ」、「たかたかいべ」、「たかたかいび」がある。
標準語としては「なかゆび」であるが、全国の分布状況から見ると、「たかたかゆび」の方が歴史的に新しい語である。
〜だがな 〜だよ。 今やろーと思っとったんだがな 自己主張を強めたり、相手を攻めるニュアンスがある。
〜だがや 〜だよ。 こーして使うだがや(こうして使うんだよ)。
この仕事しとるだがやあ
美方郡新温泉町居組地区・大庭地区・豊岡市での使用を確認。
新温泉町では「〜だがな」と併用するとのこと。場所は飛んで豊岡市では現在ほとんど耳にしないが、かつては広く使われていたとのこと。豊岡市では「〜だがな」、また断定の助動詞に「や」を用いる人は「〜やがな」を用いる。
1番目の用例は居組地区出身者に作成していただいたもの。2番目の用例は『諸寄弁(もれえそべん)控帳』(藤田 誠・編、昭和56年)に掲載されているもの。
たく 煮る。 大根をたく
魚をたく
但馬地方各地での使用を確認。
『但馬ことば』(岡田荘之輔著、兵庫県立但馬文教府、昭和52年)に次の記述がある。「タクと云う動詞は、本来、木を燃やす意味で、万葉集以前から使われているのであるが、木をタイテ、物を煮て食べられるようにする、例えば、『メシヲタク』など言うようになったのは江戸中期以降と思われる。大根や魚をタクと言うのは、江戸末期であろう。日本言語地図で、大根をタクのは、近畿や瀬戸内海沿岸、九州長崎周辺など、文化の先進地に濃密に分布している。日本全体では、大根はニル地域が広いのである。」
『浪花聞書(なにわききがき)』(著者不明、文化文政時代?)に、「たく」の定義として「煮(ニル)」となっている。
たぐる 咳をする。 たぐっとるで。 養父市大屋町での使用を確認。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、播磨辺(物類称呼)・小倉(俚言増補)・和歌山・兵庫・淡路島・香川・徳島・岡山・広島・島根県邑智郡・山口県柳井・大分・福岡県朝倉郡となっている。また、「はげしく咳をする。せきこむ。」と定義され、奈良・徳島・香川県高松・広島県山県郡となっている。
たくれる (着ている衣類などが)上にあがって皺がよる。 シャツの背中がたくれとるぞ。 『広辞苑 第四版』(新村出編、岩波書店)の「たくれる」の定義に、「皮がむける。めくれて皺がよる。」とあり、用例として『日葡辞書』(1603年刊行)から「カワ(皮)ガタクレタ」の引用がある。おそらく、17世紀前後の京都語から来ている語彙であろう。
た’ キノコ。 たけが生えとる。 豊岡市での使用を確認。
「しいたけ」などの名称として用いるだけでなく、キノコの類全般を指す。「竹(たけ)」は平板式アクセントであるため、日常生活で混同されることはない。
兵庫県・鳥取県・岡山県などに多く見られる語形。
だ’けー だから。 だけー言っただらーが(言っただろうが)。 美方郡新温泉町(旧美方郡浜坂町・旧温泉町)での使用を確認。
使用地域は、理由助詞「〜けー」と一致する。すなわち、美方郡香美町香住区餘部地区と新温泉町である。鳥取県へと続く語法。
理由をあらわす接続助詞「けー」の語頭に「だ」が付いたもの。豊岡市あたりでは「だしけー」となる。
〜ださきゃー 〜だから。
4WDださきゃー雪道に強いんだ。
豊岡市但東町での使用を確認。
理由を表す接続助詞「さきゃー」に断定の助動詞「だ」が付いたもの。
用例は豊岡市但東町在住のH氏に作成していただいた。
「〜さきゃー」を参照されたい。
だ’しけー だから。 今晩はおもろいテレビがない。だしけーはよー寝るわ。 豊岡市(但東町を除く)・養父市北部・美方郡香美町香住区での使用を確認。
但馬地方北部で美方郡香美町香住区以東、養父市八鹿町以北で用いられる。理由を表す接続助詞「しけー」の語頭に「だ」が付いたもの。高年層では「だしけゃー」も用いられる。「〜しけー」を参照されたい。
この語形は但馬地方北部の代表的な言葉ととらえられることがよくある。
だしの’かぜ 季節の変わり目に吹く南風。 今はだしのかぜが吹いとる。 豊岡市港地区での使用を確認。
用例は、6月に浜辺で住人が発せられた言葉。
『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)に掲載されている。
『但馬ことば』(岡田荘之輔著、兵庫県立但馬文教府、昭和52年)によると、「ダシ」の語形で美保が関・八橋・居組・釜屋・諸寄・浜坂・三尾・切浜・竹野・津居山となっている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、「だし」の語形で「陸地から海へ向かって吹く風。」と定義され青森県野辺地・静岡・三重・愛媛県大三島、「東風。」と定義され越後(物類称呼)・山形県飽海郡・佐渡・越後、「東南風。」と定義され秋田県男鹿地方・新潟・出雲、「南風。」と定義され富山県上新川郡・鳥取県岩美郡、「西北風。」と定義され静岡・愛知となっている。
『全国方言辞典』を見ていると、概ね陸から海に向かって吹く風のことであることが使用地点から察することができる。
たじまぶ’ーつ ゴム長靴。 豊岡に住んどったら、たじまぶーつがいるで(必要だよ)。 豊岡市・養父市での使用を確認。
「但馬ブーツ」とは、雪国但馬を象徴していて、しかもユーモアが感じられる言葉である。かつては、男物は黒、女物は白がオーソドックスであったが、現在ではかなりカラフルである。
だだが’ー 辛すぎる。 今作った煮物だだがれー。砂糖入れよー。 豊岡市での使用を確認。
醤油の味が強すぎる意味。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、「ダダガライ」の語形で使用地域は京都市・京丹後市久美浜町・相楽郡南山城村となっている。
ただごめ 粳米。 米びつにただごめがよーけ入っとる。 豊岡市での使用を確認。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、使用地点は米子市・境港市・八頭郡・西伯郡・日野郡となっている。
「餅米」を意味する「もちね」と区別するためにしばしばこう言われる。「ただまい」とも言う。
ただまい 粳米。 このごろただまいのブレンドが出とる。 豊岡市での使用を確認。
/ai/連母音融合形の「ただめー」も用いられる。「ただごめ」とも言う。
だ’っけー だから。 だっけー言っただらーが(だから言っただろう)。 豊岡市港地区西部での使用を確認。
住人の話によると、「だしけー」と用法が全く同じであり、交替が可能であるとのこと。「だしけー」を参照されたい。
先日思い出したことだが、平成2年に港地区の男性2名と私が会話をしている中で、この語形があらわれた。男性はそれぞれ津居山と瀬戸の住人であったと記憶しているが。
て’っとる 立っている。 電車が満員だったもんで、ずーとたてっとっ 「立っとる」の強調形。
〜だで 1 〜だから。 今日は天気がえーんだで(いいんだから)、ドライブにでらーや(出ようよ)。 理由助詞。
「〜で」の「だ」が付いた語形。
「〜で」を参照されたい。 
〜だで 2 〜だよ。 あそこにおる子はうちげの息子だで 但馬地方北部各地での使用を確認。
テレビCMの中に、「鳥取のハワイ(羽合)だで。」と若い女性の言う場面が放映されている(平成24年2月現在)。これは鳥取県湯梨浜町の「羽合温泉」をさしていると思われる。当地の方言を用いているのであろう。ゆえに、東山陰一帯で用いられている語法と思われる。
近年、豊岡市近辺では「〜だで」に替わり、「〜やで」が年を追って多用される傾向にある。上方方言の影響であろう。
だっちん 駄賃。 お使いに行ってくれておおきに。これはだっちんだで。 豊岡市での使用を確認。
「だちん」の促音化した語形。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、竹野郡網野町・与謝郡伊根町・天田郡夜久野町を使用地点とする文献による出典が明記されている。
だてこき’ おしゃれをする人。 中島さんはだてこきだしけー、いっつもかっこえー服着とんなるなー。 上方風の語彙である。
「えーかっこーしー」と同様の意味で用いられることもあるが、「だてこき’」は主に容姿や服装などに用いられる。
「ひんたんこき’」の同意語。
て’こく おしゃれをする。 おい、だてこいて髪の毛を染めたりするな。そのまんまが一番えーぞ。 「こく」は「する」である。
「ひんたんこ’く」の同意語。
たてり ミョウガタケ(植物)。 たてりご飯作ったで。えーにおいがするだらーが。
たてりをよーけ食べたらあはーになるで(馬鹿になるよ)。
豊岡市での使用を確認。
2番目の用例のように、「たてり」をたくさん食べると「あはー(馬鹿)」になるという説がある。
’うじ 血統付きの雄牛。 明日、たねうじの競りがある。 類義語に「つるうし」がある。
の’ タヌキ。(哺乳類) たのきが出るで。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
『丹波通辞』(著者不明、江戸時代後期?)にも掲載されている。
「ぬ」が「の」に転訛した語形。
の’ タニシ。(貝類) たのしをたく。 豊岡市での使用を確認。
用例の「たく」は共通語の「煮る」のことである。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
『丹波通辞』(著者不明、江戸時代後期?)に掲載されている。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、使用地域は京丹後市久美浜町・京丹後市網野町・京丹後市峰山町・舞鶴市・福知山市・綾部市・京田辺市・木津川市・相楽郡南山城村となっている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、使用地点は気高郡・西伯郡となっている。
私はまだ使用の事実を確認できていないが、但馬地方およびその周辺地域に「たぬし」の語形も諸文献に掲載されている。
だ’のに 〜なのに。 きんのうのばんげ、「弁当作ってくれ」って言ったしけー、精でゃーて作ったんで。それだのに忘れて学校に行っちまった。
一時間も外で待っとった。だのに谷口さんは来なれへなんだ。ふがわりーわ(しゃくに障るよ)。
豊岡市での使用を確認。
逆説をあらわす接続詞。
一番目の用例のように、「それ」が直前に付く場合が多い。また、2番目の用例のように、文頭にあらわれることもしばしばある。
「な」が「だ」に変化した語形と考えられるが、断定の助動詞「だ」と関係があるのでは。
たばこする 一休みする。休憩する。 たばこしょーかえ(一休みしようか)。お茶でも飲まーや(飲もうよ)。 豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、「タバコ」の見出しで「休憩。」と定義され、奥丹後地方・中丹地方を使用地点とする文献による出典が明記されている。
鳥取県市での使用も確認。鳥取県では広く用いられている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、「たばこ」の見出しで「休憩。」と定義され、秋田県雄勝郡・岩手・宮城・富山・但馬・岡山・広島となっている。
全国共通語で「一服する。」という表現があるが、これも「たばこやお茶を一服して一休みする。」という意味であり、同じ発想であろう。
たばる (物を)大切にとっておく。
この花火はすげーしけ(高価だから)、最後までたばっかー。 
たばっとらんと食べたらえーがな。
養父市・豊岡市日高町での使用を確認。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)では、「たばう」の語形で「蓄える。貯蔵する。」と定義され、使用地点は鳥取市・気高郡・八頭郡となっている。
例文を作成していただいた養父市八鹿町(旧養父郡八鹿町)出身のTさんのコメント。
 「夏になると、近所の子供達が集まって花火をする日が何日間か続くのが恒例で、高価な30連発とかの花火は最後の日にすることに決まっていた。夏祭りに買ってきた花火なんかを近所の子と見せ合ってこんな会話をしていたと思います。」
2番目の用例は、豊岡市日高町の方に作成していただいた。
び’る      「箕ー(み’ー)」で穀物を風選する。 小豆をたびてくれーや。 豊岡市での使用を確認。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に掲載されている。
メールで気づかされた語彙。
たぶれる なつく。 猫がたぶれる 豊岡市での使用を確認。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に掲載されている。
たべら’ 食べよう。 腹が減ったしけー、ラーメンたべらーや。 豊岡市での使用を確認。
「食べる」の意志形。
下一段活用動詞が、五段活用動詞に変わろうとしている。ただし、正確には但馬地方北部においては四段活用動詞に。
だまか’ だます。 人をだまかしたらあかんで。 他動詞に「かす」を付けてその意味を強調したもの。つまり、「だます」の強調形。
だまくらか’ だます。 人をだまくらかしたらいけんで。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
〜だら’(ー) 〜だろう。 そうだらー
それはほんまだらーか。
この服かっこえーだらー
腹が減っただら。ラーメンでも食べや。
/au/連母音の融合形。但馬地方北部で起こる音韻現象。歴史的仮名遣いをローマ字で表記した場合、/au/となるもの。
/au/連母音融合形/a:/の東端は、豊岡市の東隣、京都府京丹後市久美浜町である。西端は島根県出雲地方である。
2023年現在の豊岡市において、「だら(ー)」はかなりの劣勢である。それに代わるものとして、「やろ(−)」が台頭している。同時に、断定の助動詞も、「だ」から「や」に取って代わる傾向にある。上方方言の影響かと思われる。「そうやろ。」、「それはほんまやろーか。」、「この服かっこえーやろ。」、「腹が減ったやろ。」
だらけ’ ダラダラとした状態になる。 寝転んでばっかりいたもんでだらけた 「ける」は「ふざける」の「ける」などと同じであろう。
たらし’ おやつ。 たらしを用意しといちゃらんと(用意しておいてやらないと)いけんなー。 おやつを与える立場のものが使うことば。よって、子どもは使わない。
「誑す(たらす)」(子どもなどをなだめる。)から来ている。丹波では「たらし」を「駄賃」の意味で用いるとか。
ら’ あやす。 子どもをたらす 「たらかす」とも言う。
『全国方言辞典』(東條操編、昭和26年)によると「すかし慰める。なだめる。」の定義で、美濃・尾張・三重県志摩郡・若狭・京都・大阪・但馬となっている。
だらず’ 馬鹿。だらしない。 だらずげなことばっかり言って。
そねーだらずげーな事んじゃああっけーへん(そんなだらしない事ではだめだ)。
鳥取県からそれに続く但馬地方の美方郡新温泉町(旧美方郡浜坂町・温泉町)で日常よく用いられている語彙
「足らず」から来ている。かつては但馬地方の広い地域で使われていた語彙であるが、上方から「あほー」が入り、但馬地方北部ではその/au/母音が融合した「あはー」が、但馬地方南部では「あほー」がそれぞれ優勢になった。しかし、新温泉町には「あはー」が届かなかった。
Oさんによると、養父市八鹿町(旧養父郡八鹿町)では「だらしない」の意味で現在もよく用いられているとのこと。また「らず」と清音になることもあるとのこと。
鳥取市出身の方、美方郡新温泉町浜坂地区(旧美方郡浜坂町)出身の方にこの語についてたずねると、「ばか」、「あほう」と似た意味ではあるが、イコールではないという。 
強意形は「しんだらず’」。
り’ だるい。 きのう、いちんちじゅう(一日中)スキーしとったもんで体がだりーわ。  「だるい」の/ui/連母音融合形。
「だい’ー」の同意語。
だるごえ 下肥。人糞尿。 だるごえを畑に持って行く。 豊岡市での使用を確認。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に掲載されている。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)には「ダル」の語形で掲載されている。また、同書には次の記述がある。「風呂の残り湯を入れて増量を計った。」
私が幼かった昭和40年代、「だるごえ」を「こえたんご」に入れて畑へ行く農家の人々を目にすることがあった。
れ’ だらだらする。 テレビばっかり見とったらだれるぞ。 『上方語源辞典』(前田勇編、東京堂出版、昭和40年)によると、「客が倦怠を感じる。客が退屈する。客がよろこばない」と定義されている。但馬地方では客とはかぎらず、自分自身、相手などだれに対してでも用いられる。
〜だん 〜じゃない。 そーだん(そうじゃない)。 美方郡香美町香住区での使用を確認。
中年層と若年層から確認した。
「〜だんか」の「か」が脱落した語形。
「〜だんか」、「〜だんな」、「〜やん」、「〜やんか」、「〜やんな」を参照されたい。
〜だんか 〜じゃないか。 それでえーだんか(それでいいじゃないか) 美方郡香美町香住区での使用を確認。
中年層と若年層から確認した。
新方言の可能性あり。つまり、上方方言の「〜やんか」の「や」を「だ」に替えたと考えられる。しかし、私の確認した中年層男性にはそういう意識はなかった。彼が幼い頃からあたりまえのように使用していたとのこと。
近年、豊岡市では「〜やんか」とうい上方方言と同形の表現が中年層と若年層で用いられていることがしばしば見られる。豊岡市での「〜だんか」は確認できていないが、その語形がかつて存在していた時期があったことも考えられる。
また、平成20年の暮れ、私が買い物に出掛けた養父市内の商店で、20歳代と思われる女性が会話をしている中で「〜だんか」という表現が用いられているのを耳にした。上方方言が但馬方言に影響を及ぼしているものの一例であると言えるかも知れない。
「〜だん」、「〜だんな」、「〜やん」、「〜やんか」、「〜やんな」を参照されたい。
たんご 桶。 たんごに水入れてくる。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に、「手桶」、『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)では「にない桶」の方言形としてそれぞれ掲載されている。
「肥たんご」、「水たんご」などがある。
だんご’へんご でこぼこ。 このまな板、だんごへんごしとって使いにきー(使いにくい)。 豊岡市での使用を確認。
平らであるべきものがでこぼこである場合に用いられる。
だんじ’
だんじり
だんじ’
イタドリ。(植物) 山からだんじりよーけとってきたで。 幼い頃、山でとったものを家に持ち帰り、茎に塩をかけて食べた。たくさん食べると腹痛を起こすとのこと。
ん’ 段違い。 おい、シャツのボタンがだんちになっとるぞ。 豊岡市での使用を確認。
用例のように、服のボタンが掛け違っている場合によく使われる。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、使用地域は京都市・京丹後市久美浜町・船井郡京丹波町となっている。
〜だんな 〜よね。 この本読んだだんな 美方郡新温泉町浜坂地区・香美町香住区での使用を確認。
新方言の可能性あり。。
知人の証言によると、彼が中学生の頃(平成5年から平成8年)通っていた浜坂町立浜坂中学校(現新温泉町立浜坂中学校)で生徒たちがこの表現を用いていたとのこと。男子生徒たちより、どちらかと言えば女子生徒たちの方が多用していたようである。上方方言の「〜やんな」に自分たちの方言形を取り込むことによって生まれた方言形であると考えられる。
「〜だん」、「〜だんか」、「〜やん」、「〜やんか」を参照されたい。
だ’にゃ’ 気にしない。構わない。さしつかえない。問題ない。 お父さん、わたしな、目の下に変な赤いもんが出とる。−−−そんなもん、だんにゃーだんにゃー、ほっときゃすぐ治るっちゃ。 豊岡市での使用を確認。
だ’ね’ー」の同意語。豊岡市では「だ’に’ゃー」の形で用いられることが多い。兵庫県南部では「だんない」の形で用いられる。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、与謝郡伊根町・与謝郡加悦町を使用地点とする文献による出典が明記されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)に、「だんにゃ」の語形で、使用地点は境港市・西伯郡となっている。
用例のように、二度繰り返して言われることが多い。
この用例の場合「どうってことない」の意味。
「か’えへん」、「かめ’へん」を参照されたい。
だ’ね’ 気にしない。構わない。さしつかえない。問題ない。 お母さん、ガラスの花瓶割っちゃった。ごめん。−−−だんねーだんねー。けがーしてーへんか(怪我をしてないか)。
ここに車置かしてもらってもえーかなー。−−−どうぞ、どうぞ。だんねーで。
但馬地方各地での使用を確認。
だ’に’ゃー」の同意語。
「大事ない」から来ている。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、旧愛宕郡・旧葛野郡あたりを使用地点とする文献による出典が明記されている。
1つ目の用例のように、相手が失敗したことに対して「気にしなくていいよ」と慰めるような場合、微笑みながら「だんねー、だんねー」と言ったりする。相手を思いやる温かみのある言葉である。 
「かま’えへん」、「かめ’へん」を参照されたい。
ん’の(ー)する 飽きるくらいに満足する。 いっぺんたんのーするほど松茸食べてみたいわ。
いちんち中(一日中)テレビ見とってたんのしわ。
但馬地方各地での使用を確認。
共通語の「堪能する」は、「十分に満足する」という肯定的な意味であるが、この地の方言では「十分すぎて飽きている」という否定的な意味合を含む場合が多い。
『地方別 方言語源辞典』(真田真治・友定賢治 編、東京堂出版、平成19年)によると、「『満ち足りた』という意味の『足りぬ』が音変化し、『タリヌ→タンヌ→タンノ』となったものと思われる。」となっている。
たんま(に) たま(に)。ときどき。 僕はたんまにこの喫茶店に来ることがあるんだわ。 さらに頻度が低い場合は「ときたんま」という。
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ー’ 少し。 腹が減ってーへんで(減ってないから)ご飯ちーとにして。  豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、奥丹後地方・中丹地方を使用地点とする文献による出典が明記されている。 
ちーとま  少しの間。  ちーとま見なんだら、孫が大きいなっとったわ。 豊岡市での使用を確認。 
ちーび’っと ほんの少し。 そのお菓子美味しそうだなー。お母さんにもちーびっとおくれ。 「ちーと」、「ちびっと」、「ちょびっと」の意味を強めた語。
(〜しん)ちぇ’ (〜して)はどう。(〜して)みて。 洋子ちゃん、このかわいー服着てみんちぇー 豊岡市旧市街地などでは幼児語、あるいは大人が幼児に向かって用いる。豊岡市出石町では大人同士でも用いられる。
ち’ 天秤棒はかり。 野菜の重さはちぎで量る。 豊岡市港地区・旧市街地での使用を確認。
私が幼かった昭和40年代には、八百屋などで使われていたことが思い出される。
『物類称呼』(越谷吾山、1775年)の「杠秤」に次の記述がある。「關西にて ちぎと云 越後にて きんれうといふ 關東にて ちぎりといふ」
ちこにこ’ちん ビー玉。 ちこにこちんしょーや(しようよ)。 豊岡市旧市街地での使用を確認。
「めか’ちん」とも言う。
私が子どもの頃、この語彙をよく用いていた。
ち’さから 幼い頃から。 美由紀ちゃんはちさからピアノ習っとんなるで(ピアノを習っておられるから)、ごっつい上手だわ。 豊岡市での使用を確認。
「ちーさい」を短く「ちさ」と言うことがよくある。
ちそー 紫蘇(しそ)。(植物) ちそーで梅干しを作る。 豊岡市での使用を確認。
「し」が「ち」に転訛し、「そ」が長音化した語形。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に掲載されている。
ちっこ’ 小さい。 ちっこい飴あげようか。 豊岡市での使用を確認。
ちっこちゃ’ 小さい。 先生、きのうなー、魚釣りに行ったけど、ちっこちゃーのしか釣れれへなんだ(釣れなかった)。 豊岡市での使用を確認。
本日の昼食時、中学生の男の子が一生懸命に釣りの話をしていた時、この語が出ていた。久しぶりに耳にする語であり懐かしく感じた。
ちった’ 少しは。 テレビばっかり見とらんと(見ていないで)、ちったー勉強せーや。 但馬地方北部各地での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、与謝郡野田川町・与謝郡加悦町・与謝郡野田川町字山田を使用地点とする文献による出典が明記されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、使用地点は鳥取市・米子市・倉吉市・岩美郡・気高郡・西伯郡・日野郡となっている。
ニュアンスとして、「少しは」より強い。
ちっちぇ’ 小さい。 ものすげえちっちぇーかぶと(カブトムシ)とった。  「ちーせー」の同意語。 
ちばえる 格好をつける。 なんやあいつ、ちばーぇて 豊岡市日高町国分寺での使用を確認。
文として発話すると用例のようになるとのこと。
用例中の「なんや」の「や」は断定の助動詞であり、本来「だ」の地域であるが、「や」を使うことも増えている。
び’っと ちょっと。少し。 そのお菓子、ちびっとおくれ。 「ちょびっと」の同意語。
ちびる1 すり減る。 この車のタイヤ、よーちびっとるわ。 摩擦によってすり減ること。また、消しゴム、鉛筆の芯などに対してもこの語彙が用いられる。 
ちびる 2 尿をほんの少しだけ漏らす。 僕はジェトコースター苦手だしけー(苦手だから)、乗ったらちびるかもしれん。 『上方語源辞典』(前田勇編、東京堂出版、昭和40年)によると、「出し惜しみをする。」という定義もある。同書には[語源]として次の記述がある。「小・少の意の擬態語の動詞化。少し出すの意。」
〜ちゃ 〜ってば。(終助詞) それはほんまだちゃ(本当だってば)。信じてーな。
わしは子どもの時、よー勉強できたんだぞ。−−−そんなこと知らんちゃ
但馬地方から、東は京都府丹後地方へ、西は鳥取県へと続く語法。
自分の主張したいことを強調するときの表現。状況によっては相手を非難することにもなる。
「ちゃ」の直前の音は、1番目の用例のような促音か、2番目の用例のような撥音になる。
「〜ちゃ」という語尾は、新潟県出身の漫画家である高橋留美子氏の作品である『うる星やつら』のヒロイン「ラムちゃん」の話し言葉で有名である。この語尾は、但馬方言以外にも、佐渡方言・仙台方言・富山方言などにも見られる。
〜ちゃー 〜ては。 くっちゃーねーしとったら(食べては寝ていたら)、太るぞ。 豊岡市での使用を確認。
動詞に接続する。
ちゃーう 違う。 宿題もせんとテレビばっかり見とったんとちゃーうんか。  「ちゃう」の強調形。 
ちゃう 違う。 この部品、この機械のと違うか。−−−ちゃうなー。 但馬地方各地での使用を確認。
強調すると「ちゃーう」となる。
ちゃうちゃう 違うってば。 この忘れ物はおめーのかえ(お前のかな)。−−−ちゃうちゃう。きんのうちゃんと持って帰ったっちゃ(昨日ちゃんと持って帰ったってば)。
ちゃうちゃう、全然ちゃうで。
豊岡市での使用を確認。
『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)に、「違うことの強調。」という定義で掲載されている。2番目の用例は同書に掲載されているもの。
「ちゃう」の強調形。上方的な語法なのでは。
ちゃ’えへん 違わない。 君の持っているペン、僕のだと思うけど。−−−僕のだで。ちゃえへんちゃ(違ってないってば)。 「ちが’えへん」とも言う。
ちゃった 違った。 おんなじもんちゃって、たまにはちゃったもんを食べたいわ。
今日は休みかと思って来たけど、ちゃった
但馬地方各地での使用を確認。
「ちがった」の転訛した語形。
(〜し)ちゃった 〜された。 先生が行っちゃった(行かれた)。
先生が来ちゃったで(来られたよ)。
みんなは、もう寝ちゃったんかな(寝てしまわれたのかな)。
きのう、先生がゆーちゃったやんか(言われたじゃないか)。
朝来市生野町・朝来地区での使用を確認。
「テヤ系」の丁寧語。「てやった」の訛りであろう。
但馬地方では播磨地方と隣接する朝来市生野町とその北隣の朝来地区(旧朝来郡生野町とその北隣の朝来町)で用いられる。この表現は生野町の南隣である神崎郡神河町(旧神崎郡神崎町)の越知谷地区でも用いられると知人から報告を受けた。越知谷地区では、(「〜し)ちゃった」を用いる人と、播磨方言で広く用いられている同じ系統の丁寧語である「(〜し)たった」を用いる人たちが共存しているとのこと。
また、京都府舞鶴市・綾部市・福知山市・兵庫県丹波市・多可郡多可町でもこの用法を確認。
朝来市生野町で生まれ育った方々によると、「ちゃった」はその土地での特色のある表現ととらえられているようである。「豊岡の人らは『行きなった』と言われるけど、うちらは『行っちゃった』と言う。」という話をされた方(昭和30年代後半生まれ)がいた。
また、京都府中丹地方に住む人たちは自ら「ちゃった弁」と言って親しんでいる。
但馬地方の大部分は、「ナサル系」の丁寧語である「(〜し)なる」、「(〜し)んさる」が用いられる。
「(〜し)てや」を参照されたい。
(〜し)ちゃって (〜し)てあげて。(〜し)てやって。 ホームページ更新したで、さっそく見ちゃって 「てや」が「ちゃ」と転訛したもの。
ちゃっちゃ’ さっさと。速やかに。 ちゃっちゃとせーや(さっさとやれよ)。 豊岡市での使用を確認。
相手が行動などをためらってぐずぐずしているときなど、このように言う。
用例は豊岡市在住のK氏による。
〜ちゃな 〜というような。 言いたいことは、何でもかんでも言やーえーっちゃなもんじゃねーで(言えばいいっていうものじゃないよ)。相手のことをよー考えてから言うんだで。
夜遅うーなってから電話をかけるっちゃなことはあかんで。
勉強っちゃなもんは、自分のためにするんだで。人のためとちゃうで(違うよ)。
豊岡市での使用を確認。
用言や体言に接続する。直前は促音また撥音となる。
ニュアンスとしては、ある事柄に対して反語的なものとして用いる場合が多い。
「ちゃなもん」、「ちゃなこと」という表現が多い。
(〜し)ちゃる (〜し)てあげる。(〜し)てやる。 いそがしげだで(忙しそうだから)、手伝っちゃるわ。
お祭りで子どもにアンパンマンの面をかーちゃっ(買ってやった)。 
「てや」が「ちゃ」と転訛したもの。豊岡市でよく起こる音韻現象。
但馬地方以外では、播磨の姫路市などでもこの音韻現象を耳にする。
2番目の用例は過去時制。
ちゃん’ きちんと。 もっとちゃんとした服装せーや。 但馬地方各地での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、奥丹後地方・中丹地方・山城地方を使用地点とする文献による出典が明記されている。
ちゅーちゅーば’りき  力一杯。  おめー、ちゅーちゅーばりきで頑張らんかえ(頑張りなさいよ)。  美方郡香美町香住区での使用を確認。
用例は香住区餘部地区の住人による。
ちょーか’ あやす。 あの子をちょーかしたらおもしれーわ。 豊岡市での使用を確認。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)に「あやす」の定義で、但馬となっている。同時に、「だます」の定義で千葉県山武郡とある。
用例は大正生まれの私の伯母が作ったもの。
ちょーず 便所。御手洗。 ちょーず貸しておくれんせー(貸してください)。 漢字で書くと「手水」。『新世紀ビジュアル大辞典』(学習研究社、平成10年)の「ちょうず」によると、1番目の定義に「手や顔を洗い清めること。また、その水。」とある。「便所」と直接言わない、間接的な語であるように考えられる。
豊岡市旧市街地では、明治生まれの方々が使われていた語であるとのこと。用例のように「おちょうず」と丁寧に言われる方もおられたようである。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。「せんち」とも言う。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、「便所」の定義で栃木県河内郡・群馬県吾妻郡・岐阜県安八郡・三重・大阪府泉北郡・兵庫県養父郡・鳥取県気高郡・岡山市・山口県玖珂郡・徳島となっている。
ちょ’
ちょか’すけ
軽率者。 うちげの息子はちょかで困るわ。まっと(もっと)しっかりしてほーいわ。 江戸中期の言葉「ちょか」(心が落ち着かず行動が軽々しい者)から来ている。
ちょっとま (時間的な)少しの間。 親戚の子ども、ちょっとま見なんだら大きーなっとった。 豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、福知山市・京都市左京区白川・京都市北区を使用地点とする文献による出典が明記されている。
ちょび’っと ちょっと。少し。 そのパン美味しそうだなー。ちょびっとおくれ(少しください)。  豊岡市での使用を確認。
「ちーび’っと」の同意語。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に掲載されている。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、京都府下の広い地域で使用されている。
ちょろけん いい加減。 僕の言うことはちょろけんだから信じない方がいー。 但馬地方西部の鳥取県に近い地域の年輩層が用いる。鳥取県へと続く語彙。
ちょろまかす 人目を盗んで、ごまかす。 ちょろまかしたらあかんぞ。 但馬地方の広い地域での使用を確認。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に掲載されている。
『大阪ことば事典』(牧村史陽編、講談社、昭和59年)によると「ちょろっとごまかす。かすめ取る。」の定義で掲載されている。アクセントは但馬地方と同様。
ちょんがりご’ 口喧嘩の時に発する甲高い声。 そんなちょんがりごえ出すだねー(出すな)。 豊岡市旧市街地での使用を確認。
「ちょんがる」は上方方言で「尖る」の意味であるから、「尖ったような印象を与える声」のことであろう。
ちょんぎ’す 1 イナゴ。(昆虫) ちょんぎすは焼いて食べたらおいしー。 豊岡市但東町資母地区での使用を確認。
京都府丹後地方の与謝郡与謝野町与謝地区でもこの語形を確認。
私の生まれ育った豊岡市旧市街地で「ちょんぎす」と言えば「キリギリス」を意味する語である。「イナゴ」は「とっちんば」と言う。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、「ちょんぎし」の見出しで「@いなご(蝗)。Aばった(飛蝗)。」と定義されていて、使用地点は米子市・境港市となっている。
ちょんぎ’す 2 キリギリス。(昆虫) 裏の庭でちょんぎすが鳴いとる。 豊岡市旧市街地での使用を確認。
豊岡市但東町資母地区では「イナゴ」を意味する。
ちょんぎ’ 一つのものを二つ以上に切り離す。 商店街の福引きの券、上と下をちょんぎったらあかんで。 豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、「ちぎる。」の定義で与謝郡野田川町字山田・舞鶴市を使用地点とする文献による出典が明記されている。
ちょんちょこりん’ 衣類の短いこと。  この浴衣、ちょんちょこりんだわ。  豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、「着物の短いこと。」の定義で与謝郡野田川町字山田・北桑田郡等と京都市を使用地点とする文献による出典が明記されている。
ちょんちょん  衣類などの短いこと。  この浴衣、丈がちょんちょんだしけー、大きいのに替えてもらってくるわ。
お父さんに散髪してもらったら、こんなちょんちょんにしなった。 
豊岡市での使用を確認。
1番目の用例は衣類の浴衣のこと。2番目の用例は髪の毛の長さのこと。 
ちんぎ’ ちぎる。 このするめ大きいしけー、ちんぎっ食べや。 「ちぎる」より強いニュアンスで用いられることが多い。
ちんじゃーもん * おっちょこちょい。  わらー、ちんじゃーもんだ。(お前は軽薄者だ。)  『但馬ことば』(岡田荘之輔著、兵庫県立但馬文教府、昭和52年)によると、香住町・大屋町笠谷・山東町諏訪となっている。用例は香住。 
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ついしょ’こ’ お世辞を言う。ごますりをする。お上手する。 そねーついしょーこかでもえーがな。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に「諂う」という定義がある。
「ついしょ」は漢字表記すると「追従」。上方言葉である。
『大阪ことば事典』(牧村史陽編、講談社、昭和59年)の「ツイショ・ツイショォ」に次の記述がある。「もとは、人のうしろにつき従う意。」
『上方語源辞典』(前田勇編、東京堂出版、昭和40年)の「ついしょー」に、[語源]として「王朝以来の語。」とある。
ついしょこき’ お世辞者。ごますり。お上手する者。 あの人はついしょこきだで、言いなることを真に受けたらあかんで。 豊岡市での使用を確認。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、使用地点は西伯郡となっている。「ついしょーこき」の語形で鳥取市・八頭郡となっている。また、「ついこーもの」の語形もあり、使用地点は鳥取市・八頭郡となっている。
「ついしょ’こ’く」を参照されたい。
つくつくぼ’ーし ツクシ。(植物) 山に行ってつくつくぼーしとりに行かー。煮たら美味しいのができるで。 豊岡市での使用を確認。
『日本言語地図 第5集』(国立国語研究所)の「土筆(つくし)」を見ると、但馬地方に「つくつくぼ(ー)し」、「つくずくぼーし」、「ほ(−)し」などがある。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると使用地点は岩美郡・日野郡となっている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、大和(重丁本草)・丹波(丹波通辞)・尾張・岐阜・福井県敦賀・滋賀・三重県一志郡・奈良県十津川・和歌山・大阪府泉北郡・兵庫・島根・広島県安芸郡・山口・香川県小豆島・大分県宇佐郡となっている。
つくばる 座る。 母ちゃん、もうえらーて(もう苦しくて)歩けれへん。−−−そこでつくばっ休みんせー。 豊岡市での使用を確認。
腰と足を曲げて低くなって座ること。
用例は、私の幼い頃の母との対話。
『上方語源辞典』(前田勇編、東京堂出版、昭和40年)に、[語源]として次の記述がある。「旧幕時代には、しゃがむ、うずくまるの意で、『つくばふ』『つくまふ』と同義に用いられているから、その転義。」
つちつけほー’ フクロウの鳴き声。 つちつけほーせ 但馬内での使用を確認。
フクロウが鳴くと、翌日は晴れになるという言い伝えがある。「土壁の家の土をつけて干せ。」という意味。フクロウの鳴き声がそのように聞こえるということであろう。
「のりつけほーせ」を参照されたい。
つつっぽー 筒袖の着物。 つつっぽー着てねー(寝ろ)。 豊岡市での使用を確認。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に掲載されている。
動きやすいことから、子どもの普段着として使われることが多かったとのこと。
つのこ’ぶし 踝(くるぶし)。 つのこぶしの下に座りだこができていてー(痛い)。 豊岡市での使用を確認。
『日本言語地図 第3集』(国立国語研究所)によると、兵庫県中部に分布している。
「うめぼし’」とも言う。「うめぼし’」を参照されたい。
つぼむ しぼむ。 花がつぼんだ。 豊岡市での使用を確認。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、使用地域は京丹後市久美浜町・京丹後市網野町・京丹後市峰山町・相楽郡南山城村となっている。
つめく’ つねる。 先生、博君がつめくっ。ふざけるのもえー加減にしてほしい。 『全国方言辞典』(東條操編、昭和26年)によると、高知(俚言増補)・福井県大飯郡・京都・但馬・隠岐・愛媛・高知となっている。
『上方語源辞典』(前田勇編、東京堂出版、昭和40年)によると、「京都語。」となっている。また、[語源]として次の記述がある。「グイグイとツメルの意でクルを添えたのであろう。」
つめをつむ 爪を切る。 つめをつまと、保健委員に注意されるぞ。 『新明解国語辞典 第五版』の「摘む」の定義にある「生えている物の一部分を、何かに役立てるために取る」の意味。よって、爪の余分な部分を取り、指をきれいにすることであろう。同類の表現として「散髪する」のことを「頭をつむ」、「髪をつむ」とも言う。
つ’ コウノトリ。(鳥類) 昔はつるがよーけ来よりましたで。 豊岡市での使用を確認。
現在では絶滅してしまった、ニホンコウノトリも、かつては豊岡市の空を多く舞っていたとのこと。その肉を食べることもあった。
大正生まれの方の言い方であるが、それ以前は「鶴」と「コウノトリ」が似ているため、混同されていたのであろう。鶴の絵として、木の上に巣を作っているものがあるが、それはコウノトリの間違いである。
『新明解国語辞典 第八版』(三省堂、2020年)によると、「こうのとり」に「こうづる」という定義がある。
る’うし 血統付きの雄牛。 小代がつるうしの本場だーで。知っとった。 「たねうじ」の類義語。
用例中の「小代(おじろ)」とは美方郡香美町小代区(旧美方郡美方町)の旧村名。その他、美方郡新温泉町(旧美方郡温泉町)にも「つるうし」を伝統的に育てているところがある。但馬牛のふる里である。
つるご 魚釣り籠。 つるごを持って釣りに行きてくる(行ってくる)。 豊岡市での使用を確認。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に掲載されている。
つるし 吊し柿。 秋になったらつるしをつくらー(作ろう)。 豊岡市での使用を確認。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、使用地域は京丹後市久美浜町・京丹後市網野町・京丹後市峰山町・宇治市となっている。
つるつる 湯呑み茶碗やグラスなどに、液体状の物質をこぼれる直前までいっぱいに注いだ状態。 酒ついでくれるのはうれしいけど、つるつるにつがんといてくれーや。酒がこぼれたらもったいねーしけーなー。 豊岡市旧市街地・港地区・美方郡での使用を確認。
擬態語であろう。
読売テレビの制作番組『秘密のケンミンSHOW』で、福井県福井市においてこの表現が用いられていることが紹介されていた。
れ’ 友だち。 つれといっしょに飲みに行った。
うちげの子どももつれにしちゃって(仲良くしてやって)。
「友だち」の意味でこの語彙を用いるのは、私の経験からすると、北陸・東海地方以西ではないかと思う。
2番目の用例は、但馬の色を濃く出したもの。
わ’ 唾(つばき)。 つわがとんだ。こらえてーよ(許してね)。 古語の「つはく」(つばを吐く)の連用形から来ている。
「その玉器(たまもひ)につはき入れ給ひき」(古事記上)
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〜で 1 〜から。 雪が積もっとる、長靴履いて行けーや。 理由を表す接続助詞。
『但馬ことば』(岡田荘之輔著、兵庫県立但馬文教府、昭和52年)に、次の記述がある。「但馬の理由助詞として見遁せないのは、養父郡以北に用いられる『デ』についてである。それは、室町末から江戸初にかけて、上方の理由助詞であった。現代但馬では、やや古風な、固苦しい感じで用いられる。」
「〜しけー」となることもある。
〜で 2 〜よ。 僕の息子はスパイダーマンが好きなん
明日買いもんに行くんだ
いっしょにドライブに行こー
但馬地方各地での使用を確認。
相手にやわらかい口調で言い聞かすはたらきのある終助詞。3番目の用例は勧誘の意味が含まれる。
〜でー 〜だ。(疑問を表す語尾。) 今何しとるんでー 豊岡市での使用を確認。
疑問を表す終助詞。
低いピッチで発話される。
(〜し)て’ーた (〜し)ておいた 君から借りとったペン、君の机の上に置いてーたで。おおきに。 /oi/連母音の融合形。
(〜し)て’ーて (〜し)ておいて 力いっぱい100メートる走るしけー、よー見てーて /oi/連母音の融合形。
てかてか (路面などが凍り付いて)かたくて滑りやすい状態。 道路がてかてかに凍てついとるで、スリップせんよーに気ーつけねーよ。 冬の出勤前には、但馬地方ではこの用例のような会話が各家庭でなされる。
てき 物焼用の網。 てきで餅を焼く。 豊岡市での使用を確認。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)に掲載されている。それには「物焼用鉄架。」と定義されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、「魚や餅を焼く金網。」と定義され、使用地点は東伯郡・日野郡となっている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)では、「てっきゅう。焼網。」と定義され、使用地点は岡山・出雲・山口県阿武郡・周防大島となっている。
このように見ていくと、「鉄架(てっか)」または「鉄灸(てっきゅう)」の転訛した語形と考えられる。
でけだけ できるだけ。 でけだけよおけきてくんにゃーよ。まっとるしきゃーな。 豊岡市田鶴野地区での使用を確認。
用例は豊岡市赤石在住のT氏に作成していただいた。
ご’ 手伝ってくれる人。 今日はてごがおらんもんで、仕事が大変だわ。 豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、「テゴ」の語形で、竹野郡網野町・与謝郡野田川町、また、「テコ」の語形で竹野郡網野町を使用地点とする文献による出典が明記されている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、群馬県邑楽郡・新潟県岩船郡・京都府竹野郡・中国・大分県日田郡・対馬となっている。
ご’する 手伝う。 わし一人でできれへんで(できないから)、だれかてごしてくれーや。 豊岡市での使用を確認。
『京都府ことば辞典』(堀井令以知編著、おうふう、平成18年)によると、使用地域は京丹後市久美浜町・京丹後市網野町となっている。
しょ’ 手塩皿。 こーこ(たくあん)食べるで、てしょーとってくれーや(手塩皿とってくれないか)。  「しょー」は「塩」の意味。
〜です’いな 〜ですか。 ですいな(何ですか)。 語尾は上げ調子で言う。
てすべん テスト勉強。 あしたからテストがあるしけー(あるから)てすべんよーけせんなん(テスト勉強をたくさんしなければならない)。  豊岡市竹野町(旧城崎郡竹野町)の中学生が使う。
てつき’ 竹で編んだざる。 そのてつきで芋を川に持っていって洗ってこいや。 食器や野菜を洗い、水切りをするため、あるいは他の用途に使う。「いか’き」もほぼ同じもの。美方郡では「そーけ’」。
使用地域は、私の調べたところでは合併後の現豊岡市。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)には「笊」の方言形として「てつき。そーけ。」が掲載されている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、「笊。ざる。」の定義で但馬(俚言増補)・京都・兵庫県養父郡となってる。
「てっつき’」、「いか’き」、「そーけ’」を参照されたい。
でっけ’ 大きい。でっかい。 先生、今日の臨海水泳ででっけーサザエとったで。 /ai/連母音の融合形。
てっつき’ 竹で編んだざる。 催し物会場で、てっつきにそばが入れてあった。 豊岡市但東町資母地区での使用を確認。
京都府丹後地方へとつながる。
「てつき’」と同じ。
『野田川町誌』(野田川町、昭和44年)の「民俗篇 四方言」に「ざる」の意味で掲載されている。『伊根裏の年寄りたちが伝える海辺の方言』(舟屋の里老人クラブ連絡会、平成15年)にも「底の丸い竹籠」の定義で掲載されている。よってこの語形は京都府丹後地方へと続くものである。
「いか’き」、「てつき’」、「そーけ’」を参照されたい。
(〜に)で’とんなる (〜で)勤務されている。 佐藤さんとこの息子さんは駅にでとんなる 「駅にでとんなる」とは「JR(国鉄)で勤務されている」という意味。「局にでとんなる」は「郵便局で勤務されている」の意味。
てつなぎぼ’いやこ 鬼ごっこの一種。 てつなぎぼいやこしゃーや(しようよ)。 豊岡市旧市街地での使用を確認。
私が豊岡市立豊岡小学校へ通っていた昭和40年代から50年代にかけて行っていた遊びの一つ。一人、または複数の鬼からスタートし、走りながらタッチをして鬼を一人ずつ増やす。そして鬼同士で手をつなぎながら行う鬼ごっこ。余談になるが、私は普通の「ぼいやこ」(鬼ごっこ)よりこちらの方が好きだった。なぜなら、私は足が遅かったため、私が鬼になると友人たちにタッチすることが困難であり、その状態が永遠に続くことがあったからだ。人数が複数になると一人になることがなかったため安心感があったものだ。
「ぼいやこ」を参照されたい。
てのごい 手ぬぐい。 てのごいなつべてーて(しまっておいて)。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
てのこぼ 手のひら。 てのこぼで食べてみんせーな。 豊岡市での使用を確認。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に掲載されている。
用例は私の母に作ったもの。
用例のように、「手のひらの上に食べ物を少しだけのせる」場合に用いられることが多い。
べ’ 外出するのが好きな人。余計な口出しをする人。 うちげのおばーさんはでべそで困るわ。朝出たら晩まで帰ってきなれへん。 豊岡市での使用を確認。
『地方別方言語源辞典』(真田真治 友定賢治 編、東京堂出版、平成19年)の「でべそ」[島根・鳥取]に「鳥取県西部でよく聞かれる。」、「九州北部にも点在するが…」とあるが、豊岡市旧市街地の高年層もこの語彙を用いる。また、語源として「『出臍』に由来するという説が有力。」となっている。
で’
ぼ’ちん
額。 髪の毛がでぼちんまで伸びてうっとーしーわ。 両語形とも但馬地方で幅広く用いられている。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、「デボ」の語形で加佐郡、「デボチン」の語形では京都府下全域となっている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、「でぼ」で米子市・八頭郡、「でぼちん」で米子市・八頭郡・気高郡・東伯郡・日野郡となっている。
でほろ’ 口からでまかせを言うこと。 でほろくばっかり言っとらんと、ちったーほんとのこと言えーや。 豊岡市旧市街地での使用を確認。
同類の語と思われるものとして、『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に「デホーデンクロ」という見出しがあり、「根拠のないこと。」と定義されている。使用地点は加佐郡大江町。
てまがえ’ 助け合い。労働交換。結い。 きょうは田中さんげが田植えだで、てまがえにいきてくるわ(行ってくるね)。こないだ、うちげの時に来てくんなったしけーな(私たちの家の時に来ていただいたからね)。
田植えのてまぎゃあ頼むわ。
豊岡市での使用を確認。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に、「テマゲー」の語形で、『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)に、「てまぎゃあ」の語形で掲載されている。2番目の用例は後者に掲載されているもの。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、与謝郡野田川町・字山田・船井郡和知町・綾部市・を使用地点とする文献による出典が明記されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、使用地点は日野郡となっている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、静岡・岡山・広島・島根・山口・愛媛県大三島・高知・大分・長崎・熊本県球磨郡となっている。
かつて、田植え、稲刈り、茅葺き屋根の葺き替えなどで「てまがえ’」が行われていたとのこと。
(〜し)てや 〜される。 それはお客さんが食べてや(食べられる)。
先生がゆうてや(言われる)。
朝来市生野町での使用を確認。
過去時制は「(〜し)ちゃった」である。
但馬地方は一般に「(〜し)なる」、「(〜し)んさる」など、「ナサル系」の丁寧語が用いられるが、播磨地方と隣接する朝来市生野町では「〜てや」という播磨地方・丹波地方で用いられる、いわゆる「テヤ系」の丁寧語も用いられる。この語法は近年になってから但馬へ入り込んできたものかも知れない。
京都府丹波地方と隣接する朝来市山東町の方の発話からもこの用法を耳にしたことがあるが、その地域に根ざしているものかどうかは不明である。
「(〜し)ちゃった」を参照されたい。
近年、「てや」は朝来市や養父市でも、使用頻度が急に高くなっている。播磨地方などとの交流が盛んになったためであろうか?(平成28年9月28日)
でゃーこ’ 大根。 でゃーこがよーけとれたしけー、あげるわ。炊きなったらうめーで(炊かれたら美味しいよ)。 「だいこん」の/ai/母音融合形。それに「ん」が脱落したもの。よって、「でやーこ’ん」ともなる。
て’ 熟れる。 このスイカようてっとるわ。 私の知る限り、スイカの場合に用いる語彙。
〜でん 〜の列車。 5時でんで帰ったら、満員で座れれへんかった(座れなかった)。 豊岡市での使用を確認。
高校生が用いる。平成10年に初めてこの語法を確認した。
「でん」とは「電車」のこと。豊岡市はJR西日本山陰線と北近畿タンゴ鉄道宮津線の2本が走っている。豊岡市ではJR江原、JR豊岡、JR城崎温泉、JR竹野の各駅を利用する高校生が多い。豊岡市内が電化(現・城崎温泉駅まで)されたのは昭和61年(1986年)である。それまでは気動車のみが走っていた。現在では電車と気動車の両方が走っているが、高校生はその区別なく「電車」と呼んでいる。中年層以下でその傾向が見られる。私の子どもの頃は気動車のみが走っていたため「汽車」と呼んでいた。
てんが’ ふざけること。いたずらをすること。 てんがーしたらいけんで(ふざけたら駄目だよ)。
てんがすんないや。
美方郡新温泉町浜坂地区、美方郡香美町香住区での使用を確認。
「転合(てんごう)」の旧仮名遣いである「てんがう/tengau/」の/au/連母音が融合して「てんがー/tenga:/となったものと考えられる。2番目の例文のように長母音化されない場合もある。
豊岡市では、「てんごー」の語形が見られる。
てんかもり てんこ盛り。 腹へとっとるで(お腹がすいているから)、ごはんてんかもりにして。 「こ」が「か」に転訛した語形。
てんぐ’るま 肩車。 てんぐるましたらーか(してやろうか)。 美方郡新温泉町(旧美方郡温泉町・浜坂町)での使用を確認。
鳥取県へとつながる。
但馬地方の他の地域では「かたくま」である。
また、この語形は三重県南部や神奈川県、北関東から福島県などにも見られる。「かたくま」が新しく、「てんぐるま」が古いという、周圏分布である。
共通語形の「肩車」は「かたうま」と「てんぐるま」の混交でできあがった語と考えられている。
「手車」(二人以上が互いに手を組んでその上に人を乗せる遊び)という語が転じてできた語とのこと。
「かたくま」を参照されたい。
てんご’ ふざけること。いたずらをすること。 てんごしとらんと宿題しちまいねーな(してしまいなさいよ)。 豊岡市での使用を確認。
日本海岸沿いでは「てんがー」となる。
用例のように長母音化されない場合もある。
『全国方言辞典』(東條操編、昭和26年)によると、京(俚言集覧)・大坂(浪花聞書)・愛知県幡豆郡・石川・福井・近畿・鳥取・島根・岡山・四国・長崎・宮崎・鹿児島となっている。
『浪花聞書(なにわききがき)』(著者不明、文化文政時代?)の「てんごう」に、「江戸でいふじゃうだん」と記述されている。
てんずき’ 除雪具の一つ。子どもが雪遊びで使う道具。 てんずき持ってきて、雪であそばー(遊ぼう)。
てんずき作っちゃたーぞ。
豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、奥丹後地方各地・天田郡・何鹿郡・加佐郡・北桑田郡美山町などを使用地点とする文献による出典が明記されている。また、定義・説明として次の記述がある。「長い棒に板をつけた至極簡単な除雪具。手鋤の意か。スコップの利用に押されてなくなった。」この記述は、豊岡市生え抜きである、母の話と一致する。用例のように「てんずき’」は母の幼かった頃、すでに除雪具としては使われず、子どもが雪遊びをするための道具としてのみ使われていたと言う。大人はスコップを使って除雪をしていたとのこと。現在、除雪といえば、家の周囲はにおいては「スコップ」、「スノーダンプ」、「除雪機」を使う。一般道は、早朝に除雪車が除雪するのが普通である。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)によると、「除雪具。雪かき。」の定義で、丹後・但馬となっている。また、「てんすき」の語形で福井県大飯郡、「てんずく」の語形で長野県北安曇野郡となっている。
2番目の用例のように、これを子どもに作ってやらないと、「十能」を外に持って出る子どもが多かったとのこと。
本日、養父市内のホームセンターへ行く機会があった。「雪かき(小)」、「雪かき(大)」などと表示され、本体がプラスチック製で柄がプラスチック製、もしくはステンレス製のものが販売されていた。これが現在の「てんずき’」だと確信した。
ん’ 袖なし羽織。 あんたの着とんなるでんちぬくげだねーけー(温かそうではないですか)。 「ちゃんちゃん’こ」ともいう。国語辞典によると、「ちゃんちゃんこ」は子どもの衣類であるようだが、こちらでは大人用、子ども用の区別なく、「でん’ち」と入れ替えが可能な語であると思う。
でんでん’むし カタツムリ。蝸牛。(軟体動物) でんでんむしがうちげの塀にはーとる(我が家の塀に這っている)。 民俗学者の柳田国男氏は『蝸牛考』(昭和5年出版)で、北海道を除く日本全国のカタツムリの異名を調査して考察したものを著した。それによると、京都を中心にその同類の呼び名が同心円状に東西南北に分布しているという。(「方言周圏論」の提唱である。)彼はそれらを歴史的に古い順に「ナメクジ系」、「ツブリ系」、「カタツムリ系」、「マイマイ系」、「デデムシ系」に分類した。つまり、東北地方の北部と九州の西部で「ナメクジ」、同じく東北と九州で「ツブリ」、関東・四国で「カタツムリ」、中部・中国などで「マイマイ」、主として近畿地方で「デデムシ」という語形が分布しているということだ。(『蝸牛考』(柳田国男著、岩波文庫、昭和55年)の柴田武氏の解説を参考にさせていただいた。)
私は但馬内の老若男女さまざまな方々に、カタツムリの絵を見せたり、「湿っている塀などに這う貝殻のついた生き物を何と言いますか」などと質問してみたりした。高年層では「でんでん’むし」という回答がほとんど、中年層でもそれが多いが、「かたつ’むり」もあった。中学生ではすべて「かたつ’むり」であった。つまり、この地の伝統的な方言形は「デデムシ系」である。一番新しい方言形である。
『蝸牛考』に次の記述がある。「現在知られているデェロ領の飛地としては、但馬国には水路を運ばれたかと思うダイロウがあり(『但馬考』)、・・・」『但馬考』とは、おそらく『校補但馬考』(櫻井勉著、大正11年)のことであろう。それを調べてみると、「方言」の「蝸牛」の定義に「でんでんむし だいろ まいまいむし」と3つある。
   最初へもどる
(〜し)と’いた (〜し)ておいた。 体操服、汚れとったしけー、洗っといたで。−−−おおきに。 「書いといた」、「やっといた」などと使う。
ど’いて のけて。 どいてくれんかー(のけてくれないか)。荷物運ぶで(運ぶから)。 大学時代、加西市出身の友人にこの語彙が通じた。その場にいた、東日本出身の友人たちには通じなかったことが思い出される。
といれる (洗濯物を)取り入れる。 雨が降りさーだで、今のうちに洗濯物といれとくわ。 豊岡市での使用を確認。
「といれもんする」とも言う。
『上方語源辞典』(前田勇編、東京堂出版、昭和40年)に、[語源]として次の記述がある。「とりいれる(取入)の中略。近世以来の語。」
といれもん 乾いた洗濯物。 今日は洗濯をよーけしたしけー、二階の部屋がといれもんでいっぱいになっとる。 「といれもんする」という動詞形で使われることもある。
どえれ’ ものすごく。とても。 うちの畑にどえれー大きなキュウリがなった。
今朝、家の前の川ーのぞいたら、どえれーよーけ鯉が泳いどった。
「どえら’い」、「どえりゃ’ー」ともなる。
「ごっつ’い」、「がっせ’ー」、「どーれ’ー」の同意語。
どえれ’も’ん  立派な人。大物。大変な困り者。  隣の息子さん、市会議員になんなったんだってや。どえれーもん(立派な人)だなー。
うちの息子はパチンコばっかり行っとる。どえれーもん(大変な困り者)になったもんだ。
夜釣りでどえりゃーもん(大物)を釣ってきなった。 
豊岡市での使用を確認。
3番目の用例は、『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)に掲載されているもの。
2番目の用例のような否定的な意味で用いられることが多い。
ー’から 長い間。 とーからあの喫茶店に行ってーへんわ。 但馬地方各地での使用を確認。
「とー」は「遠い昔」の意味か。
とーが’らし ピーマン。(植物) このとーがらし、今、畑からとってきたんだで(とってきたんだよ)。 ピーマンでもやや小さめのものを「とうが’らし」といい、大きいものは「ピーマン」という傾向がある。ただし、若い年齢層は、すべて「ピーマン」である。
とーし 篩(ふるい)。 米をとーしにかける。 豊岡市での使用を確認。
『養父郡誌』(養父郡教育会編纂、昭和3年)に掲載されている。
用例は、「糠を取るために行なう」こと。
どーしゃ’ どうしよう。 最終の電車に乗り遅れたわ。どーしゃー  豊岡市など、但馬地方北部でよく耳にする。
ー’ ずっと以前に。ずっと前に。 弘君はいつ家に帰った。−−−とーに帰ったで。 「とーから」を参照されたい。
どーね’ 何とも。 どーねもあれへん(何ともない)。 豊岡市での使用を確認。
ー’のむかし 遠い昔。ずっと以前。 うちげの娘が嫁に行ったんは、とーのむかしのことだで(ずっと以前のことだよ)。 但馬地方各地での使用を確認。
生徒が「おばあちゃんがよう言いなる。」と言っていた。
「とーから」を参照されたい。
もなら’ (人の)たちが悪い。 人の悪口ゆーとは(言うとは)、あいつはどーもならんなー。 このような人のことを「どもならず」と言う。
ー’もね’ー 何ともない。 きのうの怪我、大丈夫か。−−−どーもねーで。心配してくれておおきに。  「どねー(も)あれへん」、「どねーもねー」と同じ。 
どーれ’ ものすごく。とても。 この饅頭どーれーうめー。 「どえりゃー」ともなる。
「ごっつい」、「がっせー」、「どえらい」の同意語。
とーろ ノロゲンゲ。(魚類) きのうとーろもらったけー(もらったから)、晩飯のとき食べた。 美方郡新温泉町浜坂地区(旧美方郡浜坂町)での使用を確認。
ど’ぎ」とも言う。
全体がゼラチン状のため、この名が付けられたのではないかと思われる。
ぐ’べ」を参照されたい。
とかけ’ トカゲ。(爬虫類) とかけが石垣をはーとった(這っていた)。 私の父によると、かつて「とか」(清音)と言っている年輩者が見られたとのこと。また、過去の方言調査でも、但馬全域でこの形が見られたようである。私自身はこの語形を耳にしたことがなく、普通は「とか」(濁音)と共通語形が用いられるのを耳にするのが常である。
『物類称呼』(越谷吾山、1775年)の「蜥蜴」に次の記述がある。「畿内にて とかけ 東國にて かなへび又かまぎつてう 相模にて かまきり 西國にて とかぎり 大和にて とかき 江戸にては とかげと、け の字を濁りてよぶ」
ど’ ノロゲンゲ。(魚類) どぎは干物にして焼いたら美味しいで。 美方郡香美町香住区(旧城崎郡香住町)・新温泉町浜坂地区(旧美方郡浜坂町)などで用いられる語彙。
ぐ’べ」の解説を参照されたい。
ときたんま ごくたまに。 駅通りを歩いとったら、ときたんま森田さんに遇う。 豊岡市での使用を確認。
「たんまに」より、さらに頻度が低い場合に用いられる語彙。
どぎゃーな どんな。 ガラスを割ったって。どぎゃーなことになっとるんだえ(どんなようすになっているんだ)。触ったらあかんぞ。 担任している生徒から教えてもらった語彙。
豊岡市旧市街地あたりでは、「どねーな」を用いる。
(〜し)とく (〜し)ておく。 明日カラオケ大会に出るんで。見といて(見ておいて)。−−−よう見とくわ。 「見とく」、「聞いとく」、「言っとく」、「やっとく」などと使う。
ど’ のける。 ちょっとそこどいてくれんかぁ。荷物を運ばんなんしけー。 「どいて」を参照されたい。
ど’くだめ ドクダミ。(植物) どくだめの花が咲いとる。 豊岡市での使用を確認。
「み」が「め」に転訛した語形。
どこな’っと どこでも。 いー天気だけど、どこへドライブに行きたい。−−−どこなっと 「どこでも」より強いニュアンスがある。
とぜん 戸の鍵。 出かける時は、とぜんをかけて出れよ。 古い昔風の戸が連想される語彙である。。
とぜん(を)か’ 戸の鍵をかける。 もう寝る時間だしけーとぜんかーてきてくれーや。 就寝前や出かけるときにこのような表現をする。
とちめんぼー * 当惑。  とちめんぼーをふみました。(困った。)
とちめんぼー食った顔しとる。(困った顔している。) 
『但馬ことば』(岡田荘之輔著、兵庫県立但馬文教府、昭和52年)によると、但馬(除養父郡)・温泉・浜坂濃密・他は散在、出雲・福岡となっている。また、あわてる・うろたえるの意味で、東関東・東海・富山・伊勢・奈良・中国・愛媛・北九州となっている。
1番目の用例は城崎町飯谷、2番目の用例は浜坂町諸寄。
源流は室町時代後期の語「とちめく」(あわて惑う)か。
とちゅうなか’ 途中。物事と物事の間。 とちゅうなかにお菓子食べたら、晩ご飯が食べれれへんよーになるぞ(食べられなくなるぞ)。 豊岡市での使用を確認。
「途中」の強意か。
漢字表記すると「途中中」。
ど’っか どこか。 天気もえーし、どっか行かーや(行こうよ)。 「どこか」の促音化した語形。
どっから どこから。 あんたどっから来なったん(こられたの)。 「どこから」の促音化した語形。
とつけ’もねー とんでもない。途方もない。 とつけもねーこと言うな。 豊岡市での使用を確認。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に掲載されている。
「とつけもない」の語形で、『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に奥丹後地方を使用地点とする文献による出典が明記されている。また、同書に「とっけもない」の語形で奥丹後地方・舞鶴市・綴喜郡宇治田原町の文献による出典が明記されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)では「とっけもない」の語形が掲載されている。
『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版、昭和26年)では、「とっけもない」の語形で丹波(丹波通辞)・長野県北安曇郡・滋賀県神崎郡・奈良・和歌山・香川・丹後与謝郡・岡山・山口・九州となっている。
どっこ’ どこも。 今日は日曜日だったけど雨が降っとったで、どっこも行けへんなんだ(行かなかった)。 「どこも」の促音化した語形。
とっしょり’ 年寄り。 「わしみてーな(私みたいな)とっしょりに、こんな力仕事をさせるんか。 「としより」の促音化した語形。
どっちな’っと どちらでも。 今日は青いネクタイと赤いネクタイとどっちがいいかなあ。−−−どっちなっと
どっちなっと好きな方を持って帰って。
豊岡市での使用を確認。
選択肢が二つの場合に用いられる。選択肢が複数、もしくは無限にある場合は「なんなっと」が用いられる。
「どっちゃでも」の類義語。
どっちゃせ どちらにしても。どうであろうと。いずれにせよ。  仕事から帰るころ、雨が降っとるかもしれんなー。どっちゃせ、傘持って行くわ。 豊岡市での使用を確認。 
どっちゃで’ どちらでも。 忙しげだしけー、買い物に行ってこうか。−−−どっちゃでも。(「行ってくれても行ってくれなくてもよい」の意味。」 豊岡市での使用を確認。
「どっちなっと」の類義語。
とっちんば イナゴ。(昆虫) とっちんば捕ってこーや。 豊岡市旧市街地・五荘地区での使用を確認。
『内川村誌』(内川村誌編集委員会、昭和53年)、『校補但馬考』(櫻井勉著、大正11年)に掲載されている。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)では、「こうろぎ」の方言形として「トッチンバ」が掲載されている。
豊岡市但東町資母地区では「ちょんぎ’す」という語彙を用いる。
『標準語引き 日本方言辞典』(小学館、監修佐藤亮一、平成16年)によると、「とちんば」の語形で兵庫県、「どっちんば・とっちんけら」の語形で京都府竹野郡となっている。
豊岡市旧市街地の人たちの中には、バッタやコオロギなどの総称として「とっちんば」という語を用いる人たちもいるとのこと。
かつて、針金につけ、焼いて食べたとのこと。
とっちんばー カマドウマ。(昆虫) ありゃー、こねーなとこにとっちんばーが出てきたわいやー。見にきてみー。 豊岡市竹野町須谷での使用を確認。
以下は、用例を作成された加古川市在住、豊岡市竹野町須谷(旧城崎郡竹野町須谷)出身のO氏による。
『暗いところに生息するカマドウマですから、出没するのはまれです。珍しいもの、ちょっと気味が悪いもの、としてあつかわれていたようです。』

『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)では、「いなご。」と定義されている。
とっぱすけ 風変わりな者。調子者。慌て者。 あの子はとっぱすけだで、今になんぞするで。
こっちは一生懸命仕事しとるのに、裕は歌ったり、踊ったりしとる。あいつはとっぱすけだ。
豊岡市での使用を確認。
『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)に掲載されている。1番目の用例は同書に掲載されているもの。また、『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)では「トッピャスケ・トッパースケ」の語形で「突出者」と定義されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、漢字表記で「突破助」とされ、使用地点は鳥取市・米子市・倉吉市・八頭郡・気高郡・岩美郡・日野郡となっている。
『大坂ことば事典』(牧村史陽編、講談社、昭和59年)に、「トッパ」の見出しで「あわて者。落着きのない人。」と定義されている。
どっぴん ボールを使った遊びの一つ。 どっぴんやりてーやつは集まれ。 豊岡市旧市街地での使用を確認。
昭和40年代から昭和50年代にかけて豊岡市立豊岡小学校の男子児童がよく行なった遊び。一対一で向かい合い、相手と自分の陣地の間に一本の線を引き、ドッジボール用のボールを使い、地面にバウンドさせて打ち合うもの。卓球のルールと似ている。
「どっぴん」という名称は、「どっじぼ’ーる」と「ぴ’んぽん」の混交形か。
どねー どう。 いったいどねーしたらえーんだらー(どうしたらいいんだろうか)。 上方方言である「どない」の/ai/連母音融合形。
どねー’(も)あれへん 何ともない。 きのうからメダカに餌をやっとらんけど大丈夫だらーか。−−−どねーあれへん。水垢食べとるわ。 「どーもねー」、「どねーもねー」の同意語。
どねーしょ’ どうしよう。  明日、遠足だけど、雨が降ったらどねーしょー 「どない」の/ai/連母音融合形。 
どねーしょえー’ね’ どうしようもない。役に立たない。  うちの息子はあはたれで、ほんまどねーしょえーもねーですわ。
この品物はどーしょえーもねー。ほしかったら持ってかえっておくれー。 
豊岡市での使用を確認。
1番目の用例は「うちの息子は馬鹿で、本当にどうしようもないですよ。」という意味。「あはたれ」は「馬鹿」の意味。親が息子に愛情を込めた発話として作成した。
2番目の用例は、「ある物が使い物にならない」という意味。
どねー’ね’ 何ともない。 おい、大丈夫か。−−−どねーもねー 「どーもねー」、「どねー(も)あれへん」の同意語。
どねー’もこねー’ どうにもこうにも。 忙しすぎてどねーもこねーもならんわ。 否定語とともに用いられる。
上方方言では「どないもこないも」となる。
とのぐち’ 玄関。 とのぐちをきれいにしとけ。
とのぐちに人が来とんさるで。
豊岡市での使用を確認。
『残したいふるさとの方言 みなと弁』(豊岡市港地区公民館、平成18年)に掲載されている。1番目の用例は同書に掲載されているもの。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、「トノクチ」の見出しで竹野郡網野町・舞鶴市を使用地点とする文献による出典が明記されている。また、「トノグチ」の見出しでは、「家の表出入り口の前。大戸から門へ出るまでの軒下の部分。」と定義され、与謝郡伊根町・与謝郡野田川町字山田を使用地点とする文献による出典が明記されている。
『鳥取県方言辞典』(森下喜一編、富士書店、平成11年)によると、「出入り口。玄関の入り口。」の定義で、使用地点は倉吉市・八頭郡・気高郡・東伯郡となっている。
と’ イタチ。(哺乳類) とまは人をばかさぬ。しかしイタチは人をばかす。 養父市八鹿町・美方郡新温泉町での使用を確認。
『但馬海岸 但馬民俗資料緊急調査報告書』(兵庫県教育委員会、昭和49年)、『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に掲載されている。
『但馬ことば』(岡田荘之輔著、兵庫県立但馬文教府、昭和52年)によると、使用地点は美方郡・香住町余部・竹野町銅山・大屋町横行・鳥取県若桜町・高知・熊本・宮崎となっている。
用例は『但馬ことば』からの引用であり、そういう言い伝えがあるらしい。ということは、「とま」と「イタチ」は別物であるととらえられている地域があったり人々がいたりするようである。
とます
ま’
イタチ。(哺乳類) とます顔見せ、よんべ見たけど、また見となった(昨晩見たけど、また見たくなった)。
とますが走った。
養父市八鹿町・養父市大屋町での使用を確認。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に掲載されている。
『但馬ことば』(岡田荘之輔著、兵庫県立但馬文教府、昭和52年)によると、使用地点は香住町三川・日高町・但東町・養父郡・朝来郡・丹波・播州宍粟郡道谷戸倉・若狭・山口・鹿児島となっている。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)に、竹野郡網野町・天田郡・何鹿郡・加佐郡・福知山市・綾部市を使用地点とする文献による出典が明記されている。
1番目の用例は『但馬ことば』に掲載されている、『ふるさと口大屋』(養父郡大屋町青年団編)からの引用。よって、養父市大屋町の方が作成されたものであろう。
とめ ヘアピン。 髪が伸びて乱れとるしけー(乱れているから)、とめで髪を留めとけーや。。 共通語であると思っている人が多いと思われる。
ど’もならず
ど’むならず
やんちゃな悪がき。 ちーせえ子をなけーて(泣かして)、おめーはほんまにどむならずだわいや。 「ど(ー)もならん」を参照されたい。
と’ 雨樋(あまどい)。 とゆを掃除したら、雨がよう流れるようになった。 私自身、最近まで共通語であると思い込んでいた。
と’ 雨樋(あまどい)。 とよのとーりがわりー。詰まっとるで。 美方郡香美町香住区加鹿野での使用を確認。
当地には「樋本(とよもと)」という姓が数件ある。
どら 蛹が二つ入った蚕の繭。 どらから真綿をつくる。 養父市大屋町での使用を確認。
蛹が二つ入っているため、繭は普通のものより大きい。
『竹野町史』(竹野町・竹野町史編纂委員会、平成3年)に掲載されている。
(〜し)とる 1 (〜し)ている。(動作の進行・状態の継続) 今何しとるん。−−−テレビ見とる。(動作の進行)
息子は外で遊んどる。(動作の進行)
あの人は大学で英文学を勉強しとる。(状態の継続)
娘は今神戸に住んどるけど、いずれは但馬に戻ってくる。(状態の継続)
アクセントは2拍とも低く平板に発話される。
アスペクトの発達した中国方言的な語法である。
「雨が降っとる。」の場合、「とる」は進行と結果の両方の意味があり、その状況によって意味の解釈が異なる。「とる 2」を参照。
動作の継続を表すアスペクト表現。「(〜し)よる」との違いに注意。
(〜し)とる 2  (〜し)ている。(動作の結果・状態の結果)  今年はもう雪が降っとる。(動作の結果)
あの人はしっかりと勉強しとる。(状態の結果)
アクセントは「低低」の平板式である。
1番目の用例の場合、現在雪は降ってなくても、先月降った、というような場合に用いることができる。
2番目の用例の場合、勉強をしっかりとしているので、博識である、というような場合に用いることができる。
両用例とも、進行の意味でも解釈できる。
ん’かちん ボタンをかけ違えていること。 服のボタンがとんかちんになっとるで。なおしんせー。  豊岡市での使用を確認。
幼い頃、よく母から用例のようによく言われていた。私自身、もう何年間も耳にすることのない語彙である。先日、豊岡市出身の方から、家族で用いられていたことを報告していただいた。その方から、「とんちん」という濁音形も確認した。
とんがらか’ 尖らす。 鉛筆をとんがらかす 豊岡市での使用を確認。
どんずまり 道の突きあたり。(家などの)一番奥。 この道のどんずまりを右に曲がったらお寺が見える。
ここに並んどるどんずまりの家が田中さんげだで(田中さんの家だよ)。
豊岡市での使用を確認。
『京都府方言辞典』(中井幸比古著、和泉書院、平成14年)によると、「ドンズマリノ」で「一番奥の。」と定義され与謝郡野田川町字山田・綾部市を使用地点とする文献による出典が明記されている。
道案内をするときによく用いる語彙。

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